ドリーム小説  

グラドの皇女が、ルネスに留学してきた。持っていたのは、魔道書ではなく、一振りの剣。

 「私、ゼト将軍に憧れているのです! どうか、弟子にしてください!」

 ルネス国王ファードに挨拶したその場で、王の側に控えていた年若き将軍に、は懇願した。あまりにも強い口調で頼まれたので、思わずうなずいてしまった・・・と、後に将軍は言った。
 まずは剣の素振りからだ、ということで、は模擬戦用の剣を持たされた。

 「がんばってるな、

 フゥ・・・と一息ついていると、後ろから声をかけられて。振り返れば、このルネスの王子であるエフラムが立っていた。その翡翠色の髪が、の目には眩しく映る。

 「変わった皇女だよな。リオンは魔術の勉強してるのに、お前は騎士になりたいなんて」

 エフラムと、その双子の妹・エイリークは、今から数年前にグラド帝国に留学している。その時に、の兄であるリオンとも親友になっていた。

 「あら、フレリアのターナ王女は、ペガサスナイトになるって言ってたわ。何もおかしくないでしょう?」
 「ペガサスナイトは、女にしかなれないからな。だが、普通の馬となると・・・」
 「ペガサスと馬と、差別するの?」
 「そんなつもりはないけどな」

 エフラムは、おもむろにの持っている剣を見つめる。

 「・・・槍なら、俺も教えられる」
 「え? でも、エフラムもまだ見習いでしょ?」
 「悪かったな」

 エフラムは槍を、エイリークは剣の修行をしている。まだ見習いではあるが、素質はあると、ゼトは言っていた。

 「まあ、がんばれよ」

 そう言い、エフラムがポンとの頭に手を置く。なんだかんだ言って、優しい王子だ。
 エフラムが立ち去ってからも、は1人で素振りをした。手の平にはタコができていた。それでも構わなかった。

 「、少し休んではどうですか?」

 次にやってきたのは、エフラムの双子の妹・エイリークだ。彼女の背後にはメイドが控えている。

 「ありがとう、エイリーク。お言葉に甘えるわ」

 年はエイリークの方が上なのだが、は砕けた口調で話す。エイリークの口調が丁寧なのは、誰に対しても、だ。優しい王女だから、民たちにも慕われている。
 臣下たちの中には、次期王をエフラムではなく、エイリークに・・・と画策している者もいると聞く。

 「は、いつかルネスに来てくれますか?」
 「え? もう来ているでしょう?」

 今、こうしてここにいるではないか。エイリークもおかしなことを言うものだ。

 「そうではなく。兄上の妃として」
 「えぇ!? な、何を言うのよ! エイリーク!!」

 目の前の王女が発した言葉に、はお茶を吹き出すところだった。口にしていなくてよかった。
 エイリークはフフッと微笑む。美しい王女だ。

 「リオンも、兄上になら・・・と言っていましたよ」
 「か、勝手に話を進めないで! も、もうっ!」

 エイリークから視線を外し、お茶を飲む。これ以上、おかしなことを言われないことを願う。
 気まずいエイリークとのお茶会を終わらせ、は馬を借りて、少々遠出をすることにした。少し、頭を冷やしたい。
 パッカパッカ・・・蹄の音がする。の体が馬の動くに合わせて揺れている。やがて、は馬を止め、そこから見える景色を見下ろした。ルネスの国が一望できる。

 「・・・エフラムの妃、か・・・」

 はエフラムを好きだ。きっと、それは恋というもの。いつの間にか、心が囚われていた。
 だが、それを口に出すつもりはない。リオンは賛成していたと言ったが、父はどうだろうか? エフラムたちのことは気に入っていたようではあるが。

 「、来ていたのか」

 聞こえた声にドキッとする。エフラムと、臣下のカイルがこちらへやって来ていた。は咄嗟に、少々引きつった笑みを浮かべる。エイリークの言葉を思い出してしまったのだ。
 そのの様子に気づくことなく、エフラムは馬を歩かせ、の隣へ。カイルは、少し離れたところで控えた。
 エフラムが馬を下りる。はボンヤリとその姿を見つめ、彼がこちらを見て手を差し伸べたことに、一拍遅れて気が付いた。

 「あ、ごめ・・・キャッ!」

 馬から下りようとしたのだが、バランスを崩し、落ちかかり・・・エフラムがガッシリとその体を受け止めた。

 「おい、大丈夫か?」

 エフラムの声が耳元で響く。抱きしめられ、心臓がバクバクと大きな音を立てる。

 「?」
 「え、ええ・・・! 大丈夫!」

 意識しすぎだ。これではエフラムに怪しまれてしまう。だが、抱きしめられるのは・・・。

 「まったく。騎士を目指そうってやつが、落馬してどうする」
 「そ、そうよね・・・。ごめんなさい」

 エフラムがの体を離す。は真っ赤な顔を見られたくなくて、必死に顔を隠す。うつむいて、エフラムの視線から逃れた。

 「何かあったのか? エイリークと」
 「え? なぜ?」

 エイリークの名に、の顔から熱が引く。この人は、いつも妹のことばかりだ。いや、それでいいのだが。

 「さっき、あいつと何か話していただろう? それが原因じゃないのか?」
 「そんなんじゃないわ。エイリークとは、女の子同士の秘密の話をしていたのよ」
 「秘密ね・・・」

 エフラムがチラリとを見やる。もの言いたげなその瞳に、は首をかしげた。

 「例えば・・・ルネスに嫁入りする、とかか?」
 「!!?」

 エフラムのその発言に、は目を丸くし・・・エフラムはクッと笑った。カマかけただけだろう。

 「いいぜ、嫁にもらってやっても。エイリークも喜ぶしな」
 「か、勝手なこと言わないで! 誰があなたなんかと・・・!」

 真っ赤な顔を隠しきれず、エフラムに茶化される。
 ああ、幸せだった。この頃は幸せだったのだ。
 それはもう、遠い過去の記憶・・・。