トロイアの町で体を休めた一行は、土のクリスタルを持って、8人の女性神官の下へ向かった。 これを貸してくれ、と交渉するためだ。これがなければ、ローザの命は助からない。
「それは!」 「まさしく、土のクリスタル!」 「取り戻してくれたのね!」
神官たちに土のクリスタルを見せると、彼女たちは歓喜の声をあげた。 だが・・・次の瞬間、どこからか声が聞こえてきた。
「クリスタルを手に入れたようだな」 「この声は・・・カイン!? どこにいるっ!!」 「表に出て、飛空艇に乗れ・・・。ローザの居場所まで連れて行ってやろう」
神官たちがザワつきだす。セシルは神官たちにクリスタルを貸して欲しいと願い出る。必ず返しに来ることを条件に、なんとか手に入れることができた。 ギルバートの元へ向かい、ローザを救出しに行くと告げ、セシルたちは外に停めてあった飛空艇に乗り込んだ。 まるで見計らったように、赤い翼が近づいてくる。カインが姿を見せた。
「土のクリスタルは?」 「ここにある!」
手に持っていたクリスタルをカインに見せる。キラリ・・・太陽の光を受け、クリスタルが輝く。それを見て、カインが確認したのか、うなずいた。 セシルはカインの背後に目をやる。いるのは、飛空艇の操縦士だけに見える。
「ローザはどこだ!?」 「フッ、慌てるな。俺の飛空艇について来い」
素直に応じると、カインの飛空艇は大きな塔の前で止まった。かなり大きな塔だ。
「中へ入れ」
命令され、5人は飛空艇を下り、塔の入り口へ向かう。シュッと空気の抜けるような音がし、目の前の扉が開いた。警戒しながら中へ入る。最後尾のテラが中に入ったところで、扉が閉まった。 セシルたちは慌てて背後を振り返り、扉が開かないことを確認し、叫んだ。
「カイン! どこだ!!」 「そう慌てるな・・・。ゴルベーザ様から一言、お礼が言いたいそうだ」 「ゴルベーザ!」
その名に、テラがギリッと歯噛みする。忘れられない仇敵の名前だ。
「約束を守ってもらって、うれしい限りだ・・・」
ゴルベーザの声が響き、セシルたちは咄嗟に身構える。だが、声だけで姿はない。
「姿を見せい!」 「逸る気持ちもわかるが、私の礼を受け取ってほしい」 「礼ですって? そんなのいらないわよっ!! ローザを返してっ!」
の声に、ゴルベーザはフフフ・・・と不敵に笑った。
「セシル。私は、君の愛しいローザと一緒に、このゾットの塔の最上階にいる。ここまでたどり着ければ、ローザの命とクリスタルを交換してやろう」 「ゴルベーザ、貴様・・・っ!!」 「早く来なければ、君の大事なローザの命の保証はできん・・・。さあ、登ってこい!」
ゴルベーザの声が消える。セシルはグッと拳を握りしめ、仲間たちを見た。4人はうん、とうなずいた。ゴルベーザの挑発に乗るのは腹立たしいが、今はそれしか手はない。最上階を目指そう。 このゾットの塔は、普通の塔と造りが違う。階段がないのだ。移動装置というか、動く床が上下に移動することで、階を行き来するのだ。 それほど複雑な塔ではないが、中にはモンスターがいる。そして、見つけた宝箱を開けた瞬間、飛びかかってくるモンスターもいた。
「おのれ、ゴルベーザ! 人をコケにしおって!!」
テラが憤り、グッと拳を握りしめる。もう何度目の戦闘だろうか。 いくつかの戦闘で、仲間たちも傷ついている。
はセシルに近づいた。
「セシル、さっきの戦闘でケガしたでしょ? ケアルを・・・」 「ああ、大丈夫だよ、
。自分でやる」 「え?」
声をかけたセシルにそう言われ、目を丸くする
の前で、セシルはケアルの魔法を使ってみせた。ますます、
の目が大きく見開かれる。
「セシル、白魔法が使えるの!?」 「ああ。少しだけどね。簡単なものなら使える。まあ、
やテラの魔法には敵わないけど」 「そんなことない! すごいわ! パラディンになったから、白魔法が使えるようになったんだわ!」
うれしそうな
に、セシルもうれしくなる。 ダークエルフの住処で、ヒョンなことがきっかけで使ってみたのだが、効果があって驚いた。もちろん、驚いたのはテラやヤンやシドも同じだったが。
「さあ、みんながんばろう! ローザを助けに行くんだ!」
小休止の後、セシルがそう言って仲間たちをグルリと見回す。4人は大きくうなずいた。
***
突然、目の前が真っ暗になり、5人の前に現れたのは、メーガス三姉妹と名乗った3人の女。 太った体型のマグ、背の高いドグ、幼い少女のようなラグ・・・見た目がかなりデコボコなのだが、連携プレーはお手の物、といった様子で攻撃を仕掛けてくる。
「私たちは、この塔を司る四天王、風のバルバリシア様の片腕! 果たして勝てるかな?」
ニヤリ・・・マグが笑う。リフレクで魔法を反射させ、セシルたちを攻撃するという、かなり変わった戦闘方法だ。 こちらもリフレクを・・・と思ったのだが、そうすると回復魔法が使えなくなる。魔法のダメージを軽減するシェルで対抗するしかなかった。
「残念だがここまでだな! クリスタルは我らがいただく。ローザとも、お別れさ!」 「そんなわけにはいかないわねっ! あんたたちは、私たちが倒す!」
魔法攻撃は得策ではないと踏んだ
が、腰の剣を抜く。
「ヤン! シド!
