「間もなくポイントAです」
バートの報告に、タリアは艦長席から背後にいたアーサーを見やった。
「カーゴハッチの用意はいいわね」
「はい」
あれからほどなく、ラドル司令とタリアたちは作戦を詰め、マハムール基地を発った。問題のガルナハンはすぐ先だ。
そして、この場所で、今回の作戦において、重要な“現地協力員”が合流する。
「ポイントA通過後はコンディションをレッドに移行します。パイロットはブリーフィングルームへ集合」
タリアの指示を受け、メイリンがそれを艦内に伝えた。
ほどなくして・・・一台のバギーがミネルバに乗り込み、ローエングリン攻略は始まったのだった。
檻の中にあなたを閉じ込め、私は漸く安心する
「けど、“現地協力員”って・・・つまり、レジスタンス?」
シンはブリーフィングルームに入りながら、隣を歩くルナマリアに尋ねた。
「まぁ、そういうことじゃない? だいぶひどい状況らしいからね、ガルナハンの町は」
ルナマリアが答えながら、すでに座って待っていたマハムールのパイロットたちの前・・・最前列に腰を下ろした。シンもその隣に腰を下ろし、そのシンの隣にはレイが座った。
しばらくすると、副長のアーサーとアスランが入室し、パイロットたちが立ち上がって敬礼する。フト、そのアスランの後ろに民間人の女の子がいることにシンは気づいた。どうやら、彼女が“現地協力員”のようだ。
「・・・子供じゃん」
見た感じ13、4歳くらいのその少女に、シンは自分のことを棚に上げ、そうつぶやいていた。その声が聞こえたのか、少女はムッとした表情を浮かべた。
「着席」
アーサーが声をかけ、パイロットたちが座ったのを見て、話を始めた。
「さぁ、いよいよだぞぉ。・・・では、これより、ラドル隊と合同で行う“ガルナハン・ローエングリンゲート突破作戦”の詳細を説明する。だが、知っての通り、この目標は難敵である。以前にもラドル隊が突破を試みたが、あー・・・結果は失敗に終わっている。そこで、今回は・・・」
そこでアーサーは言葉を切り、アスランの方へ顔を向けた。
「・・・アスラン、代わろう。どうぞ、後は君から」
「あ、はい」
少々戸惑った顔になったが、アスランは即座に気を取り直し、自分のチェックボードを取り上げる。室内が暗くなり、モニターに辺りの地図が投影された。
「“ガルナハン・ローエングリンゲート”と呼ばれる渓谷の状況だ。この断崖の向こうに町があり、その更に置くに火力プラントがある」
細長く曲がりくねった道を示しながら、アスランが説明をする。
「・・・こちら側からこの町へアプローチ可能なラインは、ここのみ」
ポインターが一本しかない渓谷を示し、次に、町の手前に高くそびえる山を示す。
「が、敵の陽電子砲台はこの高台に設置されており、渓谷全体をカバーしていて、どこを行こうが敵射程内に入り、隠れられる場所は無い」
アスランの説明を聞きながら、アーサーは感心したようにうなずいてみせる。
「・・・超長距離射撃で敵砲台、もしくはその下の壁面を狙おうとしても、ここにはMSの他にも陽電子リフレクターを装備したMAが配備されており、有効打撃は望めない。・・・君たちは、オーブ沖で同様のMAと遭遇したということだが?」
「はい」
アスランがシンを見て尋ねると、一瞬呆気に取られたシンは、それでもぶっきらぼうに答えた。それにアスランは微笑み、説明を続ける。
「そこで、今回の作戦だが・・・」
「そのMAをぶっ飛ばして、砲台をぶっ壊し、ガルナハンに入ればいいんでしょ?」
説明をしようとしたアスランの言葉を遮り、シンが挑発的な口調で言う。そのシンの様子に、ルナマリアとレイは「またか・・・」と深いため息をついた。
だが、当のアスランは怒った様子もなく・・・呆れた口調で言う。
「それはそうだが・・・オレたちは今、どうしたらそうできるかを話してるんだぞ、シン」
「やれますよ。やる気になれば」
「じゃ、やってくれるか?」
アスランが、めずらしく意地の悪そうな笑みを浮かべ、シンに返す。その予想外の反応に、シンの方が慌ててしまう。
「オレたちは後方で待っていればいいんだな? 突破できたら知らせてもらおうか」
「えっ・・・あ、いや・・・それは・・・」
つい、勢いで言ってしまったことに、アスランが食いついてきて、しどろもどろになっているシンに、ルナマリアが堪えきれずに吹き出した。レイも苦笑を浮かべている。
「・・・というバカな話は置いといて・・・。ミス・コニール」
アスランがいつもの調子に戻り、隣にいた少女に声をかけた。
「あ・・・はい」
「彼が、そのパイロットだ。データを渡してやってくれ」
「えぇっ!? こいつが??」
「そうだ」
アスランの言葉に、少女が目を丸くして声をあげ、シンの顔をマジマジと見つめた。その少女の態度に、シンはムッとして睨み返す。
