ドリーム小説

 「え? 聖堂騎士が?」
 「そうだ」

 シェルダンド王の言葉に、ククールは目を丸くした。ラプソーンを倒し、騎士団を抜けてから、初めて彼らと接することになる。

 「そなたも聖堂騎士の一員。懐かしい気持ちもあるのではないか?」
 「・・・そうですね」

 思わず苦笑いを浮かべた。懐かしい・・・確かに懐かしいが、彼らに会いたいとは思わない。
 彼らはククールを厄介者扱いしていた。そのククールが将来は聖王となる。聖堂騎士団より上の地位に就くのだ。彼らにとっては、つまらない、いや気に食わない話だろう。
 ハァ、とため息をつき、自室に戻ったククールは、ソファにドサッと座りこんだ。
 聖堂騎士団は、明日の昼頃に到着する予定らしい。今回は5名。名前を見たところ、見覚えのある人物が数名いる。
 と、コンコンと部屋のドアをノックする音。ククールが立ち上がってドアを開ければ、愛しい王女と、その母である王妃が立っていた。

 「ルティがククールに会いたがっていて」

 クスッと微笑む王女の腕には、白い毛玉のような犬が抱かれていた。
 2人を部屋に入れ、ソファに座らせると、メイドを呼び、お茶の準備をさせる。シェルダンドに来た頃は、これがなかなか慣れず、苦心したものだ。
 紅茶が運ばれ、メイドが部屋を出て行く。が一口それを飲み、ククールに話しかけた。

 「マイエラ修道院から、数名の聖堂騎士が見えるそうですね」
 「そのようですね」
 「あら、ククール様、あまりうれしくなさそうですわね」

 が茶化すようにそう言うが、彼女は知っているはずだ。かつて、ククールが聖堂騎士団の中で、異端視されていたことを。
 彼らの“上”に立つことになったククールだ。複雑な気分だろう。

 「聖堂騎士団の方々は、いつ頃いらっしゃるのかしら?」
 「明日の昼頃だと陛下がおっしゃってました」
 「そう」

 マイエラでの生活を聞かれ、王妃に答えながら、ククールは苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
 王妃が呼ばれ、と2人きりになる。愛犬を膝に乗せ、撫でていたが、気遣わしげな瞳をククールに向けてきた。

 「大丈夫ですか? ククール」
 「オレは何も感じませんよ。気にしてるのは、むしろあいつらの方でしょう」

 果たして、本当に何も感じていないのか。この青年が、本当は繊細な心の持ち主であることを、はよく知っている。何も気にしていないと、そう装っているだけなのかもしれない。
そして、翌日の正午。5人の聖堂騎士がやって来た。そのうちの2人は、まだ年若く、ククールも知らない人物だ。恐らく、入団したての若い騎士なのだろう。
 国王に挨拶をし、聖堂騎士の1人がチラリとククールを見やる。

 「フン、貴様が次期シェルダンド王などとは認めんからな」

 なんとも無礼な発言である。だが、言われたククールは肩をすくめて、おどけてみせる。まるで意に介さない、というような態度で。
 メイドに連れられ、聖堂騎士たちが去って行く。その背中を見つめていたククールに、が眉を吊り上げながら、近づいて来た。

 「ククール! なぜ何も言い返さないのですか! ククールは次期聖王なのです。もっと強く反論なさっても・・・」
 「あいつらには、そんな話は通用しませんよ」
 「けれど・・・!」

 将来、ククールは彼らの上に立つのだ。聖王女の婚約者というだけでも、もはや彼らはククールに対し、敬う態度を見せなくてはならないというのに。

 「そういえば、ククール様は聖堂騎士でしたね。懐かしい人もいらっしゃったのでは?」

 不穏な空気のククールには気付かず、側近の男が笑顔で尋ねてきた。

 「そうですね。懐かしい人ばかりですよ」
 「おお、やはりそうでしたか! 後ほど、時間を取って、皆さんとゆっくりお会いしてはいかがですか?」
 「いえ、彼らも忙しいでしょうから」

 穏やかな笑みを浮かべ、「それでは」と立ち去って行くククールの後を、は追いかけた。

 「ククール・・・!」

 呼び止めると、ククールはため息をついて振り返った。

 「姫、オレは・・・」
 「大丈夫です、ククール。私があなたを守ります」

 のその言葉に、ククールは目を丸くする。対するは真剣な表情だ。どうやら、聖堂騎士に言われたことを、ククール以上に気にしているようだ。

 「大丈夫ですよ、姫。オレには貴女が付いててくれる。わかっていますから」
 「ククール・・・」

 ゆっくりと歩み寄って来たの体を抱きしめる。彼女から与えられる温もりが、ククールの心を温めていった。