ドリーム小説

 厳格で、規律の厳しい場所・・・それがマイエラ修道院だ。
 礼拝所へ足を向ければ、熱心な信者が真剣に神へ祈りを捧げている。かすかに聞こえてきた「ルーレット」という言葉は、あえて聞かなかったことにしよう。
 はその足で礼拝所の外へ出た。信者が数名、修道院へ入ろうとしている。修道女の姿に、信者たちは深々とお辞儀をし、建物の中へ入って行った。
 最近は、身なりのいい信者が増えてきたように思う。とても信心深いとも思えないが、こうして足を運んでくれている人に対して失礼だろう。気にしないことにした。
 お金があったって、神を信仰する気持ちはそれとは別だ。信心深い人だからこそ、運に恵まれ、財産を得ることが出来たのかもしれないのだ。
 散歩がてら、修道院の周りをグルリと歩いていくと、開けた場所で一組の聖堂騎士が木剣を持ち、手合わせをしていた。
 ペコリと頭を下げ、その場を去ろうとする。は聖堂騎士のほとんどが苦手だ。

 「おい、待て

 ああ、嫌な予感はしていたんだ。それが的中してしまった。
 が彼らに呼び止められる・・・そこには必ずと言っていいほど、1人の男が関係していた。

 「ククールは? あいつは剣の稽古もサボるのか?」
 「本当に問題児だな」

 やはりか・・・。そこに出された1人の人物。の幼なじみである青年の名前に、小さくため息をついた。

 「私はククールの保護者ではありませんので。彼の行動を把握などしていません。文句が言いたいなら、本人へ直接どうぞ」

 冷たくそう言い放ち、その場を離れようとしたが、言葉はまだ続いた。

 「お前も修道女だからここに置いてもらっているが、それはオディロ院長の温情にすぎん。まったく、ククールといい、お前といい、どうしてこう厄介者ばかりなんだ」

 大仰にハァーとため息をつく騎士団員に、はムッとする。幼なじみはともなく、毎日規則正しい生活を送り、大人しくしているが、どうして“厄介者”扱いされなければならないのか。

 「私が女だから、そういう言い方するわけ? 聖堂騎士様って、そんなに偉いわけ?」
 「なに・・・? 口答えする気か? そうだ。女は黙って男の後についてくればいいのだ。とくに、我々は選ばれし、聖堂騎士なのだからな」
 「フン、バッカみたい。要するに、聖堂騎士っていうご大層な仮面を被った、ただの嫌味な男じゃない」
 「なんだと!? 小娘、言わせておけば・・・!!」

 聖堂騎士の1人が、持っていた木剣を振りかざした時だ。

 「無抵抗な女をいたぶって、楽しいか?」

 男の向こう・・・からは男の体が邪魔して見えないが、そちらから別の男の声がした。
 はこの声の主をよく知っている。いや、目の前の男だって、知っているはずだ。

 「誰かに見られたら大変だぜ? “あの”聖堂騎士様が、か弱い修道女に乱暴しようとしているんだからな」
 「な・・・! こ、これはこの小娘が・・・」
 「なんと言おうが、そいつは素手だ。武器を持ったお前の方が不利だぜ?」
 「くっ・・・! くそっ!!」

 悔しそうに2人の男が駆け去って行く。その背中を見送り、は大げさにハァ〜とため息をついた。

 「どこ行ってたのよ、ククール」

 目の前に立った赤い服の男を睨みつけると、ククールは悪びれた様子もなく「ドニ」と短く返してきた。

 「またお酒? まったく、よくも懲りずに・・・」
 「お前こそ。よくも懲りずにあいつらにケンカ売るな」
 「べ、別にケンカ売ったわけじゃないわよ! あいつらが、すごく高圧的な物言いをするから、思わずカチンときて」
 「あいつらの言葉なんて気にするなよ。お前を追い出したくて、仕方ない連中なんだからな」

 院長であるオディロにかわいがられているに、彼らは強く物を言えない。こうしてネチネチと文句を言うことしか出来ないのだ。
 仮に、先ほどの男がに暴力を振るったとすれば、院長から厳重注意を受けるだろう。ククールによって止められたのは、彼にとって幸いだ。

 「ま、とにかく、あまり目立ったことはするな。お前まで、あの騎士団長殿に睨まれるぞ」
 「もうとっくの昔に睨まれてるわよ」

 マルチェロ団長は、ククールとを煙たがっている。2人仲良く修道院を出て行ったらどうだ?と嫌味か本気かわからないことを言うほどだ。
 いや、間違いなく本音だ。
 特別何かをしたわけではない。とにかく、その存在が目障り。マルチェロにとって、ククールとはそういう存在なのだ。

 「ねえ、ククール? たまには僧侶らしいことしたら?」
 「オレのことなんて、ほっとけって」
 「でも、私、いつかあんたが本当にここを追いだされるんじゃないかって、心配なのよ」
 「はいはい。いつもオレのことを心配してくれてサンキュ」

 ぶっきらぼうな口調。だが、ククールはの忠告を心からうっとうしいがっているわけではない。はそれを知っている。
 ククールとは幼なじみ。いや、今となってはそれ以上。家族のような間柄だ。
 素直じゃないのはお互い様だけど、たまには素直に言う事を聞き入れてくれてもいいじゃない? は心の中でそうつぶやいた。
 きっと変わらない。数日後、数週間後。数カ月後・・・今と変わらぬ関係と暮らしが続いていく。
 ぶっきらぼうな物言いしか出来ない幼なじみと、いつもと変わらぬ生活が続くのだ。