プラントの降下揚陸作戦は実行され、カーペンタリア基地からは、何機ものMSが飛び立って行く。
 こうして、二年という短い平穏な時代は、終わりを告げたのだった・・・。


わたしの近くで、何かが壊れたような音がした


 「間もなく、オーブ領海を抜けます」

 ミネルバが出航し、数分後・・・遠ざかる島影をタリアは感慨深げに見つめていた。

 「降下作戦はどうなってるのかしらね? カーペンタリアとの連絡は、まだ取れない?」
 「はい。呼び出しはずっと続けているんですが・・・」

 タリアの問いに、メイリンが首を振って答えた。
 その時、バートがハッと息を飲み、タリアは反射的にそちらへ目をやった。

 「本艦前方
20に、多数の熱紋反応! ・・・これは・・・艦隊です! 地球軍艦隊っ!!

 バートが緊迫した声で叫び、タリアやクルーたちは耳を疑った。

 「スペングラー級
4、ダニロフ級8・・・他にも10隻ほどの中、小艦艇を確認! 本艦前方、左右に展開しています!」
 「えええっ
!!?

 アーサーが血相を変え、タリアも愕然としながら、その状況にどう出るべきかを考える。地球軍の艦隊が、空母
4隻を含む20隻以上・・・しかも、あの隊形は確実にこちらを待ち受けている様子だ。

 「どういうことですか
!? オーブの領海を出た途端に、こんな・・・!」
 「本艦を待ち受けていたということか・・・? 地球軍はみんなカーペンタリアじゃなかったのかよ
!?

 マリクとチェンが毒づき、ブリッジに言いようのない緊張が走る。

 「後方っ・・・オーブ領海線にオーブ艦隊! ・・・展開中です
!!

 状況を告げるバート自身も、信じられない・・・といった口調だ。さらに、言葉は続く。

 「砲塔旋回! 本艦に向けられていますっ!」
 「そんな! なぜ・・・
!?

 驚愕の声をあげるアーサーに、タリアは冷静になろうと静かに口を開く。

 「領海内に戻ることは許さないと・・・つまりはそういうことよ。どうやら土産か何かにされたようね・・・! 正式な条約締結はまだでしょうに。やってくれるわね、オーブも!」

 悔しげに口唇を噛み、タリアはカガリを思い出す。昨日、このブリッジで・・・すまない、と頭を下げて謝罪した彼女のことを・・・。まさか、自分はあの少女に騙されたのか・・・?

 「艦長・・・」
 「あぁもう! あーだこーだ言ってもしょうがない! コンディション・レッド発令! ブリッジ遮蔽。対艦、対
MS戦闘用意! 大気圏内戦よ、アーサー! わかってるわね!?
 「は、はいっ
!!

 彼女の剣幕に、途方に暮れていたアーサーは、慌ててメイリンの後ろから、副長席に場所を移動した。

***

 ブリーフィングルームで、シンは
MSデッキを見下ろしていた。視線は、自然に恋人へと向けられており、慌しく働く彼女は、シンの視線には気づかない。
 は・・・カガリを、オーブという国をどう思っているのだろうか? 彼女は裏切ったのだ。またしても、自分を・・・!

 《コンディション・レッド発令! パイロットは搭乗機にて待機せよ!》

 突然響いた警報に、シンは驚いてそこにいたルナマリアと顔を見合わせた。レイはすでにドアに向かっており、二人も慌てて追いかける。

 「レッドって、なんで
!?
 「知らないわよ! なんで私に聞くの
!?

 シンの問いかけに、当然ながらルナマリアはそう答えた。

 《艦長、タリア・グラディスより、ミネルバ全クルーへ》

 
MSデッキに駆け込むと、タリアの声が響いた。

 《現在本艦の前面には、空母
4隻を含む地球軍艦隊が、そして後方には自国の領海警護と思われるオーブ軍艦隊が展開中である》

 その情報に、インパルスの最終チェックをしていたは、愕然と目を見開いた。

 「・・・オーブが・・・
!? ・・・カガリっ」

 《地球軍は本艦の出航を知り、網を張っていたと思われ、またオーブは後方のドアを閉めている。我らには、前方の地球軍艦隊突破の他に活路はない。これより開始される戦闘は、かつてないほどに厳しいものになると思われるが、本艦は何としても、これを突破しなくてははらない!》

 タリアの声に耳を傾け、シンはギュッと拳を握りしめた。
 オーブが・・・自分たちを地球軍に売り渡した・・・あの女が・・・アスハが・・・
!!

