ドリーム小説
「お嬢様、朝ですよ〜」
メイドの声がし、カーテンが開かれる。は眩しさに眉をしかめながら、起き上がった。
「おはよう、フェリシア」
「おはようございます」
の挨拶に、メイドの少女が応え、服を持ってくる。これに着替えろ、ということだ。
物心ついた時から繰り返されてきたそれ。着替えをすませ、食堂へ行くと、両親が待っていた。
2人に挨拶をし、席につく。祈りを捧げてから、食事が始まる。
「、明後日から長旅をするので、準備をしておきなさい」
「長旅?」
ナイフとフォークを持つ手を止め、は父を見る。父がこくんとうなずいた。
「ベルガラックへ向かう」
「・・・ベルガラック?」
その地名は聞いたことがある。大きな賭博場があることで有名だ。まさか、父はギャンブルに興味を持ったのだろうか・・・?
「カジノのオーナーであるギャリング氏の子息、フォーグ君との顔合わせだ」
「顔合わせ?」
先ほどから疑問が次から次へと湧いて来る。母をチラリと見れば、何も言わずに微笑んでいる。
と、父がナイフとフォークを起き、ナプキンで口を拭い、「」と硬い声で名を呼んだ。
「お前とフォーグ君の婚約が決まりそうだ」
「え・・・?」
こん・・・やく・・・? が小さくつぶやくと、父は「そうだ」と笑顔も見せずにそう言った。
「フォーグ氏の家はベルガラック1裕福で有名なところだ。まあ、カジノの経営者というのは、イメージが良くないが、フォーグ氏は博識で礼儀正しい少年だと聞いている」
「・・・・・・」
父の言葉を呆然と聞きやる。頭の中が真っ白だ。父は、何を言っているのか・・・。
チラリと父がへ視線を向けた。その視線は冷たい。
「少し、お前を自由にしすぎたな」
「どういう意味ですか?」
「頻繁に外出しているようだな。執事が見ている」
「!!」
彼女の想い人と密会しているのを、執事に気づかれていたということか。グッと膝の上で拳を握り締める。
「、もしあの男と・・・」
「失礼します」
父が全てを言いきる前に、は席を立った。そのまま扉の方へと向かい、ドアノブに手をかけたところで、再び父が「」と声をかけてきた。
「あの、マイエラ領主の息子との交際は、けして許さんぞ」
「・・・・・・」
その父の言葉には答えず、は食堂を出ると、自室へ駆け戻った。
すぐに机の元へ駆け寄り、引き出しを開け、キメラの翼を取りだす。これは、いつも彼が与えてくれるものだ。
彼との密会は明後日・・・つまり、ここを出発する日だ。それでは遅い。
「様」
コンコン、と扉がノックされる。ビクッと肩が震えた。フェリシアの声だ。
いけない。彼女が部屋に入ってきたら、ここを出て行くことができなくなる。それではまずいのだ。
慌てて窓枠に足をかける。がそこに立つのと、フェリシアが扉を開けたのは、ほぼ同時だった。
「キャ・・・キャー!! 様、何をなさって・・・!!」
「ごめんなさい、フェリシア・・・!」
外へ身を乗り出すと同時に、キメラの翼を放る。翼は光となり、の体を包むと、そのまま体が飛翔した。
一瞬にして、目的地へたどり着いていた。
荘厳華麗な建物。静かな空気。数人の巡礼者。
そう、マイエラ修道院だ。ここでは、父がたまに連れて来てくれていた。彼と知り合ってからは、まったく来ていなかったけれど。
ゆっくりと足を進める。巡礼者たちと会釈を交わし、建物の中へ。微かに祈りの言葉が聞こえてくる。礼拝者のものだろう。
見学者に続いて、奥の部屋へ。「あの奥は聖堂騎士様たちの宿舎だよ」という声に、は慌ててそっちへ向かった。
「待て! 何者だ! この先は院長の部屋。院長に呼ばれた者か?」
見張りの聖堂騎士が凄んできた。思わず、はそれに圧倒されてしまう。だが、慌てて居住まいを正した。
「申し訳ありません、失礼いたしました。私はと申します。あの、こちらにククールという聖堂騎士が・・・」
「ククール?」
の出した名前に、見張りの騎士が眉根を寄せた。フン、と鼻を鳴らす。
「あいつに用か・・・。ツケでも返してもらいにきたのか?」
「はい?」
「待ってろ。今呼んできてやる」
冷たく言い放ち、騎士が宿舎内に入って行く。
は宿舎を見上げた。大きな建物だ。アスカンタの城ほどではないが。
フト、2階の窓に人影が見えた。首をかしげるだったが、人影が消えた。
と、目の前の扉が勢いよく開かれ、驚くの前に、彼女の愛しい人が姿を見せる。
「ククール・・・!!」
「どうして、ここに・・・!? いや、とにかくここを離れるぞ」
グイッと肩を抱き、ククールはの体を押して進む。裏口のような小さな扉をくぐり、修道院の外へ出た。
外は、いい天気だ。暖かい陽気。気持ちが明るくなるほどに。
「どうしたんだ!? 一体、なんでここに!」
ククールが焦った様子で問いかける。アスカンタで大切に守られて暮らしている彼女は、ここに来るなどとは思いもしなかったのだろう。
「ククール・・・! 聞いてください。このままでは私、ベルガラックへ連れられてしまいます!」
「なんだって? どういうことだ? 落ち着いて話を聞かせてくれ」
首をかしげるククールに、は事情を話した。フォーグとの婚約のことを。
「ククール・・・私を攫ってください・・・!」
「・・・。オレだって、そうしたいのはやまやまだ」
から目を逸らし、ククールが小さくつぶやく。
「修道院を出て、2人だけで暮らす・・・そんな夢のようなことが出来れば・・・!」
「ククール、それならば・・・!」
「だけど、オレは甲斐性無しの不良僧侶だからな。ここを出ても、行き場所がない」
「そんなの・・・2人で見つければいいじゃない!」
すがりつくように訴えかける。このままでは、引き離されてしまう。それだけは、絶対にイヤだった。
「クク・・・」
「っ!!」
尚も言い募ろうとしたの声を遮るように、男の怒鳴り声が響く。ハッとなって振り返れば、の父が、怒りを顕にして、そこに立っていた。
「これは、どういうことだっ!?」
「お父様、私は・・・」
「その小僧と会うことは禁じたはずだっ!!」
が言葉を発そうとするも、父はかぶせるように怒鳴る。
父の後ろには、執事の姿が見える。彼が父をここまで連れて来たのだろう。
ズンズンと父が2人に近づく。と、いきなり父が拳でククールの頬を殴りつけた、が驚いて「キャア!」と悲鳴をあげる。
「よくも娘をたぶらかせてくれたな! お前たち親子は、どれだけ私の物を奪えば気がすむんだ!」
「お父様っ! ククールは・・・」
「黙りなさいっ! よくも今までコソコソと・・・。さあ、帰るぞ、!」
「お父様っ!!」
ああ・・・最悪の事態になってしまった。
ククールもも、突然の別れに、言葉も出ないまま引き裂かれたのだった。
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