ドリーム小説

 、リディア、エッジ、フースーヤと館を出て、地下通路へ向かおうとする中、なぜかローザが歩き出さない。
 グッと両拳を握り締め、地面を睨みつけているローザ。その異質ぶりに、セシルは声をかけた。

 「ローザ? どうしたんだ? 行くよ」
 「あ・・・」

 セシルが声をかけると、ローザはハッと顔を上げ、セシルを見つめたかと思ったら、フイと視線を逸らされた。

 「ローザ?」

 どうしたんだ?と、再びセシルが問いかける。ローザは口を開かないうえ、足も動かさない。

 「みんなが心配する。行くよ」
 「・・・待って、セシル」

 苦しそうに、ローザがセシルを呼び止める。どうかしたのか?と彼女を見ると、今にも泣きだしそうな表情で。

 「私・・・に口止めされたけれど・・・でも・・・でも・・・!」
 「え?」

 一体、何の話だろうか? まったくわからない。セシルは首をかしげた。

 「セシル・・・っ! を、を止めてっ!!」

***

 地下通路に入ったところで、4人がセシルとローザを待っていた。エッジが「どうかしたのか?」と尋ねてくるが、「幼なじみの秘密の会話さ」と、まともに取り合わなかった。
 来た道を戻り、魔導船に乗り込むと、フースーヤが「おぉ・・・」と声をあげた。

 「クルーヤの意識を感じる・・・懐かしい・・・」

 感慨深げなフースーヤを見つめ、セシルたちは飛翔のクリスタルの傍に立つ。フースーヤが「さ、青き星へ」とセシルたちを振り返った。
 クリスタルに「青き星へ!」と語り掛ければ、船はフワリと浮き上がり、月を離れていく。
 遠ざかる月を見つめ、は人知れずため息をこぼした。
 エッジ・・・リディア・・・ローザ・・・そして、愛するセシル。別れがたい気持ちはある。だが、これはもう決心したことだ。
 月が遠ざかり、青き星が近づく。魔導船はミシディアの近くへ降り立った。

 「みんな、これから何が起こるかわからないし、私ミシディアで買い物してくるわ」

 が仲間たちを振り返ってそう言う。リディアが「あたしも行く!」と声をあげるも、は「私1人で行かせて」と同行を突っぱねた。

 「それじゃ、行ってくるね」

 が魔導船を下りようとすると、スッと目の前に誰かが立ち塞がった。セシルだ。

 「セシル? どうしたの?」
 「行かせないよ、
 「どうして? 私は買い物に・・・」
 「逃げるのか? 僕のこと守ってくれるって言ったじゃないか。あれは嘘だったの?」
 「それは・・・」

 の視線が泳ぐ。セシルは知っている。が何をするつもりなのかを。なぜ? いや、そんなの1つしかないではないか。

 「・・・ローザ!」

 咄嗟に幼なじみを見やれば、彼女はうつむいて・・・やはり、彼女がセシルに告げたのだ。

 「ローザを責めるのか? 僕のためを思ってしてくれたことに対して」
 「セシル・・・」
 「僕は頼りないかもしれない。けど・・・を守らせてほしいんだ」

 セシルの言葉に、は目を丸くする。「頼りない」だなんて。

 「君が自分を責める気持ちはわかる。だけど、クリスタルを渡すことを選んだのは僕だ。僕を責めればいい」
 「そんな、セシルを責めるなんて・・・」
 「君が自分を責める姿を、僕は見たくない!」

 力強くそう告げ、セシルがを抱きしめる。ギュッと、力強く。離さないように。

 「憎むべきは、ゴルベーザじゃないか。君は少しも悪くない」
 「セシル・・・」
 「どうか、自分を傷つけないで」
 「そうよっ!!」

 それまで黙ってやり取りを見ていたリディアが声をあげた。

 「おねえちゃんだけが悪いなんて、おかしいよ! あたしたちだって、何も出来なかったんだから!」
 「おう! リディアの言う通りだぜ! それによ、やっぱり許せねーのはゴルベーザだろ!? 自分のこと責めるヒマがあるなら、ゴルベーザのヤローを殴り飛ばす方法を考えようぜ!」
 「・・・私、やっぱり駄目・・・。あなたがいなくなるなんて、私・・・」

