ドリーム小説
セシルの操縦する飛空艇で、封印の洞窟に到着した6人は、まずゴルベーザの姿を探した。ここを開けようとしていたと聞いたからだ。
「いないね。あきらめたのかな?」
「そうは思えないが・・・。とにかく、今がチャンスだな」
リディアの言葉にセシルは答え、ルカから借りた首飾りを手に、洞窟の入り口を塞ぐ扉に歩み寄った。
そっと首飾りを近づけると、扉と首飾りが淡く光り、ゆっくりと扉が開く。最後尾のカインが中に入ると、再び扉は閉まり、封印された。
出るときは、恐らく簡単に出られるのだろう。もし、そうでなくても、首飾りをかざせば開くはずだ。
「ここに最後のクリスタルがあるのね・・・。なんというか、不思議な空気」
「不思議?」
がつぶやくと、エッジがオウム返しに尋ねた。は「ええ」とうなずく。
「入口の封印と同じような力を感じるの。そう、例えば・・・」
エッジに答えながら、が先頭に立ち、先を塞ぐ扉に手をやった。
その瞬間、扉が揺れ、カッと鋭い目を見開き、口を大きく開いた。まさしく“口”である。
「っ!」
セシルが叫び、アイスブランドで一太刀浴びせる。はヒョイと身軽に扉から飛びのいた。
「ドアが襲ってきやがった!」
エッジが刀を抜き、カインも槍を構える。しかし、ドアだけあって身動きが取れないらしい。大きな口を開け、攻撃を仕掛けるセシルたちに食らいつこうとする。
「出でよ! 大地を守護せし者! タイタン!」
リディアの声に反応し、空間が歪む。いつぞや見た巨人が姿を現し、その巨大な足で大地を踏みしめる。振動がドアを直撃し、バァンと大きな音を立て、ドアが木端微塵に砕け散った。
「ハァ・・・ビックリした」
「リディア、今の・・・」
「うん? ああ、タイタンのこと? うん、あの日・・・おねえちゃんたちと初めて会った時に喚んだ幻獣よ」
「コントロールできるようになったのね。体が追い付かなかったのに・・・」
「もう! あの頃とは違うんだから! あたしは、きちんとした召喚士になったのよ」
クスッと笑うリディアに、は「それもそうね」と微笑み返した。
「・・・!」
「どうかしたの? セシル」
そんなに、セシルが怒った様子で声をかけた。何かあっただろうか?と首をかしげる。
「何か危険を察知していたのなら、僕たちに言ってくれ! いきなりあんなことして・・・寿命が縮んだよ!」
「大げさね、セシル」
アハハ・・・と笑うだが、対するセシルは真剣な表情だ。思わず「う・・・」と言葉に詰まった。
「小さい子供じゃないんだ。むやみに手を触れないこと」
「えぇ? セシル、それって完全に私のこと子供扱いしてるから!」
2人でやいのやいの言いながら奥へ進んで行ってしまい、慌てて4人はセシルたちの後を追いかけた。
「もう・・・2人とも、仲がいいのはわかったから、先に進んで行かないでよ〜!」
リディアが声をかけると、2人が同時に我に返り・・・パッと距離を置いた。何をいまさら・・・である。
2人の関係など、今や全員が知っている。要するに、ローザに対して後ろめたい・・・ということか。
「まったく、やってらんねーぜ」と頭の後ろで腕を組み、エッジが呆れたような声をあげた。
階が変わったり、はたまた部屋へ入ろうとするたび、扉が襲い掛かってくる。そして、たまに口からモンスターを吐き出したりするのだ。これには驚かされた。
「しっかし・・・用意周到だよなぁ。入口の封印だけでなく、ご丁寧にすべてのドアがモンスターなんてよぉ」
「本当ね。それだけ、クリスタルを守りたかったということなんでしょうけれど」
エッジが先ほどの戦闘で負った傷を治してもらっていると、ケアルをかけていたローザもうなずいた。
何かあった時、ここのクリスタルだけは死守しようとしたのだろう。ドワーフ族というのは、なかなかすごい知識と技術を持っている。
「シドと一緒に、飛空艇の修理もしてたし・・・ドワーフって、すごい種族なのかもね」
が自らにケアルをかけながら、フト一行から離れていたカインに目を向けた。
腕を組んだまま、ジッとしているのだが、何かおかしい。元々、エッジのようにペラペラと喋るタイプではないが、それでも仲間たちの傍にいて、何か思うところがあれば口を開くくらいはしていた。
だが、今はそれがない。この洞窟に入ってから、何かおかしい気がする。
「ねえ、セシル?」
「うん?」
コソッとセシルに声をかけると、彼はいつもの柔和な笑みをに向けてきた。こんな風に、彼女がセシルに声をかけるのは久しぶりだった。
