ドリーム小説

 翌朝、セシルたちはシドやギルバートたちに見送られ、バロンを出発した。
 ヤンもシドもギルバートも、体調が完全ではない。パロムとポロムをこれ以上危険な目に遭わせられない、ということで、月に赴くのはセシル、カイン、エッジ、、ローザ、リディアの6人となった。
 だが、魔導船に乗り込んだたち女性3人を見て、セシルは口を開いた。

 「とリディアとローザは、残るんだ。僕ら3人だけで行く。今度ばかりは、生きて帰れる保証はない!」
 「セシル!?」
 「そんな!」

 とリディアが声をあげる。ローザが「冗談よね?」と苦笑いを浮かべるが、セシルは首を横に振った。

 「さあ、魔導船を下りるんだ!」
 「セシル・・・」

 と、エッジがリディアの前でヒラヒラと手を振る。

 「さ、ガキはいい子でお留守番だ」
 「バカッ!」
 「・・・・・・」

 リディアは憤るが、とローザは何も言わず、魔導船を下りていった。リディアはセシルたちを睨みつけると、たちの後を追いかけた。

 「・・・ヘッ。これでいいんだろ? セシル」
 「ああ・・・。さあ、行くぞ、カイン! エッジ!」

 飛翔のクリスタルに「月へ!」と声をかける。魔導船は静かに浮かび上がり、青き星を出ると、月面へ着陸した。

 「行くぞ!」
 「おう!」
 「ああ」

 セシルが2人に声をかけ、エッジとカインが大きくうなずくと、魔導船の入り口に繋がる通路へ出ようとするが、ドアが開き、そこにセシルの愛しい人が立っていた。

 「!」
 「下りたんじゃなかったのか!?」

 セシルとエッジが驚愕の声をあげる。はキッとセシルを睨みつけるように見つめた。

 「そこをどくんだ」
 「そんな言うこと、聞くと思っているの? 私も一緒に行くわ」
 「何を・・・」
 「あなたを守るって約束したじゃない。私、セシルが私の知らないところで傷つくなんて、そんなの耐えられない。私は、セシルがいれば、何も怖くなんかない!」
 「・・・」

 強い意志を込めた瞳がセシルを見つめる。セシルは「だが・・・」と反論しかける。

 「・・・仕方ないな、セシル」

 だが、折れたのはカインだった。が強引なのは、今に始まったことではない。この旅の始まりの時だって、彼女は半ば強引にセシルとカインについて来た。あの時も、真っ先に折れたのはカインだった。いざこざが好きではない彼らしい。

 「うらやましいねぇ」

 エッジがニヤニヤと笑う。セシルは一度目を閉じると、息を吐いて目を開いた。

 「わかった、・・・。僕が・・・守ってみせる!」

 セシルが力強くそう言った。はセシルに抱きつく。セシルはその小さな体を抱きしめ、彼女の唇に口付けを落とした。途端、エッジがヒューと口笛を吹く。

 「うまくいったね! おねえちゃん!」
 「リディアの言ったとおりだったわね」
 「おめー!」

 姿を見せたリディアとローザの姿に、エッジが声をあげ、目を丸くする。まさか、2人も一緒だったとは。

 「いつか言ったでしょ! これは、みんなの戦いだって。それに、幻獣を喚べるのは、あたしだけよ!」
 「リディア・・・わかった・・・。行こう! 僕らの戦いに!」

 セシルの力強い言葉に、仲間たちは大きくうなずいた。

***

 はてさて・・・月に戻ったはいいが、一体どこへ行けばいいのか?
 だが、月面を見たところ、何もない。変化もない。とりあえず、フースーヤのいた館を目指すことにした。

 「ここも、何も変化ないみたいだけど・・・」

 ローザがフースーヤのいた台座辺りを見回す。部屋の奥の存在に気づいたのは、カインだった。以前に来た時は気づかなかった部屋。そこには8つのクリスタルが安置されていた。
 そして、その中央・・・よく見ると、ワープ装置のようなものがある。これも月の民の知識なのだろう。

 「これ、どこに続いてるのかな? そもそも、どこかに続くものなのかな?」
 「そんなもん、乗ってみりゃわかるだろ」
 「待って、エッジ!」

 の声に、エッジは片足を上げた状態で動きを止め、ゆっくりと足を元の位置に戻した。

 「恐らくフースーヤさんとゴルベーザは、この奥へ向かったんだわ。微かに2人の魔力を感じる。封印を解いたのね」
 「そんなことがわかるのかよ!?」
 「私の力は、フースーヤさんに引き出された物。同じ魔法力を感じるの」
 「すごいな・・・そんなことがわかるなんて」