「・・・なんだよ」
だが、少女はそんなシンなど気にもせず、アスランに向き直った。
「この作戦が成功するかどうかは、そのパイロットにかかってるんだろ? ・・・大丈夫なのか、こんなヤツで・・・」
「なにぃ!?」
シンがいきり立って立ち上がると、両脇の二人はため息をつき、アスランが少女を宥めた。
「ミス・コニール・・・」
「隊長はあんたなんだろ!? じゃ、あんたがやった方がいいんじゃないのか? ・・・失敗したら、町のみんなだって、今度こそマジ終わりなんだから!」
「なんだとぉ! こいつっ・・・!!」
「シン!! ミス・コニールも! やめろっ」
詰め寄るシンとコニールに、とうとうアスランが声を荒げた。だが、そんな時、アーサーが呑気な声をあげる。
「あ〜なるほど〜、アスランかぁ。いや、それは考えてなかったなぁ・・・あ、でも」
「・・・副長まで、やめてください」
「え、でも・・・」
「シン、座れ!」
それでもまだ、言葉を続けようとするアーサーを無視し、アスランはシンに命じた。シンは不貞腐れながらも、席に戻った。それを見届け、アスランは改めてコニールに笑みを浮かべて話しかける。
「・・・彼ならやれますよ。大丈夫です。だから、データを」
しぶしぶといった表情で、コニールがディスクを差し出し、アスランが笑顔でそれを受け取るが・・・彼女は、それをなかなか離そうとしない。本当に、シンに任せていいのか、迷っているようだった。やがて、彼女はそっと手を離し・・・アスランはコニールの肩をポンと叩いた。
「シン」
睨むように目を上げれば、アスランがディスクを差し出していて・・・シンは思わずプイッと顔を背けた。
「シン!」
苛立ったようなアスランの声に、シンは拗ねた調子で答える。
「そいつの言うとおり、あんたがやればいいだろ! 失敗したら、マジ終わりとか言って・・・。自分の方がうまくやれるって、あんただってどうせホントはそう思ってんだろ!?」
「シン! 甘ったれたことを言うなっ!!」
アスランが、厳しい目と口調で、拗ねたシンを怒鳴りつけた。
「生憎、オレはお前の心情とやらに配慮して、無理と思える作戦でもやらせてやろうと思うほどバカじゃない。無理だと思えば、初めから自分でやるさ」
そのアスランの言葉に、シンは背けていた目を、アスランに向けた。
「・・・だが、お前ならできると思った。だから、この作戦を採った。・・・それを、あれだけデカイ口を叩いておきながら、今度は尻込みか!?」
どことなく、アスランに乗せられた感はあったが・・・ここで引き下がるのは、自分のプライドが許さない。シンは立ち上がると、ひったくるように、アスランの手からディスクを受け取った。
その直後、艦内にアナウンスが流れた。
《間もなくポイントB。作戦開始地点です。各科員はスタンバイしてください。トライン副長はブリッジへ》
「おおっとぉ」
そのアナウンスに、アーサーが慌ててブリーフィングルームを出て行き、パイロットたちも出て行った。
シンたちもその場を後にしようとすると・・・コニールが険しい表情で自分たちを見つめており、シンは思わずぶっきらぼうに尋ねる。
「なんだよ。まだ何か言い足りないのか?」
「・・・前に・・・ザフトが砲台を攻めた後・・・町は大変だったんだ。それと同時に、町でも抵抗運動が起きたから・・・」
コニールのその言葉に、シンはハッとして、思いつめた表情の少女を見つめた。
「地球軍に逆らった人たちは、めちゃくちゃひどい目に遭わされた! 殺された人だって、たくさんいる! 今度だって、失敗すれば、どんなことになるかわからない・・・! だからっ、絶対やっつけてほしいんだ! あの砲台! 今度こそ!!」
少女の瞳に涙が浮かび、シンは言葉を失う。
「だからっ・・・頼んだぞっ!!」
両手を堅く握りしめ、必死に懇願するコニールの背にアスランが優しく手を置いた。そして、そのまま去って行くその小さな背中を、シンは静かに見送った。
***
「さすがですね」
コニールと共に、エレベーターを待っていたアスランに、ルナマリアは声をかけた。アスランは驚いた様子で振り向く。
「え?」
「シンって、扱いにくいでしょ? 私たち、アカデミーからずっと一緒ですけど、いっつもあんな調子で、あの子、教官や上官とぶつかってばっかり」
すでにハンガーへ向かっているシンはこの場におらず、通路にはルナマリアとレイ、それにアスランとコニールだけだ。
「唯一、そんなシンを宥めたり、説得したり、言うこと聞かせてたのが、あの子・・・あ、だけなんですけどね〜・・・。ホント、ってば大したもんだな、っていっつも感心してたんです」
「は、昔から面倒見のいいヤツだったからな・・・。オレたちも、何度か叱られたことがある」
