ドリーム小説  私と彼は、幼なじみだった。父は教会の神父で、母はシスター。彼の家へ祈りを捧げに行っていた。
 両親と共に、領主様の家へ行っていた私は、そこで彼と仲良くなった。それは、彼の両親が流行り病で亡くなってしまうまで続いた。
 1人になってしまった彼を引き取りたい・・・父はそう言った。母も反対しなかった。私もそれには賛成だった。
 けれど、彼を迎えに行ったその時すでに、彼は屋敷を後にしていた。
 どこへ行ってしまったのか。両親は肩を落として帰って来た。私も、両親と一緒にいなかった彼の姿に、落胆した。
 そんなわけで、数年後。ドニの町で彼を見かけた時、私は目を丸くした。

 「ク・・・クール・・・様・・・?」
 「え?」

 私の言葉に、目の前の青年がこちらを見る。
 長い銀髪をリボンで一つに結び、真っ赤な服に身を包んだ男の人。あの頃より、ずっと大人になっていたけれど、見間違うはずがなかった。

 「おっと、失礼。今、オレの名前を呼んだかな?」
 「私です、です! お忘れですか?」
 「・・・?」

 私が名乗ると、目の前の青年はしばし逡巡し、ハッと表情を変え、マジマジと私を見てきた。

 「もしかして、ウチに来てた神父様の娘か?」
 「そ、そうです!」

 ああ、良かった・・・覚えていて下さった。ククール様が「へぇ・・・懐かしいな」と笑みを浮かべる。
 私も懐かしさから笑みをこぼす。ククール様が私を覚えていてくださったのは、とても嬉しい。

 「ガキの頃、よく一緒に遊んだっけな・・・。お互い、でかくなっちまったもんだ」
 「は、はい」

 ククール様の言葉遣いに首をひねる。良家の子息だというのに、少々乱暴すぎないだろうか?
 そんな私の疑問をよそに、ククール様が言葉を続ける。

 「、ここに住んでんのか?」
 「はい、ククール様は?」
 「オレはマイエラ修道院だ」
 「え・・・修道院に?」

 そういえば、マイエラ修道院は、オディロ院長が孤児を引き取っているという話を聞いたことがある。なるほど、ククール様はオディロ院長を頼ったのか。それならば安心だ。

 「ククール様、私の両親はずっと心配していたんです。安心させるために、会って行って下さいませんか?」
 「うん? ああ、そうだな。の親父さんとお袋さんには、かわいがってもらったからな」

 顔を見せるか、と答えて下さったククール様にホッとし、私たち2人はその場を離れる。ククール様が入ろうとしていたのは酒場だったけど・・・食事でもするつもりだったのだろうか? 修道院の食事が足りないとか? 謎である。
 自宅である教会。その扉を開ければ、礼拝者かと思ったのか、母が顔を覗かせた。私の姿を認めると、「ああ、」と声をかけてきた。その視線がククール様に向けられ、ニコリと微笑んだ。

 「お客様? それとも礼拝の方?」
 「お客様よ。お母さん、聞いて驚いて! ククール様よ!」
 「え・・・?」

 私はチラリとククール様に視線を向ける。彼がペコリと頭を下げる。優雅な仕草だった。

 「まあ・・・ククール坊っちゃま!? ああ・・・ご無事だったのね!」
 「ご心配おかけしました。この通り、無事ですよ」
 「さっきの礼、聖堂騎士になられたんですね。まあ、ご立派になられて」
 「え・・・? 聖堂騎士?」

 お母さんの言葉に声をあげる。聖堂騎士・・・修道士の憧れだ。剣技と魔法に長けた者がなれる存在。私もなることは出来ないけれど、憧れてはいた。
 その聖堂騎士に、ククール様が・・・。
 と、母と同じく家の方から、私の父が姿を見せた。

 「なんだ、騒々しい。何かあったのか?」
 「ああ・・・あなた、ククール坊っちゃまですよ! 聖堂騎士になられて・・・!」
 「ええ!? ククール坊っちゃん?」

 ククール様が再び頭を下げる。父が「ああ・・・ククール坊っちゃん! 間違いない!」と感動に声を震わせた。そのまま、ククール様に歩み寄り、ガッシリと握手を交わした。

 「まさか、こんな所でククール坊っちゃんと再会できるなど・・・! ああ、神よ。あなたに感謝いたします」
 「大げさですよ。でも、そんなに喜んでもらえて光栄です」
 「今日はお祈りに来てくれたのですか? 聖堂騎士になってるなんて!」

 ボロボロと涙をこぼす父に、少々困惑気味のククール様。まさか、ここまで感激するとは、私も思っていなかった。
 お茶をごちそうさせて下さい、という申し出を受け、ククール様が教会から家の中へ入る。我が家は自宅の一角に礼拝所があるのだ。立派なものではないが、町の人たちはよく礼拝に来てくれる。
 昔話に花を咲かせながら、お茶と焼き菓子を振る舞った。子供の頃から思っていたが、ククール様は所作が優雅だ。人を惹きつける魅力をお持ちだ。
 しばらくお茶を楽しんでいたが、父が気付く。修道院の門限のことを。

 「長い時間、引きとめてすみませんでした。ククール坊っちゃん、よければまた顔を見せに来て下さい」
 「ええ、もちろん」
 「、町の入り口まで送って差し上げなさい」
 「はい」

 見送りはいらない、とククール様は言ったけれど、父も譲らない。折れたのはククール様の方だった。

 「・・・なあ、
 「はい」

 家を出て、私とククール様の2人だけになると、おもむろに彼が声をかけてきた。
 町の入り口に向かいながら、私はチラリとククール様の様子をうかがう。
 子供の頃は同じくらいの背丈だったのに、今やククール様と私の身長は頭一つ分ほど違う。

 「の家に、居候させてくれないか?」

 唐突なその発言に、私は目を丸くした。

 「え・・・? でも、ククール様は修道院に住んでらっしゃるんでしょう?」
 「オレは修道院に居場所がなくてね。置いてくれるとうれしいんだが」
 「え? え?」

 居場所がない? どういうこと? ククール様は望んで修道院にいるのではないの?

 「悪い、悪い。混乱させたな」

 クスッとククール様が笑い、私の頭にポンと手を置いた。さっきのは、冗談だったのだろうか?

 「じゃあな。また来る」
 「はい、気をつけて帰ってくださいね」

 私の言葉に「サンキュ」と答えたククール様は、町を出て行った。
 私は、そのククール様の背中が見えなくなるまで、ジッとその姿を見つめていた。