ドリーム小説

 暗く沈んだ国の状況。国の状況と同じように、暗い表情の人々。
 最愛の王妃を失い、沈んでしまった国王。未だ、その悲しみから抜け出せずにいるという。

 「どんな人だったの? パヴァン王って」
 「わたくしも、あまりお会いしたことはないのですが、物腰の穏やかな、お優しい方だったと思います。王妃様のことを、心から愛してらっしゃったのですね・・・」

 夜になると、1人で玉座の間に現れ、悲嘆に暮れているという。その姿は痛々しく・・・見ているエイリュートたちの心も抉る。

 「男のくせに、1人の女のことでウジウジしやがって、情けねぇな」

 そのパヴァン王の姿を見つめ、ククールが呆れたように吐き捨てれば、途端にゼシカが眉を吊り上げた。

 「あんたって、ホント僧侶とは思えないわね!」
 「他の女に目を向けりゃいいのさ」
 「世の中の男を、あんたと同じだと思わないでよね」

 ゼシカの言う通りだ。世の中の男全てが、彼のように軽薄ではたまったものではない。「サーベルト兄さんと比べるのもイヤになるわ!」と自慢の兄の名を出した。

 「ここの王様と王妃様は、よっぽどお互いが好きだったんでがすなぁ・・・。うーん、うらやましいやら、なんとやら」
 「おいおい、ヤンガス・・・顔に似合わないこと言わないでくれ」
 「なっ! アッシだって、このくらいは・・・」
 「シッ! お2人とも。ここを離れましょう」

 にたしなめられ、ヤンガスとククールは憮然とした表情を浮かべながらも、うなずいた。
 その後、メイドのキラに頼まれ、エイリュートたちはおとぎ話を頼りに、願いの丘を目指すことになった。

 「ククール・・・」

 その日はアスカンタに一泊し、翌日丘を目指すことになった一同。
 風に当たっていたククールの元へ、が傍にやって来た。

 「これは、姫。お休みにならないで、いいのですか?」
 「あなたのことが、気になって・・・」
 「オレのことが? それはうれしいですね。あなたに気にかけていただけるなんて」
 「大丈夫ですか・・・?」

 尋ねられた言葉に、ククールは首をかしげる。どういうことか。は眉根を寄せ、気遣うような視線を向けて来る。

 「あなたは、とても寂しい方。幼い頃に両親を亡くし、修道院では虐げられ、愛を知らずに育ったのでは?」
 「おいおい、姫・・・オレは、こう見えても・・・いや、知ってるか。モテるんだぜ?」
 「そういうものではありません。浮ついた恋慕ではなく、あなたを愛し、慈しんで下さった方は、オディロ院長だけなのでは?」

 の言葉に、ククールは黙りこむ。ジッと見つめて来るの視線が痛い。
 だが、すぐにフッ・・・と自嘲的な笑みを浮かべた。

 「愛なんて下らねぇもの、オレには必要ないんでね」
 「ククール、でもあなたは・・・」
 「そんなに言うのなら、あなたがオレを愛して下さい。オレもあなたを愛しますよ」

 グイッとの腰を抱き寄せ、彼女の唇に吐息がかかりそうなほどの距離でささやく。
 たいていのことでは動じないの顔が、真っ赤に染まる。異性にここまで接近されたことなどないのだろう。

 「ク、ククール・・・あの・・・」
 「どうしました? 愛してはくれないのですか?」

 ククールから目を逸らし、耳まで真っ赤にしながら、が小さくつぶやく。

 「わ、わたくしは、ククールを愛してますわ。愛は、全ての人間に平等に・・・」
 「禅問答は結構ですよ。そんなもの、オレはちっとも心に響かないんでね」
 「わ、わたくしは・・・」
 「そうではなく、1人の男として愛してくれと言ってるんですよ」
 「そ、それは・・・」

 ああ、少しからかいすぎただろうか。の瞳が潤み始めている。いや、これは危険だ。美しい姫君の涙など、心を揺さぶられるではないか。
 の腰から手を離し、彼女から離れると、はホゥ・・・と安心したように息を吐いた。

 「姫、これに懲りたら、もうオレに説教などしないことですね」
 「ククール・・・」
 「オレは、1人で生きていける。愛なんて感情、いらないんだ・・・」

 冷たくそう言い放ち、宿屋へ戻る。
 フゥ・・・とため息をつき、左手を見つめた。先ほどまで触れていた彼女の温もり。ギュッと握り拳を作り、目を閉じた。
 愛なんてくだらない・・・と、再び心の中でつぶやきながら・・・。