ドリーム小説
眩しい太陽の光を、指の隙間から見上げる。今日も白夜はいい天気だ。
草の中を歩き、1本の気の根元へ。そっとその幹に触れ、頭上を仰げば緑の葉が、風に吹かれて静かに揺れていた。
服が汚れてしまうかもしれないが、そんなことはお構いなしに、木の根元へ座り込み、幹に背を預ける。遠くからかすかに聞こえる笑い声。ああ、ようやく人々にも笑顔が戻ってきたか。
そっと、着物の合わせから1枚の紙を取り出す。開いてみれば、達筆な文字で今後の予定が書かれていた。これは宰相のユキムラが渡してきたもの。
びっしりと書かれた予定に、ため息が出てしまう。まだしばらくは忙しそうだ。
サラリ・・・風に吹かれて揺れる黒髪を押さえる。少し風が強くなってきたかもしれない。
「、見つけたよ」
視界の隅に人影が入り、その人物が名前を呼んだ。その声で、相手が誰なのか、すぐにわかる。
「私の事、探してたの? タクミ」
「ああ。ずっとね」
「あら、それは悪いことをしたわね」
クスッと笑みをこぼせば「ずい分探したんだけど」と、タクミは下唇を突き出した。
「隣に座っても?」
「ええ、どうぞ」
タクミが片膝を立てて、隣に座る。何かあった時、すぐに立てるようにだ。平和なこの白夜で、そんなに警戒する必要はないのに。
と、が持っていた紙を覗き込んで来る。
「やっぱり忙しそうだね、」
「ええ。まあ今は仕方ないわよ。リョウマも王になったばかりで、色々と慣れてないし」
「・・・炎の広場も、再建しなくちゃいけないしね」
「そうね」
先の戦争で、暗夜王ガロンの策により、爆破された炎の広場。そして、その周辺。は主に修復工事の方に力を注いでいるのだ。
「ガロン王も、ひどい最期だったな」
ハイドラの力となるため、その身体を飲み込まれた。あまりにも凄惨な最後に、エリーゼは悲鳴をあげ、気を失うほどだった。
「でも、もう憎む相手はいないわ。暗夜とも、手を取り合っていくのだし」
真っ青な空を見上げ、がつぶやく。彼女の言う通りだ。何十年もいがみ合っていた暗夜王国は、今では同盟国だ。
カムイが治める透魔王国同様、必ず白夜の力になってくれるはずだ。
現に、暗夜からはレオンの臣下のゼロと、エリーゼの臣下であるエルフィが援助に来てくれている。
「平和になった白夜で、みーんな幸せに微笑んでて・・・。私も幸せだわ」
フフッとが微笑む。本当に幸せそうな笑顔で。タクミもその笑顔につられ、笑みを浮かべた。
「でもね」
と、の視線がタクミに向けられる。想い人に見つめられ、タクミの心臓はドキンと跳ねた。
「こうして、タクミとゆっくりしている時間が、一番幸せなんだと思う」
「え」
予想外なの言葉。それはまるで、タクミのことを想ってくれているようではないか。
「あら、なぁに? その顔」
呆気に取られた。思わず、照れ臭さから、彼女から視線を逸らした。その直後、「しまった」と思った。これではの好意を拒否したようではないか?
「タクミ」
小さくがタクミの名を呼ぶ。逸らしていた視線を、戻した。は優しく微笑んでいた。
「肩、貸して」
「え? 肩?」
「そう」
「うん。どうぞ」
ありがとう、と言い、がタクミの肩に頭を乗せ、寄りかかって来る。「重い?」と彼女が問う。タクミは「大丈夫だよ」と答えた。強がりではない。
「ねぇ、タクミ?」
「うん?」
「私は、ハッキリとは言ってないけど、あなたのことを誰よりも大切に想ってるわよ」
「え!?」
「ハッキリと言ってあげないけどね」
そんな風に言っているが、ハッキリ言ってるのと同じだ。
「誰よりも大切に想ってる」なんて。告白してるのも同じじゃないか。いや、だが彼女のことだ。「弟のように」という言葉がつくのかもしれない。
だけど、それでも「誰よりも大切」なのだ。少しは、いや、多大に期待していいだろう。
「、僕の気持ちはもう知ってると思うけど。僕は君のことが・・・」
言葉に詰まる。何度告げたかわからない言葉。その度に、彼女は「ありがとう」と笑うだけだった。
「・・・?」
なんの反応もないに、タクミが顔を覗きこめば、彼女は目を閉じていて。眠っているらしかった。
ハァ・・・とため息がこぼれた。告白みたいなことを言って、自分に想いを寄せる男を戸惑わせて、そのまま眠ってしまうとは。
「僕が君に何もしないとでも思ったの?」
ボソッとつぶやき、の額に唇を寄せ、軽く口付けた。
今はまだ、これが精一杯だけど、いつか彼女のその柔らかな唇に口付けたいと願った。
|