ドリーム小説
修道院の食事は、味の薄いスープと、固いパンが主だ。
食事を作るのは当番制。女だからといって、当番の日を増やされたりはしない。意地の悪い彼らなら、それくらいのことはしそうだが、逆に自分の作った食事など食べたくない、という意思表示かもしれなかった。
今日もまた、味の薄いスープと、固いパンを食べ、昼のお祈りをし、部屋へ戻って勉強だ。その後、外でモンスターと戦い、軽く汗でも流そうか。
「よう、」
お祈りをすませ、部屋に戻ろうとしたの前に、銀髪の青年が姿を見せた。目を引く赤い服と、人を惹きつける容姿。色々な意味で、彼はこの修道院で浮いていた。
「ごきげんよう、ククールさん」
「なんだよ、いきなり」
ペコリと頭を下げ、ククールの前から立ち去ろうとすると、不意に腕を掴まれた。
「キャア! 何よ!?」
「何よって・・・そりゃ、こっちのセリフだ。なんだよ、よそよそしい」
「私も、いいかげんに学習したわ。あなたと仲良くしてるから、他のみんなに白い目で見られるんだってね」
「なんだ、今頃そんなことに気付いたのか?」
「今までは、一人ぼっちのあんたに悪いと思ってただけよ!」
フン、とそっぽを向き、歩き出そうとするも、ククールはの腕を放そうとしない。ブンブンと腕を振っても、振り解けなかった。
「んもう! 放してよっ!」
「まあ、ちょっと付き合えよ」
「何言って・・・」
グイグイと腕を引っ張られ、礼拝所を通って外へ。ズルズルと引きずられ、必死にククールの腕をはがそうとした時、身体がフワリと浮く。思わず「キャッ!」と声をあげ、ククールの腕にしがみついた。
一瞬にして、マイエラ修道院からドニの宿場町へ移動し、はハァ・・・と息を吐く。
「ちょっと! ルーラの魔法を使うのなら、一声かけなさいよね!」
「ああ、わりぃわりぃ。ま、お前もたまには息抜きしろよ」
「はぁ? 大きなお世話よ!」
掴まれていた腕を、力任せに振り解けば、ククールは今度は素直に手を放した。「まったく・・・!」と言いながら、掴まれていた部分をさする。けして痛いわけではないが。
「オレが息抜きの仕方、教えてやるよ」
「いいえ、結構です・・・って、ちょっと!」
ククールに背を向け、修道院に帰ろうとしたの手を、ガシッと掴むと、強引に町の中を突き進んでいく。
「どこ連れて行くのよ!」
「息抜きできる場所だよ」
「そんなの、いらないって言ってるじゃないの!」
グイグイと引っ張られ、連れて行かれたのはこの町で一軒の酒場。ククールが入り浸っている店だ。も、よくククールを迎えに来たことがあった。
両開きのドアを開け、中に入れば店のマスターが笑顔でククールを迎え、の姿に目を丸くした。
「こりゃ、めずらしいお客さんだな。いつもの美女とは、また違った清楚な美女だ」
「いや、こいつはこんなカッコしてるけど、ちっとも清楚じゃないよ」
「なによっ! 悪かったわね!!」
ククールとのやり取りに、マスターが笑う。「注文は?」と声をかけてきた。
「オレはいつもの。こいつにはケーキとミルクを」
「はいよっ! ちょうど向かいのおばちゃんがケーキ焼いたって持ってきたんだ。ミルクも上等のが入ってきてるよ」
「そりゃ良かった」
「はいよ」と言いながら、マスターがの前にミルクの入ったカップを、ククールにはワイングラスを置いた。
続いてに差し出されたのは、ココア色したケーキ。マジマジと、はそれを見つめる。
「ほら、食えよ」
「・・・こんなの、食べられるわけないでしょ」
「はぁ? 教会の料理以外は受け付けないってのか?」
「当たり前でしょ。私は修道女よ。ククールとはちが・・・」
言葉を続ける前に、ククールがフォークでケーキを切り、一欠片をの口に押し込んだ。「むぐっ」と、くぐもった声があがる。さすがに口に入れたものを吐き出すわけにもいかず、モグモグと口を動かし、は目を丸くした。
「おいしい」
「だろ?」
「すご〜い! あま〜い! おいしい!」
キラキラと目を輝かせるに、ククールが「ほら」とフォークを差し出す。それを受け取ろうとし、はハッと我に返った。
初めて食べるその味に、思わず興奮してしまった。だが、いけない。自分は戒律を重んじる修道女だ。
「あのな、。神様だて、お前が喜んでる姿見て、怒りゃしないって。法皇様だって、オディロ院長だって、うまいもんを食って幸せになることを怒るような方じゃないだろ?」
「・・・そ、それはそうかもしれないけど」
「それに、作ってくれたおばさんや、提供してくれたマスターの厚意を無下にするつもりか?」
確かにククールの言う通りである。食べ物を粗末にしては、それこそ罰が当たるというものだ。
「いただきます」
「おう。召し上がれ」
両手を合わせ、丁寧に頭を下げてから、は甘いケーキを食べ、おいしいミルクを堪能した。
「どうだ? 息抜きできただろ?」
カウンターテーブルに肘をつき、そこに顎を乗せたククールが、微笑を浮かべて尋ねてきた。
「ま、まあね・・・」
「たまにはいいんじゃねぇの? あんな堅苦しい所にいちゃ、肩がこるだろ?」
ククールほど、気楽には考えられないが、確かにあの息が詰まりそうな場所にずっといるよりかは、いい気分転換になった。
「ククール」
「うん?」
「ありがとう。私のこと、気遣ってくれて」
「ま、大切な幼なじみだしな」
フッと笑むククールに、も微笑み返した。
「また食わせてやるよ、ケーキ」
「・・・うん」
素直にうなずいた。ククールの優しさを、ありがたく受け止めることができた。
きっと、これでしばらくは楽しく過ごせそうだ。そんな予感がした。
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