ドリーム小説
ミシディアの祈りの塔に、長老や双子、シドたちの姿はあった。
長老の両隣にパロムとポロムがおり、2人は静かに目を閉じている。長老もまた、目を閉じ何かに集中している。
そのまぶたの裏に、映像が映る。ゼロムスのメテオにより、傷ついたセシルたちの姿が。
「ちょうろう!」
ポロムが声をあげた。今、長老が見たものが、ポロムにも見えたのだろう。同じようにパロムも長老を振り返り、「あんちゃんと、ねーちゃんが!」と同じように声をあげた。
「うむ!」
双子の視線を受け、長老が大きくうなずき、背後のシドたちを振り返った。
「今こそ彼らの・・・いや、この大地のために祈る時! パロム! ポロム! 皆の祈りを・・・ワシらがセシル殿の元まで送るのじゃ!」
長老の言葉に、シドたちは目を閉じ、祈り始める。
「セシル殿・・・!」
ヤンが力強くセシルの名を呼ぶ。ギルバートも隣で祈りを捧げる。
「今こそ本当の勇気を・・・!」
「ワシらが待っとるんじゃあ!!」
「無事に帰ってください!」
各々の祈りの声が響く。
「この大地のためにも!」
「立ち上がって!」
「私たちも祈ります!」
ジオット王とルカ、トロイアの神官も集まっていた。同じように祈りを捧げる。
「しっかりしろ、あんちゃん!」
「セシルさん・・・みなさん・・・!」
「月よ・・・! 我らの祈り、受け取りたまえ・・・!!」
***
ケアルラの柔らかい光がセシルたちの体を包んだ。セシルはゆっくりと立ち上がり、フラフラとゴルベーザの元へ歩み寄った。
「に・・・兄さん・・・!」
「セシル・・・こ、これを・・・!」
ゴルベーザもなんとか生きていた。苦しそうに顔を歪めながら、両手に抱えていたクリスタルをセシルに差し出した。
「お前が・・・使うのだ・・・!」
「兄さん・・・」
ゴルベーザの手からクリスタルを受け取る。キラリ・・・輝きを失ったクリスタルが、再び輝き出した。
「ゼロムス・・・! 負けるわけには・・・いかないっ・・・!」
クリスタルをギュッと握り締め、セシルはゼロムスを睨みつけた。
と・・・そのクリスタルから、青き星からの祈りの声が聞こえてきた。
「あんちゃん!」
「わたしたちの、まりょくをおくるわ!」
パロムとポロムの優しい祈りが届き、気を失っていたたちが目を覚ました。
「みんな! 勇気を!」
「なせばなる、自分を信じろ!」
ギルバートと、そして今は亡きテラの声。セシルと、リディアがその声に後押しされるように立ち上がる。2人の願いが届いたのだ。
「精神を集中させろ!」
「必ず帰ってくるのじゃぞ!」
ヤンとシドの祈りが、カインとエッジ、ローザを奮い立たせた。
と、フースーヤとゴルベーザがゆっくりと顔を上げ、セシルたちを見やる。
「月よ、光を与えたまえ!」
フースーヤの祈りが、セシルたちの体を癒す。
「我が弟よ! お前に秘められた聖なる力を、クリスタルに託すのだ! ゼロムス! 正体を見せるがいい!」
ゴルベーザの言葉にうなずき、セシルは仲間たちの前へ出ると、クリスタルを掲げた。
「クリスタルよ・・・聖なる光よ・・・ゼロムスの真の姿を照らし出せ!」
セシルの声に呼応して、クリスタルが眩い光を発する。光はゼロムスを照らし・・・そして、その真の姿を照らし出した。
巨大な体・・・骨のような手足・・・およそ人とは思えぬ姿かたちなのは、ゼロムスは“完全暗黒物質”と変わり果ててしまったせいだろう。
セシルたちはそれぞれの武器を手にした。そして・・・ゼロムス目掛け、一斉攻撃を開始した。
