ドリーム小説

 足を組み、優雅にカードをさばく銀髪の青年にため息をつく。いや、けして見惚れてのため息ではない。呆れのため息だ。
 また“カモ”を見つけたらしいが・・・今日は、なんとなく様子が違う気がする。
 青年の、ではない。相手の、だ。

 「大丈夫かしら? ククール」
 「うーん・・・あいつのことだから、うまくやるとは思うけど」

 カウンター席に座り、ポーカーに興じる2人の男を見つめ、1人の美女がつぶやく。はそれに軽く返した。
 これは、いつものことなのだ。聖職である彼が、酒を飲み、ギャンブルをすることは。
 どうやら、勝負がついたようだ。もちろん、勝ったのは銀髪の彼。これで7勝0敗か。
 負けた男は悔しがり、捨てゼリフを残して去って行く。力任せに閉めた扉が、ベキッという音を立てて割れた。

 「あぁ〜!! ちょ、ちょっと! 弁償・・・!!」

 と、言ってみたものの、相手の男は、もういない。は盛大にため息をつき、男と勝負をしていたククールを睨みつけた。

 「もう!! ククールのせいで、めんどうなことになったじゃないの!」
 「そうか?」
 「どうしてくれるのよ! この扉!」

 マイエラ修道院宛てに請求書でも送りつけてやろうか。お宅のククールさんのせいで、店のドアが壊れました、と。

 「、ワインのおかわり」
 「ちょっと、聞いてんの!?」
 「聞いてるって。扉だろ? オレが直してやるよ」
 「ハァ? あんたに直せるわけないでしょ・・・」
 「腕のいい大工を知ってる。紹介してやるよ。ただし・・・」
 「ただし?」

 一体、何を条件に出してくるのか。こいつのことだから、ロクなもんじゃないはずだ。

 「ポーカーでオレに勝てたらな」
 「は?」

 何を言っているのか・・・。なぜ、自分がククールと勝負をしなければならない?
 というか、そもそもの発端はククールにあるのに、なぜ「が勝ったら弁償する」なのだろうか。

 「イヤよ。あんた、イカサマするし」
 「バカだな。お前みたいな素人相手に、イカサマなんかするかよ。遊んでやるって言ってんだよ」
 「冗談。私は遊んでほしいなんて言ってません」
 「こんなの、運の問題だぜ? 運だめし。どうだ? 勝てばタダで扉が直るんだぜ」
 「・・・・・・」

 確かに、運の問題ではあるだろう。カードの配りが良ければ、十分勝てる。つまり、がククールに勝つことは可能なのだ。

 「いいわ。その勝負乗った!」
 「お〜。いい心がけだな。人生、時にはギャンブルも必要だぜ」

 それはどうかと思うが・・・とりあえず、勝負だ。ククールの正面に座り、カードを配る手をジッと見る。

 「? なんだよ?」
 「あんたがイカサマしないかどうか、見てんの!」
 「あのなぁ。だから、お前相手にイカサマなんかしねぇっての」

 信用ねぇな・・・つぶやきながら、配り終えたカードをククールが手にする。もカードを持ち・・・チラリ、見やる。ツーペアが出来ている。これは、もっといいのを狙うべきか。ここが勝負の分かれ目だ。

 「さ、どうする? カード、変えるか?」
 「・・・・・・」

 う〜ん、う〜んと唸り・・・決心する。これはこれでいいはず。よし、勝負に出よう。

 「OK! これで勝負する!」
 「お? 自信ありげだな。よし」

 フゥ、と息を吐き、はカードをテーブルの上に広げてみせる。

 「はい! ツーペア!」
 「残念。スリーカード」
 「な!?」

 絶句・・・そんなに簡単に役が出来るものなのか。
 あ然とするの前で、ククールが「オレの勝ちだな」と勝ち誇っている。

 「なんで・・・ククールのせいで壊れた扉を、ウチが支払わなきゃいけないのよぉ」

 ガックリとうなだれるの前に、スッと数枚のゴールドが置かれた。咄嗟にククールを見上げると、クシャリ・・・頭を撫でられた。

 「ま、オレにも責任があるからな。それに、レディを悲しませるのは、オレの趣味じゃないんでね」
 「・・・ククール」
 「お前と勝負が出来て面白かったぜ。またしような?」
 「もういいです」

 拗ねたに、ククールが苦笑する。もともと、こういうゲームが好きなタイプではないのだから、仕方ない。
 「じゃあな」と声をかけ、ククールが壊れた扉を開け、店を出る。と、背後からの声で呼び止められた。振り返れば、が先ほどのゴールドを持って近づいてきた。

 「これ、受け取れない」
 「なんでまた。オレのせいだろ?」
 「でも、勝負には負けたんだもん。もらうわけにはいかないよ」
 「変なとこで律義だな、お前」

 はい、とお金を返してくるだが、ククールはそれを受け取らない。はククールの胸に、ムリヤリお金を押しつけるが、やはり受け取ろうとしない。

 「ちょっと」
 「いいから、それは取っておきな。人の厚意は素直に受け取っておくもんだ」
 「ククール・・・」
 「じゃあな」

 そう言うと、ククールはルーラの魔法で、どこかへ向かってしまう。恐らく、修道院へ戻ったのだろう。夜ももう遅い。

 「なんなのよ、もう。自分勝手なんだから」

 ハァ〜とため息をつき、手元に残ったお金を見やる。

 「まぁ、いっか」

 もともとはククールが原因なんだし・・・と思い直し、はありがたくお金を受け取ることにした。
 ついでに、その腕のいい大工とやらを、ククールに紹介してもらおう・・・うん、とうなずき、は出てきた酒場の扉をくぐり、戻って行った。