! 一気に叩くぞ! テラ、回復を頼む!」
セシルの声に、4人はうなずく。向かってくる魔法をかいくぐり、セシルはラグを、ヤンはドグを、
とシドはマグに攻撃を仕掛けた。 まず、2人がかりで仕掛けたマグが落ち、次いでみぞおちに強力なパンチを叩き込まれたドグが倒れる。そして、斬りつけられたラグが最後に倒れた。
「ばかな!」 「デルタアタックが敗れるとは・・・」 「姉者―!」
三姉妹の体が崩れていき、消える。5人は息を吐き出し、奥を目指した。 移動する床を下りた瞬間、ハッと身構える。部屋の奥に、黒い甲冑の男・・・ゴルベーザが立っていた。その隣には、カインが控えている。
「ご苦労、諸君」
ゴルベーザが一歩前へ出る。
「ゴルベーザ! ローザはどこだ!?」
部屋内を見渡すが、ローザの姿がない。まさか、という考えが過ぎるが・・・。
「クリスタルが先だ」
冷たくゴルベーザが言い放った。人質の姿を見せずに交渉するつもりか?と、
はムッとする。
「ローザは無事なんでしょうね!? 何かあったら、タダじゃすまさないわよっ!」 「ほう・・・面白い。先日は私にまったく歯が立たなかった小娘が、何をほざく」 「な・・・! なんですって!?」 「
、落ち着かんか!」
めずらしく冷静なシドにたしなめられ、
は言葉を呑んだ。
「安心しろ。ローザは無事だ。さあ、クリスタルをもらおう」 「これだ!」
セシルが持っていた袋から、土のクリスタルを取り出す。ゴルベーザが指でセシルを呼ぶ。そのまま、セシルはクリスタルをゴルベーザに渡した。
「さあ、ローザを返してもらおうか」 「ローザ? 何のことだ?」 「何!?」 「話が違うぞい!」
ゴルベーザの言葉に、セシルとシドが声をあげる。 騙したのだ。簡単に人を騙し、怒りがフツフツと湧いてくる。
「どこまでも汚いヤツ! 私がローザの居場所を言わせてやる!」
テラがセシルをドン、と突き飛ばし、ゴルベーザの前に進み出る。ようやく、アンナの仇と相対することが出来たのだ。
「老いぼれに用はない」 「貴様にはなくても、私は、あるッ! 思い知れ・・・! アンナの痛みを!!」
テラが呪文の詠唱を始める。ファイガ、サンダガ、ブリザガ、バイオ・・・いくつもの強力な魔法を使うが、ゴルベーザには、ほとんど効いていない。
「しょせん老いぼれのお前に、私を倒す力はないはず!」
片手を振り上げ、ゴルベーザがサンダガの魔法を放つ。テラの体に直撃する寸前で、
のリフレクがテラにかかった。
「・・・メテオを使う時が来たか」
ポツリとテラがつぶやく。
が「ダメ!」と叫ぶ。黒魔法を使う者なら、メテオがどれほど危険なものか、知っているのだろう。
「テラさん! 今のあなたに、メテオは危険すぎるっ!」 「この命、全てを魔法力に変えて、貴様を・・・倒すっ!!」 「テラさん!」
テラが両手を掲げ、呪文を唱える。空間が歪み、そこから無数の隕石が降り、ゴルベーザに直撃した。
「うっ・・・ば、ばかな、メテオを・・・メテオを使うとは・・・」
それでもゴルベーザは倒せず・・・ガクッと膝をついただけだ。 だが・・・テラはユラリと体が揺れ、そのまま床へ倒れ伏す。慌てて仲間たちがテラに駆け寄り、魔法力を回復するエーテルを使うが、効果がない。
「クリスタルはいただいた・・・退くぞ、カイン!」
ゴルベーザがカインを呼ぶも、カインは床に倒れていて・・・チッと舌打ちした。
「今のメテオで術が解けたか! まあよい、貴様は用済みだ。この借りは必ず返す!」 「逃がすか、ゴルベーザ!」
叫び、セシルがゴルベーザに斬りかかる。その刃を、ゴルベーザは小手をはめた手で受け止めた。
「ぐ・・・舐めるな!」
セシルの体をなぎ払い、とどめを刺そうとセシルに近づく。
が「セシルっ!!」と叫び、セシルに駆け寄った。
「・・・!?」
