ドリーム小説

 深窓の令嬢・・・そんな言葉がよく似合った。
 肩で切り揃えられた紅の髪。羽飾りがそれを彩る。回復の杖を手にした、騎馬に乗る美少女。

 「プリシラ様、あまり前出られると危険ですよ」
 「ごめんなさい、。いつもあなたには迷惑をかけてばかり・・・」
 「迷惑だなんて! 私は、プリシラ様のお傍にいられるだけで、幸せです」
 「ありがとう」

 向かってくる敵兵を引き付け、斬りつける。プリシラには、血を見せたくなかった。
 しかし、ここは戦場。彼女も覚悟はできていた。
 生傷の絶えないは、プリシラの杖のお世話になることが多かった。杖には使用限度がある。その限度を超えると、杖の先端についている魔石が割れ、使えなくなる。ライブの杖や魔道書は、高価なものなので、大切に使わなくては。
 わかっているのだが。はリンのような身のこなし方もできなければ、ギィのように力があるわけでもない。自然と、傷ができてしまうのだった。
 その日の戦終了後。は護衛のため、プリシラを探していた。どこにいるのか。

 「あ・・・いらっしゃった」

 ようやく、プリシラの姿を探し当てる。誰か男の人と一緒だ。「プリシラ様?」と声をかけると、2人が同時にこちらを向き・・・男性の端正な顔立ちに、目を奪われた。

 「それじゃあな」
 「あ・・・!」

 男性が去って行くと、プリシラが声をあげ・・・悲しそうにうつむいた。
 一体、誰だか知らないが、主人であるプリシラを悲しませた。目を奪われたが、それはそれ、これはこれ、である。

 「あの!」

 先ほどの男性を追いかけ、その背中に声をかける。無視された。

 「あの・・・っ!!」

 再び声をかけると、男性は立ち止まり、振り返った。紅の髪・・・澄んだ瞳・・・誰かに似ている?

 「俺に何か用か?」
 「・・・見たところ、剣士のようですね」

 腰に下げた剣を見て、はそう結論付ける。「そうだが?」男性が腕を組み、ため息混じりに応えた。

 「・・・手合わせ、お願いします」
 「何?」

 がキッパリと告げれば、男性は眉根を寄せた。は返事も待たずに武器庫から稽古用の木でできた剣を持ち、戻った。ありがたいことに、彼はまだそこに残っていた。

 「よろしくお願いします」
 「本気か?」
 「もちろんです!」

 木剣を男性に渡し、も構える。だって、プリシラの護衛を務める剣士だ。いくら相手が男だからといって、無様に負けるつもりはない。
 ・・・なかったのだが。は男に翻弄され、何もできないまま、剣を弾かれた。

 「な・・・つ、強い・・・!」
 「お前のような女に、プリシラは任せられんな」
 「なっ・・・!」

 男が言い放った言葉に、は一瞬にして頭に血が上った。

 「なぜ、あなたにそこまで言われなくてはいけないのですか!? プリシラ様は、私のことを大事にしてくださっています!」
 「あいつは優しいからな。人の痛みを自分のことのように感じる」
 「・・・プリシラ様のこと、よくご存じなのですね。もしかして、身内の方ですか?」
 「!」

 のその言葉に、男はギクッと表情を強張らせ、その場を去って行ってしまった。
 そして、数日後・・・は再び男の前に姿を見せた。

 「レイヴァンさん」
 「・・・なんだ」

 ヘクトルから名前は聞いた。傭兵なのだという。

 「あの、この前は何か失礼なことを言ってしまいましたか?」
 「どういう意味だ?」
 「いえ、いきなり機嫌が悪くなったように感じたので」
 「お前の気のせいだ」

 そう冷たく言い放つと、レイヴァンはの横を通り抜ける。

 「そうでしょうか? 何かプリシラ様と関係があるのでは? レイヴァンさんが言いたくないのなら、プリシラ様にお聞きします」
 「・・・あいつは、俺の妹だ」
 「え!? では、レイヴァン様はエトルリアの・・・」
 「あいつの今の家とは関係ないが・・・元はコンウォル家の人間だ」

 あ然とするの前から、レイヴァンは立ち去る。
 プリシラの兄・・・コンウォル家の人間・・・グルグルと頭の中をその言葉が巡る。
 とは、身分の違う存在だ。たとえ、今はなくなってしまったとはいえ、レイヴァンは貴族の出なのだから。
 勇者の証を得て、レイヴァンはさらに強くなった。もはや、の手の届く人ではない。ただの剣士である自分とは違う。ソードマスターになれず、未だ剣士の自分など。

 「おい」

 それから数週間・・・食事の支度をしていたの背に、声がかかる。共に食事の支度をしていたフロリーナも振り返った。

 「・・・レイヴァンさん」
 「少しいいか?」
 「え・・・でも・・・」

 チラリとフロリーナを見れば、彼女は優しく微笑んだ。「大丈夫よ」と言ってくれる。
 レイヴァンと2人、テントの張られた陣内を歩き、レイヴァンがおもむろに歩みを止めた。

 「最近、俺にちょっかいを出さなくなったな」
 「それは・・・。あなたは、私の憧れでした。強くて、勇敢で。まさに勇者です。けれど、私は・・・」
 「言っただろう。俺はもうコンウォル家の人間ではない」
 「けれど、勇者です! それに対して私は・・・ただの剣士で・・・。レイヴァンさんの言う通りです。私、プリシラ様にふさわしくありません・・・」
 「逃げるのか?」

 ドクン・・・と心臓が跳ねた。
 逃げる? そんなわけない。これは逃げなんかではない。だが、果たしてそうだろうか? これは逃げなのでは?

 「剣のことなら、俺が見てやれる」
 「・・・え?」
 「本気でソードマスターになるつもりがあるなら、な」
 「レイヴァンさん・・・」
 「俺で不服なら、構わないが」
 「いえ・・・!!」

 ブンブンと首を横に振る。レイヴァンに剣の稽古をしてもらえるなど、夢のようだ。

 「私、必ずソードマスターになってみせます!」

 そして・・・あなたに認めてもらうのだ。