ドリーム小説
ウチを溜まり場にしないでくれ、と何度言ってきただろうか。
この生臭坊主はドニの酒場によく現れては、ポーカーの勝負をよくしている。
せめて父親か母親が注意してくれれば・・・と思うのだが、なぜか両親は彼に甘い。
「よ、」
今日も今日とて、やって来た生臭坊主は、店の前の階段をほうきで掃いていた少女に声をかけた。
「・・・また来たの? ククール」
呆れ顔でハァ〜と深いため息をこぼすと、目の前の美青年は「オレに会いたかっただろ?」とアホなことをぬかしてきたので、「そんなわけあるか!」と怒鳴ってやった。
・・・まるで効果はないけれど。
まったく気にした様子もなく、ポンとの頭に手を置いて、ククールは店の中へ入って行く。
「まだ準備中なんですけどぉ〜!!」
「固いこと言うなって。オレとお前の仲だろ」
「どんな仲よ!!」
声を荒げるも、ちっとも動じないククールを追って、店の中へ入る。中へ入れば、カウンターにいたの父親が振り返った。
「おう、ククール坊っちゃん! 朝早くにいらっしゃい!」
「ああ、おはよう。おじさん、坊っちゃんはやめてくれって言ってるじゃん」
「いやはや・・・この辺を治めてた領主様の息子だと知っちゃあねぇ」
ククールが、このマイエラ周辺を治めていた領主の息子だと知ったのは、最近のことだ。フラリと店にやって来た老婆が、ククールのことを覚えており、「ククール坊っちゃん!? まあ、大きくなって・・・!」と涙ながらに告げたのだ。
それ以来、その老婆はこのドニに居ついており、新たな住人となった。
また、その老婆以外にも庭師をしていたという男も姿を見せて。その時は老婆と2人、ちょっとした同窓会のような感じになってしまっていた。
「今日も朝からワインかい? いいミルクが手に入ったんだ。たまには朝食でもどうだい?」
「そうだな。おじさんが、そう言うなら、たまにはいいかな」
めずらしく食事をしているククールの姿に、この人、アルコール以外のものを摂取するんだ・・・などと思ってしまった。
「おう、! 掃除が終わったなら、こっち手伝え」
「はーい」
ほうきを仕舞い、厨房に入り、手を洗ってから作業を手伝った。ククールの朝食を作れ、と言われ、なんで私が・・・と思いながらも、渋々と作る。
「はい、どうぞ」
ククールに朝食を差し出せば、彼はそれを残さず食べ終えた。小さい頃の教育の賜物なのか、この人は食べ方がきれいだ。
と、店の扉が開き、ゴロツキが3人ほど入って来た。
朝から酒を頼み、大きな声で騒ぎだす。少し迷惑だな、と思った。思わず眉をしかめてしまう。客に対していけないことだけど。
おもむろに、ククールが席を立ち、そのゴロツキのもとへ歩み寄る。
「なあ、よかったら、オレとポーカーで勝負しないか?」
ククールの提案に、ゴロツキたちは「面白い」と乗った。これで少しは大人しくなる、ということだったのだろうか。
勝負が始まり、静かになると、は自分の仕事を始めた。
しばらくすると、常連客がやって来る。黒髪の女性だ。「ククール、来てる?」と問われたので、ポーカーをしている彼をクイッと親指で示した。
ククールとゴロツキが勝負している中、客が次々とやって来るので、はその対応に追われていたのだが、ククールたちのテーブルに近づいた時、何やらゴロツキの男が苛立ってるのが見えた。勝てないのだろう。ククールの前には数枚の金貨。彼が勝っている証拠だ。
まさか・・・と思い当たる。彼の得意技“イカサマ”が発動したのか。ハァ、とため息がこぼれる。ほどほどにしてもらいたいところだ。
「ククール、大丈夫かしら? 今日の相手、なんだか怖いわ」
カウンターへ戻ると、先ほどの女性が心配そうにつぶやく。あいつのことだから、大丈夫でしょ、と答えた。
そして、新たに入って来た客に視線を向ける。3人組の男女。少年と少女と・・・ガラの悪い小さな恰幅のいい男。
「いらっしゃいませ」と声をかけると、3人はキョロキョロと辺りを見回して、「あ!」と声をあげたのは少女だ。
「あれって、聖堂騎士団の人間じゃない!? ヤダヤダ、関わり合いになりたくないわ!」
どうやら、この旅人たちは修道院で何かあったらしい。
も噂でしか聖堂騎士団のことは知らない。なんでも高圧的な態度で、何様なんだ?というような感じの悪い男がいる、という話を他の旅人から聞いたことがあった。
「お! ポーカーでげすか! アッシも・・・」
「おっと悪い。今は真剣勝負の最中なんでね。後にしてもらえないか?」
「し・・・真剣勝負だとぉ!? このクサレ僧侶、イカサマしてやがるな!?」
いきり立ったゴロツキが怒鳴り、旅人がそれに火を注ぎ、あっという間に店内は乱闘騒ぎだ。慌てて止めようにも、テーブルや椅子を振り回され、近づくことさえ出来ない。
「ちょ・・・! ちょっと! 暴れるなら店の外で・・・!」
旅人の少女が魔法まで使おうとしているのを見てギョッとしたけれど、その少女の腕をククールが掴んで店の外へ連れ去る姿を、は呆然と見送ってしまった。
だが、店内ではまだゴロツキと旅人の仲間である小さい男の乱闘が続いており、男がゴロツキをぼした後、「ちょっと!」と声をかけた。
「弁償してちょうだいよね!!」
乱闘の後の店内は、それはもうしっちゃかめっちゃか。テーブルや椅子は壊され、酒や食事は床を汚し、他の客は金も支払わずに店を出て行ってしまった。大損害である。
カンベンしてくだせぇ!と逃げ出した男を追いかけ、外に出ると、先ほどの少女と少年がいて。
「あら? ククールは?」
「あいつなら、どっか行っちゃったわよ!」
「そう。まあ、いいわ。あいつは、また会う機会があるし。問題はあなたたちよね。さ、弁償してちょうだい。しめて2000ゴールドってとこかしら?」
「え・・・?」
「“え?”じゃないわよ。お店の備品壊したのと、食い逃げされた分の代金」
はい、と手を差し出せば、3人は顔を見合わせて。
「今、手持ちがないのですが」
「あら、そう? じゃあ体で支払ってもらおうかしら? ククールの所に行って、請求書つきつけてもらえる?」
「え? それだけでいいんですか?」
「それだけで済むわけないでしょ〜が!!」
もちろん、2000ゴールドは少し吹っ掛けすぎたかと反省はしたけれど。
結局、修道院のごたごたが終わった後、ククールたちはの要求通り、体で弁償することになったのである。
「案外、働き者なのね。ウチで雇ってあげようか?」
「いいえ、遠慮しておきます」
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