ドリーム小説

 すべての戦いが終わった。竜と人の戦い。
 ニニアンとニルスの姉弟は、自分たちの住む世界へ帰り、仲間たちは別れを惜しんだ。
 は姿勢を正し、辺りを見回した。現在、彼女は祝賀会に参加している。しかし、主の護衛があるため、いつもの鎧姿だが。
 ロウエンと自分は、主の護衛を買って出た。元々、着飾ったりする人間ではない。華やかなパーティーを見守り、これでいいのだ、と言い聞かせる。
 主であるエリウッドは、今日の主役の1人だ。竜を倒した英雄。輝かしいその姿に、の顔も綻ぶ。

 「まったく。このおめでたい席に、若い女性が鎧姿だなんて、興ざめしちゃうわよね」

 聞こえてきた声に、は横を向く。桃色の長い髪、綺麗なドレス。シスターのセーラだ。

 「セーラ・・・あなたのドレスは素敵ね」
 「ありがとう。でも、今は私のことはいいのよ。あなたの話をしているの。せっかくのパーティーだっていうのに、なんでドレスじゃないのよ?」
 「セーラの気遣いはうれしいけど、私はエリウッド様をお守りしなければ・・・」
 「エリウッド様は、そんなこと望んでいないと思うけど?」
 「え?」

 セーラの言葉に、はキョトンとする。彼女はそうとう鈍感だ。あの人の気持ちに気づいていないとは。

 「いいから、着替えてパーティーを楽しみなさいって!」
 「わ・・・! ちょ、ちょっと、セーラ! 駄目だってば! 私はエリウッド様を・・・」
 「こ〜んな平和なパーティーで、エリウッド様を狙う輩なんて、いないわよ! それに・・・ロウエンは役立たずだって言いたいの?」
 「そんなことないわ!」
 「じゃあ、いいじゃないの。ロウエンに護衛は任せて、あなたはパーティーを楽しみましょ!」

 グイグイと腕を引っ張られる。は必死に踏ん張った。騎士として、浮かれるわけにはいかない。

 「あんたたち、何やってんの?」

 聞こえてきた、呆れた調子の女の声に、とセーラは同時に振り返った。立っていたのは、イリアの天馬騎士・・・三姉妹の次女・ファリナだった。セーラがニヤリと笑う。

 「あのね、ファリナ! を着飾ってあげようと思って・・・って! なんであなたもいつもの格好なのよ!」
 「あたしはいいの。そういうの、ガラじゃないし。でも・・・フーン・・・をねぇ・・・」
 「ほら! ファリナもドレス着てないんだもの! 私だっていいでしょ!?」

 がファリナの方へ近づく。心強い味方ができた・・・と、安堵したのだが、ガシッと肩を掴まれた。ファリナに。

 「・・・え?」
 「面白いじゃない。着なさいよ、ドレス。それで、エリウッド様を驚かせてやりましょ!」
 「え? え??」

 セーラ1人では無理でも、ファリナが加われば、力ずくが可能になる。
 ファリナに腕を引っ張られ、セーラに背中を押され・・・気づけばドレスを着て、髪を整えられ・・・パーティー会場に戻っていた。

 「えっと・・・これは、どんな罰ゲーム?」
 「ほら、行った行った!」

 ドン!とファリナが背中を押す。エリウッドの方へ向けて。

 「ちょ・・・ちょっと! セーラ! ファリナ!」

 声をあげる。その声に、傍にいた人々が彼女を見て・・・「へぇ〜!」とは「ほう・・・」といった声があがる。
 人々の輪の中にいたエリウッドが、ざわめきに気づき、こちらを見る。その途端、ドキッとした。
 エリウッドが微笑み、そこにいた人々に声をかけ、こちらへやって来る。逃げようとすると、右腕をセーラに、左腕をファリナに取られた。考えたことはバレバレだったらしい。

 「やあ、。驚いたよ」
 「は、はい・・・あの、この2人にムリヤリ着せられて・・・」

 チラリとセーラとファリナを見やると、エリウッドがクスッと笑った。眩しい笑顔だ。

 「ありがとう、セーラ、ファリナ」
 「いえ、いいんですよ。私たちがしたくてしたことですから!」
 「そうそう。だから、エリウッド様は、と仲良くしてください!」

 2人がエリウッドたちの傍を離れる。「あ・・・」と声をあげ、2人を追いかけようとすると、「」・・・エリウッドに呼び止められた。

 「一曲、踊ってくれないだろうか?」

 見れば、楽団の音色に合わせ、男女がステップを踏んでいる。あのヘクトルも、さすがオスティア候弟。ダンスはお手の物のようだ。・・・付け焼刃に見えなくもないが。

 「エリウッド様、あの・・・!」
 「迷惑かい?」
 断ろうとしただが、それを察したエリウッドが苦笑を浮かべた。はブンブンと首を横に振る。

 「まさか! そんなこと・・・!!」
 「よかった。じゃあ、行こう」
 「え・・・」

 エリウッドに手を取られてしまい、があ然とする。逃げられない。
 ダンスができないかと言われれば、そんなことはなく。それなりに踊ることはできる。だがしかし、エリウッドの相手が務まるかは、疑問だが。
 エリウッドに手を引かれ、ダンスの輪の中へ。英雄のダンスということもあり、皆が注目している。

 「あの、エリウッド様・・・粗相をしたら、申し訳ありません!」
 「やる前から謝ることはないさ。さあ、行くよ」

 スッと踊り出すエリウッド。エスコートも完璧だ。は流れるようにステップを踏む。
 見守っていた人々が、2人に注目する。いつもは鎧に身を包み、髪の毛もボサボサのの着飾った姿は、エリウッドとお似合いだ。
 やがて、曲が終わる。とエリウッドの足が止まり、無事に踊り切ったことに安堵し、ハァ〜・・・と深いため息をついた。

 「無理を言ってすまなかったね。君のことも考えずに」

 エリウッドが苦笑し、そう告げる。は姿勢を正し、「いいえ」とキッパリ返した。

 「エリウッド様と踊れて、幸せでした。ありがとうございます」

 頭を下げ、はそのままエリウッドに背を向け、立ち去ろうとする。

 「、待って」

 だが、エリウッドが呼び止める。はゆっくりと主君を振り返った。エリウッドは彼女に歩み寄り、その手を取る。

 「君を・・・」

 小さくつぶやかれた言葉は、ダンスの音楽にかき消された。
 だがしかし、は顔を真っ赤に染め、うつむく。そして、おもむろに首を横に振った。
 それでも、エリウッドは掴んだ手を離さなかった。