ドリーム小説

 「! そっちへ行ったぞ!」
 「はい・・・!」

 兄の声に、は魔道書を開き、呪文を短く詠唱する。向かってきていた敵兵に、稲妻が落ちた。
 フゥ・・・と息を吐くも、背後を弓兵が狙っており・・・だが、その弓兵を金の髪をした青年が斬り伏せた。

 「フォルデ・・・! ごめんなさい」
 「いいえ、大丈夫ですよ。あなたをお守りするのが、俺の役目です」

 この場にいた敵兵は、あらかた片付いた。エフラムとオルソンが何やら話しており、その傍らにはカイルが控えている。

 「しかし、なんだってエフラム様についてきたりしたんですか?」
 「迷惑でしたか?」
 「いえ、そんなことはありませんけどね。魔法の力は助かっていますし。不思議だっただけです」
 「・・・・・・」

 フォルデがエフラムと共に戦場へ向かう、それがわかった時、は一も二もなく、魔道書を持ち、兄の後を追いかけていた。
 エイリークと共に城に残る・・・そんな選択肢もあった。それでも、この王女は自ら戦場を選んだのだ。

 「まあ、あのエフラム様の妹君ですし、多少のムチャはなさると予想はしていましたが」

 遠くから、エフラムのとフォルデを呼ぶ声が聞こえる。今日はここで一休みのようだ。
 フォルデの趣味を知っている者は、案外少ない。カイルとゼト、それから部下の兵士が何人か、くらいだろうか? ああ、エフラムも最近知った。そして、彼女も。

 「私、フォルデの描く絵、好きですよ」

 第二王女はそう言って、微笑んだ。自然とフォルデも笑みを浮かべていた。

 「ありがとうございます。もったいないお言葉です」
 「そんな・・・。私は、もっとあなたの描く絵を見たいです。早く戦争が終わればいいのに・・・。あ、そのために私たちは戦っているのですよね。ごめんなさい。バカなことを」

 いつになく饒舌だった。どうやら緊張しているらしい。それもそうだ。この少数精鋭で、明日は玉座を目指して進むというのだから。
 怖いのなら、外で待っていろ・・・と兄に言われたが、外に1人残される方が怖い、と言っていた。ごもっともだ。
 早く戦争が終わればいいのに。終われば、ルネスに戻り、退屈な訓練をこなし、そして絵を描ける。今も描いてはいるが。
 そして、数カ月が過ぎ・・・。

 「様」
 「あ・・・」

 戦争は終わった。今現在、ルネスはフレリアやロストンの援助を受けながら、復興の最中だ。
 その復興の中、フォルデは第二王女がおぼつかない足取りで大きな荷物を運んでいるのを見つけ、声をかけた。立ち止まり、バツの悪そうな表情を浮かべる彼女。見つかれば咎められるのがわかっていたということだ。

 「様の手には余るでしょう」
 「ごめんなさい、迷惑をかけてしまって」
 「迷惑だなんて、思っていませんよ。あなたは優しい人だ」

 これはどちらへ?と尋ねると、が歩き出す。一緒についてくるということか。

 「戦が終わって、皆、うれしそうですね。仲間たちの中には、夫婦になった方もいるとか」
 「そうですか。ああ、ゼト将軍も、どうやら根負けしたそうですね」
 「はい。将軍は私のお義兄様になります」

 エイリークからの想いを、ずっと突っぱねていたゼト将軍だが、どうやら自分の気持ちに素直になったようだ。

 「エフラム様は・・・まだでしょうね」
 「兄様は、そういうことに興味がありませんから」
 「そのようですね」

 フレリアのターナ王女が、何度かエフラムに告白じみたことをしていたのだが、まるでエフラムには通じていないらしい。

 「“あなたの兄様、どうなってるの!?”と、ターナに怒られたことがあります」
 「ハハハッ。それは、とんだとばっちりですね」
 「本当です」

 が1つのテントを指差し、「あそこです」と告げる。フォルデがテントの中に入り、荷物を置くと、が礼を言った。

 「礼には及びませんって。さ、様はエイリーク様の元へ・・・」
 「フォルデと一緒にいては、いけませんか?」

 眉根を寄せ、悲しそうな表情で告げる。フォルデは言葉に詰まる。彼女の気持ちには、気づいていた。

 「フォルデ・・・。私、ずっとあなたに言いたかったことがあります」
 「いえ、それ以上はおっしゃらない方がいい」

 が何を伝えるつもりなのか、わからないほど鈍感ではない。フォルデはその言葉を口にしないよう、首を横に振った。

 「私の気持ちは迷惑ですか?」
 「俺にはもったいない、ということです」
 「そんなこと、言わないで下さい。私は、あなたを想っているのですから・・・」

 ああ、言われてしまった。応えないわけにはいかない。いや、むしろフォルデはを好いている。だが、ゼトのような将軍という立場でもない自分が、王女を娶ってもいいものなのか。

 「フォルデ?」

 フォルデの背後から、声がかかる。今のは主君、兄の方だ。振り返れば、やはりエフラムがいて。フォルデの陰になっていたには、気づいていなかったようだ。

 「ああ、なんだ・・・邪魔したな」
 「え? あ、いえ、エフラム様・・・!」
 「兄様、私とフォルデはそんなんじゃありません。ね、フォルデ?」

 が笑顔を向けてくる。フォルデは「え・・・?」と目を丸くした。確かに、恋人同士でもなんでもない。告白はされたが。

 「フォルデの邪魔をしてしまいました。兄様、怒らないでくださいね?」

 それじゃあ・・・と頭を下げ、はフォルデとエフラムを残し、去って行く。エフラムがジロリ・・・睨むようにフォルデを見た。

 「俺は妹の結婚に口出しするつもりはないが・・・幸せになれない恋路は許さないし、相手も許さない」
 「ちょ、ちょっとエフラム様・・・? 冗談は・・・」
 「冗談なものか。俺に尻を蹴られたくなかったら、とっとと自分の足での元へ行け」

 足を振り上げるエフラム。冗談抜きで、そのまま尻を蹴られそうだ。慌てての後を追う。

 「様っ!」

 名前を呼べば、彼女が振り返る。フォルデは王女の元へ行き、その手を取り、甲に口づけた。

 「俺は臆病者です。エフラム様に背中を押されるまで、あなたから逃げていた」
 「フォルデ・・・」
 「まだ、俺にはあなたを愛する資格がありますか?」

 スッとがフォルデの口元から手を引く。

 「私が欲しいのは、忠誠のキスではありません」

 の言葉に、フォルデは微笑み、忠誠ではなく、愛情のキスを彼女の唇に落とした。