ドリーム小説

 ベッドからむくりと起き上がる。そのまま、そこから下り、机の側に立てかけておいたレイピアを手に取った。それを腰に佩き、部屋を出る。
 聖堂に続くドアを開けると、そこには3人の聖堂騎士が立っていた。そのうちの1人、鷹のような目をした男がこちらを見て、嫌味ったらしく笑った。

 「また遊びに行くのか。気楽なヤツはいいな」

 団長殿の冷たい物言いにも慣れた。「おかげ様で」と肩をすくめ、立ち去ろうとする。

 「ククール」

 その背に声がかかる。無視しようかとも思ったが、後々うるさそうだ。振り返って団長を見やる。

 「女遊びもほどほどにしておけ。我が聖堂騎士団の名を汚すな」

 ギクッとした。相手は誰だかわかっていないようだが、女と会ってるのはバレているらしい。

 「重々承知の上ですよ、団長殿」

 なんでもないフリを装い、その場を去った。さっさとここから立ち去って、彼女に会いたい。
 修道院を出て、ルーラの呪文を唱える。体が浮き、一瞬にしてドニの町へ移動した。
 ドニの町に入り、その足で宿屋へ。宿屋の主人も慣れたもので、どの部屋に待ち人がいるのかを教えてくれる。礼を言い、その場を離れた。
 ドアをノックすると、ゆっくりドアが開き、中から少女が顔を覗かせた。

 「ククール!」

 パァ・・・とその顔が輝く。ククールは部屋に入ると、少女を抱きしめた。

 「この前会ったばかりだっていうのに、ものすごく懐かしい気分だ」
 「ええ、私も。あなたに会いたくて、たまらなかった」

 見つめ合い、キスを交わす。何度かそれを繰り返し、そっと体を離した。

 「
 「はい」
 「いつまで、こんな風に会えるかわからないが・・・オレは、あなたに心からの愛を伝えたい」
 「ええ。私も同じ気持ちです、ククール。ずっと、こうしていたい」

 そっとククールの胸に頬を寄せ、がささやく。
 2人がこうして、こっそりと逢瀬を繰り返すのには、理由があった。
 の父と、ククールの父の間で、金銭の貸し借りがあった。貸したのは、の父だ。莫大な金だったという。その金を、ククールの父は1ゴールドも返すことなく、亡くなった。借りた金は、ギャンブルに消えたらしい。
 それに腹を立てたの父は、息子のククールを毛嫌いし、娘に近づくなと告げた。
 だが、もう遅かった。ククールとは、一目で恋に落ちた。もはや、誰にも止められないほどに。
 の父の怒りは、もっともだ。どう見ても、ククールの父が悪い。だが、幼かった当時のククールには、どうしようもなかった。
 両親と死に別れ、身を寄せた修道院で腹違いの兄に会い、その兄に嫌われ、院長以外の修道院の人間からも煙たがれた。寄って来るのは、尻の軽い女ばかり。
 そんな時、1輪の花のような可憐な少女と出会ったのだ。

 「あなたはオレに、本気の恋をさせてくれた。何も信じられなかったオレに」
 「それは私も同じよ、ククール。あなたは私に、お金では得られない、様々なものを与えてくれた」

 ククールの手を取り、それを自分の頬に当て、うっとりする。ククールは、その手での頬を撫でた。

 「・・・」

 再び、ククールがの唇に口付ける。
 出来ることなら、この体を自分のものにしてしまいたかった。抱きしめて、キスの雨を降らせて、彼女に自分を焼きつけたいと、何度も思った。
 だが、彼女には無垢な少女のままでいてほしいと思ったのだ。何も焦ることはないだろう。

 「いつか、お父様を説得してみせます。その時は、私と・・・」

 がククールを見つめる。真剣な眼差しで。

 「私と、結婚してくれますか?」
 「もちろん。その時は、迷わず、あなたをもらいに行く」

 抱きしめ合い、そっと誓い合った。
 今は、こうしてひっそりと会うことしか許されない。だが、きっといつか、みなに祝福される時が来ると、そう信じていた。