ドリーム小説

 エッジとルビカンテが戦った通路の先が、バブイルの塔に続いている。確かに、先へ進むと洞窟の中のジメジメした空気から一変した。

 「どこをどう見ても壁だけど・・・どうやって侵入するんだ?」

 セシルが壁に手をつき、エッジに尋ねると、忍者の王子は「ヘヘッ」と得意気に笑ってみせた。

 「とにかく、オレに任せろって。よし、みんな、オレの腕に掴まってくれ」
 「え?」
 「いいから、いいから」

 エッジの言葉に、セシルたちは顔を見合わせる。だが、きっとエッジには何か策があるのだろう。5人はエッジの腕にそれぞれ掴まった。

 「壁抜けの術だ! あらよっと!」

 なんと・・・驚いたことに、壁の一部から体がすり抜け、塔内に入り込めたではないか。これには、さすがにセシルたちは目を丸くしてしまう。一体、どういう技なのか。

 「それは忍者一族の秘技だから、教えらんねーな! さ、行こうぜ!」

 エッジが先頭に立って歩き出す。昨日のセシルの指示通り、その後をカインが続き、ローザとリディアが並び、その後ろを、最後尾をセシルが歩いた。バックアタックにも対応できる、なかなか優れた陣形だ。
 バブイルの塔の内部は、地底の塔内部と同じ造りだった。

 「なんだか、複雑な造りね・・・。頭が混乱しそう。けど、普通に進んで行けばいいのよね」
 「そういうことみたいだね」

 ローザとリディアの言葉に、エッジが「おう、どんどん進んで行こうぜ!」と声をあげた。
 向かってくるモンスターを倒しながら、ほぼ1本の道を進んで行き、地下5階へたどり着く。細い通路を進んでいくと、突然、エッジが足を止めた。カインが「どうかしたのか?」と問う。
前方に、人影が見える。身なりのいい、男女だ。こんな所にいるような人には見えない。まるで、王と王妃のような・・・。

 「エッジ・・・」

 男の方がエッジの名を呼ぶ。エッジが「ウソだろ・・・」とつぶやく。

 「親父! おふくろ!」

 なんと・・・エブラーナの王と王妃だったのだ。エッジが2人に駆け寄る。

 「良かった・・・お前も無事だったのね・・・」
 「おふくろも!」

 王妃がエッジの頬に触れ、微笑む。エッジがホッとした表情で王妃に応えた。

 「エッジ・・・お前もいらっしゃい・・・」
 「おふくろ?」
 「私たちと一緒に・・・」
 「親父? 行くって、どこへ?」

 エッジが問いかけると、目の前の王と王妃がニヤリと残忍な笑みを浮かべた。

 「地獄にさあ!」
 「危ない!」

 王妃がエッジの首を締めようとした瞬間、セシルが叫び、カインが素早く動き、エッジの体を引き寄せた。

 「どうしちまったんだい!? 親父っ! おふくろっ!」

 カインに羽交い締めにされたエッジが叫ぶ。王と王妃の体が崩れていき、王の体は羽根の生えた熊、王妃の体はこうもりの羽が生えた蛇へと姿を変えた。
 王と王妃が攻撃を仕掛けてくる。王は巨大な拳で、王妃は体を触手のようにくねらせて。執拗にエッジを狙う。
 カインがエッジの体を抱え、跳躍し、セシルたちのもとへ後退した。

 「オレだよっ、なあ・・・! 正気に戻ってくれよ!」

 叫ぶエッジの後ろで、リディアが呪文の詠唱を始める。

 「やめろっ! リディア! あれは・・・」
 「お前の両親は、すでに死んでいるっ!」

 リディアを止めようとしたエッジを、カインがきつく叱り飛ばした。そのカインを、エッジは睨みつける。

 「だから、あの2人を倒すっていうのか!? そんなの・・・」
 「エッジ!」

 セシルが叫ぶ。ハッと振り返ったエッジの体を、王妃の体が締め付けた。

 「エッジ!!」
 「や・・・めろ・・・! おや・・・じと・・・おふくろに・・・手を・・・」
 「まだそんなことを言っているのか!」

 カインが槍を構え、向かってくる王と対峙する。が・・・その王の動きが止まった。エッジの体を締め付けていた王妃も、そのエッジの体を解放した。

 「エッジか・・・わしの話を聞け」
 「!? 親父!?」

 なんと、自我を取り戻した王と王妃に、エッジが顔を上げ、セシルたちは目を丸くした。

 「我々は、もう人ではない・・・生きていては、いけない存在なのだ」
 「あなたに残す物がなくて・・・」

 王と王妃の言葉に、エッジがギュッと拳を握り締める。

 「この意識のあるうちに、我々はここを去らねばならん・・・。後を頼んだぞ、エドワード・・・」
 「いやだっ! 行っちゃいやだ!」

 エッジが王と王妃に駆け寄る。目には涙が浮いていた。

 「さよなら、エッジ・・・」
 「待って! おふくろ! いやだっ!!」

 王と王妃が自らの意思で命を絶つ。体が崩れていき、姿が消えた。

 「っ・・・! く・・・っ!! うおおおおおっ!!!」

 エッジが咆哮をあげる。涙があふれ、拳をギュッと握り締める。ギリッと歯噛みした。

 「ひどい・・・」

 ローザが口を押え、涙をこぼす。セシルたちは、言葉もなかった。
 と、そのセシルたちの前に、ルビカンテが姿を見せる。サッとセシルたちは身構えるが、エッジだけはその場に膝をつき、動かなかった。

