ドリーム小説  いつ、何が起きてもおかしくない世の中だったけれど、さすがにこれは想定外だ。
 だだっ広い草原。舗装されていない道。どこまでも広い青空。木々なんかも並んでいたり・・・。

 「え〜っと?」

 私がいたのは、日本の大都会・東京で。人がわんさかいた場所で。こんな田舎、しかもどこか異国情緒漂うようなところではない。
 真夏の休日。部屋でゴロゴロしていた私は、突然のめまいに襲われ・・・ハッと我に返った時には、ここにいた。
 一体全体、どうなった? ここがどこなのかもわからないし・・・。ポカポカ陽気なのは、いいことだけど。
 タンクトップにショートパンツで外に放り出されると思わなかった・・・。いや、この異常事態をなんとかしようよ!!

 「まさか、小説とかでよくある、トリップ?」

 私が好きな小説に、水洗トイレから異世界へ飛び、どこで魔王になる・・・なんてものがあるけど。
 まさか、さすがにねぇ。魔王は、ないよね?
 とにかく、どこか人のいる所を探そう。こんな所にいても仕方ないし。
 立ち上がった私の背後で、ガサッと物音がした。ドキッとしつつ、パッと振り返った私の目に飛び込んできたのは、巨大なベルの化け物。からかさお化けのベル版、みたいな感じだ。
 あぁ、いやいや、そんなことを言っている場合ではない。どう見ても友好的じゃないうえ、話し合いも出来なさそうだ。ど、どうしたものか。
 ニヤリ、と化け物が笑った気がした。まさか、と思った瞬間、飛びかかってくる化け物。次の瞬間、すさまじい風が通り抜け、小さな竜巻が化け物を襲った。強風に押され、私は倒れてしまう、化け物は竜巻に飲まれたまま、バラバラに砕け散った。

 「大丈夫か?」

 これまた背後からの何かの登場に、ビクッと肩が震えた。人の声っぽかったけれど・・・。

 「どうした? ケガでもしたか?」

 再び声がかけられ、私はそーっと振り返った。
 そこにいたのは、パッと見、人間だった。赤い服に、銀髪? どう見ても日本人じゃないけど、今、日本語話したよね?

 「おっと失礼。レディだったとはね」
 「あ・・・あのっ!!」

 近づいてきた男の人に、私は慌ててすがりついた。こんなわけのわからない場所で、人に会えたのは奇跡だ。

 「ここ、どこ!? さっきの、一体なんだったの!? あなた、誰? 私、なんでこんな所にいるの!?」
 「お、おい、落ち着けよ」

 私がまくしたてるように問いかけると、相手の男性は両手を上げ、私をいさめてきた。
 チラッと彼が私を見る。そして、そのまま顎に手を当て、「うーん・・・」とつぶやく。

 「格好はなかなかいいが、色気は無いな」
 「は!? それより、ここがどこなのか教えてよ!! なんでこんなことになってんの?」
 「ちょっと落ち着けよ。オレの方こそ、何がどうなってんのか、わけわからねぇぜ?」
 「だから、ここはどこなの? なんで私、こんな所にいるの!?」
 「オレが答えられるのは、ここがマイエラ修道院の近くだってことだけだ」
 「・・・マイエラ?」

 聞いたことのない地名だ。だけど、この人は日本語をしゃべっている。さっきのバケモノ。ま、まさか・・・。

 「あの・・・あなたって、魔法使えたりします?」
 「あ? あぁ。どうした? どこかケガでもしたか?」
 「!!?」

 や、やっぱり、この世界って・・・。
 剣と魔法とバケモノのファンタジーな世界!?
 う、ウソでしょ・・・? なんで?? なんで私、こんな所に飛ばされちゃったわけ!?

 「どうしたんだよ? おかしなヤツだな」
 「あ、え、だ、だって・・・私の住んでた世界と違うから」

 ハッと我に返る。この人は、私がこの世界の人間じゃないって、わかっていないんだ。どうしよう。なんて説明すればいいんだろう?
 案の定、彼は怪訝な表情を浮かべて私を見てるし。確実に変な人決定だ。ああ、でも見捨てないで。あなたに見捨てられたら、私、のたれ死ぬこと間違いないんです。

 「あの、実は私、この世界の人間じゃないんです」
 「は? 何言ってんだ、あんた」

 ああ、そうだよね。そうなるよね。何言ってんだ、こいつ・・・ってなるよね。でも、私は至ってマジメなのだよ。
 でも、そうだよね。同じ状態になったら、「この人、大丈夫だろうか?」ってなるもんね。ああ、だけどせめて・・・。

 「あの、私を安全な場所に連れて行ってもらえませんか?」
 「へぇ? 会ったばかりの人間に、そんなこと頼むんだ? どうなっても知らねぇぜ」
 「え・・・!?」

 ちょ、ちょっと待って? それってつまり、そういうこと??
 ど、どうしよう。この人、そういう人には見えなかった。あ、改めて見るとイケメンだ。この人相手だったら、ちょっといいかな〜?って・・・! 何を考えてるのよ!!
 色々と頭の中でテンパっていると、目の前の男性がクスッと笑った。そして、そっと手を差し伸べてくる。

 「ほら、一緒に来いよ」

 行くとこ、ないんだろ? 彼が優しい口調でそう言うので、私はその手を取っていた。
 ああ・・・私、これからどうなっちゃうんだろう? そもそも、誰がこんなことしてくれたのよ〜!!
 この先、それも明らかになっていくのだろうか? とりあえず、洋服着させてください・・・。