 《このミネルバクルーとしての誇りを持ち、最後まで諦めない各員の奮闘を期待する!》

 「くっそぉ・・・
!!
 「シン・・・
!!

 声をかけてきたに、シンは視線を向け・・・軽く口唇を触れ合わせると、コアスプレンダーへ駆けて行く。

 「気をつけて! シンっ
!!
 「わかってる
!! やられてたまるか・・・こんなところで・・・オーブの思惑通りにいかせるか!」

 いつものの声援を背に受け、シンはコアスプレンダーに乗り込んだ。

 《進路クリアー、コアスプレンダー発進どうぞ!》
 「シン・アスカ・・・コアスプレンダー、行きます
!!

 ギリッと歯噛みし、シンは憤りを力に変え、愛機を発進させた。

***

 「ランチャーツー、ランチャーセブン、全門パルジファル装填! 
CIWS、トリスタン、イゾルデ起動!」

 ブリッジにはタリアの命令が響く。徐々に目前に迫り来る艦隊・・・緊張が走る。

 「シンには発進後、あまり艦から離れるなと言って! レイとルナは甲板から上空の
MSを狙撃! ・・・イゾルデとトリスタンは左舷の巡洋艦に火力を集中! 左を突破する!」
 「はいっ
!!

 インパルスが発進し、二機のザクが左右のハッチから甲板に飛び上がった。
 その様に、アーサーがフト思い出したかのように口を開く。

 「艦長・・・にもザクで出てもらっては・・・?」
 「彼女は今、整備士よ! 本人が望まないのに、戦闘に出すわけにはいかないわっ
!!
 「しかし・・・今は一機でも
MSが多いほうが・・・」
 「彼女に甘えてないで、私たちで何とかしましょう!」

 現在のミネルバには、圧倒的に戦力が不足している。何せ、不測の事態により、地球に降り立ったのだ。大気圏内飛行が不可能なザクは、迎撃用としてしか使えない。使える機動兵器は、シンのインパルスのみだ。

 「イゾルデ、ランチャーワン一番から四番、パルジファル、てぇーっ
!!!

 気を取り直し、アーサーが号令を下す。それと同時に、前方の艦隊からも一斉にミサイルが撃ちあげられた。そして、各艦からはウィンダムが発進し、こちらに迫ってくる。

 「行けぇぇぇ〜
!!!!

 シンは、インパルスのコックピットで叫び、そのままウィンダムの中に突っ込んでいく。ビームライフルを撃ち、押し寄せてくるウィンダムをなぎ払う。

 「こんなことで、やられてたまるかぁ
!!

 ビームサーベルを抜き、近くにいたウィンダムを斬り落とす。爆炎と共に、ウィンダムが落ち、シンは次々に狙いを変えていく。
 ミネルバ艦隊には、二機のザクがウィンダムを撃ち落している。だが、あまりにも数が多すぎる。
 それでも、諦めるわけにはいかない。シンは舌打ちしつつも、次々にウィンダムを落としにかかった。

 そして、その頃・・・地球軍の艦隊から、まるでヤシガニのような
MAが飛び出てきたことに、ミネルバブリッジは気づいていなかった。

 「不明機接近! これは・・・
!?

 それにいち早く気づいたバートは驚愕の声をあげる。

 「光学映像、出ます!」

 メイリンがモニターを切り替えると、波の上をスレスレに、巨大な
MAがこちらに飛んできている姿が映し出された。

 「なんだ
!? あれは!」
 「モビルアーマー
!?
 「あんなにデカイ
??

 声をあげるクルーたちに、タリアは舌打ちした。

 「あんなのに取り付かれたら終わりだわ! アーサー、タンホイザー起動! アレと共に左前方の艦隊をなぎ払う!」
 「えぇ
!? しかし、大気圏内で・・・」
 「・・・沈みたいの
!?

 反論の声をあげようとしたアーサーを、タリアが一喝した。慌てて、アーサーは首を振る。

 「い・・・いえっ! はいっ
!! タンホイザー起動! 射線軸コントロール移行、照準、敵MA!」

 艦首から砲身が姿を見せた。

 「てーっ
!!

