ドリーム小説

 チクチク・・・針で丁寧に布を縫って行く。お世辞にも得意とは言えないので、丁寧に、ゆっくりと。

 「! 何をチンタラやってんだい! そんなんじゃ日が暮れちまうよ!」
 「は、はい・・・!」

 だが、飛んでくる叱責。慌てて少しだけ手を速く動かす。
 部屋の中には、自分を含めて五人の侍女。兵士たちの服を繕ったり、色々な人の肌着を縫ったり。
 は文句が出てもいいように、兵士の服を担当している。袖が破れたり、裾がほつれていたり、それの補修・・・というところだ。
 戦争は終わった。これから、この白夜王国は大きく変わるだろう。

 「キャ・・・!」

 聞こえてきた悲鳴。隣にいた少女の声だ。何かあっただろうか?と顔を上げれば、部屋の襖のところに、白夜の王弟であるタクミが立っていた。

 「タクミ様よ・・・! 素敵」

 戦争から戻ったタクミは、以前の刺々しさが嘘のように、人懐こい性格になっていた。また、体つきも逞しくなり、表情も少年のような子供らしさから、青年になりたてのものに変わっていた。
 兄であるリョウマとカムイ、姉であるヒノカと違い、戦時中に伴侶を作らなかったタクミに憧れる少女は多い。今、の隣にいる少女も、そうなのだろう。
 タクミとは顔見知りだ。おっちょこちょいで有名なを、タクミが耳に入れていた、というのが事実だが。その上、はタクミの胸に突っ込んでしまい、抱きしめられるという役得な目も見ていた。
 だって、少なからずタクミに憧れのようなものを抱いている。あれだけの美少年だ。無理もない。
 そんなわけで、見目麗しい王弟に目を奪われたの指を、持っていた針がブスリと刺した。

 「いった〜い!!」

 思わず叫び、刺した指をブンブンと振る。タクミと、他の侍女たちがギョッとして、を見やった。

 「ひぃ・・・痛い・・・深く刺さったぁ・・・!」

 プクリと浮かんだ血を口に含む。しばらくそうしてから、口から指を出す。

 「大丈夫か?」

 タクミが心配そうに声をかけ、の傍らにしゃがみ込む。隣の侍女は、タクミが近づいてきたことで大興奮だ。

 「あ、はい、たぶん」
 「見せてみな」

 タクミが手を差し出すが、は戸惑う。いや、そこまで心配するようなことでも・・・。

 「タクミ様、その子のそれは、いつものことですので・・・!」

 慌てた様子で、先輩侍女が声をあげる。タクミがその彼女に笑いかけ、「知ってる」と返した。
 「ほら、見せてみな」と言い、タクミがの左手を取る。その人差し指を見つめ、血が止まっていることを確認し、うなずいた。

 「そんなに深くない。大丈夫だな」

 優しいタクミの声に、涙が浮かびそうになり、は慌ててうつむいた。

 「邪魔をしてしまってすまないね。仕事、がんばってくれ」
 「ありがとうございます、タクミ様!」

 深々と頭を下げる侍女たちに倣い、も頭を下げる。タクミは部屋を出て行った。

 「あーびっくりした。まさか、タクミ様がいらっしゃるなんて。それにしても、がうらやましい。あたしも、おっちょこちょいの振りすれば良かった」

 そんなことを言っている侍女をよそに、は針を針山に刺すと、立ち上がった。どうしたんだ?という視線はあったが、咎められることはなかった。
 部屋を出て右へ。顔を向け、次いで左へ。いた。

 「タクミ様・・・!」

 名前を呼んで駆け寄れば、タクミが立ち止まり、ゆっくりと振り返った。

 「どうしたんだ?」
 「あの・・・さっきは心配して下さって、ありがとうございました!」
 「ああ・・・。いきなり叫ぶから、びっくりしたけどね」
 「も、申し訳ありません!」

 ガバッと勢いよく頭を下げると、「別にいいけど」と言葉が続いた。

 「それだけのことで、追いかけてきたの?」 
 「え? あ、はい」
 「・・・ふーん。なんだ」

 ぼそっとつぶやかれたそれに「“なんだ”?」と心の中でつぶやく

 「それじゃ、仕事に戻ったら? 用事済んだだろ」
 「はい! 失礼しますっ」

 再び深々と頭を下げ、はタクミの前を去って行く。
 その姿を見送り、タクミはため息をついた。少しは、意識してくれたらいいんだけど、と思いながら。