カインがホーリーランスを突き出し、エッジは道中、宝箱から拾った風魔手裏剣を投げつける。ローザは弓矢で狙い、リディアは強力な幻獣を喚ぶ。はアイスブランドを手にし、セシルはラグナロクで斬りかかった。
ゼロムスは大爆発を起こし、フレアを放つ。そのフレアを軽減させるためにかけたシェルを、無効化する闇も生み出す。気を抜けば、すぐにでも倒れてしまいそうになる。
ローザのケアルガ、のケアルラ連続魔がなければ、いつ命を落としてもおかしくないほどの攻撃力だった。
「負けるわけには・・・いかないっ!!」
セシルはラグナロクを構える。その彼に、フレアの魔法が放たれ・・・炎の直撃を受け、セシルの体が崩れ落ちた。
「セシルっ!!」
が名を叫び、慌ててローザがアレイズの魔法をかける。意識を取り戻したセシルは、再び立ち上がった。
エッジの風魔手裏剣が再び突き刺さり、カインはゼロムスの頭上から槍を突き刺す。リディアの喚んだ竜王が、すさまじい爆撃と炎を放った。
セシルはギュッと目を閉じる。そして、眼前に剣を掲げた。
「・・・暗黒の力を、聖なる祈りに」
暗黒騎士だった己は、聖騎士に生まれ変わることができた。
闇も、きっと光に変わることが出来る。そう、ゼロムスだって・・・。
「僕たちは、負けるわけにはいかないんだ」
待っている人たちがいる。
シド、ヤン、ギルバート、パロム、ポロム、そしてセシルたちに協力してくれた様々な人たちが。
「ゼロムスっ!!」
セシルが叫び、走り出す。エッジが最後の風魔手裏剣を投げつけた。
ラグナロクを振りかぶり、渾身の力を込め、それを振り下ろす。聖剣は、光を増し、光はゼロムスを包み込んでいく。
そして・・・眩い光が辺りを包んだ。その光の中で、ゼロムスの体は静かに砕け散った。
***
セシルはハァハァ・・・と肩で息をする。そのまま倒れそうになったところを、細い腕が抱きとめた。
「・・・」
愛しい少女の名をつぶやけば、彼女はそっと微笑み、顔を前方に向けた。そこに揺らめくは、か弱き炎。
「我は・・・滅びぬ・・・。生あるものに・・・邪悪な・・・心が・・・ある限り・・・。グ・・・ズ・・・ギャアアアム!!!」
ゼロムスの存在は、完全に消滅した。辺りに漂い始めた澄んだ空気に、一同はホッと息を吐いた。
ローザのケアルガで、全員の傷が癒され、仲間たちがセシルとの元へ集った。
「見事じゃった・・・! そなたらが、あれだけの力を秘めているとはな・・・。青き星の民は、もう我ら月の民を超えたのかもしれん」
「いやー、その通りかもな!」
お調子者のエッジの言葉に、セシルたちは苦笑いを浮かべた。と、カインが「しかし・・・」とつぶやく。
「ゼロムスが最期に残した言葉・・・」
「邪悪な心がある限り・・・」
ローザがゼロムスの言葉をつぶやく。不吉な言葉だ。まるで、何かを予言するかのような。
「邪悪なる心は消えはしない。どんなものでも、聖なる心と邪悪なる心を持っている。クリスタルも光と闇が、そなたらの青き星にも地上と地底があるように・・・。しかし、邪悪な心がある限り、聖なる心もまた存在する。ゼムスの邪悪に向かったそなたらが聖なる心を持っていたように・・・」
「いやー、そこまで褒められっと、さすがに照れるぜ!」
「何言ってんの」
調子に乗ったエッジに、リディアが呆れた声でつぶやいた。
「あんたなんか、ゼムスに利用されなかったのが不思議なくらいよ!」
「ヘヘッ。オレは正義を愛してるからな!」
リディアの辛辣な言葉に、エッジはまるで堪えていない。なんとも前向きな男だ。
その2人のやり取りを見ていたフースーヤが、フゥ・・・と息を吐いた。
