ドリーム小説

 若い女の声・・・いつものことだけど、やっぱり慣れない。
 私はチラッと声のする方へ視線を向ける。
 若くて、キレイな女性に囲まれているのは、赤い服を着た銀髪の男。今日も優雅にワイングラスを傾けている。聞いたところによると、かつてこの辺りを治めていた人の息子だったとか。動作がいちいち優雅なのは、その名残じゃないかと。まあ、そんなことは、どうでもいいんだけど。

 「ね〜え、ククール? 今度、アスカンタへ行きましょうよ〜。2人っきりで!」
 「ちょっと! 抜け駆けしないでよ!」
 「そうよ、そうよ!」

 あーあ・・・また始まった。ああやって、おねーさん方が、あいつの奪い合いをするのも、いつものことだ。
 あいつはいつも無視というか、その状況を楽しんでいるのか、止めるようなことはしない。まったく、最低の男だ。
 あいつとの出会いは、もう1年近く前になる。突然フラリとやって来た。最初は聖堂騎士だなんて思わなくて。彼を見つけた女の人が、ククールを「修道院で会った」と言い、そこから判明したのだ。
 最初は、何かの間違いかと思った。だって、聖堂騎士になんて見えなかった。
 そして、私はショックを受けている自分に気づいた。
 聖堂騎士なんて、私の手の届かない方だ。それなのに、好きになったって・・・。でも、もう手遅れだった。
 そう、好きになっていた。あいつのことを。つまるところ、私の一目惚れだったわけだ。

 「ちょっと、ククール聞いてるの〜?」

 甘えた声が聞こえる。人の話を聞いてないのか、あいつは・・・まったくもう。
 それにしても、なんであんな男好きになっちゃったんだろ。そりゃ、イイ男だとは思うけど、不真面目で、女グセも悪くて。
 と、あいつの方を向くと、バチッと視線がぶつかってしまった。私は肩をすくめ、そっと彼から視線を外した。
 ホント、あいつの女グセの悪さ、なんとかしてほしいわ。
 心の中でつぶやきながら、食材の在庫をチェックする。ああ、調味料が切れそうだ。

 「あ、ククール!」

 女の人の、呼び止める声。どこへ行くんだ?と思った瞬間、目の前にククールが立った。

 「よっ。なーにムクれてんだよ」
 「別にムクれてなんかいません!」
 「いいんだぜ? 素直に言っても」
 「何をよ?」
 「“私以外の女の人を見ないで”ってな」
 「なっ!!?」

 カッと顔に熱が集まった。一体、この男は何を言っているのか・・・。そんなこと・・・! ムカムカ・・・と怒りの感情が湧いて来る。人の気も知らないで!

 「何言ってんの!?」
 「おーおー、ムキになってる、ムキになってる」

 クックックッ・・・とククールが喉の奥で笑う。
 からかわれたのだ・・・。ホント、こいつってば性格悪い・・・っ!! わかってたけどね! 付き合い長いしっ!

 「心配するなって。オレは誰にも本気にならねぇよ」
 「そんなこと、どうでもいいしっ!!」
 「オレが好きなのはただ1人、お前だからな」
 「いいかげんにしてよねっ」

 フン!と鼻息荒くし、私はククールからプイッと顔を逸らした。そんな私の態度に、ククールはカウンターの席に座り、ジッと私を見つめてきた。

 「・・・何してんのよ」
 「のこと見てる」
 「そんなことしてる場合? あのおねーさんたち、こっち睨んでるわよ」
 「お前のこと睨んでるんだろ」
 「あっさり言わないでくれる!?」

 彼女たちに恨まれるなんて、とんでもない! いじめられでもしたら、どうするわけ!?

 「ま、心配すんなって。お前には絶対に手ぇ出すなって言ってあるから」
 「へ?
 「オレが贔屓にしてる店の娘さんだぜ? オレのせいで、お前が酷い目に遭ったなんて、そんなことになったら、オレはもうここには来られないからな」
 「・・・・・・」

 驚いた。そんなこと、考えてくれてたんだ。そりゃ、この酒場に来れないなら、ククールがドニに来る理由はなくなるだろう。私としても、それは残念だ。
 けど、まさか・・・ククールがそんなことを思っていてくれてたなんて。・・・うれしい。現金だな、私も。

 「ねえ、ククール・・・」
 「うん?」

 いつもチャラチャラしてるのに・・・こんな風に思ってくれてたなんて。
 少しだけ気恥かしいけど。けれど、伝えなくちゃ。愛想を尽かされる前に。

 「ありがとう」
 「なんだよ?」
 「意外な姿、見せてくれたから。はい、これは私からのお礼」

 テーブルの上にチーズの盛り合わせを置く。目を丸くし、ククールは「サンキュ」と言うと、手袋を外してチーズに手をやった。

 「ところでさ」
 「うん?」
 「いつになったら、オレの気持ちに応えてくれるわけ?」

 冗談めかした彼の言葉に、私は呆れて口をポカーンと開け、絶句してしまった。
 くそっ・・・チーズ返せ〜!!