「カイン・・・なんだか変じゃない?」
「え?」
の指摘に、セシルは目を丸くし・・・チラッと親友の青年を見やるが、「そうかな?」と首をかしげた。
「口数も減ったし」
「カインは元々あんなものだよ」
「私たちと一緒にいようとしないし」
「元々つるむの好きじゃないだろ?」
「なんだか怒ってるみたいだし」
「兜のせいで、顔が見えないからさ」
の言葉に、いちいち異を唱えるセシル。当然、は不服だ。プゥと頬をふくらませる。
「んもう! セシルってば!」
「わかったわかった。そんなに怒らないでよ。でも、まさか本人に“何か変だけど、どうした?”って尋ねるわけにはいかないだろう?」
「それはそうだけど・・・」
「気にしておくよ。ありがとう」
「セシル・・・」
セシルがそっとの頬を手で撫でる。そのぬくもりに、はうれしそうに微笑んだ。
***
洞窟の最深部に、クリスタルルームはあった。キラキラと輝く室内は、今まで見たクリスタルルームと同じだ。
その部屋の中央に、大きなクリスタル。セシルがそっと手を伸ばし、クリスタルを手に取る。
ミシディアのクリスタル、トロイアのクリスタルと同じく、どこまでも澄み切った石。冷たいのに、なぜか触れていると心の中が温かくなる。
「セシル?」
が声をかけると、セシルが振り返る。とりあえず、これで目的は達成された。あとは、このクリスタルを死守するだけだ。
「用事は済んだろ? とっととこんな所、オサラバしようぜ!」
エッジが声をあげる。仲間たちは同意、というようにうなずく。
「さっさと出てしまうに限るわね」
が呪文の詠唱を始める。「テレポ!」魔法は完成した・・・かのように見えた。だが、反応がない。
「あ、あれ??」
「ここはクリスタルが納められている場所だからね。テレポは効かないのかも」
「あ、そうね」
リディアの指摘に、はポンと手を打った。ならば、部屋を出よう。
6人がクリスタルルームを出た時だ。ズゥン・・・と大きな振動。「わっ・・・」と声をあげ、あたりを見回す。
「セシル・・・あれ・・・」
が前方を指差せば、巨大な壁がゆっくりと迫ってきているではないか。
慌ててクリスタルルームの中へ戻ろうとするも、扉は開かない。エッジが「冗談きついぜ!」と声をあげた。
「さすが封印の洞窟。クリスタルを取った後も、安心はできんというわけか!」
「なら、ぶっ壊すまでよ!」
エッジが先陣を切る。両手に持った刀で斬りかかるが、何せ相手は壁。ガキィィン・・・と硬い音がし、エッジの刃をはじき返す。
「ゲッ!? 刃が通らねえぞ!」
「壁だからな」
「なーに冷静に言ってんだよっ!!」
エッジとカインの漫才に、セシルとローザが顔を見合わせ、魔道士2人は呪文の詠唱を始める。
「ファイラっ!!」
の放った炎の魔法は、少しの足止めにはなったが、決定打とはいかない。
「雷迅!!」
エッジが巻物を取り出し、忍術を使う。その直後、リディアの喚んだタイタンが再び大地を揺らす。
ピシリ・・・壁に亀裂が入る。それをセシルとカインは見逃さなかった。
2人が同時に駆け出し、カインが跳躍する。セシルは亀裂目掛けて斬りかかる。ギィィン・・・と鈍い音。手がジンと痛んだ。
次いでカインが上方から亀裂に槍を投げ入れる。突き刺さった槍。いつぞやと同じ戦法だ。
「! リディア!」
「サンダラっ!!」
きちんとセシルとカインの意図を汲んでいたとリディアの二重電撃。カインの槍目掛けて落ちた稲妻が、壁全体を伝い、ピシリピシリと亀裂が大きくなり、先に倒した扉がそうであったように、砕け散った。
「よっしゃ!」
「やったー!」
「おととい来やがれってんだ!」
エッジとリディアが声をあげる。カインは崩れた壁の残骸から、槍を拾い上げた。
二重の電撃を食らったせいか、氷の槍は見事に黒焦げになっていた。これでは使い物にならない。
「槍、新調しないとね」
「ごめんね、カイン・・・」
セシルとがカインに歩み寄ってくる。申し訳なさそうなに、カインは「気にするな」と声をかけた。
その3人のもとに、ローザとリディア、エッジが歩み寄ってきた。
「テレポは効かなかったけど、デジョンは使えると思うの。デジョンは、1つの階層を飛ぶ魔法だから、ドアの前まで戻れるわ」
「そうか・・・この洞窟には封印がかかっているんだったな。テレポが使えないのは当然か」
洞窟の外へ脱出できるテレポが発動しないのは道理である。
