ドリーム小説

 バブイルの塔のある場所までは、ドワーフの案内で地底のさらに地下を歩いて行くことになった。

 「かなり広い地下通路だよね・・・」

 リディアが辺りをキョロキョロと見回しながらつぶやく。隣を歩いていたローザが「そうね」と同意した。
 先頭をセシルとヤンが歩き、その後ろをカイン、その後ろをローザとリディアが並んで歩き、は一行の最後尾を歩いた。
 昨夜のとローザの1件を知っているのは、セシルだけなのだが、恐らくカインは何があったかを知っているし、リディアもおかしいと感じているはずだ。
 当然、セシルはを心配しているだろう。だが、そんな様子は見せない。ここでを気遣えば、ローザを傷つけてしまう気がしたしたからだ。
 ドワーフの地下通路を出た瞬間、ドォン・・・と大きな音が響いた。遠くを見やれば、戦車がバブイルの塔を攻撃している。ジオット王のドワーフ隊だ。
 もちろん、バブイルの塔も黙ってはいない。迎撃し、砲撃がそこかしこで起こっている。セシルたちはその混乱に乗じて、塔の中に入ることに成功した。
 外から見る限り、相当な高さを誇っている。恐らく、地上の世界にまで通じているのだろう。
 足元の不安定なつり橋を渡り、内部へ。セシルが「ここは・・・」とつぶやいた。

 「ゾットの塔にそっくりだな」

 ローザの捕らわれていたゾットの塔。その造りによく似ていた。やはり、階段ではなく、動く床で移動だ。

 「クリスタルは、やっぱり最上階にあるのかな?」
 「そうでしょうね。高い所へ置いて、満足気に笑っているのかも」

 リディアの言葉に、ローザが答える。
 塔の中に入っても、歩く順番は変わらなかった。セシルとヤンが先頭。が最後尾だ。
 いくつかの戦闘でバックアタックをされ、は何度も傷ついた。その度にセシルが痛々しげな表情をし、彼女に近づこうとして、足を止めるという場面が何度かあった。
 4階まで上がり、結界の張られた場所を見つける。ひとまず、そこで休息をとることにした。

 「セシル・・・!」

 リディアがセシルに声をかけたのは、そんな時だった。キョロと辺りを見回し、ヤンがと、カインがローザと話しているのを確認し、リディアはその場にしゃがみ込み、座って休憩していたセシルと視線を合わせた。

 「なんで、おねえちゃんが傷ついているのに、無視するの?」
 「え・・・?」
 「セシル、白魔法が使えるようになったんでしょ? 前のセシルと違う。前のセシルは、いつだっておねえちゃんのこと、心配してたじゃない!」

 純真無垢なリディアは、何もわかっていない。いや、彼女は知らなくていい。

 「リディア、それは・・・」
 「セシルは、おねえちゃんのこと、誰よりも大切なんでしょ? それが“コイビト”なんでしょ?」
 「リディア・・・」
 「あたしは、おねえちゃんとセシルが仲良くしてるとこ見てるの、好きだよ」
 「・・・ありがとう」

 リディアの言葉がうれしかった。純粋なリディアの言葉。素直な彼女の感情だ。

 「だから、早くおねえちゃんと仲直りしてね!」
 「え??」

 仲直り? あれ??と首をかしげる。リディアは何か勘違いをしている。

 「違うよ、リディア・・・! 僕とはケンカなんてしていないよ」
 「そうなの? じゃあ、なんで?」
 「・・・それは、リディアは知らないでいいことさ」

 今はそれしか言えない。ドロドロした恋愛事情など、リディアが知る必要はないのだから。

 「フーン・・・あたし、よくわからないわ」

 ヤンとの方を見つめ、リディアは小さくつぶやいた。

***

 砲撃を行っている、中枢機関を見つけたものの、鍵がかかっており、開かない。これは、どこかに鍵があるのでは?と、セシルたちはさらに塔を登った。
 先を進んだ所に、1人の白髪の老人が、ロボットのようなものを前に、肩を震わせていた。

 「ヒャヒャヒャ! ゴルベーザ様もルビカンテもおらん! ワシが最高責任者だ!」

 高笑いをする老人に、リディアが「変なおじいさん」とハッキリ言い放つ。ローザが口に指を当て、「しぃッ!」と注意をするも、老人には聞こえていたようだ。年の割には、耳のいい・・・。

 「そこにおるのは誰だぁ?」

 老人が振り返り、セシルたちは身構えた。そのセシルの姿を認めた途端、老人がギョッとした。

 「貴様、セシル! いつの間に!?」

 セシルの顔を知っているとは・・・。彼もゴルベーザ陣営の中で、有名になったものだ。
 と、感心している場合ではない。

 「フッ・・・ルビカンテはいまい! 頭脳しかないお前に、俺たちが倒せるかな?」

 カインが挑発するように言葉をかける。

 「キーッ! バカにするでないわ! 四天王には加われなかったとはいえ、ゴルベーザ様のブレインと言われる、このルゲイエ! このバブイルの塔は、ワシのメンツにかけて守るわ!」
 「笑わせるな!」

 カインがさらにルゲイエを挑発する。とうとう、ルゲイエも腹を立てたようだ。

 「うぬぬ! このルゲイエの生み出した最愛の息子が、貴様らの首をいただいてやるわあ!」

 行け!バルナバ!とルゲイエが何かのスイッチを押せば、彼の傍にあったロボットのようなもの・・・いや、ロボットが動き出した。
 「ウガー!」と声をあげ、バルナバがルゲイエを殴りだす。ルゲイエは「あっちだ! あっち!」とセシルたちを指差す。
 大丈夫だろうか・・・と、セシルたちが逆に不安になってしまう。

