ドリーム小説

 タクミが暗夜軍を追って、白夜を出て行った数週間後。いつものように、店の前を掃除していたのもとに、タクミが姿を見せた。

 「やあ、。久し振り」
 「タクミ様・・・!!」

 久し振りに見た、タクミの姿に笑みを浮かべる。良かった。あの頃と変わらない。はホッとした。

 「今日は、どうなさったのですか? 暗夜との戦争は・・・」
 「それが・・・少し事情が変わってね。今は暗夜と共に戦ってる」
 「え!?」
 「カミラ王女とエリーゼ王女が、僕たちと一緒にいるんだ。まったく、カムイ兄さんの考えてることは、ちっともわからないよ」

 そうは言っているが、タクミのカムイへの感情も、だいぶ変わっている。
 あの日・・・あの惨劇の日、タクミはカムイへ憎悪を向けていた。それなのに、今は軽口を叩けるほどまで関係は良好のようだ。
 ホッとした。きょうだいでいがみ合うなんて、そんなことはミコトも望んでいないはず。タクミがカムイに心を開いてくれたのは、本当に喜ばしいことだった。

 「タクミ様、しばらくこちらにいらっしゃるのですか?」
 「うん? そうだね・・・兄さんは明日にでも出発すると言っていたけれど」
 「・・・そうですか。寂しいですね」
 「・・・・・・」

 思わず吐露してしまった心情に、はハッと我に返った。

 「ごめんなさい、大丈夫です。わがままを言っている時ではありませんものね」
 「・・・」

 タクミを困らせてどうする。彼だって、好きで戦っているわけではないのだ。白夜のため、たちのために、命を賭けて戦っているのではないか。

 「ごめんなさい、本当に。私のことなら、気になさらないで下さい。それじゃ、タクミ様。私、ちょっと用事があるので」
 「え?」

 ペコリと頭を下げ、箒を仕舞い、はタクミの前から駆け去った。
 ああ、なんて馬鹿なことを言ってしまったのだろう。あんなことを言ったら、タクミを困らせるだけなのに。自分勝手なことを言ってしまった。
 明日、再び白夜を発つという。せっかく、タクミが会いに来てくれたというのに・・・はその厚意を無意味にしてしまった。
 呆れられてしまっただろう。なんてわがままな娘なのだ、と。嫌われてしまっただろう。
 せっかく会いに来てくれたのに・・・。
 謝ろう。今からでも遅くない。逃げるような真似をして、申し訳なかったと。
 だが、家の前に戻った時、すでにタクミはそこにいなかった。

 「あら、。どこ行ってたの? タクミ様が来てたわよ」
 「・・・そう」
 「? 元気ないわね」
 「そんなことないよ。大丈夫」

 本当は大丈夫じゃないけれど。タクミが腹を立ててしまったであろうことは、予測が出来た。ああ、どうしよう・・・心の中に不安が生まれたまま、はその日を終えた。
 翌日・・・タクミは今日には出発してしまうと言っていた。どうしようか。見送りに行って、謝罪をすべきだろうか? だが顔も合わせてくれなかったら? 胸がズキンと痛んだ。ああ、オボロに相談に乗ってもらおうか・・・。
 気づけば正午を過ぎていた。聞こえてくる鐘の音に、は動きを止め、ため息をついた。

 「

 声がかかったのは、その直後。驚いては肩を震わせてしまった。振り返れば、やはりそこにいたのはタクミ。

 「タ、タクミ様・・・!!」
 「おはよう・・・っていう時間でもないか」
 「あ、こ、こんにちは!」

 ペコリと頭を下げた。そのまま、顔が上げられない。そんなに、タクミがクスクス笑った。

 「顔あげてよ、
 「で、でも・・・私・・・!」

 頭を上げられないの前に、スッと何かが差し出された。手の平ほどの大きさの小さな人形だった。その造形には、見覚えがある。

 「これ、サクラに作ってもらったんだ」
 「これは、タクミ様のお人形?」

 今、目の前に立つタクミと、同じ姿かたちをした人形。顔を上げ、タクミを見上げると、クスッと彼が笑った。

 「うん。これで離れていても、一緒にいるような気持ちになるだろう?」
 「タクミ様・・・」
 「あ、子供っぽかったかな。気に入らなかったら、捨ててくれても・・・」
 「いいえ! とても嬉しいです!」

 そっと、タクミの手から人形を受け取る。
 サクラが作ったというそれは、とてもよく出来ていた。一目見て、タクミだとわかる。髪の色、瞳の色、服。

 「サクラ様、手先が器用なんですね。がとても喜んでいたと、サクラ様にお伝え下さい」
 「うん。サクラも喜ぶよ。に気に入ってもらえてよかった」

 ギュッと、大切そうに人形を胸に抱きしめる。タクミの心遣いがとても嬉しかった。

 「ありがとうございます、タク・・・」

 改めてお礼を言おうとすると、なぜかタクミはそっぽを向いていた。心なしか、顔が赤い気がする。

 「タクミ様? どうかなさいましたか?」
 「え? あ、いや・・・そんな。べ、別に人形がうらやましいとか、そんなことは思ってないから」
 「はぁ・・・?」
 「と、とにかくっ! ぼ、僕はそろそろ行くよ!」
 「あ・・・はい! タクミ様!」
 「うん?」

 立ち去ろうとするタクミに、は声をかける。胸に抱きしめた人形を、グッと強く抱き寄せた。

 「どうか、ご無事で。ご武運を祈っております」
 「ありがとう」

 ニコッと笑い、立ち去って行くタクミの背中を、見えなくなるまでずっと、は見つめた。