ゴルベーザが手を振り上げ、セシルを見やる。セシルもキッとゴルベーザを睨みつけた時だった。ゴルベーザの動きが止まり、頭を押さえたのだ。痛む体を押さえ、セシルが呻く。
「なぜ・・・とどめを刺さない・・・」 「お前は・・・」 「?」
苦悶の表情を浮かべるセシルに、
がケアルラの魔法をかける。対するゴルベーザは戸惑ったような声をあげ、後ずさる。その様子に、セシルは眉根を寄せた。一体、何があったのか。
「お前は一体・・・ぐ・・・ぐぐ!」 「・・・? なんだ?」
ゴルベーザは頭を押さえ、一歩一歩、後退する。セシルから逃げるように。
「こ・・・この勝負、ひとまず預けるぞ・・・!」
そのまま、ゴルベーザは部屋の奥にあった扉の向こうへ消える。セシルと
はあ然としながら、その背中を見送った。
「テラ殿!」
ヤンの声に、ハッと我に返り、セシルと
は倒れているテラに駆け寄った。エーテルは効果がなかったのか・・・。
がテラの体にケアルをかけるが、当然ながら効果はない。生命力を魔法力に変えたのだ。命を削った攻撃だった。
「倒せなんだか・・・」 「しゃべっちゃいかん!」
テラが憎々しげにつぶやくと、シドが怒鳴った。
「これも・・・憎しみに捕らわれて戦った報いかもしれん・・・。アンナの仇を・・・たの・・・!」 「テラっ!!」 「テラさんっ!」
ゆっくりとテラが目を閉じ、息を引き取った。
は口を押さえ、嗚咽をもらす。
「目を開けんかい! このクソじじい!!」
シドが怒鳴るも、テラは目を開けない。動かない。ヤンが「クッ・・・」と呻き、顔を逸らした。「テラ殿・・・」とつぶやいたその目じりに、涙が浮いた。
「・・・娘さんと、安らかに暮らすんじゃぞ」 「テラさん・・・ありがとうございます・・・」
テラの手を胸の上で握り合わせ、セシルはその手に触れる。
「テラ・・・アンナの仇は・・・僕らが討つ!」
立ち上がり、セシルは部屋の隅でくずおれていたカインに歩み寄った。ゴルベーザは「術が解けたか」と言っていた。もしや・・・?
「カイン・・・カイン!」
カインの肩を揺すれば、「う・・・」と小さな呻き声。「セシル・・・!」とカインが声をあげた。
「す、すまん・・・。俺はなんということを・・・」 「操られていたんだ・・・仕方ないさ」 「しかし・・・意識はあったのだ。俺は、ローザを・・・」 「! ローザは!?」 「この上だ! 時間がない!」
カインの言葉に、セシルたちは急いで階上へ向かった。 扉が開き、目に飛び込んできたのは、椅子に縛り付けられたローザの姿。頭上には大きな鎌のようなもの。あれで首をはねるつもりか。
「セシル!」
ローザがセシルの名を叫ぶ。セシルと
が同時にローザに駆け寄る。
が剣を使い、ローザを拘束していたロープを切る。彼女の体が自由になり、椅子から離れた瞬間、刃が落ちた。間一髪だった。
「ローザ、大丈夫? ケガは・・・」 「セシル!」
声をかける
を無視し、ローザはセシルに抱きついた。ドクン・・・
の胸が騒ぐ。
「私、あなたが来てくれると信じていたわ・・・」 「ローザ、無事でよかった」
ポンポンと、セシルはローザの背中を叩いた。まるで赤子をあやすように。 と、そのローザの視線がカインに向けられ、「カイン!?」と声をあげる。少し警戒しているようだった。
「正気に戻ったんだ」 「え・・・? そうなの? よかった、カイン・・・戻ってきてくれて」
ホッとした表情を浮かべ、ローザはカインに歩み寄る。だが、カインはそんなローザから目を逸らした。
「許してくれ、ローザ・・・。操られていたばかりじゃない! 俺は君に傍に・・・いてほしかったんだ!」 「カイン・・・」
ローザがカインの手を取り、そっと優しく微笑む。
「一緒に戦いましょう、カイン・・・!」 「すまない! 許してくれ・・・ローザ! セシル!」
深々と頭を下げるカインのそばにセシルが歩み寄る。
