ドリーム小説
「、マイエラ修道院に行く用事が出来たが、一緒に行くかい?」
「え? マイエラ修道院に?」
父から告げられた言葉に、は目を丸くした。
マイエラ修道院は、サヴェッラ大聖堂、聖地ゴルドと並んで、世界三大聖地と呼ばれる、由緒正しい場所だ。教会関係者なら、一度は訪れてみたい場所である。
ドニに住むだが、マイエラまでの道のりには、モンスターが出るため、足を運んだことはなかった。両親も同じである。
だが、どうしていきなり?
「昨日、アスカンタから来た旅人が、マイエラ修道院に行くと言うので、一緒に連れて行ってもらうことにしたのだ」
「そうだったの。ええ、私も行きたいです」
「そうか。お前なら、そう言ってくれると思っていたよ」
マイエラ修道院には、ククールがいる。いつもドニに来てくれるので、こちらから会いに行くのは初めてだ。
わくわくしながら、修道院に出発する。昼頃には到着するだとう、とのことだ。
道中のモンスターは、旅人たちが倒し、傷を負えば父がホイミで回復させる。
休憩を取りながらの道中になってしまったので、予定よりも遅くなってしまったが、日が沈む前に到着することができた。
「わぁ・・・!」
その荘厳華麗な建物を見上げ、は感嘆の声をあげた。
自宅の小さな教会とは比べ物にならない。大きな建物。ヒシヒシと感じる神聖な空気。は手を握り合わせ、目を閉じた。
「、中へ入ってみようか」
旅人に礼金を渡し、戻って来た父の言葉に、は「はい」とうなずく。
父が大きな扉に手をかけ、力を込めて押し開く。ギギギ・・・と音を立て、扉が開いた。
聞こえてきたパイプオルガンの音。それ以外の音はしないが、入ってすぐの礼拝堂には、数人の礼拝客がいた。
礼拝堂を抜け、奥へ進む。小さな噴水。水の音が耳に心地いい。
「見学の方かな?」
「え?」
声をかけられ、振り返る。青いケープをし、髪を後ろに撫でつけた男が立っていた。口元には笑みを浮かべているが、鷹のような目が、冷たく父子を見つめていた。
「はい。ドニの町から来ました」
「なるほど。私は聖堂騎士団長のマルチェロ。この奥は聖堂騎士の宿舎となっています。見学はここまでで。それとも、院長にご用事ですか?」
「いえ。ここまでで結構です」
「そうですか。では・・・」
そう言い、頭を下げると、マルチェロは宿舎の中に入って行った。中から数人の男が出てくる。
「あの・・・あなた方は、聖堂騎士ですか?」
「うん? そうだが」
青い服を着た男たちに、は目を丸くする。聖堂騎士は青い服? では、彼は?
「あの・・・こちらに、ククール様という方は?」
が尋ねると、途端に目の前の男たちが眉をしかめる。その様子に首をかしげた。
「ククールの知り合いか? あいつなら、ドニの町だろう」
「あ・・・あの、こちらに在籍しているんですね?」
「ああ、一応な。ほら、ちょうど戻ってきたぞ」
聖堂騎士がクイッと顎での背後を示す。振り返ったの目に映ったのは、確かに銀髪の青年。赤い服を着ていた。
「ククール様・・・!」
「!? なんで、お前がここに・・・」
の姿に目を丸くしたククールは、冷めた目でを見ている聖堂騎士にチッと舌打ちする。そのまま、彼女の腕を引っ張った。
「おじさん、行こう。ここは長居しない方がいい」
「ククール坊っちゃん??」
「早く」
2人をその場から引き離し、3人はそのまま修道院の外へ出た。そこでようやくククールがの手を離した。
バツの悪そうな表情のククールに、は首をかしげ、疑問を彼にぶつける。
「ククール様は、どうして青い制服を着てらっしゃらないのですか?」
「オレはここで異端児扱いなんでね。それに、あんな辛気臭い服、着てられるかよ」
「ククール坊っちゃん、苦労なさってるんですね・・・」
目尻に浮かんだ涙を拭うの父に、ククールは「大げさだよ」と苦笑した。
「何を着てても、オレはオレだろ?」
「それは、そうですけど」
「さ、こんな所に長居してないで、家に帰った方がいい。送るよ」
ポン、とククールがの肩を叩く。まるで、これ以上この話はするな・・・とでもいうような態度で、少し気になった。だが、ここで尋ねても、彼はきちんとした答えを返さないだろう。
ククールのルーラの魔法でドニに戻って来た父子は、家の前でククールに振り返り、礼を告げた。
父が家の中に入って行く。も後を追いかけようとし・・・クルリとククールを振り返った。
「ん?」
「ククール様、何かつらいことがあった時は、私を頼って下さいね」
「え・・・? なんだよ、いきなり」
「私たち一家は、ククール様の味方です。ですから・・・」
尚も言い募ろうとしたの頭に、ククールはポンと手を置いた。彼は、どこか寂しそうな笑みを浮かべていた。
「ありがとな、」
「ククール様・・・」
「覚えておくよ。オレには心強い味方がいるってな」
頭に置いた手で、そのまま撫でると、ククールは手を振り、に背を向け、離れて行く。
は、その姿が見えなくなるまで見つめていた。
聖堂騎士団の闇のようなものが、見えた気がした。
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