「え・・・? ザラ隊長も?? でも・・・最近の、なんか変わりましたよね〜・・・。前は、あんなに笑顔見せたり、怒ったりしなかったのに・・・」
「・・・今のあいつが、本当の姿だよ。それに・・・」
小さく息を吐き、アスランは言葉を続ける。
「そんなんじゃないよ。扱うとか・・・。下手くそなんだろ、色々と・・・。悪いヤツじゃない」
それがではなく、シンを指していることを、ルナマリアはわかっていた。まだ知り合って間もないシンの性格を、アスランはきちんと理解していたことが、なぜだかルナマリアにはうれしかった。
「オレも、あんまり上手い方じゃないけどね・・・。人付き合いとか」
エレベーターに乗り込んだアスランの、最後のその一言に、ルナマリアはフト、ことあるごとに話しかけてはアスランへの接近を図る、自分に対しての戒めだろうか?と考える。
「・・・私、予防線張られた?」
隣に立つレイに、思わず尋ねてみるが・・・。
「・・・さあ」
長い沈黙の後、返ってきた言葉は、気のない返事だった。
***
発進命令が出るまでの間、不貞腐れた様子で立っている目の前の恋人に、は思わず尋ねた。
「・・・何かあったの?」
「別に」
だが、ぶっきらぼうにそう答えられ、はため息をついてしまう。
「まさか・・・またアスランとぶつかった、とかじゃないわよね?」
「!」
「あ・・・図星?? 今度は何? 今回の作戦のことで、気に食わないことでもあった? ムリヤリ、やらされたとか・・・。聞いた話によると、インパルスにしかできない任務だ、って言うじゃない?」
「・・・うん」
「もっと自分に自信と誇りを持ちなさい? 大戦の英雄アスラン・ザラ直々に命令が下ったのよ? 今は衝突してるけど、きっといつか、アスランの良さがわかるわよ。別に、アスランだってシンをいじめようとして、キツイこと言ってるわけじゃ・・・」
「わかってるって!」
幼なじみを庇うの言葉に、シンは思わず声を荒げた。そんなシンの態度にクスッと苦笑いを浮かべ、はそっとシンの首に腕を回して抱きついた。
「大丈夫・・・シンなら、絶対にできる。成功させられる・・・!」
「・・・うん・・・」
そっと体を離し、見つめあい・・・シンの口唇がの口唇に重ねられた。
「がんばって・・・! 気をつけてね」
「ありがとう、・・・」
いつも、こうやって宥められて乗せられてしまう・・・。けれど、それでもいい・・・シンはそう思ったのだった。
***
シンの気合いの入った声と共に、白い戦闘機がミネルバから発進される。続いてチェストフライヤー、レッグフライヤーが飛び出す。
コアスプレンダーを追うように発進されていくその様を見つめ、タリアは内心でため息をついていた。今回の作戦は、シンに全てかかっていると言ってもいい。シンの力量は認めているが、今回彼に要求されるのは、完璧なまでの精密な操縦技術、そしてタイミングとチームプレイだ。
どうにか、彼の精神安定剤的役割を担う、がシンを上手く持ち上げてくれればいいが・・・。
一方、その頃・・・当のシンは・・・。
コニールに教えられた、地元の人でもほとんど知らないという、狭い坑道を目指しコアスプレンダーを飛ばせていた。
――― ここに、本当に地元の人もあまり知らない坑道があるんだ。中はそんなに広くないから、もちろんMSなんか通れない。でも、これは丁度砲台の下・・・すぐ側に抜けてて、今出口は塞がっちゃってるけど、ちょっと爆破すれば抜けられる
「・・・あれか!?」
見えてきた小さな裂け目に、シンは迷わずそこへ向かった。だが・・・勢い込んで中に入った瞬間・・・何も見えないその状況に、シンはあ然とする。
「えぇぇぇ!!? 何だよ、こりゃあ!!? 真っ暗ぁ???」
映し出されるモニターの映像に集中し、狭いその坑道の中を突き進む。
「クソッ! マジ、データだけが頼りかよっ!!」
抗議の声を上げるが、もちろん誰にも届かない。うまく自分を言いくるめた、あの隊長殿にも・・・。
――― MSでは無理でも、インパルスなら、抜けられる
彼は真剣な眼差しで、そう言ってのけた。
――― データどおりに飛べばいい
「っ!! そんな問題じゃないだろぉ! これはぁ!!」
文句を言った途端、翼端が岸壁をこすり、シンは慌てて操縦桿を押さえ込んだ。
「くっそぉぉぉ!!!」
――― オレたちが正面で、敵砲台を引きつけ、MAを引き離すから、お前はこの坑道を抜けてきて、直接砲台を攻撃するんだ
「なぁにが、“お前にならできると思った”だぁ! あのヤローっ!!! 自分でやりたくなかっただけじゃないのかぁ!!!?」
叫ぶ合間にも、コアスプレンダーの機体が壁にぶつかる。
――― お前が遅すぎれば、こちらは追い込まれる。早すぎても駄目だ。引き離しきれないだろう。・・・いいな?