 感心したようにつぶやくセシルに、はニッコリ微笑んだ。

 「2人の力を追えば、きっと2人の元にたどりつける。セシル、みんな・・・本当にいいのね?」
 「ここまで来て、怖気づいたりしないよ。大丈夫よ、おねえちゃん」

 リディアが応えると、他の4人もうなずいた。決意は変わらない。

 「うん・・・じゃあ、セシル」
 「え?」
 「ひとつ、みんなの背中を押してください」
 「え・・・1人ずつ?」
 「ブハッ!」

 セシルの天然発言に、エッジが吹き出し、ローザがクスクスと笑う。カインはオホンと咳払い。きっと笑いをこらえているのだ。リディアはキョトンとし、は呆れ顔だ。

 「ここで物理的に背中を押そうとする人がいる? 声をかけてください」
 「あ・・・ああ・・・そういうことか」

 ポリポリと照れ臭そうに頬を掻き、セシルは顔をあげて5人を見た。

 「よし、みんな、行こう!」

 セシルの掛け声に、5人はそれぞれ気合の入った声で応えた。

***

 そのダンジョンは、今までのどんなダンジョンよりも長く、そして出現するモンスターも強力なものだった。
 6人はフースーヤとゴルベーザの魔法力を追い、先へ進む。しかし、がいなければどうなっていたか・・・考えるだけで恐ろしい。
 幾度目かの小休止の後、リディアが「おねえちゃん」とに声をかけた。

 「どうしたの? リディア」
 「・・・おねえちゃん、大丈夫?」
 「え? どうして? 大丈夫よ」

 の言葉に、リディアは視線を泳がせ、何かを言いづらそうにしている。そんな彼女の様子に、は首をかしげた。
 リディアはキュッと胸元で手を握り締めた。明らかに何かを不安に思っている。

 「フースーヤとゴルベーザの魔力を追うって、すごく神経使うでしょ? その上、モンスターも倒さなきゃならない。疲れてない?」
 「ああ、なんだ。そんなこと」

 クスッとが笑うと、リディアは眉根を寄せ「そんなことじゃないよ」と声をあげた。

 「戦闘に関しては、カインが戻ってきてくれたから、私は後衛に戻れたし、全然負担じゃないわ。それから、フースーヤさんの後を追いかけるのだって、犬が匂いを追いかけるのと同じ。自分の出来る範囲でやってるし、大丈夫よ。こんな大事な時なのに、ムチャなんてしないわ」
 「おねえちゃん・・・」
 「ありがとう、リディア。私のこと、心配してくれて」

 ニッコリ笑うに、リディアも笑い返した。きっと、その言葉は事実なのだろう。
 彼女の言うとおり、これは大切な戦いだ。全ての元凶であるゼムスと戦うという。そんな大事な時に、無理をして足を引っ張るなど、はけして望まない。そんなに力の配分の出来ない愚かな女ではない。
 リディアがの傍を離れると、セシルが見計らったように、「それじゃあ、行こうか」と声をかけてきた。

***

 長いダンジョンの中、何かを守るようにして立っていたモンスターを、やっとのことで倒すと、そこには強力な武器が置かれていた。
 それも1つではなかった。エッジの村雨、正宗。カインのホーリーランス。そしてセシルのラグナロク。リディアはファイアビュートを、ローザはアルテミスの弓と矢を手に入れることができた。

 「は・・・」
 「私は、セシルの使っていたアイスブランドをもらうわ」

 うれしそうに、セシルの使っていた武器を手にするに、くすぐったい気持ちになる。こんなことで、独占欲を感じられるものなのか。
 さて・・・長い長い道を歩き、何体ものモンスターを倒し、とうとうセシルたちは最深部にたどり着いた。
 道の先にいたのは、白髪の老人と、黒い甲冑の男・・・フースーヤとゴルベーザだ。
 そして、その2人の前には、炎のような物体。メラメラと・・・陽炎のように揺らめいていたそれは、次第に人の形へと変貌する。

 「ゴルベーザ! フースーヤ!」

 セシルが叫ぶ。2人は、すでにそれと戦っている。つまり、あの青い人影がゼムスだ。
 ゴルベーザがファイガを放ち、フースーヤがスロウで援護する。続いてゴルベーザがブリザガを放ち、フースーヤはホールドを唱える。サンダガの雷と、ホーリーの聖光も放たれるが、なかなかゼムスは倒れない。
 フースーヤはゼムスがそれでも弱ってきていることを見抜いていた。

