一晩ゆっくり休むと、セシルたちは再びジオット王のもとを訪れた。クリスタルのことが気になったからだ。
「ねえねえ、お人形を知らない?」
玉座に向かう途中で、1人の少女に声をかけられた。ローザが「お人形?」と首をかしげる。
「わたしの大事なお人形、どこにいっちゃったのかな?」
そう言いながら、少女はセシルたちから離れて行った。探してあげたいが、セシルたちには別の用事がある。 王の元へ向かえば、ジオット王は嫌な顔1つせずに、セシルたちとの面会に応じてくれた。
「ジオット王、この城のクリスタルは、一体どこに? 何かあった時、守れなければ・・・」 「フム。何を隠そう、この玉座の裏の隠し部屋じゃ! これならば、私の目の黒いうちは安全というワケじゃ!」 「シッ!」
突然、ヤンが声をあげ、人差し指を口に当てた。
「どうした、ヤン?」 「誰か盗み聞きしている!」 「何奴!?」
だが、辺りを見回し、左右の扉を開き、様子をうかがったが、怪しい者はいない。
「誰もいないぞ」 「この先に気配を感じた!」
玉座の奥を指差し、ヤンが声をあげる。そこは壁のはずだが・・・そういえば、ジオット王が隠し部屋があると言ったではないか。
「扉を開けい!」 「ラリ!」
ジオット王の声に、傍にいたドワーフ兵が隠し部屋の扉を開ける。セシルが「王はここで待っていて下さい」と声をかけ、仲間たちと共に、隠し部屋を目指した。 階段を下り、扉をくぐれば、そこにはクリスタルルームがあった。飾られているクリスタルにホッとするも、部屋内が不気味な空気に包まれる。
「な、なんかイヤな予感がする・・・」 「ここを出よう!」
がつぶやき、セシルが声をあげる。カインが扉を開けようとするも、まるで動かない。
「開かない!」 「えぇ!?」 「キャーホッホッホッ」
ハッと振り返った5人の前に、6体の人形が姿を見せた。人形たちはクルクルと回りながら、セシルたちを取り囲む。
「僕らは陽気なカルコブリーナ! 怖くてかわいい人形さ! ばーかめ! のこのこやって来るからさ! キミらを倒して、ゴルベーザ様の手土産にさせてもらうよ! ヒャーホッホッー!」
6体の人形がクルクル回りながら飛び跳ね・・・セシルたちに襲いかかって来た。 ヤンが1体を殴って壊し、カインが槍で1体を貫き、
がサンダラの魔法で1体を落とし、セシルが剣で斬りつける。ローザも弓で1体を落とした。 残るは1体。と、思った瞬間、崩れ落ちたと思った5体の人形がフワリと浮く。そして、そのまま6体の人形が1点に集まり、巨大な1体の人形に変身した。
「うっわ・・・かわいくない・・・」
思わず
の口からこぼれた本音。うつろな目でこちらを見下げる巨大人形は、確かにかわいくない。 その
の声が聞こえたのか、人形が巨大な拳を振り上げ、
へそのまま振りおろした。
「危ない!」
咄嗟にセシルが飛び出し、
の体を抱えて飛び退く。巨大な拳が床にめり込み、床に亀裂が走った。 それを見ていたカインが、槍を構え、ヤンを見る。
「パワーは大きいが、スピードは遅い。ヤン!」 「承知した!」
俊敏なヤンとカインが、素早い動きで人形へ駆け寄る。 まず、カインがジャンプをする。人形がカインの動きに目を向けた瞬間、ヤンが人形の腹部に力を込めた拳を叩きこむ。グラリ・・・後ろへ倒れこんだ人形向けて、カインが眉間に槍を突き刺した。
「
!」
カインが名を呼ぶ。心得たとばかりにうなずき、
が再びサンダラを放つ。カインの槍目がけて落ちたそれは、人形の全身を駆け巡り、人形は再び6体に分裂した。
「よくもやったな!」 「痛いよー!」 「でも、この場所は報告済み!」 「仇は討ってもらうよ!」
人形たちが口々に言い放ち、「ゴルベーザ様―!」と6体が同時に叫んだ。
「何!?」 「久し振りだな・・・」 「ゴルベーザ・・・!」
姿を現した黒い甲冑の男に、セシルたちは再び身構える。ゴクリ・・・誰かが息を飲んだ。
「先日は世話になった。だが、あのメテオの使い手も、もういまい。あの時の礼に、私がなぜクリスタルを集めるのか教えてやろう」 「なんだって・・・?」 「フフフ・・・。光と闇、合わせて8つのクリスタル・・・。それは封印されし月への道、バブイルの塔を復活させるカギなのだ。月には、我々の人知を越えた力があるという。このクリスタルで7つ目・・・。残すところ、あと1つとなったわけだ。これも君たちのおかげだ。この礼もしなければ失礼だな。受け取れい! これが私からの最後の贈り物だ!」
ゴルベーザが手を掲げる。その手に巨大な火の玉が生まれ、放ってくる。
がブリザラで相殺しようとするも、ラ系の上級魔法であるガ系の魔法には太刀打ちできなかった。
「
!」
モロに火炎の直撃を食らった
の体が崩れ落ち、セシルが慌てて駆け寄り、ケアルラを施す。 その隙に、再びヤンとカインが速攻をかける。跳躍した2人がゴルベーザに向かって、蹴りと槍を繰り出すも、小手でそれを振り払われる。 ローザが弓で狙うも、いとも簡単にそれは手で握りつぶされてしまった。
「はっはっは。これがお前たちの力か・・・。しばらく大人しくしていてもらおう!」
ゴルベーザが片手を突き出すと、すさまじい冷気が放たれた。体が凍え、身動きが取れない。