「・・・やってやるさっ! ちきしょぉぉぉぉ!!!!!」
シンの叫び声は、空しくもコックピットの中に響いただけだった・・・。
***
ミネルバからは、新たにセイバーとザク二機の発進準備が行われていた。
ミネルバから、真紅の機体が飛び出す。セイバーは、MS形態のまま、空へと飛び上がった。
そして、レイとルナマリアのザクも出撃していった。
その直後、ミネルバからは陽電子砲の発射準備がされていく。基地後方にある町を撃たないよう、最新の配慮をする。
その時、MS隊を庇うように、見慣れぬ形のMAが姿を現し、ミネルバの前に立ちはだかる。
アーサーの号令でタンホイザーが発射され、大きな揺れがミネルバ艦隊を襲う。すさまじい土煙が巻き起こり、アスランは気を取り直して仲間たちに声をかける。
「行くぞ! 敵MS隊もできるだけ引き離すんだ!」
《了解!》
アスランの命令に、レイとルナマリアから同時に答えが返ってきた。
だが、その直後・・・敵の陽電子砲がミネルバへと発射された。ローエングリンはまっすぐに上空を飛ぶミネルバへと伸びていく。
ミネルバは、失速したかと思うほど、急激に下降し、なんとかその攻撃をやり過ごす。ホッとしたのも束の間、リフレクターを装備したMAが後退しようとしている。
「あいつが下がる! ルナマリア!!」
レイが止めようと声をあげるが、そのレイのザクに爆撃が襲う。ルナマリアは構えたオルトロスでダガーLを狙い撃った。二機のダガーLがその光条に巻き込まれて爆破した。
そして、その頃シンは・・・鳴り響いた電子音に、ハッと我に返った。
「ゴール・・・ここか!? 距離は500? 行けよ〜っ!!!」
叫びと共に、ミサイルを発射させ、爆破が成功する。見えてきた光に向かってシンは飛び出した。
「シン!!」
飛び出してきたコアスプレンダーとレッグフライヤー、チェストフライヤーを見上げ、ルナマリアが安堵の声をあげた。
「うぉぉぉぉ!!!」
シンは叫び声をあげ、素早く合体シークエンスを進めた。
インパルスガンダムへと姿を変えたそのMSで、シンは砲台近くにいたMSたちを次々に打ち倒して行く。
《シン!》
聞こえてきたアスランの声に、ハッと我に返れば、インパルスの奇襲に気づいた敵が、砲台を収容しようとしていた。
「くっそぉぉぉ!!!」
立ちはだかるダガーLを撃ち倒すも、閉じていくそれに焦りを覚える。
間に合わない・・・!と、咄嗟にシンはたった今ナイフを突き刺したダガーLを持ち上げ、シャッターの隙間目掛けて放り投げた。駄目押しとばかりに、胸の機関砲でその機体を撃ちまくる。シャッターの中に落ちて行った機体は、中で爆発し、その爆発に誘爆され、陽電子砲がすさまじい炎をあげて、爆発した。
時を同じくして、リフレクターを装備したMAも、アスランの放ったビーム砲にやられ、爆発した。
***
ガルナハンの町は、ようやく訪れた解放の時に、歓喜の声をあげていた。アスランは、その中にコニールン姿を見つける。ミネルバから戻った彼女は、町の人々に抱き上げられ、肩車をされていた。その微笑ましい光景に、アスランは目を細め・・・だが、一方で行われている、連合の兵士たちの処刑されている様に眉をしかめた。
《ご苦労だったわね、アスラン。あとはラドル隊に任せていいわ。帰投してちょうだい》
「はい・・・」
タリアからの指示に、アスランはホッとしながら返事をした。
再び眼下に視線を移せば、インパルスのコックピットから下りたシンが、町の人々に頭を撫でられ、笑顔を浮かべていた。
アスランもコックピットを下り、笑顔のシンに歩み寄る。その姿に気づいたシンが、笑顔を向けるが・・・アスランの、どこか浮かない表情に、首をかしげた。
