ドリーム小説

 ズズン・・・振動が届く。セシルたち6人は、通路を走り抜け、ようやく巨人の心臓部にたどり着いた。

 「ここが巨人の心臓部。制御システムだ!」
 「でけえ!」

 エッジが声をあげる。
 さすが、巨人を動かしているだけのことはある。巨大な球体が1つ。高さはセシルの2倍はありそうな大きさだ。その半分ほどの球体が2つ。ユラユラと揺れていた。

 「制御システム本体より、まずは防衛システムを叩かねば、回復されてしまうぞ!」

 とは言っても、どれが防衛システムなのか・・・考えあぐねていると、小さな球体の片割れが、6人にビームを放ってくる。だが、それほど強力ではない。ローザがケアルガで傷を癒してくれる。
 なるほど、ビームを放ったのは攻撃用のシステムか。となれば、もう片方の球体が防衛システムだ。
 防衛システムが倒れてしまえば、後は簡単だ。リディアがサンダガの魔法を巨大な球体に放とうとした時だ。なんと、魔法返しのリフレクをかけられてしまった。これでは、魔法が使えない。
 セシルとエッジ、がそれぞれ剣と刀を持ち、リフレクをかけた本体に攻撃を仕掛ける。
 リディアとフースーヤが迎撃システムを破壊する。すると、本体がピカッと光り、倒した防衛システムと迎撃システムが再び現れた。
 どうやら、先に防衛システムを倒してはいけないらしい。
 再びの連続魔とリディアとフースーヤのサンダガで防衛システムを撃沈させた。

 「よし! もう1体は無視して、本体を叩こう! ローザ! フースーヤ! 回復と援護を頼む!」

 セシルが剣を構え、叫ぶ。とエッジが向かい合うようにして、本体を斬りつける。
 と、エッジが懐から何かを取り出す。ヤンも使っていた爪だ。それを左手に装着し、本体に爪を立てる。途端、稲妻が走り、本体の周りに小さな電気が走る。
 雷の爪のそれは、魔法ではない。リフレクでの反射は出来ない。

 「、一気に叩くぜ!」
 「オッケー!」

 エッジとが刃を突き立てる。セシルもそこに攻撃の手を加えると、巨大な制御システムが小さく爆発する。それを見たリディアとフースーヤがサンダガの魔法で迎撃システムを破壊した。

 「これで、巨人の動きが止まるはず・・・!」

 ズズズ・・・ンと音がする。伝わる振動音。それがやがて、止まった。

 「やった!」
 「動きが止まったぜ!」

 これで巨人が動くことはないだろう。後は破壊してしまえばいい。それは、外からでも出来るだろう。

 「さあ、早くここを出よう」

 うん、とうなずきローザがテレポの魔法を唱えようとした時だ。

 「おのれえええ!!」

 聞こえてきた声に、セシルたちはハッとした。制御装置の奥から、いきり立ったゴルベーザが姿を現したのだ。

 「よくも巨人を!!」

 いつもかぶっている兜をしていないゴルベーザの素顔。セシルたちは、初めてその素顔を見た。
 予想していたよりも、整った顔立ちをしている。どことなく、誰かに似ているような・・・。

 「お主は!」

 と、フースーヤが驚愕の声をあげ、ゴルベーザに歩み寄った。

 「なんだ、貴様は!」
 「お主! 自分が誰か、わかっておるのか!」
 「な・・・んだと?」

 フースーヤの言葉に、ゴルベーザだけでなく、セシルたちもあ然とする。この月の民は、ゴルベーザを知っているのか。

 「目を覚ますのだ!」

 フースーヤが右手を掲げる。その手に光が集う。フースーヤはそれをゴルベーザに向けて放った。
 「ぐあああっ!!」と叫び、ゴルベーザがうずくまり、頭を抱える。しばらく苦しんでいたが、ゆっくりと顔を上げた。

 「・・・私は、なぜあんなに憎しみに駆られていたのだろう」

 穏やかなゴルベーザの声に、セシルたちは目を丸くする。先ほどまで鬼神の如きだった表情も、穏やかなものへと変わっていた。

 「・・・自分を取り戻したか。お主、父の名を覚えているか?」
 「父・・・クルーヤか・・・?」
 「なんだって!!」

 ゴルベーザが告げた父の名に、セシルが愕然とする。
 クルーヤ・・・フースーヤの弟で、セシルの父・・・では、ゴルベーザは・・・。

 「まさか、セシルの・・・」
 「兄貴かよお?」

 とエッジがセシルとゴルベーザを交互に見やる。言われてみれば、2人はどことなく面立ちが似ている。初めて素顔を見て、気づいたことだが。

 「ゴルベーザが・・・僕の・・・」

 フラフラと、セシルが後ずさる。が慌ててセシルの背を支え、右手を握り締めた。あまりにもショックだったのだろう。
 フースーヤがゴルベーザの肩に手を置くと、ゆっくりと声をかけた。

