ドリーム小説
勢いのまま、「弓の特訓して下さい」と頼みこみ、迫力に押されたのか、了承の返事をもらえた。
一兵卒である自分に、王子が直々に弓を教えてくれるなど、それはそれは特別待遇だ。
本人も、まさか承諾してもらえるとは思わず、驚いた。頼みこんだくせに。
「ねえ、素人じゃないんだよね?」
「う・・・」
タクミの冷たい言葉に、は肩を落とす。ハァ・・・とため息をつき、タクミは的を見る。刺さっている矢は二本。十本中二本だ。
「ちょっと構えてみて」
「はい」
言われた通り、弓を構える。タクミがの後ろに立つと、腕を持った。
「ここ、力が入ってない。弓の引きが弱いから、矢がぶれるんだ。力が足りないんじゃないの?」
「う・・・」
「もっと腹に力を込めて。背筋伸ばす。本当に素人じゃないの? そんなので、よく今まで戦ってたね」
辛辣なタクミの言葉が胸にグサグサ突き刺さる。
実戦は、先日が初めてだった。当然、の矢は当たらず。よく生きていたな、と自分でも思う。防陣を組んでいたモズメのおかげだろう。
「落ち込んでる暇があったら、数をこなせば?」
「そ、そうですよね! はい! がんばります!!」
「無理しない程度にね」
そう言うと、タクミはの向かう的の隣の的を狙う。タクミが放った矢は、見事真ん中に突き刺さった。
よし・・・!と気合いを入れ、は矢を放つ。一発、二発、三発・・・だが、なかなか当たらない。
ここまで当たらないとなると、自分はもしかして弓使いに向いていないんじゃないだろうか?なんて思ってしまう。壊滅的なまでの命中率だ。
隣に立つタクミは、余裕の表情でいとも簡単に的を射抜く。フゥ・・・と一息つくと、チラリとを見やる。彼女は汗をしたたらせながら、真剣な眼差しで的を射ていた。矢は三本しか刺さっていないが・・・。
「大丈夫? 少し休めば?」
「いえ! このくらい、なんてことありません!」
少し無理をしているように見える。案の定、矢を放った途端、手から弓が落ちた。
「キャッ!」
「危ない!」
反動で体が倒れる。タクミが慌てて体を支え、安堵のため息をついた。
「あ・・・ありがとうございます! タクミ様!」
「だから休めばって言ったんだ」
「ご、ごめんなさい・・・」
「まあ、その熱心さは買うけど」
が落ちた弓を拾おうと下を向く。タクミはその動きを見つめ、ドキッとした。
いつも、彼女は長い髪を下ろしている。だが、今は特訓中のため、まとめ上げているのだ。見えた白いうなじ。色っぽいその姿にドキッとしてしまった。
「タクミ様? どうかなさいましたか?」
「え??」
ハッと気づけば、を凝視している自分がいて、慌てた。
「あ、いや・・・なんでも・・・。今日はこのくらいにしておこう。疲れてるみたいだし」
「あ、ありがとうございました!」
ペコリと頭を下げる。立ち去って行くタクミの背中を見送り、的の方を見てハァ〜とため息をついた。
「これで戦力になるのかな? 私」
まったく的に矢が刺さらない。特訓時にこれなのだ。次に戦場に出た時、どうなるか・・・。
再び弓を構える。狙いを定めて・・・。
「」
「うわっ!」
立ち去ったはずのタクミの声がして、は驚いて肩を震わせた。振り返れば、やはりタクミが立っていた。
「・・・今日はおしまいだって言わなかった? 無理して怪我でもされたら困るんだけど」
「あ・・・はい! すみません!」
「とりあえず、弦を引く動作でもして、腕力つけた方がいいよ。力がないから、ブレるんだ」
「・・・・・・」
「なに?」
呆気に取られたようにタクミを見つめるに、タクミは眉間にしわを寄せた。
「あ、いえ・・・! タクミ様って、お優しい方だな〜っと」
「なに、いきなり・・・」
「えへへ。これからも、よろしくお願いします! タクミ師匠!」
ぺこりと頭を下げたに、フン・・・と小さくつぶやき、タクミは今度こそ去って行った。
「よ〜し! これからもがんばるぞっ!!」
無意識にタクミを誘惑していたは、そんなことなどちっとも気付かずに、一人気合いを入れるのだった。
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