 アーサーの号令のもと、ミネルバの主砲が火を噴く。真っ直ぐに伸びた陽電子砲は、
MAを直撃した。
 だが・・・一瞬後、ミネルバクルーは目を見張った。
 
MAは、まるで何事もなかったかのように、尚もこちらに向かって飛んできているのだ。その機体には、疵一つ無い。

 「タンホイザーを・・・はね返した・・・」

 呆然とするクルーたちだが、迫ってくる
MAに、タリアは我に返る。

 「取り舵
20! 機関最大! トリスタン照準、左舷敵戦艦!」
 「でも艦長! どうするんですか、あれ
!?
 「あなたも考えなさい
!!

 抗議の声をあげるアーサーを、タリアはぴしゃりと跳ね除ける。

 「マリク、回避任せる!」
 「はい!」
 「メイリン、シンは
!? 戻れる!?
 「は、はいっ
!!

 慌しくなるブリッジに、タリアは焦りを隠せなかった。

***

 その頃・・・キラは一人、浜辺に立ち静かに青い空を見つめていた。

 「どうしました? キラ・・・」

 そんなキラに、ピンクの髪の少女・・・ラクスが声をかける。だが、キラは何も答えず、ただジッと空を見つめたままだ。

 「キラ・・・?」
 「・・・誰かが・・・泣いてる・・・」
 「え?」

 キラが見つめる先には、チカチカと明らかに戦闘が行われている爆撃の光が見えている。
 恐らく、ミネルバだ。オーブが大西洋連邦と手を結んだ今、ザフトの軍艦はここにはいられない。オーブを出たミネルバが、待ち受けていた艦隊と戦闘しているのだろう。

 「また・・・誰かが・・・泣いてる・・・」

 キラの脳裏には、二年前常に傍にいてくれた幼なじみの少女の、泣き顔が蘇っていた。



 「ユウナ・ロマは? どこにいる?」

 カガリは、内線電話で秘書官に尋ね、返ってきた答えに驚いた。

 「軍本部? わかった。ありがとう」

 電話を切り、そのまま軍本部へと向かい、発令所に足を踏み入れたカガリは、敬礼する兵士たちに目もくれず、モニターに目をやり、あ然とした。

 「いや、でもすごいですね、あの兵器」
 「陽電子砲を跳ね返しちゃうとはなぁ・・・」

 気楽な声をあげる兵士たちの傍で、ユウナも楽しそうな表情を浮かべ、モニターを見つめていた。
 海上を埋め尽くす戦艦を、たった一隻で戦うミネルバ・・・カガリはあまりの衝撃に、声も出ない。

 「何をしている・・・
!?

 口を開き、声を出すと、兵士たちは驚いて振り返り、立ち上がった。

 「カガリ
!?
 「ユウナ、これはどういうことだ!? ミネルバが・・・戦っているのか? 地球軍と!」
 「そうだよ。オーブの領海の外でね」

 カガリの怒った様子とは逆に、ユウナはまるで面白いものでも見るかのように、カガリに手を広げ、明るい声で告げた。

 「あんな大軍相手に・・・ミネルバ・・・!」

 艦体を直撃するミサイルに、カガリは歯噛みした。

 「心配はいらないよ、カガリ。すでに領海線に護衛艦は出してある。領海の外と言っても、だいぶ近いからね・・・。困ったもんだよ」

 肩をすくめ、気楽な声で言うユウナに、カガリは声を荒げる。

 「領海に入れさせない気か、ミネルバを
!? あれでは逃げ場も何もっ・・・!」
 「だが、それがオーブのルールだろう?」

 言われた言葉に、カガリは愕然と目を見開く。
 他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない・・・それが、中立の姿勢を守るオーブの信念だ・・・。だが、この状況では・・・。

 「それに、正式調印はまだとはいえ、我々はすでに、大西洋連邦との同盟締結を決めたんだ。ならば今ここで、我々がどんな姿勢を取るべきか・・・それくらいのことは、君にだってわかるだろう?」
 「しかしっ・・・あの艦は・・・
!!

 地球を救い、自身を救い・・・今は彼女の親友が乗っている艦だ。
 だが、ユウナは不敵な笑みを浮かべ、平然と言葉を発する。

 「あれはザフトの艦だ。間もなく盟友となる大西洋連邦が敵対している・・・ね」

 「ミネルバ、領海線へさらに接近。このまま行けば、数分で侵犯します」

 聞こえてきた報告に、ユウナは信じがたい指示を平然と飛ばした。

 「警告後、威嚇射撃を。領海に入れてはならん。それでも止まらないようなら、攻撃も許可する」
 「ユウナっ
!!