「デジョンなら、私も使えるから、交互にかけましょ」とがリディアに声をかけると、彼女は「うん」と笑顔でうなずいた。空間移動系の魔法は、攻撃魔法や補助魔法よりも魔法力を消費する。移動させる人数が多いほど大変なのだ。
幾度目かの移動で、ようやく入口まで戻った。再びルカの首飾りを掲げ、扉の外へ出ると、封印を施した。
「さあ、早くジオット王の元へ戻ろう」
セシルの言葉にうなずき、洞窟を出ようとした時だ。突然、あたりが薄暗くなり、不穏な空気が流れ始めた。
「なんだ?」
セシルが咄嗟に身構える。仲間たちも何が起きてもいいように、身構えた。
「カイン・・・」
聞こえてきた低い男の声。カインがビクッと肩を震わせた。
「戻ってこい、カイン・・・そのクリスタルを持ち、私のもとへ・・・」
「ゴルベーザ!」
やはり、どこかでセシルたちを見張っていたのだ。カインが「クッ・・・!」と呻き、頭を押さえる。ローザがカインの肩を掴む。
「しっかりして! ダメよ、カイン!!」
「・・・っ!!」
ゴルベーザの声が、カインの脳に直接響いてくる。「ローザと共に、来るがいい」と。
「ロー・・・ザ・・・」
「カイン!?」
カインがそっとローザに手を伸ばす。だが、その手を振り払った人物がいた。
「カイン! やめてっ!!」
「・・・くっ・・・!」
ローザの前に立ちはだかり、が毅然とした態度で告げる。
しばらく頭を押さえていたカインは、そっと体の力を抜いた。ホッとする一同。セシルがそっと親友に近づく。
「大丈夫か? カイン」
「ああ・・・。俺は正気に戻った!」
「えっ!?」
カインが突然、セシルに当身を食らわせる。隙を突いた一瞬で、カインはセシルの腰の剣を抜き、を片腕で羽交い絞めにすると、4人から距離を取った。
「っ!!」
「カイン!? 何してるの!」
「動くな」
スラリ・・・カインの持つアイスブランドの刃が、に向けられる。セシルたちは息を飲んだ。
「てめー! 気に入らねえ奴だったけど、裏切った上に、人質取るとかサイテーだな!!」
エッジが声を荒げる。だが、カインはまったく動じない。
「セシル、クリスタルとを交換だ」
「な、なんだって!?」
「死なせたくはないだろう? 愛している女を」
「ダメッ! セシル!! カインの言うことに従っては!!」
が必死に声をあげる。セシルは「クッ・・・」と歯噛みする。「汚いぞ・・・ゴルベーザっ!!」と低く唸った。
カインの腕がグッとの首を締め上げる。少女の表情が苦悶に歪む。
「さあ、どうする? を見捨ててクリスタルを手に入れるか・・・その逆だ」
「セシル・・・!」
リディアがセシルの腕を掴む。その瞳が揺れている。おねえちゃんを助けたい。だが・・・。
「カイン、やめて・・・! を放してっ!! 戻ってきて!」
ローザが必死に説得するが、カインの手は力を込めた。さらにの首が締まる。
「セシ・・・ル・・・はや・・・く・・・ジオット・・・王の・・・もとに・・・クリスタル・・・を・・・!!」
が苦し気につぶやく。セシルはギュッと拳を握りしめ、目を閉じ、ギリッと歯噛みした。
「私の術を侮ってもらっては困る。この時を待っていたのだ! さあ、どうする、セシル? 愛する女か? クリスタルか?」
ゴルベーザの声が低く響く。
「てめー! コノヤロー! 卑怯だぞっ!!」
「なんとでも言うがいい。さあ、どうするのだ!」
エッジの叫びを鼻で笑い、ゴルベーザはセシルに答えを迫る。リディアとローザが「セシル・・・!」と声をかけるが、セシルは目を閉じたままだ。
「・・・ごめん、」
つぶやかれたセシルの言葉に、リディアたちは愕然とし、は顔を歪ませながらも、うなずいた。
「クリスタルを・・・まも・・・って・・・」
「クリスタルは渡す。を解放しろ」
「!?」
セシルは持っていた袋からクリスタルを取り出した。カインがフッと笑む。
「賢明な判断だ」
「ダメよっ! セシル!! クリスタルを渡しては・・・!!」
腕の力が緩む。は必死で叫んだが、剣を放り投げたカインの手が、クリスタルを掴むと同時に、の体をセシル目掛けて突き飛ばした。
「カイン!! 目を覚ましてっ!」
ローザが叫ぶ。だが、カインはまったく動じない。愛するローザの声だというのに。
「これで全てのクリスタルが揃った! 月への道が開かれる!」
「待ちやがれ!!」
カインが叫び、エッジが怒鳴りながらカインに殴りかかる。だが、兜で覆われた彼の顔に拳など通用しない。うずくまるエッジをよそに、カインは走り去って行ってしまった。
「ハーッハッハッハッハ・・・!」
ゴルベーザの高笑いが、セシルたちを絶望へと突き落とした。
|