ドリーム小説
アスカンタには、僧侶の仕事で行った。大きな屋敷へ祈りを捧げに行く修道士の護衛を兼ねて。
一緒に行った修道士には「大人しくしていてくれ」と釘を刺されていたし、あの嫌味な団長殿にも「黙って祈りを捧げることくらい出来るだろう」と嫌味を言われていた。
その祈りを捧げる行為が面倒なのだろう・・・と思ったが、言わずにおいた。もう色々なことがめんどくさい。
だが、自分は修道院を出たら、行く所がない。
修道士の護衛をしながらアスカンタへ向かい、その大きな屋敷へとたどり着いた。
案内され、家人とその妻に会い、早速、小さな祭壇の前で祈りを捧げることになった。
彼女と出会ったのは、その時だった。
思わず、言葉を失っていた。今まで、何人もの女性に出会い、口説き文句を言ってきたが、彼女ほど美しいと思える存在には会ったことがなかった。
また、彼女もククールを見つめ、頬を赤くしていた。父に「どうした?」と言われ、我に返るほど、自分に見惚れていたらしい。光栄なことだ。
修道士と共に食事をいただき、そこで家柄についての話になった。修道士は一般の家庭に育ったことを告げる。ククールも孤児だったことを告げたのだが・・・。
「だけど、ククールさんは、もとはマイエラ領主のご子息でしょう?」
修道士のその一言に、主人の表情が一変した。そして、料金は多く支払うから、今すぐ帰ってほしい、と告げ、食事の場を去ってしまった。
あ然としつつも、こんなことになってしまった以上、屋敷にはいられない。修道士とククールは屋敷を出た。
「ククール様・・・!」
とっととマイエラ修道院に戻ろうとしたククールの背に声がかかる。振り返れば、令嬢が屋敷から出てきて追いかけてきた。
修道士に「先に帰っててくれ」と、1つだけ持っていたキメラの翼を渡した。
「どうかしましたか? お嬢様」
「あの・・・父のこと、気になさらないで下さいね? 父は・・・昔、マイエラの領主様にお金を貸していて、それが返される前に病気で亡くなられてしまわれたでしょう? 未だにそのことを根に持っているのです」
「・・・そうでしたか。父がそんなことを」
金にも酒にも女にも汚い父だとは思っていたが、実際に迷惑をかけている相手がいたとは・・・。
「お父様には、ククール様とは関わるな、と言われました。けど・・・」
「? お嬢様? どうしました?」
「私は・・・ククール様のこと・・・」
恥じらう令嬢の姿に、ククールはドキッとした。まさか、彼女も自分と同じ気持ちだとは・・・。
だが、彼女の父は、ククールとの関係を反対しているという。もしも、2人の関係がバレたのなら、その時は、確実に引き離されるだろう。そんなことは耐えられそうもなかった。
2人の関係はひっそりと、誰にも知られることなく続けられることになった。
「ククール!」
名前を呼べば、銀髪の青年がこちらを向いて。はその青年の胸に飛び込んだ。そのの肩を、ククールが優しく抱きしめ、彼女の長い髪を撫でた。
「会いたかった・・・」
「ああ、オレもだ」
キメラの翼でドニの町まで飛び、そこで2人はいつも会っていた。ここなら、聖堂騎士や修道士に見つかる可能性はあるが、の父に見つかることはないだろう。
いつまで、こんな風に会っていられるだろうか? ほんの少しの時間の逢瀬。しかも、頻繁に会うことも許されていないのだ。
「ククール、私、お父様に話してみようと思うの」
「え? 何を?」
「私とククールの結婚を許して下さいって」
のその言葉に、目を丸くする。ククールを嫌悪しているの父が、そんなことを許すはずもない。
「、そんなことはしないでいい。オレは、こうしてあんたに会えるだけで十分だ。下手なことをして、会うことすら許されなくなったら、どうする?」
「それは・・・」
「いつか・・・いつか、あんたの父親がオレの親父を許してくれた時、その時には・・・」
そんな日が訪れるのかも、わからない。だが、今はこうして少しばかりの逢瀬でガマンするしかない。
の長い髪を指ですくい、そこに口付ける。ああ、この香りをいつまでも傍に置いておきたい・・・そう思う。
だが、今の2人にはそれは許されない。こうして、短い時間に、会うことしかできないのだ。
それでも、彼女と会うことを止められない。少しの時間でも、こうして彼女と触れていられれば・・・。
抱き合う2人の姿は、1つの影になり、地面に伸びていた。
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