「当たり前じゃないか。僕たちは親友だろ?」
手を取り合う3人の姿に、
がそっと微笑む。やはり、彼らにはあんな姿が似合う。お互いを信頼し、共に戦う姿が。
「ええい! ごちゃごちゃやっとる場合じゃなかろーが! ここは危険じゃぞ!」 「ああ。行くぞ、カイン!」 「セシル・・・」 「竜騎士である君の力がいる! 共にゴルベーザと戦ってくれるな?」 「・・・すまん。セシル・・・ローザ・・・!」
謝罪してばかりのカインに、セシルは苦笑を浮かべる。「もういいさ」と全てを水に流す。もともと、彼は操られていただけなのだから。 と、突然辺りが暗くなり、どこからか「ほっほっほほほ・・・」という女の笑い声がした。
「ゴルベーザ様に手傷を負わせるとは、お前たちを見くびっていたようね!」 「ゴルベーザ四天王、風のバルバリシアだ!」
女の声を聞き、カインが声をあげる。スカルミリョーネ、カイナッツォと同じ、四天王の1人か。
「カイン、寝返ったようね。それだけの力を持ちながら!」 「寝返ったのではなく、正気に戻ったと言ってもらおうか、バルバリシア!」 「馴れ馴れしく呼ぶでない! こんなことなら、お前もローザも消しておくべきだったわね。だが、メテオの使い手も、もういまい。みんな揃ったところで、仲良く葬り去ってやろう!」 「フッ、空中戦はお前だけのものじゃない!」
セシルたちの前に、1人の女性が姿を見せる。床に届く長い髪。その髪を、セシルたちをなぎ払うかのように、振り回す。セシルがそれを剣で切り落とすと、チッと舌打ちし、竜巻を起こしてきた。トルネドの魔法がシドを襲い、吹き飛ばされる。
「シド!」
ローザがすかさずケアルラの魔法をかける。 ヤンが殴りかかると、バルバリシアは髪を振り回し、ヤンの体をなぎ払い、そして不気味に笑うと、体の周りに風の渦を生み出した。 セシルが斬りかかろうとするも、その風の渦で弾き飛ばされた。
「ダメだ! 風の渦で近づけない!」 「カイン!」
がカインの方を見れば、彼は心得たとばかりにうなずき、高々と跳躍した。そして、そのまま槍でバルバリシアを一突き。風の力が弱まり、カインが離れたところで、バルバリシアにサンダラの魔法が落ちた。
の魔法だ。
「カイン! 行くぞ!」 「ああ!」
セシルが剣を、カインが槍を構える。
が再びサンダラの魔法を放つと、2人がバルバリシアに走り寄る。 カインが再び跳躍すると、セシルはバルバリシアを斬りつける。ガクッと膝をついたところを、カインの槍が胸を一突きにした。
「カイン、貴様・・・! この私を倒しても・・・最後の四天王がいる! このゾットの塔もろとも・・・消え去るがいい! ほっほっほほほ・・・」
バルバリシアの体が消滅すると、ガクンと塔が大きく揺れ、天井が崩れ落ちてきた。
「く、崩れる!」 「くそッ!」
腕で頭をかばい、セシルは辺りを見回す。ローザの傍に、ヤンとシドの姿。カインは自身の傍。
は・・・!?
「私に掴まって!」
ローザが声をあげる。いた!
の傍に、大きな瓦礫が落ちる。セシルは必死で彼女のもとへ駆け寄った。
「セシル!」 「早く、こっちへ!!」
の手を取り、落ちてくる瓦礫を避けながら、2人はローザの元へ近づいた。彼女の腕に触れる。ローザが呪文を詠唱する。
「テレポ!」
魔法が完成し、セシルたちの体がワープした。辺りを見回し、セシルはそこに見覚えがあることに気づく。
「ここは・・・」 「バロンのあなたの部屋よ」 「ニセもんの王も倒したし、もう安心じゃろ!」
ヤン以外の人物にとっては、故郷だ。以前の帰郷はコソコソしたものだったが、今回は違う。ゆっくりできそうだ。
「とりあえず、一息つこう」
セシルの提案に、仲間たちに反対を唱える者はいなかった。
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