 ローザがに駆け寄り、横合いから彼女に抱きついた。リディアもに駆け寄ると、ローザと向き合うように抱きついてきた。
 エッジがの背後へ近寄ろうとすると・・・。

 「エッジは抱きしめないでいいから」

 セシルからの釘刺しに、エッジはガックリと肩を落とし、「相変わらず信頼されてないのね」とつぶやいた。
 不意に、が「フフッ」と笑い出す。肩が震え、「アハハハハ!」と声をあげて笑うと、セシルの背中に腕を回して抱きついた。

 「みんな、ホントにお人好し。私のことなんて、ほっとけばいいのに」

 コツンとはリディアの頭に額をぶつける。

 「だって・・・みんな、おねえちゃんが大好きなんだよ?」
 「うん・・・ありがとう。ごめんね、みんな。もう大丈夫。みんなの気持ち、ちゃんと受け取った。私も、一緒に戦う」
 「・・・!」

 ローザがギュッとの体を抱きしめる。はそっとローザの肩に頭を押し付けた。

 「良い仲間たちだ。そうだろう? よ」

 それまでセシルたちを見守っていたフースーヤが声をかける。は笑顔で「はい!」とうなずいた。

 「さあ、エブラーナへ行こう! バブイルの巨人をこの星に降り立たせないために!」

 セシルの気合の入った声に、仲間たちは大きくうなずいた。

***

 魔導船でエブラーナへ向かう。ミシディアから西へ向かえば、もうエブラーナだ。

 「良かった! まだ巨人は・・・」

 が声をあげた時だ。バブイルの塔の上空に、渦のようなものが発生した。

 「バブイルの塔が!?」
 「遅かったか!」

 フースーヤが眉根を寄せる。エッジが「なにっ!?」と前方に目を向けた。

 「バブイルの巨人が誕生する!」

 あ然とする一同の前で、渦の中からゆっくりと足が見え、そして胴体、頭・・・巨人が姿を現した。
 地上に降り立った巨人は、ビーム砲で辺りを炎の海へと変えていった。

 「ひどい・・・」
 「ちっくしょおお!! このままじゃ、エブラーナがっ!!」

 エッジが拳を握りしめる。魔導船を飛び出して行こうとするも、セシルとに必死の思いで引き止められた。

 「もう・・・どうしようもないの?」

 リディアが呆然とつぶやき、ローザも言葉を失う。だが、その時だ。見覚えのある戦車隊が巨人を取り囲んだ。

 「あれは!?」
 「ジオット王の・・・!」

 セシルとが声をあげる。ジオット王の戦車隊が地上にいるのだ。「どうして・・・?」と首をかしげる。

 「ドワーフ戦車隊、見参! 母なる大地のため、我々も戦う!」
 「ラリホー!」

 魔導船内に、ジオット王の声が聞こえてくる。魔導船には、こんなこともできるのか。

 「私だけ寝ているわけにもいくまい!」
 「ヤン!?」

 聞こえてきたモンク僧の声に、セシルたちが声をあげる。生きていた・・・ヤンが・・・。
 ポロポロとが涙をこぼす。リディアがの肩を抱きしめた。
 と、戦車隊の傍に、何機かの飛空艇が姿を見せた。

