ドリーム小説

 あなたの視線の先に気づかぬほど、鈍くはないの。
 あなたはいつだって、あの人を見ていた。・・・私の憧れの姉様を。
 手にしたのは鋼の弓。自身を守る大切な武器だ。

 「、ここにいたのね」
 「エーディン姉様」

 鍛錬場にやって来た姉の姿に、はそっと微笑んだ。にとって、大切な姉である。
 弓の家系であるユングヴィの公女だが、人を傷つけたくないと、エーディンはプリーストになった。今は、その美貌も手伝って、“聖女”と民たちに呼ばれている。

 「どうかしましたか?」
 「ええ。お茶にしようかと思ったの。あなたも一緒にどう?」
 「はい」

 弓を下ろし、エーディンと共に鍛錬場を後にする。
 汗をかいたので、軽く湯浴みをしてから行く、と告げ、は自室へ向かった。
 湯浴みを済ませ、エーディンの部屋へ。ノックして、中に入ろうとし・・・動きが止まった。
 姉の傍に、緑の長い神を1つに結った青年が立っていた。パッと見、女性に見えなくもないが、彼はこのユングヴィ家に仕える弓騎士である。
 そっと、部屋を去った。2人の中は、誰が見ても明らかだ。いや、彼の気持ちは、か。

 「さっき、どうして部屋に来てくれなかったの?」

 夕食時、エーディンに尋ねられた。ドキッとした。まさか、彼と一緒のところを見たくなくて・・・とは言えない。

 「あ・・・眠ってしまって・・・。ごめんなさい、姉様」
 「いいえ、いいのよ。おちゃなんて、いつでもできるのだし。でも、大丈夫? どこか具合が悪いとかじゃ・・・」
 「いいえ! 大丈夫です!」

 慌ててそれを否定した。嫉妬にも似たこの気持ちを、姉に知られたくはない。
 夕食の時間が終わり、自室へ向かう姉妹の前に、彼が姿を見せて。

 「あら、ミデェール」
 「これは、エーディン様。様もご一緒で」

 ミデェールが頭を下げる。エーディンが、そんな彼に笑みを向ける。

 「・・・ねえ、ミデェール」

 が小さく名を呼ぶも、ミデェールの視線はエーディンに向けられ、2人で楽しそうに話している。
 やがて、エーディンとミデェールの会話が終わる。の耳には、何も入ってこなかった。

 「・・・私も、エーディン姉様みたいだったらなぁ」

 ポツリとつぶやけば、傍らに立っていたミデェールが「え?」と声をあげた。

 「私は、エーディン姉様に似ていないものね」
 「なぜ似る必要があるのですか? 様は様ではありませんか」
 「私、私は・・・ミデェールが好きよ。たとえ、あなたが姉様を好きでも」

 の一世一代の告白だ。しかし、ミデェールは首を横に振る。

 「いけません、様・・・。あなたはこのユングヴィの公女でいらっしゃる」
 「そうね。あなたはそう言うと思ったわ」

 失望し、はミデェールの前を立ち去って行った。わかっていたのに。あの人が、姉を想っていることを。
 そして、運命が変わったあの日。ヴェルダンが攻めてきた、あの日。
 はエーディンと共に攫われた。弓を手にしたのに、何もできなかった。
 ・・・ミデェールが倒れたショックで。
 どうしよう・・・自分のせいだ・・・自分もしっかりと弓を構えて戦っていれば・・・牢屋の中で、何度も自分を責めた。

 「・・・
 「エーディン姉様・・・!? ああ、姉様・・・どちらに?」

 聞こえてきたの声は、隣の牢屋から。は安心したように息を吐く。姉は近くにいてくれた。

 「私たち、このままなのでしょうか?」
 「何を言うの、。大丈夫。必ず助けに来てくれるわ」

 誰が、とは言わなかったが、姉が思い浮かべた人物は、自分と一緒のはずだ。
 結果として、それは少し違ってしまったが。姉と、盗賊のデューと共に、ヴェルダンのジャムカ王子に助けられ、今は森の中を走っている。
 後ろからはヴェルダン兵が追いかけてきている。ああ、もうダメだ・・・そう思った時だった。

 「エーディン! !」

 聞こえてきた声に、ハッとなる。今のはシアルフィのシグルド公子の声ではないか。なんと、グランベルの公子、数名が2人を助けに来てくれていた。そして、レンスターのキュアン王子まで。
 その中で・・・目を引く緑の髪を見つける。が立ち尽くしていると、その人は馬を駆り、近づいてきた。

 「ああ・・・様! ご無事でよかった・・・!」
 「ミデェール、ありがとう。姉様なら、あちらに・・・」

 馬を下りたミデェールに、が背後を振り返り、姉の存在を知らせるが、当のミデェールはの前を離れない。

 「いえ、様。私がずっと気にかけていたのは、あなたです」
 「え? それ、どういう・・・」
 「私も、様と同じ気持ちです。あなたを失ってから、初めて気がついた。あなたを慕っていると」

 ミデェールが恐る恐るといった感じで、手を差し出す。はその手を握った。まるで、夢を見ているようだ。
 ずっと、彼の隣に立つのは、自身の姉だと思っていたから・・・。
 と、そこへ1頭の白馬が寄ってくる。乗っているのは青い髪の青年だ。

 「、君も無事か?」
 「シグルド様! はい! 大丈夫です」
 「そうか・・・。ミデェール、少し相談がある。少しいいか?」
 「はい」

 ミデェールがシグルドと共にの前を立ち去って行くと、入れ替わるように、エーディンがやって来た。

 「よかったわね、。少し、うらやましいわ、あなたが。ミデェールは、私のことを好きでいてくれると思ったのに」
 「エーディン姉様・・・ミデェールのこと・・・」
 「ええ。でも、もうおしまいにするわ。彼はあなたを好きなようだし・・・」

 エーディンの言葉に、はうつむく。だって、彼は姉を好きだと思っていた。

 「幸せになって、

 姉のその優しい言葉に、泣いてしまいそうになる。
 エーディンは、そんなの肩を抱きしめ、優しく微笑んだ。