ドリーム小説
「たあっ!!」
「うわっ!」
持っていた木刀が手から離れる。ドスン、と尻もちをつく銀髪の少年。年の頃は5つか6つか。その少年の前には、黒い髪の少年。手にしている木刀を銀髪の少年に向けている。
「まだまだだな、タクミ」
「うっ・・・」
タクミ・・・銀髪の少年がグッと唇を噛む。悔しさにジワリと目尻に涙がたまった。その様子に、立っていた少年が眉根を寄せる。何か声をかけようとしたところへ、1人の少女が姿を見せた。長い黒髪を高く一つに結った、忍び装束の美少女だ。
「リョウマ様、ミコト様がお呼びです」
「わかった」
兄のリョウマが鍛錬場を出て行った。タクミを気にしてはいたが、母に呼ばれたのでは仕方ない。
タクミはしばらくその場に座り込んでいたが、やって来た少女の姿に、慌てて腕で涙を拭った。
「タクミ」
少女がタクミの名を呼ぶ。タクミは少女に背を向け、膝を抱えて座った。そこへ、少女がもう一人、入って来る。緋色の髪の少女は、座り込んだ少年の元へ近づいて来た。
「タクミ、大丈夫?」
「・・・大丈夫だよ」
姉のヒノカが心配そうに声をかけると、タクミはぶっきらぼうに答えた。その様に、もう一人の少女がため息をつく。
「何いじけてんの? リョウマにまた勝てなかった、とか思ってるの?」
「・・・には関係ないだろ」
「少しは努力したら?」
「どうせ僕はリョウマ兄さんに敵わないんだよ」
「そんな風にいじけて、リョウマに勝てると思ってるの?」
冷たいの物言いに、タクミはムッとして少女を睨みつけた。
「どうやったって、勝てないんだよ!」
「そうでしょうね。勝てないからって、うじうじしてるタクミは、リョウマに一生勝てないでしょうね」
「な・・・!!」
カッとなった。座りこんでいたタクミが立ち上がる。背の高い少女を見上げる形だ。キッと睨み据える。
「は、なんでいっつも偉そうなんだよ!」
「私は、タクミが男らしくないって言ってるだけじゃない」
「僕は、この白夜王国の王子だぞ!」
「だから、かしずけって? 随分な物言いね」
「、タクミ・・・二人とも落ち着いて」
ヒノカの仲裁に、タクミとは口を噤む。第一王女はハァ・・・とため息をついた。
「タクミ、お前はまだ幼い。リョウマ兄様に敵わないのは、仕方ない」
「でも・・・!」
「今はまだ成長途中なんだから。これから強くなるよ」
前向きなヒノカのなぐさめに、タクミは小さく「うん・・・」とうなずいた。次いで、ヒノカはに顔を向けた。
「も・・・そういうことだ。わかったな?」
「ええ、わかってますよ」
どこか挑発的な物の言い方に、タクミは再びムッとするも、はタクミとヒノカの前を立ち去ろうとしている。呼び止めようかと思ったが、また言い合いになって、ヒノカに注意されるのが目に見えた。
「・・・タクミ」
「え?」
鍛錬場の入り口で、が立ち止まって、こちらに背を向けたまま声をかけてきた。
「リョウマ以外にも、侍を目指してる人間は、いるんだからね」
「え?」
それだけを言い残し、出て行ってしまった。タクミは首をかしげた。どういう意味だろうか?
「・・・も、侍を目指しているんだ」
「うん、それは知ってる」
「リョウマ兄様には、手合わせで一度も勝てたことがない」
「え・・・!?」
ヒノカの言葉に、タクミは目を丸くした。彼女もまた、タクミと同じだったとは。
「だが、は膝を抱えていじけたりしない。いつか兄様に勝てるようにと、必死で鍛錬を重ねている」
「・・・・・・」
「だから、お前も負けるな」
「・・・うん」
小さく、うなずいた。に負けないように・・・そう、心の中でつぶやく。
そして、タクミの中では少しだけ特別な存在になった。
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