「クソッ・・・! 何を・・・!!」 「動けぬ体に残された瞳で、真の恐怖を味わうがいい! 参れ、黒竜!」
ゴルベーザの声に、空間が歪み、そこから巨大な黒い竜が姿を現した。
「くっ・・・体が・・・!」
カインが槍を握ろうとするも、体は言うことをきかず・・・そのカイン目がけ、黒竜の黒い牙が襲った。 噛みつかれたカインがうめき声をあげ、倒れる。次いで、近くにいたヤン。ローザ。3人の体が倒れ、黒竜が
と彼女に治癒の魔法を施していたセシルに向かって来た。
「やめろ・・・ゴルベーザ・・・!!」 「ほう? 命乞いか?」 「僕の仲間に・・・手を出すな・・・!!」
黒竜が口を開ける。その巨大な牙が
に襲いかかろうとしたところで、ゴルベーザが「待て」と止めた。 カツカツと音を響かせ、ゴルベーザがセシルたちに歩み寄る。そして、そのまま乱暴な手で
の首を持ち上げた。
「この娘を助けたいか?」 「な・・・に・・・?」 「フフフ・・・気づいたぞ。お前の大切な女は、ローザではなく、こっちだったか」 「
に・・・何を・・・」 「それならば、簡単に殺してしまうのはつまらん。黒竜よ、ジワジワと嬲り殺してやれ。まずは・・・腕か?」 「やめろっ!!」
動かない体を必死に動かそうとするも、まるで動かない。このままでは、
は殺されてしまう。
「はっはっは! さあ、やれ! 黒竜!」 「やめろ〜っ!!」
セシルが叫んだその瞬間・・・フワリ・・・冷たい空気が流れた。そして姿を現した霧のドラゴン。そのドラゴンが霧のブレスを吐くと、黒竜の姿が消滅した。
「ド、ドラゴン・・・黒竜を、霧の力で消し去るとは・・・」
唖然とするゴルベーザ。セシルは「まさか・・・」とつぶやく。今のドラゴンには見覚えがあった。 そのセシルの体が温かい光に包まれる。
「大丈夫、もう動けるわ!」
聞こえて来た声に、セシルは振り返る。 エメラルドグリーンの長い髪・・・見覚えのある顔・・・だが、彼女は・・・。
「セシル! 前!」
少女が声をあげる。ゴルベーザが右手を突き出そうとしている。セシルは慌てて剣を構え、向かってきた右手を斬りおとした。
「ぐあああっ! 私が・・・負ける、とは・・・」
ゴルベーザの体が崩れ落ちる。少女がホッとした表情を浮かべ、セシルに駆け寄ると、倒れていた
にハイポーションを使った。 ヤンとカイン、ローザがゆっくりと起き上がり、ローザがケアルラをみんなにかける。仲間たちがセシルたちのもとへ駆け寄って来た。
「倒した・・・! ゴルベーザを倒したぞ!」 「良かったね、セシル!」
少女がセシルに笑みを浮かべ、セシルはうんとうなずき、「ありがとう、リディア」と告げた。
「え・・・えぇ!? リ、リディア!!?」
が素っ頓狂な声をあげ、少女をマジマジと見つめた。少女・・・リディアがニッコリと笑い、「おねえちゃん」と声をかけてきた。間違いない。リディアだ。
「リディア・・・! よく無事で・・・!! 良かった!」
がリディアの体を抱きしめる。死んだと思っていた。もう会えないのだと。 リディアも
の背に腕を回し、抱きしめる。なつかしい。大好きな「おねえちゃん」の温もりだ。
「でも、その姿は?」
セシルが尋ねると、
とリディアは体を離した。そうだ、一体どうしたのか。
たちが最後に別れた時、リディアはまだ10にも満たない年だったというのに、今や
と同い年くらいになっている。
「リヴァイアサンに呑み込まれて、幻界に連れて行かれたの」 「幻界?」 「幻獣たちが住む世界よ。そこで幻獣たちが友達になってくれたの。白魔法は使えなくなったけど、その分召喚と黒魔法の腕は上がったわ! でも幻界は、こことは時間の流れが違って・・・」 「それで大人に?」
ローザが問いかけると、リディアはうなずいた。 ヤンが「無事で良かった」と告げれば、「ヤンも」とリディアが微笑む。事の成り行きを見守っていたカインが、セシルを見やった。
「セシル、この子は?」 「ミストの村のリディアだ」 「あの子供!?」
カインの脳裏に、あの時のことが思い出される。リディアの召喚した幻獣により、大地震に巻き込まれたことを。 ただ泣いていただけの、あの少女が、まさかこんなに美しく成長するとは。
「でも、なぜ僕たちを・・・。僕は、君の母さんを・・・」 「言わないで! 幻界の女王様に言われたの。今、もっと大きな運命が動いているって・・・。あたしたちが、立ち向かわなくちゃいけないって・・・」 「リディア・・・!」
セシルとカインが、霧の竜を倒したことで、リディアの母は命を落とした。だが、リディアはそんなセシルたちに心を開いてくれた。そして今、全てを許してくれたのだ。
とリディアが再び抱き合う。ギュッとリディアを抱きしめる
に、「おねえちゃん、苦しいよ」とリディアが苦笑した。 和やかムードだった仲間たちの中を引き裂くように、突然ゴルベーザの声が響いた。
「私は・・・死なぬ!」
なんと、セシルに切り落とされた右腕が、クリスタルを手にし、姿を消した。同時に、倒れていたゴルベーザの姿も消える。もともと、本体ではなかったということか。
「しまった、クリスタルを!」
和やかな空気は一変、セシルたちは絶望感に襲われた。
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