「どうしたんですか? どこかやられましたか? ・・・あなたともあろう人が」
「あぁ、いや・・・」
皮肉っぽく言い放ったシンに、アスランは苦笑を浮かべて答える。
「作戦、成功でしたね」
「あぁ、大成功だな・・・。よくやった、シン。君の力だ」
「・・・そんなこと、ないですよ。あっ、でも、あれひどいですよ! もう、マジ死ぬかと思いました」
照れた様子を見せたシンは、即座に何かを思い出し、アスランに笑顔で抗議の声をあげる。
「あんなに何も見えないなんて言ってなかったじゃないですか!」
「そうか? ちゃんと言ったぞ。“データだけが頼りだ”って」
「いや、それはそうですけどね・・・」
不服そうな表情のシンに、アスランは穏やかな笑みを向ける。
「でも、お前はやりきったろ。できたじゃないか。・・・それも、オレは言ったぞ」
「そ、それもそうですけどっ」
「戻るぞ。オレたちの任務は終わりだ」
背を向け、セイバーのコックピットに戻っていくアスラン。シンも足取り軽くインパルスに向かった。
「・・・シンっ!!!」
ミネルバに戻り、コックピットを下りたシンに、満面に笑みを浮かべたが駆け寄り、ガバッと抱きついてきた。いつものやり取りだ、とすでにミネルバクルーも慌てたりはしない。
ただ、ヴィーノだけが羨ましそうな目でシンを睨んでいるが・・・。
「ただいま、・・・」
「おかえりなさい、シン! 作戦、大成功だったんでしょう!? やっぱり、私の言ったとおりね! シンなら、絶対にできるって言ったじゃない?」
「うん」
抱きついてきた少女の肩を抱きしめ、シンは目を閉じる。こうして、愛しい人が迎えてくれることが、今はたまらなくうれしくて、幸せだ。
「アスラン・・・!」
体を離したが、次に声をかけたのは、彼女の幼なじみだ。アスランは、笑みを浮かべながら、シンたちのもとへ歩み寄ってきた。
「ただいま・・・」
「おかえりなさいっ」
グリグリと頭を撫でるアスランに、は笑顔で応える。どこか懐かしいそのやり取りに、アスランの胸にも温かいものが込み上げてきた。
「ホント、とザラ隊長ってば仲いいわよね〜」
茶化すようなルナマリアの声に、視線をそちらに動かせば、肩をすくめたルナマリアが立っていた。
「昔から、こんな感じだったよね、アスラン?」
「あぁ・・・そうだな・・・」
「アスランは、いっつも落ち着いてて、あんまり取り乱さなかったけど・・・一度だけ、倒れたとこ見たっけ」
「・・・あれは、お前のせいだろうが」
「えぇ!? なんでぇ???」
「お前の手料理は、二度と口にするものか、と固く心に誓った事件だったからな・・・」
「失礼だなぁ〜! もうっ」
頬をふくらませながら、抗議の声をあげるを、シンとルナマリアはあ然として見つめる。の、こんなに子供っぽい一面を、見たことがなかったからだ。
「子供の頃の失敗なんて、カワイイものでしょぉ?」
「・・・人のこと殺しかけといて、よく言うよ。お前は、もう少しで幼なじみ二人を食中毒で殺すとこだったんだぞ」
「大げさだよ、アスラン!!」
笑顔で言葉を交わすアスランとの姿に、シンはなんとなくつまらなくなって・・・思わず、グイッとの腕を引っ張った。
「わっ・・・!」
「戻るぞ、・・・。それじゃ、お疲れ様でした」
「え? え? ちょ・・・ちょっと・・・シン〜!!?」
そのまま連れて行かれるの姿を見送り、アスランはそっと目を閉じた。
ここには、がいる・・・。自分の守りたいものは、彼女の笑顔だ・・・。けして、自分は間違っていない・・・。
今は側にいないもう一人の幼なじみを思い出し、アスランは前を向き、歩き出した。
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