ドリーム小説

 ジオット王の元へ向かえば、王は笑顔でセシルたちを迎えた。

 「おお、待ちわびたぞ! で、クリスタルの奪還は?」
 「実は・・・」

 セシルたちは今まで起こったことを話した。
 クリスタルを目の前にしたのに、落とし穴によって地底まで落とされてしまったことを。
 ジオット王は話を聞き、眉間に皺を寄せ、唸った。

 「そうか・・・。ゴルベーザは、最後のクリスタルを手に入れんがため、封印の洞窟を強引に開けようとしておる! こうなっては時間の問題だ。そこで、お主らに先にクリスタルを取ってきてほしいのじゃ」
 「先に・・・? わかりました。けれど、封印は・・・」
 「ルカよ!」

 ジオット王が誰かを呼ぶ。姿を見せたのは、先日「お人形知らない?」と尋ねてきた少女だ。

 「父上、何か?」

 なんと、この国の王女だったとは。セシルたちは目を丸くする。

 「首飾りをここへ」
 「これですか?」

 ルカが自身の首に下げていた首飾りを見せると、ジオット王が「そうじゃ」とうなずく。王が与えたのであろう首飾りを、ルカは父に渡した。

 「何を隠そう、この首飾りこそ、封印の洞窟の入口を開ける鍵なのじゃ! これがなければ、洞窟は何者も受け入れぬ! なんとしても、最後のクリスタルを守らねばならん!」
 「やってみます!」

 首飾りを受け取り、セシルが力強く答えた。
 だが、1つ問題がある。セシルたちが手に入れたファルコン号・・・あれでは、地底の熱に耐えられず、溶岩の上を移動できないのだ。さて、どうしたものか・・・と悩んでいると、ジオット王が声をかけてきた。

 「何か?」
 「先日、城の者がそなたたちの仲間を発見してな。今は救護室におるのじゃが」
 「仲間・・・?」
 「シドといったか? あの飛空艇の技師じゃ」
 「え!?」

 シドが生きている!? セシルたちはジオット王に頭を下げると、急いで救護室へ向かった。
 事情がわかっていないエッジが、「おい! どうしたんだよ!」と声をあげると、リディアが「いいから、黙ってついてきて!」と怒鳴った。
 救護室に入ると、扉の開いた音に気付いたのか、シドの声がした。

 「なんじゃーメシか? まったく、ここの料理はワシの口に・・・」
 「シド!」

 セシルがベッドの上のシドの姿に声をあげ、彼に駆け寄った。

 「無事だったのね!」

 ローザも安心したように顔を綻ばせ、カインはハァ・・・とため息をついた。

 「あれだけカッコつけといて・・・」
 「ワハハ・・・!」

 照れくさそうに頬をポリポリと掻くシドに、リディアが「でも、良かった」と笑いかけた。
 と、その様子を見ていたエッジが腕を組み、シドを覗き込んできた。

 「なんだ、このじじい?」
 「じじいじゃと! 無礼者が!」
 「無礼なのは、じじいの方だ!」
 「なんじゃと〜!? 誰じゃ! この生意気なヤツは!!」

 憤慨するシド。無理もない。初対面の若造に「じじい」呼ばわりされた上に、「無礼だ」と言われたのだから。
 セシルはこめかみに手をやり、ハァ〜・・・とため息。そのセシルとは対照的に、エッジはニヤリと笑った。

 「ヘッヘ! オレ様がエブラーナ王子エッジ様よ! よろしくな、じじい!」
 「口は悪いが、確かに王子様らしい」

 エッジの自己紹介に、カインが心底呆れた口調でつぶやく。

 「おまけにハンサム! 腕も立つと!」

 バン、と自分の胸を誇らしげに叩き、エッジが得意気に言い放つ。シドは完全に胡散臭いものを見る目だ。
 そのエッジの腕を、リディアがグッと掴んだ。

 「おじちゃんは、ケガしてるんだから、あんまり怒らせないの!」
 「お・・・おう・・・」

 リディアが叱りつけると、途端にエッジが委縮する。その姿に、シドがニヤリと笑った。

 「なんじゃ? リディアの尻に敷かれとんのか?」
 「る、るせー!」

 シドの言葉に、リディアが首をかしげる。傍らにいたに、「尻に敷くってどういう意味?」と尋ねている。「そうね・・・」としばし逡巡し、「その人に対して、立場が上になる・・・みたいなことかしら?」と答えた。

 「それより、セシル。ゴルベーザは?」

 エッジが大人しくなると、シドはそう問いかけてきた。途端にセシルの表情が曇る。

 「四天王を倒したが、クリスタルは最後の1つを残して全て・・・」
 「なんじゃと!?」
 「最後のクリスタルを取りに行きたいのだけど、エンタープライズは・・・地上」