 「ルゲイエの奴め。勝手な真似をしおって・・・!」

 ルゲイエ・・・覚えている。地底のバブイルの塔で戦った、おかしな老人だ。なるほど、あの男なら人をなんとも思わず、モンスターへと変えそうな気がする。

 「ルビカンテ・・・てめえだけは許さねえ・・・! 許さねえぞーっ!!」

 膝をついていたエッジが立ち上がり、叫ぶ。ワナワナと拳が震えていた。

 「王と王妃を魔物にしたのは、ルゲイエが勝手にしたこと・・・。その非礼は詫びよう・・・。私は他の奴らと違って、正々堂々と戦いたいのだ」
 「ゴチャゴチャ言ってんじゃねえ!!」

 もはや、エッジにルビカンテの声など届かない。瞳は怒りに燃え、隙あらば襲い掛かる姿勢だ。

 「私はお前のように勇気ある者は好きだ。しかし、そういった感情に振り回される人間では、完全な強さは手に入らん。永遠にな・・・」
 「その人間の! 怒りってモンを・・・見せてやるぜえ!」
 「ほう、怒りというものは人間を強くするか。だが、私の炎のマントは冷気すら受け付けぬぞ!」

 ルビカンテがバサッとマントを翻す。とリディアが同時に呪文を詠唱しだす。
 エッジが怒りに任せた一撃を加えようとするも、ルビカンテがそれをサラリと交わす。だが、交わした先にはセシルがいた。アイスブランドを振り上げ、斬りかかる。ルビカンテがマントをなびかせ、それを薙ぎ払った。
 そして、上からカインの氷の槍での一突き。ルビカンテは片手でそれを受け止め、グイッと放った。カインは空中で一回転し、見事に着地すると、そのまま床を蹴り、水平に槍を突き出した。だが、それもマントで受け止められる。

 「ブリザラっ!!」

 とリディアの声が響き、二重がけの氷の魔法がルビカンテを襲うも、先ほど言った通り、マントは冷気を受け付けなかった。
 さすがは四天王最強。セシルたちの攻撃の手を封じてくるとは。

 「あのマントさえなければ・・・!」

 セシルがチッと舌打ちする。冷気を遮断する、あのマントが厄介だ。ルビカンテの弱点は冷気だとわかっているのに。

 「試しにファイラでも撃ってみる?」

 が苦笑しながらそう言うと、そうか・・・とセシルはうなずいた。

 「こちらが炎の魔法を使ったらどうなるのか・・・試してみるのも・・・」
 「セシル! ! よけろっ!!」

 カインの声にハッと我に返る。先の戦闘でエッジを襲った火燕流が2人に放たれた。
 炎の竜巻が2人を襲う。すさまじい熱量だ。意識が遠のきかけた時、炎の力が弱まり、冷気が2人を包んだ。見れば、リディアの前に1人の美しい女性が立っていた。

 「ありがとう、シヴァ」

 リディアが喚んだ、氷の女王シヴァだった。ホッと息を吐いた2人に、ルビカンテがファイラの魔法を放つ。今度はがブリザラの魔法で相殺させる。
 その瞬間、隙が出来たのを、セシルは見逃さなかった。
 魔法を唱え、発動させた直後、魔法力が失われるため、一瞬だが力が抜ける。セシルはそこを見抜き、ルビカンテに斬りかかった。アイスブランドが、炎のマントを切り裂く。

 「カイン! リディア!」

 セシルの声に、ルビカンテが「しまった!」と声をあげる。
 カインが高々と跳躍し、同時にリディアがブリザラを放つ。凍りつくルビカンテの下半身。カインがルビカンテの右肩を狙うと、左肩に矢が突き刺さった。ローザが放った氷の矢だ。

 「エッジ!」

 カインが叫ぶと、エッジは巻物を持ち、右手の人差し指を立て、目を閉じた。

 「・・・水遁っ!!」

 エッジの声に反応し、巻物の力が引き出される。津波の強化版のようなものが、エッジから放たれ、ルビカンテの体を飲み込んだ。
 炎の力と水の力がぶつかり、シュウシュウと水蒸気が上がる。ガクッとルビカンテが膝をついた。

 「そうか・・・その手があったか・・・。弱い者でも・・・力を合わせるという手が・・・。見事だ! ゴルベーザ様も手を焼かれたわけだ。お前たちは立派な・・・戦士だった! さら・・・ばだ!」

