ドリーム小説

 もんのすごいことに、私は現在ファンタジーな世界にいます。
 出身は日本国の下町。黒髪黒目。背も小さめ。童顔。典型的なアジア人。
 その私の目の前には白い肌、銀髪に青い目をした超イケメンが1人。無一文でこの世界に放り出された私は、現在この人のお世話になっております。
 服とか食事とか、寝る場所まで・・・まさに至れり尽くせりの生活を送らせてもらっているのだ。
 彼の名はククール。修道院に住む僧侶なのだと。

 「そういえば、院長さんに私のこと聞いてくれた?」

 パンをちぎり、それを口に入れ、私はククールに尋ねる。シチューを食べていたククールが「ああ」とうなずいた。

 「ホント!? なんだって??」

 思わず身を乗り出す私に、ククールは「まあ、落ち着けよ」と言った。とりあえず、ストンと椅子に座る。

 「結果を先に言うと、院長にもわからなかった」
 「えぇ・・・!?」

 ククールの言葉に、わずかに膨らんでいた期待が、一気にしぼんだ。
 ああ、ダメだ・・・。私、このままこのわけのわからないファンタジーな世界に取り残されて、この小さな町で生涯を終えるんだ・・・。

 「おい、そこまで肩を落とすことないだろ」
 「落とすに決まってるじゃん。帰れないなんて」
 「まだ帰れないと決まったわけじゃないだろ」
 「だって、院長さんにわからなかったんでしょ? もう絶望的じゃんか」

 ハァ・・・とため息をつき、椅子の背もたれに背中を預けた。ドッと疲れが押し寄せてきたかのような焦燥感。
 お父さん、お母さん、お姉ちゃん、弟よ・・・私はもう、あなたたちに会えないけれど、どうか元気で・・・。

 「おい、なんて顔してんだよ」

 コツンと、ククールが左手で私の頭を軽く小突いた。私は少しだけ恨めしげな視線を向ける。

 「だって・・・帰れないなんて・・・」
 「まだ、そうと決まったわけじゃないって言ってるだろ。世の中には、そのことを研究してる人間だっているかもしれない。そういうヤツを見つければいい」
 「どうやって?」
 「旅に出るか。オレと2人で」
 「・・・・・・」

 旅に出る? あんなモンスターがウジャウジャいる外へ出て行けって言うわけ? 死にに行くようなものではないか。

 「ま、ムリにとは言わねぇよ」

 ポン、と今度は優しく頭に手をやり、立ち上がる。いつの間にか、ククールの食事は終わっていた。

 「あ、ちょっと待って!」

 行儀悪いとわかっているが、残っていたパンを頬張り、私はククールを追って、酒場を出た。そのまま向かいの宿屋・・・私の今の拠点へ向かう。
 私の部屋に入ると、ククールはベッドの傍にある椅子に腰を下ろし、腰に下げてあった剣を取りだすと、左手でそれを持った。

 「お前も何か戦える術でも身につけたらどうだ?」
 「え? でも、私って体動かすの苦手なんだよ・・・。たぶん、ムリ」
 「じゃあ魔法でも覚えてみるか?」
 「え! 魔法って誰にでも使えるの??」
 「素質があれば、な」

 う・・・言葉に詰まる。申し訳ないが、素質があるとは思えない。恐らく徒労に終わるだろう。
 剣を鞘から抜き(後から教えてもらったんだけど、剣じゃなくてレイピアだってさ)、手入れをするククールを眺める。右手で持って、左手で布を持ち、手入れをしている。
 あれ?

 「どうした?」

 ジッと見つめていた私に気づいたのか、ククールが顔をこちらに向けた。

 「うん、ククールって左利きなんだ〜って」
 「まあな。気づいたら、そうなってた」
 「そうなんだ〜。左利きの人って、天才が多いって聞いたことあるよ」
 「へぇ? 天才ね・・・。まあ、そうかもしれねぇな」

 う〜わ〜自画自賛ですか。
 でも、あまり嫌味に感じない。ククールって、やっぱり天才肌っぽいのかも。
 そういえば、どこか育ちの良さみたいなのと、理知的なところが見られるよね。不思議。実は、どこかの王子様だったりして? な〜んて。まさかね。