 バブイルの塔で地底に落とされたセシルたちには、移動手段はファルコンのみだ。だが、そのファルコンは・・・。

 「敵から奪った飛空艇では、溶岩の上を飛行できん」

 カインの言葉に、一同がうなずいた。シドがそれを聞いて、ニヤリとした。

 「フフ! ワシの出番のようじゃの! ワシがいないと、何も出来んのか。まったく・・・」

 そう言って、起き上がると、シドはベッドを出ようとする。が、慌てて様子を見ていたドワーフが近づいて来た。

 「おっさん、寝てなきゃダメー!」
 「ケガ治るまで、待つー!」
 「お前らだって、おっさんじゃろが!」

 シドのツッコミに、ドワーフたちが押し黙る。

 「ええい! 悠長なこと言っとれんわ! お前らも手伝わんかい!」

 ドワーフたちを引き連れ、救護室を出て行ったシドに、セシルたちはあ然としてしまった。

 「・・・飛空艇のことになると、人が変わるのね」
 「そうだね」


 のつぶやきに、セシルが苦笑する。さすが「飛空艇のことについては、右に出る者はいない」と言われるほどだ。

 「さて・・・改造にはまた数日かかるかもしれないから、僕たちはゆっくりしようか」
 「でも、大丈夫かしら? ゴルベーザは封印の洞窟へ向かったんでしょう?」
 「そうは言っても、移動手段がないのだから、仕方がない」

 ローザが不安げに言うと、カインが腕を組み、応えた。ローザは「そうよね・・・」とうつむく。こうしている間にも・・・と考えてしまうのだろう。

 「シド、無茶をしなければいいけど」

 父親同然のシドのことを思い、ローザはポツリとつぶやいた。

***

 にセシルとのことを告白されたのは、この場所だった。
 ローザは見張り台の上で、生暖かい風に吹かれながら、思い出していた。
 あの時、自分は初めて人に手を上げた。憎いと思った。バロンの名門であるファレル家の令嬢が、一般庶民である家の娘に負けたのだから。
 セシルの気持ちに気付いたのは、いつだっただろうか? 自分ではない少女のことを見ていると気づいたのは・・・。

 「なんじゃ、ローザ。こんな所に1人で」
 「シド・・・休憩?」
 「うむ。少し息抜きせんと、失敗してからでは遅いからな! ローザやセシル、カインの身に何かあったら大変じゃ!」

 ワハハ・・・と豪快に笑うシドに、ローザは苦笑いを浮かべる。そんな彼女の様子に、シドは首をかしげる。

 「どうした? セシルとケンカでもしたのか?」

 フルフルと首を横に振る。この人は、自分とセシルが恋人同士になることを熱望していた。当然、そうなるだろうと信じていたはずだ。
 だから、シドはのことをあまり快く思っていない。セシルとローザの仲を引き裂こうとする娘・・・という認識のせいだ。
 まさか、それが現実になろうとは。

 「シド・・・私、セシルにフラれちゃった・・・」
 「なに!? なぜじゃ! まさか、か?」

 シドが驚愕に目を見開く。ローザは小さくうなずいた。

 「そう。が好きなんですって」
 「あの娘・・・! セシルとローザの邪魔をしおって!」
 「違うの! は・・・ずっと私のことを気にして、セシルへの気持ちを封印していたの。今回は、セシルが自分の気持ちを口にしたのよ」
 「そう聞いたのか?」
 「面と向かって言われてはいないけれど・・・はそういう子。私のこと、“親友”だと思ってくれてるの」

 伏し目がちに、ローザはつぶやく。ローザがの気持ちに気付くまで、ローザがセシルを好きになるまで、2人は真に親友同士だった。

 「ローザ・・・おまえは、それでいいのか?」

 シドの問いかけに、ローザはそっと目を閉じた。ギュッと胸の辺りを握り締める。

 「悔しいけど、セシルの気持ちを私に向けるのは無理だもの。を裏切れないって言われたわ」
 「しかし、セシルはあの娘のどこがいいんじゃ? 赤魔道士なんていう、中途半端な存在のどこが・・・」
 「やめて、シド。のことを悪く言わないで。は、自分に実力がないと思って、必死なの。だけど、あの子は誰も頼れず、自分の力だけで黒魔法の基本の3種を覚えた。並大抵の努力じゃないわ」

 ずっと傍にいたから、知っている。白魔法は、ローザが教えることができた。ファレル家の令嬢として、教師には事欠かなかったからである。
 だがは、庶民の娘であるだけでなく、白魔法も黒魔法も、その上剣技まで扱おうとしていたのだ。出来るものなら、やってみろ・・・と冷たい視線を向けられていた。

 「ローザ・・・」
 「今はまだ、心の整理がついてない。のことも、許せない。けど・・・を失うことがセシルにとって、1番耐え難いことだと気づいたから・・・」

 あの時・・・ローザがを見捨てた時、セシルは完全に気が動転していた。いつもの冷静なセシルではなかった。を失うことへの恐怖。その様子がありありと見て取れた。
 を見殺しにしたことを、誰も責めなかった。カインやリディアも。2人だって、ローザがやったことに気付いているだろうに。
 そして、とはあの時以来、まともに目も合わせていない。怖かった。に恨みのこもった視線を向けられるのが。