 慌てて、命令を撤回しようとするカガリを、ユウナは表情を豹変させ、怒鳴りつける。

 「国はあなたのオモチャではないっ
!! いい加減、感傷で物を言うのはやめなさいっ!!

 いつものヘラヘラした様子からは考えつかないユウナの、その激昂した声に、カガリは呆然と立ち尽くすしかなかった。

***

 シンは、ミネルバを狙うその巨大
MAにビームサーベルで斬りかかった。だが、その巨大なボディとは裏腹に、MAは素早い動きでシンの攻撃を回避した。

 「くそっ! 何なんだよ、こいつはっ
!?

 苛立ちながら、旋回してこちらに向かってくる
MAに、シンは相対するが・・・その速い動きに翻弄されてしまう。しかも、MAの脚部に折りたたまれていた巨大なクローが展開し、インパルスをくわえ込もうとした。シンは、危ういところで、それを交わす。

 「くっ・・・!」

 高速ですれ違った
MAは、そのまま後方脚部の砲口から強烈なビームを放った。シンは機体を急上昇させ、それを交わす。そのまま宙でクルリと回転しながら、腰の後ろからビームライフルを取り出し、機体を狙うが・・・そのビームは敵機体の直前で見えない壁に当たったかのように、弾き返された。

 「なんて火力とパワーだよっ! こいつはっ
!!

 あのようなシールドがある限り、こちらの攻撃は何も受け付けないだろう。低く唸るシンの耳に、突然アラートが聞こえてきた。見れば、すでにインパルスのエネルギーが危険域に達している。
 焦りだすシンをよそに、
MAはさらにシンの機体を追い詰めていき・・・ミネルバも、押されてはいるが確実に敵艦を捉えている。だが、この量では焼き石に水だ。追い詰められ、だんだんと後退していく艦体に、オーブ領海の艦隊から警告が発せられた。

 《ザフト軍艦ミネルバに告ぐ。貴艦はオーブ連合首長国の領域に接近中である。わが国は貴艦の領域への侵犯を一切認めない。すみやかに転針されたし・・・》
 「何っ・・・
!?

 退去勧告・・・そのあまりにも無慈悲な警告に、シンはコックピット内で憤りの声をあげた。
 すでにインパルスのパワーはレッド間近で・・・焦るシンの目の前で、ミネルバ向けてオーブ艦隊の砲口が火を噴いた。砲撃は、ミネルバの周囲に高く水柱を上げて突き刺さる。
 けして当てるな・・・という、オーブ艦隊のトダカ一佐からの命令通り、けしてミネルバには当てたりしない。それでも・・・事情を知らないシンには、それは衝撃的なことだった。

 「オーブが・・・本気で・・・
!?
 《シンっ
!!

 聞こえてきたの声に、シンがハッと我に返る。格納庫から、恐らく通信を入れたのだろう。
 だが、その一瞬の隙が命取りとなった。気づいた時には、敵
MAが眼前に迫っていて、回避する間もなく、巨大な鉤爪に足を掴まれ、振り回されていた。

 「しまった・・・
!!

 同時に、バッテリーがゼロを示し、色づいていた白い機体が見る見るグレーに変わっていく。装甲がなくなり、脆くなった機体はあっけなく振り下ろされ、掴まれた脚部は簡単にもぎ取られる。振り飛ばされ、機体にかかる強烈な
Gに、シンはギュッと目を閉じる。

 「うわぁぁぁぁ
!!!!

 すさまじい衝撃に、シンの意識が飛ぶ・・・。今初めて、シンは“死”というものを意識した。
 遠ざかる意識・・・思い出される二年前の出来事・・・無残な姿になり、死んでいった家族・・・妹の笑顔・・・そして・・・。

 ――― シン・・・っ
!!!
 ――― おめでとう、シン・・・これからは、シンに守ってもらえるわね
 ――― ありがとう・・・大好きよ、シン・・・

 愛しい少女の笑顔が脳裏に蘇り、その笑顔が霞んでいく・・・このまま、二度と彼女の笑顔も見られず、声も聞けず・・・抱きしめることもできなくなるのか・・・
!?
 愛するを、自分の手で守れず、このまま・・・こいつらに、自分を裏切ったオーブに殺されてもいいのか・・・
!?

 「させるか・・・絶対に・・・こんなことで・・・こんなことで、オレはぁっ
!!!!