 「と、とりあえず、気を取り直して行くぞ!」

 セシルが仲間たちに声をかける。5人はうなずき、それぞれの役目を果たすため、動く。
 カインが高々と跳躍し、ルゲイエを狙う。ヤンは雷の爪という、稲妻のこもった爪を装着し、バルナバへ拳を繰り出す。鈍い衝撃とともに、爪はバルナバのボディを突き破り、稲妻が走る。
 ヤンがそこを飛び退けば、リディアとが同時にサンダラをバルナバに放つ。プスン・・・と音を立て、バルナバは動かなくなってしまった。
 ルゲイエがバルナバに気を取られた瞬間を狙い、セシルがその心臓を剣で貫いた。
 「ガッ・・・」と血を吐き、ルゲイエがガクッと膝をついた。

 「ヒャヒャヒャ・・・。このバブイルの塔は、大地を貫き、地上と地底を結んでおる・・・」

 膝をついた姿勢のまま、ルゲイエがニヤリと笑った。

 「クリスタルを奪い返しに来たのだろう? 残念だったな。クリスタルは、すでにルビカンテが地上に移した!」
 「なんだって!?」

 つまり、セシルたちの考えは、ゴルベーザに読まれていたということか。6人はあ然とする。

 「ドワーフはワシの作った巨大砲で全滅じゃ! ヒャヒャヒャーッ!!」

 その声を断末魔に、ルゲイエの体が消滅し、そこに1本の鍵が残った。セシルがそれを拾い上げ、「もしかして・・・」とつぶやく。

 「中枢機関の鍵かもしれない!」
 「ドワーフさんたちがやられちゃう! セシル・・・!」
 「巨大砲とやらを、破壊せねば!」

 ヤンの言葉に一同はうなずき、先ほどのドアの前まで戻った。
 手にした鍵でドアを開けば、操縦桿のようなものの前に、3体の魔物。

 「ワハハハ、死ね、ドワーフども!」
 「そこまでだ!」

 セシルが叫べば、魔物たちがギョッとして振り返る。「貴様ら、どうしてここへ!?」と驚くも、すぐに我に返り、「かかれ!」と襲い掛かってきた。
 なぜ、こんな魔物に?というほど、3体の魔物はセシル、カイン、ヤンの一撃で倒される。だが、そのうちの1体が、傍にあったボタンを押した。

 「これで誰にも巨大砲は止められんぞ!」
 「しまった!」

 どうやら、巨大砲の発射をするためのスイッチだったようだ。このままでは、ドワーフ部隊は全滅だ。
 と、スッとヤンが前に進み出る。右手には雷の爪を装着していた。

 「ヤン・・・? 何を・・・?」
 「ここは私が引き受ける! みんなは早く脱出を!」
 「いやっ!!」

 リディアがヤンの腕を掴み、首を振る。そのリディアの手を、ヤンは優しくほどいた。

 「暴発するぞ、ヤン! テレポで・・・」
 「巨大砲を止めなければならん!」
 「ヤン!」
 「・・・ごめん!」

 ヤンがつぶやき、「ハッ!」と気合と共に、セシルたちに向かって衝撃波を放った。5人の体が吹き飛ばされ、部屋の外へ押し出された瞬間、ヤンがドアを閉め、鍵をかけた。

 「ヤン!」
 「妻に伝えてくれ・・・私の分も生きろと!」
 「開けるんだ! ヤン!」

 カインが声をあげ、ドアを開けようとするも、まったく動かない。「セシル! 鍵を!」と叫ぶも、鍵はいつの間にかヤンが奪っていた。

 「ヤン!!」
 「やめて、ヤン! あなたとお別れなんて、イヤよっ!」

 がドアを叩いて叫ぶ。

 「お願い! バカな真似はしないで!」
 「ヤン!」

 ローザとセシルも叫ぶ。ドアの向こうから、力強い声が返ってきた。

 「楽しい旅であった!」
 「開けろ! ヤンっ!!」

 セシルが怒鳴る。激昂するセシルなど、見たことがなかった。

 「うおおおおー!!」

 ヤンの叫び声がし、部屋の中から爆発音が響く。

 「ヤンーっ!!」

 セシルが叫び、部屋の中へ入って行こうとしたのを、カインが必死に止めた。リディアはポロポロと涙をこぼし、ローザは口を押えて涙をこらえ、は呆然と立ち尽くした。

 「ヤン・・・」

 小さく名前をつぶやく。目の前で命を散らしたヤン。呆然とするたちの前で、爆発が起き、5人のいる細い通路に、大量の機械兵が姿を現した。

 「セシルっ!!」
 「逃げるぞ!」

 カインが乱暴にセシルの腕を引っ張り、ローザもリディアの腕を引っ張り、の横を駆け抜ける。呆然と立ち尽くすの横を、カインとセシルが通り抜け・・・「っ!」とカインが声をかけ、もう片方の手での腕を引っ張った。
 その5人の後ろを、機械兵たちが追いかけて行く。

 「ヤン・・・ありがとう・・・」

 セシルは小さくそうつぶやくと、カインの腕からそっと手を離し、自分の足でしっかりと走り出した。