 「セシルはなんと言っとるんじゃ?」
 「え?」
 「お前とのこと、何か言っとらんのか?」
 「今は何も・・・。セシルのことだから、きっと私とに任せてくれているんだわ。仲直りをしろとも、何も言われてない」

 ローザはハァ・・・と息をこぼし、真っ黒な空を見上げた。

 「いっそ、私のことを殴って罵ってくれたらいいのに・・・」

 そんなことには、ならないとわかっているけれど・・・。

***

 「おねえちゃん」

 声をかけられ、立ち止まる。顔を後ろへ向ければ、エメラルドグリーンの髪をした少女が駆け寄ってきた。

 「リディア、どうしたの?」
 「おねえちゃん、セシルと“コイビト”なんだよね?」
 「い、いきなり何?? ローザの前で言っちゃダメよ?」

 シーッと口の前で人差し指を立てれば、リディアは心得た、とばかりにうなずいた。

 「おねえちゃんのことを思うと、胸が苦しくなったり・・・」
 「あ〜・・・リディア、その辺の詳しい情報は、いらないから」

 自分が教えたことを、まんま当てはめようとしたリディアに、は慌てて口をはさんだ。
 セシルの気持ちを言われるのは、気恥ずかしい。深い関係になってしまったから、なおさらだ。

 「リディアは、まだわからない?」
 「・・・うん。あたしがセシルを好きなのとは、違うんでしょ?」
 「違うと信じたいわ・・・。私、リディアも恋のライバルになったら、くじけちゃうもの」

 ローザに続いて、リディアも・・・だなんて。
 だが、様子を見る限り、リディアのセシルへの想いは、兄に対するようなものだ。強い信頼と、親愛。

 「あ・・・」

 と、リディアが声をあげる。「ん?」とつぶやいたに、リディアはチラッと自身の右横を見やった。
 もそっちを向き、「あ・・・」と同じようにつぶやく。そこにいたのはローザとシドだった。
 ローザとは、お互いにバツの悪い表情を浮かべる。シドも何か言いたそうではある。

 「おねえちゃんとファルコン号を見に行こうと思ってたの。シドのおじちゃん、いいでしょ?」
 「うん? おお、もちろんじゃ!」

 リディアが機転を効かせる。本当に彼女は立ち回りがうまい。不器用なとは大違いである。
 シドについて歩いて行くリディアをが追いかける。ローザはしばし逡巡したのち、宿屋に戻ろうと体をたちとは逆の方向へ。

 「ローザ! 行かないの?」

 と、リディアの声がローザの背にかかる。驚いて、ローザはリディアを振り返った。少女は笑顔でローザを手招きしていた。
 「あ・・・」と声がもれる。「私は行かない」そう言おうと思っていたのに、足は勝手にリディアたちを追いかけていた。

 「改造前のエンタープライズがそうだったように、このファルコンもミスリル装甲が施されてないんじゃよ。だから、地熱の温度に耐えられん。低空飛行しかできんのは、エンジンの問題じゃな。そこも改修してある」

 ファルコン号を前に、シドが女性陣に説明をする。フンフン、なるほど・・・とうなずいているのは、だ。リディアは「フーン・・・」とつぶやき、船体を見上げている。ローザはただ黙って、作業をするドワーフたちを眺めていた。

 「急いどるんじゃろ? 明日の朝までには完成させるぞ!」
 「シド、無茶はしないで? それでなくても、ケガが・・・」
 「ワシを病人扱いするな! 大丈夫じゃ!」

 心配して声をかけたを睨みつけるように、シドは表情を硬くした。リディアが「怖い〜」とローザの陰に隠れた。
 どうやら、自分はこの飛空艇技師に嫌われているようだ・・・は人知れずため息をついた。

 「さて・・・休憩はおしまいじゃ! ワシは再び修理に取り掛かる! また明日な!」

 そう言うと、軽快な足取りでファルコン号へ駆けて行った。

 「シドにとっては、飛空艇と一緒にいることが、何よりの薬なのかもね」

 ローザが微笑むと、リディアも「そうだね」と笑った。
 そして、翌朝・・・シドの宣言通り、ファルコン号の改修は完了した。

 「これで溶岩だろうと、なんだろうと、気にせず飛べるぞ!」
 「ありがとう、シド」

 セシルが微笑んで礼を言うと、シドの体がフラリ・・・倒れかかった。慌ててエッジが受け止める。カインが「シド!」と声をかける。そして、聞こえてきたのはイビキ。

 「よっぽど疲れてたのね」
 「ムリをするから・・・」

 リディアの言葉に、ローザがつぶやく。昨日、が案じた通りの結果になってしまったではないか。
 近くにいたドワーフに、シドを運んでもらうことにすると、セシルたちはミスリル装甲の施されたファルコン号に乗り込み、西にある封印の洞窟を目指した。