 頭の奥で、何かが弾ける音が聞こえたような気がした。スッと目を開き、その研ぎ澄まされた感性のまま、シンは機体を操作し、海面ギリギリのところで浮上した。

 「ミネルバ! ・・・メイリンっ
!! デュートリオンビームを! それからレッグフライヤー、ソードシルエットを射出準備!」
 《シン
!?

 ボロボロの状態だというインパルスを、見事な腕で操作し、ミネルバに向かうシンに、メイリンが戸惑ったように声をあげる。

 「早く! やれるな
!?
 《は、はい!》

 そのいつもとは全く違うシンの様子に、メイリンは戸惑いながらも返事をした。

 《デュートリオンチェンバー、スタンバイ。測的追尾システム、インパルスを捕捉しました! デュートリオンビーム、発射!》

 ミネルバから放たれたビームを、インパルスは頭頂部に位置する受光部が吸い込む。瞬時にしてパワーは戻り、機体も色づく。
 シンは敵MAに向かってサーベルを抜き放ちながら、突っ込んだ。その機体に向けて、敵機が両脚部の砲門を開く。その強烈なビーム砲をシールドで受け止め、さらに接近し、インパルスはリフレクターを出力させる間も与えず、その機体にビームサーベルを突き立てた。

 「ミネルバ! ソードシルエット
!!

 シンの声に応えて、カタパルトからレッグフライヤーとソードシルエットが射出される。素早くシンはそれらを換装し、そのまま敵艦隊に向かっていく。

 「うわぁぁぁぁ
!!!

 雄たけびを上げ、エクスカリバーを振り上げ、次々に地球軍艦体を屠っていくシン。あんなにも優勢だった地球軍は、たった一機の
MSに撤退を余儀なくされた。

 その様を、ミネルバクルーも、状況を見守っていたオーブ艦隊も、カガリたちも、呆然と見つめていた。

***

 渡された懐かしい赤い軍服に袖を通し、襟元を止める。そして、傍らに立っていたミーアに、アスランは視線を向けた。

 「わぁ・・・!」

 惚れ惚れとしたような声をあげ、ミーアは再び赤の軍服を纏ったアスランを見つめた。アスランは、少しだけばつの悪い思いを抱き、彼女から目を逸らした。
 だが、すぐに気を取り直す。自分は、自分にしかできない道を選ぶと決めた。あの日、イザークが言ったように・・・。

 「これを」

 アスランの顔を感慨深げに見つめていたデュランダルが、手にしていた箱を差し出した。

 「これは・・・“フェイス”の・・・!」

 箱の中に入っていた銀色の徽章を見つめ、アスランは声をあげる。
 最高評議会議長直属の特務隊・・・それは名誉なことではあるが、一度軍を捨てた自分に受け取る資格があるとは思えない。しかし、デュランダルは微笑んで告げる。

 「君を通常の指揮系統の中に組み込みたくはないし、君とて困るだろう? そのための便宜上の措置だよ。忠誠を誓う・・・という意味の部隊“フェイス”だがね・・・。君は己の信念や信義に、忠誠を誓ってくれればいい」
 「議長・・・」
 「君は自分の信ずるところに従い、今に堕することなく、また、必要な時には戦っていくことのできる人間だろう?」

 デュランダルのその言葉に、アスランは強い眼差しで彼を見返した。

 「そうでありたいと、思っています」

 自分を信じ・・・そうして前に進んでいく・・・。

 「君にならできるさ。だからその力を、どうか必要な時に使ってくれたまえ。大仰な言い方だが、ザフト、プラントのためでなく、皆が平和に暮らせる世界のために」
 「はい・・・!」

 これから、共に戦場へ向かうことになる愛機を見上げ、アスランはデュランダルの言葉を思い出す。

 ――― オーブの情勢も気になるところだろうから、君はこのままミネルバに合流してくれたまえ

 コックピットに乗り込み、見慣れた操縦席に座り、ボタンを押す。

 ――― あの艦にも、私は期待している。以前の“アークエンジェル”のような役割を果たしてくれるのではないかとね。君も、それに力を貸してやってくれたまえ

 モニターに
Generation Unrestricted Network Drive Assault Module Weaponryの文字が浮かび、エンジン音がシートを震わせ始める。メンテナンス用のケーブルが次々と外され、機体が赤く色づいていく。

 「アスラン・ザラ・・・セイバー、発進する!」

 赤い装甲の
MSが、プラントから宙に飛び立っていった・・・。