 ルビカンテの体が崩れていき、消える。その姿をエッジは晴れ晴れとした目で見つめた。

 「親父・・・おふくろ・・・仇は討ったぜ・・・!」

 感慨深くつぶやくエッジに、セシルたちも微笑み、仲間たちと視線を交わした。
 と、ホッとした一同の耳に「若―!」という声が聞こえてくる。見れば、1人の老人を先頭に、何人かのエブラーナ兵がやって来ていた。

 「じい! みんなも!」
 「わしらも戦いますじゃ! ルビカンテはいずこに!?」
 「もう済んだぜ」
 「おお、さすがは若!」
 「こいつらのおかげさ!」

 エッジがセシルたちを見やれば、老人が「そなたたちが!」と声をあげた。セシルがペコリと頭を下げる。
 と、エッジが振り返る。首をかしげ、セシルたちに問いかけた。

 「しかし、ゴルベーザってのは?」
 「クリスタルを集め、月へ行こうと企む・・・ルビカンテを操っていた者だ!」

 カインの答えに、エッジは目を丸くする。

 「あのお月さん? なんでまた?」
 「月には、世界を破滅させるほどのものがあるというんだ」
 「あたしたち、それを止めるの!」

 セシルとリディアが告げると、エッジは腕を組み、眉間に皺を寄せた。新たな怒りが湧いてくる。

 「ゴルベーザか! 全てはそいつの・・・。許せねえ!」
 「若には城の再建が!」

 エッジの考えていることがわかったのだろう。老人が声をあげた。だが、エッジは首を横に振る。

 「エブラーナだけじゃねえ! 世界が危ねーんだ! オレも、そのゴルベーザとかいうヤツを、この手でブチのめすぜ!」
 「くれぐれも、お気をつけて・・・!」
 「わかってるって! さあ、こっから先はオレに任せな!」
 「わかり申した! 留守はお任せを! みなさん、若をお頼み申します!」

 セシルたちに頭を下げる老人や兵士一同に、「はい!」と答えた。

 「皆の衆! 帰るぞ!」
 「若様、ご武運を!」
 「あいよー!」

 なんとも軽い返事だ。「大丈夫かな・・・」とセシルがつぶやくと、聞こえていたのか、いないのか。エッジが振り返った。

 「よっしゃ! ゴルベーザを倒しに行くか!」
 「その前に、クリスタルを取り戻すの!」
 「わかってるって、リディア。オレの予想じゃ、この扉の奥にあると見た!」

 ビシッと目の前の扉を指差す。予想も何も、ここまで何もなかったのだから、間違いないだろう。

 「さ、行こーぜ!」

 扉を開ければ、やはりそこには7つのクリスタルが飾られていた。

 「へぇ〜これがクリスタルか! キレーなもんだな!」

 エッジが一歩踏み出した時だ。パカッと床に穴が開き、6人の体が落下した。
 このままでは床に叩きつけられて、ひとたまりもない・・・!と思った瞬間、ローザが「レビテト!」と魔法を完成させる。
 床に直撃する寸前、数センチのところで体がフワフワと浮く。セシルたちはホッと息を吐いた。
 少しだけ地面から浮くことのできるレビテトだが、飛翔力はない。残念ながら、元いた場所には戻れない。

 「ずい分、落ちたね・・・」

 リディアが辺りをキョロキョロと見回す。ローザがもう一度レビテトをかけ、6人にかけた魔法を解除した。

 「どうやら地底の方まで落とされたらしいな・・・」

 落下していた時間を考え、そうだろうと推理する。そうすると・・・下へ行けば地底に出られるはずだ。
 セシルにとって、この塔にはいい思い出がない。何せ、はここでもう少しで命を落としかけたのだから。
 リディアもそのことを思いだしたのだろう。の横をくっついて離れない。
 ほぼ一本道のそこを歩いていくと、突然、巨大な部屋にたどり着いた。中へ入って驚く。なんと、そこには巨大な飛空艇が停泊していたのだ。

 「これは・・・敵の新型飛空艇?」
 「こいつで脱出しよーぜ!」

 エッジが声をあげると、リディアが「え!?」と目を丸くする。

 「でも、敵の飛空艇だよ!」
 「いーんだよ! オレたちが使った方が。こいつにとってもな!」

 そう言うと、さっさと飛空艇に乗り込んでしまう。が「呆れた・・・」とつぶやき、エッジの後を追うので、リディアもそれに続いた。

 「罠じゃないかしら・・・」
 「心配いらねーって! オレは気に入ったぜ。よっしゃ、名付けてファルコンってのはどーだ?」
 「まったく!」

 ローザの心配をよそに、エッジは明るく言い放ち、リディアは呆れた様子だ。

 「急ごう、脱出だ!」

 セシルが舵の前に立ち、声をあげる。彼も、エッジの考えに賛成らしい。
 「ファルコン、発進!」とエッジが声をあげる。目の前の壁が開き、ファルコン号はゆっくりと前へ進み出る。外へ出るとまずはドワーフの城へ向かった。
 かなり低空飛行しかできないファルコン号は、溶岩の上を移動することができない。スピードは申し分ないのだが、これでは地底を移動できない。
 とりあえず、ドワーフの城に到着したセシルたち一行は、ジオット王の元へ向かった。