ドリーム小説
「様・・・!」
聞こえてくる悲鳴。ああ、またやってるのか・・・クスリと笑う。
「マルス様・・・笑いごとじゃありませんよ」
「ああ、ごめんよ、カイン。今日も王妃は元気なようだね」
他人事のように“王妃”と言っているが、自身の妻だ。マルスはフゥ・・・と息を吐くと、立ち上がった。
「このままだと、セシルが困るだろうから、行ってくるよ」
「・・・マリーシアに“あまり余計な入れ知恵をしないように”と言っておきますよ」
「そっちは頼んだよ」
執務室を出たところで、ドン!と何かが右半身にぶつかる。「キャッ!」という声に、ぶつかってきた人物が後ろに倒れそうになり、マルスは慌てて彼女の腰を抱き寄せた。
「マルス!」
「やあ、今日も元気にお妃仕事を放棄かな?」
「だって、私には向いてないもの・・・」
ムゥと頬をふくらませる王妃に、マルスは腰を抱いたまま、顔を寄せる。
「君に窮屈な思いはしてほしくないけれど・・・貴族たちの目もあるからね」
「そうよね〜。異大陸の王女なんて、野蛮人を嫁にしちゃったんだもの」
「」
自分を貶める発言をしたを、ピシャリと叱る。
異大陸といえど、王女は王女だ。それに、は美しい。誰にも文句は言わせない。
「様! いい加減に・・・あ! マルス様!!」
「やあ、セシル。お疲れ様」
王妃を追いかけてきた女性に、笑顔で労いの言葉をかければ、「とんでもありません!」と頭を下げてきた。
「セシルに迷惑をかけているだろう? 申し訳ない」
「いえ! 大丈夫です! マルス様が様のお世話係に私を選んで下さったのですから・・・!!」
「うん・・・セシルには悪いけど・・・」
「マルス様、それ以上はお気になさらないで下さい!」
このままでは堂々巡りになりそうだ。セシルが、マルスに抱きしめられているを見る。
「・・・お戻りになりませんか?」
「私は、お茶会なんて出ませんからね!」
「様〜!」
「お茶会・・・? なんだ、何を騒いでいるのかと思えば」
クスッとマルスは微笑み、の顎に指をかけ、上向かせた。
「ジッとしているのが苦手なお妃様だものね。苦痛でしかないか」
「それもあるけど・・・ご機嫌取りもイヤなの。面白くもないのに、ニコニコニコニコ・・・」
「姉上もいるのだろう? 貴族たちの相手は姉上に任せて、君は大好きなお菓子を食べていればいいさ」
「・・・マルス様、いくらなんでもそれは・・・」
仮にもはこのアリティアの妃であり、エリスは国王の姉だ。自由奔放は王妃であると、知られてはいるが・・・。
「僕は、に僕と結婚したことを、後悔してほしくないから」
だから、のこういった無茶苦茶を、マルスは優しく見守っているのだ。
「それに・・・母親になれば、少しは落ち着きも出るんじゃないかな?」
「え・・・?? 様、懐妊されているんですか!?」
「いや、まだだよ」
セシルがギョッとするも、マルスは笑顔であっさりとそれを否定した。なんだ、ビックリした・・・とセシルはつぶやく。
それよりも、にはきちんと王妃らしくしてもらわなければならない。
「様。こんなことは言いたくありませんが、このアリティアの王妃です。国王陛下の選んだ国母です。それはつまり、マルス様のお顔に泥をぬるのと同じですよ?」
「でも、セシル・・・」
「大丈夫だよ、セシル。僕のは、やるときはやる子だよ」
甘い・・・ああ、マルス様は甘いのだ・・・セシルは頭を抱えた。
「そろそろ時間じゃないかな? 、セシル、僕も少しだけ顔を出すよ」
「え! で、でもマルス様、お忙しいのでは・・・?」
「大丈夫だよ。カインが少し休めと言っていたから」
そんなことは言っていないが、カインはマルスを責めたりはしないだろう。
の腰を抱いたまま、マルスは廊下を歩く。先を歩くセシルが、お茶会の会場前で足を止めた。扉を開ければ、エリスがメイドと話をしていた。
「あら、マルスも一緒だったのね」
とくっついて歩くマルスを見て、エリスが微笑む。弟夫婦の仲睦まじさは、本当に微笑ましい。
「少し、皆さんに挨拶しようと思って」
「そう。皆さんも、あなたとの仲を見たいと思っているわよ」
しばらくすると、客の貴族たちがやって来る。マルスたちと親子ほど年の離れた者もいれば、年の近い者も。皆、女性だ。
「まあ・・・! マルス様! お目にかかれて光栄ですわ! 様も、一段とお美しくなられて! マルス様に大事にされているのですね!」
「はい。陛下はいつでもわたくしを慈しんでくださいます」
ニッコリと。マルスに腰を抱かれたままのが優雅に微笑む。その様に、セシルは目を丸くし、呆気にとられた。
「それでは、ご婦人方の邪魔にならないよう、私はこれで失礼するよ」
「陛下、ありがとうございます」
マルスがの額に口づけし、手を離す。客人たちは国王に頭を下げた。
「皆さん、では女性のみの秘密の会話で楽しみましょう」
「まあ、様。一番お聞きしたいのは、様のことですわよ?」
王妃にふさわしい、毅然とした態度に、先ほどまでの姿を思い出し、セシルは「すごい・・・」とつぶやいたのだった。
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