 「ワシらが来たからにゃ、心配いらんぞ! エンジン全開じゃあ!!」
 「はい・・・!」

 シド・・・!とローザが笑みを浮かべる。飛空艇を操縦するまでに、体が回復したということだ。

 「ひさしぶりだな、あんちゃん!」
 「ちょうろうに、たすけていただきましたの!」
 「パロム! ポロム!」

 セシルとが同時に声をあげる。
 助けてくれたのだ。長老は、言葉どおりに双子を助けてくれた。

 「そなたたちだけではない! この大地に生きとし生けるもの、全ての命の戦いじゃ!」

 長老の力強い言葉に、セシルたちはうなずく。

 「セシル! 君たちに教わった勇気を見てくれ!」
 「ギルバート!」
 「ギル!」

 ああ・・・仲間たちが集ってくれた。この星を守るため、仲間たちが砲撃で巨人に一斉攻撃を仕掛ける。次々と打ち込まれる砲撃に、巨人の動きがぎこちなくなる。

 「巨人が・・・戸惑っている!」
 「今のうちに内部に入る!」

 ローザが目を丸くすると、フースーヤがこの隙を見逃さず、そう声をあげる。エッジが「なーるほど」とうなずいた。

 「ヤツの心臓部を叩くってワケか!」
 「もっと小型の飛空艇でないと、巨人に近づけない。シド、頼む!」

 魔導船からエンタープライズに乗り換える。再会を喜びたいが、それどころではない。

 「ヤツの口に近づくんじゃ!」
 「誰じゃ?」

 いきなり命令口調で話しかけてきたフースーヤに、シドが怪訝な表情を浮かべる。

 「月の民、フースーヤだ」
 「月の民ー?」
 「できるか?」

 疑うような眼差しを向けてきたシドに、フースーヤが発破をかけるよう、薄く笑んで尋ねる。

 「ワシを誰だと思っとるんじゃ! 飛空艇のシドじゃぞ! 任しとかんかい!」

 グッと舵を握るシド。そのタイミングを見計らう。下手に動けば、巨人の攻撃にやられてしまう。
 巨人が戦車隊をなぎ払うように、手を動かす。体を元に戻す瞬間、隙ができた。

 「今だ!」
 「みんな、掴まっとれ!」

 シドの操縦するエンタープライズが巨人の口へ接近する。

 「飛び移れっ!!」
 「マジかよっ!? うおおお!!」

 フースーヤの言葉に、エッジが雄たけびを上げながら、巨人の口の中へ飛び込む。次いでセシル、リディア、フースーヤ、、ローザと、なんとか口の中に入り込むと、エンタープライズは退避した。

 「フゥ・・・大丈夫か? みんな」
 「ったく、ムチャさせるぜ!」

 さすが忍者。見事な着地を決めていたエッジが、傍にいたリディアに手を貸した。リディアは素直にその手を取る。
 が「ローザ、大丈夫?」と声をかけると、彼女は「ええ」と微笑んだ。セシルはフースーヤに手を貸した。
 さて・・・と一同は辺りを見回す。とりあえず、巨人の中に入ることは出来たが、これからどうするか。

 「先へ進もう。もしかしたら、この巨人を止めることが出来るかもしれない」
 「うむ。制御装置があるはず。それを壊してしまえば、巨人は動きを止めるだろう」
 「制御装置か・・・よし、探そう!」

 セシルの言葉に、うんとうなずく仲間たち。巨人の中を歩き出す。急がなければ。こうしているうちにも、巨人は戦車隊や飛空艇部隊に攻撃を加えているはずだ。
 時折、ズズズン・・・と響く音と振動は、外で彼らが戦っている証拠である。

 「見張りのロボットみたいなのが多いな・・・」

 丸い形をしたモンスター。大きな一つ目をしたそれは、侵入者を知らせ、警備モンスターを呼ぶ仕様だ。出来れば、見つからずに進みたい。
 巨人の口から下へ下りて行くと、吹き抜けに出る。この先の通路に何かありそうだ、とセシルたちが歩き始めた時だ。

 「待ちかねたぞ!」

 聞き覚えのあるその声に、セシルたちは目を見張った。