 「お主は、ゼムスのテレパシーで利用されていたのだ・・・。クルーヤの月の民の血が、よりそれを増幅していたのだ・・・。兄弟で戦うなど・・・!」

 ゴルベーザもまた、愕然としていた。今まで、何度となく苦しめてきた相手が、実の弟だったとは。

 「僕は・・・兄を憎み・・・戦って・・・」
 「お前が私の弟・・・セシル・・・そうだ・・・セシル、そんな名前だった・・・母セシリアの名から取った・・・」

 セシリア・・・それが2人の母の名か。
 呆然と立ち尽くすセシルに、が顔を覗き込む。彼の表情は蒼白だった。

 「でも・・・もしかしたら、逆の立場かもしれなかったんだ・・・。僕がゼムスのテレパシーを受けていたとしたら・・・」
 「・・・しかし、それが私に届いたということは、少なからず、私が悪しき心を持っていたから・・・」

 ゴルベーザがセシルを見つめる。全て思い出した。子供の頃のことを。

 「セシルよ、許せ・・・。お前をバロンの近くに捨てたのは、私だ」
 「え!?」

 セシルが顔をあげる。ゴルベーザの告白に、目を丸くした。

 「・・・父クルーヤが何者かに殺され、母セシリアは1人でお前を生んだ。だが、母は産後の肥立ちが悪く、亡くなった。私はお前と2人きりになってしまったのだ」
 「・・・・・・」
 「父も母も失った私は、途方に暮れた。そこを、ゼムスに付け込まれたのだ。“両親が死んだのは、全て弟のせいだ”とな」
 「そんな・・・! ひどいっ!」

 が声をあげ、ギュッとセシルの手を握り締めた。

 「私は、かすかに残っていた自我で、お前をバロンに捨てたのだ。正しき道を進んでくれるよう、心ある人に拾ってもらえるように、と」

 そして、捨てられたセシルを見つけたのが、先のバロン王だった。
 セシルは視線を床に落とした。ゴルベーザへの怒りはある。バロン王を殺し、クリスタルを奪い、親友を操り、愛する人に手をかけようとした。
 それに、自分は今まで1人だったのだ。血の繋がった家族がいるなどと、思ったこともなかった。突然、“兄”が現れても・・・。
 と、ゴルベーザが踵を返し、どこかへ立ち去ろうとする。

 「どこへ!?」

 咄嗟に、セシルは声をあげていた。ゴルベーザは顔を横向かせる。

 「この戦い・・・私自身が決着をつけるっ!!」
 「待て!」

 去ろうとしたゴルベーザの背に、フースーヤが声をかけ、彼に歩み寄った。

 「ゼムスも月の民・・・我らが同胞。私がこの手で制裁を下す! 共に行くぞ、セオドール!」
 「・・・承知した」

 ゴルベーザは大きくうなずき、今度は体ごと振り返り、セシルを見た。

 「さらばだ、セシル・・・」

 ゴルベーザとフースーヤが通路の奥へ姿を消すのを、セシルは呆然と見送った。

 「いーのかよ、セシル?」

 エッジが頭の後ろで腕を組みながら、声をかける。ローザもセシルに歩み寄り、2人が消えた方へ視線を向けた。

 「ゴルベーザ・・・あの人、死ぬつもりよ・・・」

 死・・・セシルはその言葉を頭の中で反芻する。

 「お兄さんなんでしょ? セシルの・・・家族なんでしょ?」

 リディアがセシルの顔を覗き込む。呆然としている瞳が、ゆっくりとリディアを捉える。

 「兄さん・・・」
 「そうよ!」

 リディアにとって、家族を失うというのが、どれほどつらいことか・・・それは身をもって知っている。
 母の命を奪ったセシルに、家族の大切さを伝え、このままではいけないと、訴えかける。も「セシル、しっかりして!」と背中をさすった。
 と、巨人の体が大きく揺れる。どうやら、外からの攻撃で、巨人の体が崩れようとしているようだ。

 「やっべーぜ!」
 「逃げないと!」

 エッジとリディアが辺りを見回す。だが、セシルが突っ立ったまま、動かない。

 「セシル!」
 「何してんだ!」
 「でも、出口は!?」

 リディアの声に、エッジがチッと舌打ちする。と、奥の通路から「こっちだ!」と聞きなれた声がした。
 そこに立っていたのは、セシルたちの幼なじみの竜騎士だった。

 「カイン!」

 ローザが笑みを浮かべる。エッジは疑いの目を向ける。

 「その手にゃ乗んねーぜ!」
 「話は後だ! 死にたいのか!」

 カインの強い口調に、エッジが「う・・・」と言葉に詰まる。どちらにせよ、このまま死ぬよりかはマシか・・・。

 「早く!」

 だが、ローザがカインに駆け寄ると、仲間たちを促した。エッジとリディアがうなずく。

 「おねえちゃん! セシル!」
 「大丈夫!」

 リディアが振り返って2人を呼べば、がセシルの腕を引っ張って、ついて来ていた。
 奥の通路は壁に穴が開いており、そこにはシドのエンタープライズが横付けにして待っていた。慌てて6人は飛空艇に乗り込む。シドが素早く巨人から船体を離した途端、ボロボロと巨人の体は崩れ落ちていった。