ドリーム小説
セシルたちが帰ってからは、大変だった。
まず、クリスタルは元あった場所に戻された。
そして、ファブール、ダムシアン、エブラーナの再建が始まった。
パロムとポロムは長老と共にミシディアに帰り、今日も修行に追われている。今は魔法の修行もさることながら、一般常識も教えているらしい。パロムには苦痛である。そのため、よくサボっているようだが。
エブラーナには、エッジが帰った。洞窟から戻ってきた兵士や民たちの手を借りて、復興の最中だ。
だが、次期国王であるエッジは、フラフラと女の尻を追いかけ、じいにお小言をいただく毎日だ。しかし、エッジの心には、1人の少女の姿しか存在していないのも、事実である。
リディアは幻界に戻っていた。と言っても、あまりこちらにいると、セシルたちの世界と時の流れが違うので、気をつけながら生活をしているが。
いずれ、バロンへ向かうつもりだ。新国王と王妃が、それを望んでいる。
ヤンはファブールへ帰ると、なんとファブール王から熱望され、国王として即位することになった。
だが、今まで王妃などというものとは、無縁だったヤンの妻は、どうしたものかと四苦八苦。
ヤンもヤンで、国王だというのに、修練を欠かさないという。
ギルバートもダムシアンに戻った。国の復興を目指しながら、セシルたちの活躍をサーガにし、子供たちに歌い聞かせている。今日もまた、子供たちにパラディンの歌を聴かせて、とせがまれていた。
ジオット王とルカも地底へ帰り、城の修繕を進めている。
戦車を潰し、資材へ変える。戦は、もう起こらない。そう、この世界は、平和になったのだから。
***
「あ〜・・・! もう無理! 無理よっ!」
部屋の中から聞こえてきた声に、通りかかった兵士がビクッと肩を震わせ、ドアの前でノックしようとしていた女性は、思わず動きを止めてしまった。
「私には、そんなの出来ないって!」
ああ、まだそんなことを言っているのか・・・。白魔道士の美女はため息をつき、ドアをノックした。
「はい?」と中から声がかけられ、「、私よ」と答えれば、ものすごい勢いで、内側にドアが開いた。
「ローザ! 助けてっ!!」
情けない顔をした親友の姿に、ローザはハァとため息をついた。
目の前の少女は、純白のドレスに身を包んでいる。綺麗だ。お世辞抜きでそう思う。もともと、この少女は美人なのだ。まったく自覚はないけれど。
旅をしていた頃は、赤い旅装にケープ、ボサボサの髪だったが、こうして身繕いすると、その美しさがよくわかる。要は、は外見に無頓着なだけなのだ。
「・・・あなたまだ弱音を吐いているの?」
「だって・・・! やっぱりローザ、代わって! ローザの方が適任よ!」
「セシルと結婚しろっていうの? 私は構わないけど、はそれでいいの?」
「う・・・」
ローザが腰に手を当てる。説教モードか・・・?と、は身構えた。出来ればお説教は勘弁してもらいたい。
「、大変なのはわかるけれど、バロンの民は新しい国王にセシルを選んだ。セシルも、それがバロンのためになるのなら、と承諾したわ。そして、あなたはセシルが選んだ女性。大変なのは、本当にわかるわ。でも、バロンの王妃になるのは、あなたしかいない」
「ローザ・・・」
「大丈夫よ。あなたには、協力してくれる人が、たくさんいるじゃない? シド、リディア、カイン・・・もちろん、私も」
「・・・うん」
小さくうなずいたに、ローザはニッコリと微笑んだ。
「即位の式は、明日よ。もう逃げられないわよ?」
「逃げたい・・・なんて、もう言わない。そうよね、私にはローザたちがついてる」
胸に両手を当て、目を閉じた。不安なのは、民たちもわかっているだろう。いきなり百を求めてくることもないはず。一からやっていけばいい。
そして、翌日。即位の日を迎えた。
いつもの鎧を脱ぎ、軍服に身を包んだセシルを、は見つめた。何を着ても様になる人だ。
と、セシルが動きを止め、天井を見上げた。目をぱちぱちとしばたたかせる。
「セシル? どうしたの?」
「え? あ、いや・・・なんでもないよ」
「なんでもないって様子じゃなかったわ。気になるじゃない。表情も曇ってる!」
「・・・兄さんの声が、聞こえたような気がして」
「セオドールの?」
が目を丸くする。セシルはうなずく。には何も聞こえなかった。セシルがを見つめ、微笑む。
「気のせいだよ。たぶん」
「でも・・・」
「兄さんは、月で眠りについているんだ。そんなの、気のせいに決まってる」
微笑むセシルに、はそれ以上何も言わなかった。
と、部屋の扉がノックされる。セシルが「はい」と応えると、扉が開き、シドとカイン、ローザが入ってきた。
「やはり2人とも、ここじゃったか! まったく! イチャつくのはこれからイヤというほど出来るわ!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「さ、。着替えと化粧をしましょ。男性陣はまた後ほど、ね」
ローザがの背中を押し、部屋を出て行く。シドとカインがセシルを見る。セシルは2人にはにかんだ。彼もまた、緊張しているのか。
「リディアやエッジたちがそろそろ来る頃だ」
「ああ、わかってる。すぐに行くよ」
「待っとるぞ!」
シドとカインも部屋を出て行く。
セシルは窓に歩み寄り、空を見つめた。どこまでも続く青い空を。
「聞こえた・・・確かに・・・。兄さんの声で“さよなら”と・・・」
***
玉座の間に、新王と王妃が入ってきた。
そこにいた一同が息を飲む。凛々しい王と、美しい王妃。2人は王座の前に立つと、客人たちを招き入れ、挨拶をした。
懐かしい人々だ。パロムとポロム、ジオット王とルカ、ヤン、エッジ、ギルバート、そしてリディア。
祝杯をあげ、堅苦しい戴冠の儀は終了だ。王と王妃のもとに、人が集まる。
「おねえちゃん!」
「リディア!」
近づいてきたリディアに、両手を広げ、とリディアは抱き合う。体を離し、リディアはの姿をマジマジと見つめた。
「おねえちゃん、すっごくキレイ。おめでとう。セシルと幸せにね」
「ありがとう、リディア。でも、あなた本当にバロンへ来てくれるの?」
「うん。幻獣王もそれがいいだろうって。あたしも、セシルやおねえちゃんや、みんなと一緒にいたいし」
エヘヘと笑うリディアを、もう一度抱きしめる。
「セシル様! 様! 国民が集まっています。どうかそのお姿を見せてさしあげてください!」
セシルとが顔を見合わせ、うなずく。セシルはの手を取り、外へ出る。途端、聞こえてくる民の声。
「セシル・・・」
「なんだい?」
が小さく名を呼ぶ。セシルが妻となった少女を見やれば、彼女はそっと微笑んだ。
「私、今すごく幸せ。改めて言うね。不束者ですが、末永くよろしくお願いします」
「うん。こちらこそ」
の手を握り、引き寄せる。2人の唇が重なった。
そして、青き星の周りを回っていた2つの月の片方は、ゆっくりと青き星から離れていった。
こうして、世界を救った聖騎士セシルと、赤魔道士の恋物語と英雄譚は、サーガとして後世に歌い継がれていくのであった。
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