「さて、そろそろ私も眠りにつかなければならない。そなたらは?」
「僕らの星へ戻ります」
「あそこが、私たちの居場所ですから」
セシルとが視線を交わし、そっと手を繋いだ。
「そうか・・・。仲間も待っていることだろう。早く帰ってやるがいい。また会える日が来ることを楽しみにしているぞ」
フースーヤがセシルたちに背を向ける。と、ゴルベーザが「待ってください」と声をかけた。セシルたちが彼を見ると、ゴルベーザはゆっくりとフースーヤの元へ歩み寄った。
「私も・・・一緒に行かせてはもらえませんか?」
ゴルベーザのその言葉に、一同は目を丸くした。
フースーヤはこれから、長き眠りにつくのだ。それに一緒に行くということは、ゴルベーザも眠りにつくということ。青き星には戻らない、ということだ。
「お主が、か?」
「ええ・・・」
フースーヤが眉根を寄せ、チラリとゴルベーザを見上げる。ゴルベーザはギュッと拳を握り締め、大きくうなずいた。
「私は・・・戻れません。あれほどのことをしてきたのですから・・・。それに、父クルーヤの同胞である月の民の人々に会ってみたいのです」
「そうか、お主にも月の民の血が流れておる・・・。だが、長き眠りになるぞ」
「ええ」
承知の上です。ゴルベーザはハッキリとそう答え・・・様子を見ていたセシルを見つめ、フッと優しく笑んだ。
「兄と呼んでくれたな・・・セシル」
「・・・・・・」
複雑な気持ちが渦巻き、セシルはうつむいてしまう。あの時は、ほぼ無意識に「兄さん」と呼んでいた。
まだ、心の中にわだかまりはある。人間の心は、急には変えられない。
「・・・許してくれるはずもないか。今まで、お前たちをさんざん苦しめてきた私だ・・・」
「ゴルベーザ・・・」
「カイン、すまなかった。ゼムスに操られていたとはいえ、私はお前を・・・」
「いや、それは俺の心が弱かったところを付け込まれたせいだ。俺にも責任はある」
カインはゴルベーザの謝罪に首を横に振った。カインもゴルベーザも同じだ。心の弱い部分を付け込まれたのだ。
「では・・・我々は眠りにつく。青き星の平和を願っておるぞ」
フースーヤの言葉に、リディアが「ありがとう」と笑顔で応えた。エッジも大きくうなずいた。
「さあ、参ろう」
「はい」
フースーヤとゴルベーザが空間の奥へ向かおうとする。月の民たちは、そこで眠っているのか。
と、がセシルを見やる。セシルは一言も発さない。
「セシル」
ローザが声をかける。
「いいのか? 行かせて」
カインも気遣わしげな声で尋ねた。
「お兄さんよ!」
リディアが声をあげる。
「・・・さらばだ」
ゴルベーザは振り返らない。
「セシル!」
エッジがゴルベーザとセシルを交互に見やり、怒鳴った。
「セシル、後悔しない? あなたの実のお兄さんなのよ? このまま、何も言わずに別れたら、絶対に後悔する」
「・・・・・・」
キュッと唇を噛み、セシルが顔を上げる。が手をほどき、ポンと優しくセシルの背を叩いた。
セシルはゆっくりとゴルベーザに歩み寄る。ゴルベーザはセシルの気配を察したのか、足を止めた。
「・・・・・・」
ここへ来て、言葉が出ない。だが、意を決して、口を開いた。
「さよなら・・・兄さん・・・!」
たった一言だった。それだけで、ゴルベーザには十分だった。
目を閉じ、セシルの言葉を胸に刻み、うなずいた。
「・・・ありがとう、セシル・・・!」
そして、兄もまた一言、弟にそう返すと、振り返ることなく、姿を消した。
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