 「もう一息じゃ、セオドール! パワーをメテオに!」
 「いいですとも!」

 フースーヤの言葉に、ゴルベーザがうなずく。「メテオ」という言葉に、セシルたちは愕然とした。あれは危険な魔法だ。

 「使うがいい、全ての力を」

 挑発するかのようなゼムスの言葉。やがて2人の呪文が完成し、歪んだ空間からいくつもの隕石が降り注いだ。

 「こ・・・の体・・・滅びても・・・魂は・・・ふ・・・め・・・つ・・・」

 ゼムスの体がユラユラした炎へ戻る。そのまま、辺りは静寂に包まれた。

 「倒した・・・」

 静寂を破ったのは、ゴルベーザだった。ホゥ・・・と大きく息を吐くと、傍らのフースーヤは哀れむような目をゼムスに向けた。

 「愚かな・・・。素晴らしい力を持ちながら、邪悪な心に躍らされおって・・・」

 同じ月の民として、止められなかったことが悔やまれるのだろう。ギュッと拳を握りしめた。

 「ヒャッホー!!」

 静かな雰囲気を壊したのは、エッジだった。陽気に声をあげ、ガッツポーズしてみせる。フースーヤとゴルベーザが、セシルたちの姿に気づく。

 「一足遅かったか! オレたちがぶちのめすはずだっただったのによ!」
 「いいとこ持ってかれちゃったね」

 エッジの言葉に、リディアが笑みを浮かべながら応える。だが、それでもいいのだ。こうして、ゼムスは倒された。
 と、ゴルベーザがセシルに歩み寄る。未だ、2人は確執を抱えたままだ。

 「セシル・・・」
 「・・・・・・」

 ゴルベーザが声をかけると、セシルはうつむいた。そんな彼の腕に、が触れる。「セシル・・・言わなきゃいけないことがあるでしょ」と。
 セシルが意を決して顔を上げた時だ。フースーヤとゴルベーザの背後で、炎がユラユラと大きく揺らめいたのは。

 「私は・・・完全暗黒物質・・・ゼムスの憎しみが増大でしもの・・・」
 「な、なんだ!?」

 フースーヤとゴルベーザが振り返る。炎の揺らめきが大きくなる。まるで力を得たかのように。

 「我が名はゼロムス・・・全てを・・・憎む・・・!!」

 オドロオドロした低い声が辺りに響く。フースーヤが炎を睨みつけた。

 「・・・死してなお、憎しみを増幅させるとは・・・」

 フースーヤが唸る。すさまじい執念だ。

 「ゼムス・・・いや・・・ゼロムス! 今度こそ、私の手で消し去ってやる・・・!」

 ゴルベーザがキッとゼロムスを睨み、ギリッと歯噛みした。

 「消え去れい、ゼロムス!」

 フースーヤが叫び、再びメテオの詠唱を始める。ゴルベーザも同じ魔法を使い始めた。
 まず、フースーヤのメテオが完成し、間髪いれずにゴルベーザのメテオも放たれる。だが、メテオは暗黒物質と化したゼロムスには通用しなかった。
 と、なれば・・・。

 「駄目じゃ、奴にメテオは効かぬ! セオドール! クリスタルを使う時じゃっ!」

 フースーヤの言葉にうなずき、ゴルベーザがマントの隠しから1つのクリスタルを取り出した。あれが次元エレベーターを動かしたクリスタルか。
 8つのクリスタルの力を集約させたものなのだろう。キラキラと光り輝くそれを、ゴルベーザは掲げる。だが、輝いていたクリスタルは、スッ・・・とその輝きを失った。

 「何っ!? どういうことだ・・・!? クリスタルが・・・」

 ゴルベーザが愕然とする。と、ゼロムスが不敵な笑い声を発した。地響きのようだった。

 「暗黒の道を歩んだお前が、クリスタルを使おうが輝きは戻らぬ。ただ、暗黒に回帰するのみだ! 死ねっ!」

 そこで、初めてゼロムスが攻撃の手に出た。
 歪む空間。降り注ぐ隕石が、フースーヤとゴルベーザだけでなく、セシルたちをも襲った。
 灼熱の岩に何度も体を打ちつけられ、8人の体が倒れた。

 「クッ・・・体が・・・!」

 セシルが必死に体を起こそうとするも、言うことをきかない。ダメージが大きすぎた。
 そのセシルの傍らにはの姿。全身傷だらけの痛々しい姿の彼女は、気を失っていた。
 リディアとローザ、2人の魔道士も気を失っている。体力のある騎士2人と、忍者だけが、かろうじて頭を上げたが、動けるほどではなかった。
 ギリッとセシルは歯噛みし、ケアルラの魔法を唱えるが、白魔法などほとんど使ったことのないセシルのケアルラは、すずめの涙ほどの効果しかない。

 「苦しむがいい・・・滅びるがいい・・・。全てを消滅させるまで・・・我が憎しみは続く・・・。今度は、お前たちの番だ・・・」

 ゼロムスがセシルたちの方へユラリ・・・近づく。

 「来るがいい・・・我が暗黒の中へ・・・!」