ドリーム小説
朝、起きれば両親はすでに起きている。父は礼拝堂の掃除を、母は朝食の仕度をする。
私は、いつものように箒を持ち、外へ出ると、教会の周りを掃除する。いつもと変わらぬ風景だ。
「ちゃん、おはよう」
「おはようございます」
声をかけてきた婦人に挨拶を返す。いつも昼頃に礼拝に来て下さる方だ。
「ちゃん、この前イイ男と一緒にいたわね。恋人?」
「え? 男の人?」
「銀髪で赤い服を着た」
「ああ」
ククール様のことか。1つうなずき、「違いますよ」と笑った。
「あの方は、父が昔お世話になっていた人のご子息です。私も仲良くさせていただいて。幼なじみみたいなものですよ」
「そうなの? あら、お似合いだと思ったのに」
ウフフ、と笑うご婦人に、私は苦笑を浮かべる。申し訳ないが、彼女が好むような間柄ではない。
「それじゃあね。また後で礼拝させていただくわ」
「はい、お待ちしてます」
頭を下げ、見送る。しばらく掃除をしていると、母から声がかかる。朝食の時間だ。
傍から見ると質素だという朝食を摂り、祈りを捧げてから自室へ。本棚から魔道書を取り出し、ページをめくる。
いつの間にか没頭していたらしく、気付けば昼食の時間だ。これまた質素だといわれる食事を摂り、教会から外へ出た。そこで先ほどのご婦人とバッタリ遭遇した。
「あら、ちゃん。また会ったわね」
「こんにちは。礼拝ですか?」
「ええ」
と、婦人が答えた直後だ。酒場の窓が派手に割れたのは。
「な、何かしら!?」
「私、ちょっと見てきます」
「ええ? 危ないわよ、ちゃん!」
「大丈夫ですよ」
微笑んでそう答え、私は酒場へ入り・・・そこで繰り広げられている乱闘にあ然とした。
そして、店の奥から裏口へ出ようとしている人の姿を見つけ、「あ」と声をあげる。
銀髪に赤い服・・・ククール様だ。追いかけようとした途端、私の方へテーブルが飛んで来て、直撃した。
「キャ・・・」
ガツン、腕にぶつかったそれ。私は痛む腕を押さえ、今入って来たばかりの入り口から外へ出ると、裏口へ回った。
やはり、そこにはククール様がいた。そして、見知らぬ男女。何やらモメているようだ。
「ククール様・・・!」
「え?」
背後から声をかけると、ククール様が驚いた様子で振り返った。まさか、私がいると思わなかったのだろう。
「! なんで」
「喧騒が聞こえたので。そちらの方々は?」
「ああ・・・一応、オレを助けてくれた人だ」
「そうなのですか。私からもお礼を言います」
ペコリと頭を下げ、ククール様を見上げれば、バツの悪そうな顔をしていた。
「ああ、そうだ。助けてくれたお礼に」
そう言うと、ククール様は口で手袋を外し、その指にはめてあった指輪を外すと、目の前にいた少女の指にそれをはめた。
「オレの名はククール。マイエラ修道院に住んでる」
優雅なその姿。手袋を外し、少女の指に指輪をはめる一連の動作の優雅さに、私は見惚れていた。
「どうかしたのか? 」
ククール様に声をかけられ、ハッと我に返る。ボンヤリと見つめてしまった。
「え、いいえ。どんな姿も画になるんだな、と思っていただけです」
「・・・・・・」
私の言葉に、3人が呆気に取られた表情を浮かべる。何かおかしなことを言っただろうか?
「どうしました?」
「いや、別に」
と、酒場の中で騒ぎが大きくなる。ククール様が「ここを離れるぞ」と私の腕を掴んだ。
「イタッ!」
途端、ズキリと痛んだそこ。さっき、テーブルがぶつかった場所だ。
私が悲鳴をあげると、ククール様がパッと手を離し、「どうした?」と眉根を寄せる。
「いえ、なんでもありません。行きましょう、ククール様」
「あ、ああ。それじゃあな。あんたらも早めに逃げた方がいいぜ」
ククール様と2人、その場を離れ、教会の前へ。扉を開けて中へ入ろうとすると、私の目の前にスッと赤い服が姿を現した。
「ククール様?」
「見せてみろ」
「え?」
「腕」
その言葉にためらっていると、ククール様が先ほど掴んだ部分を再び掴んで。痛みにピクッと口元が引きつった。
ククール様が袖をめくって眉をしかめる。その部分は赤く腫れていたのだ。
「女が怪我なんてするなよ」
小さくつぶやき、何かをささやけば、ククール様の手が淡い光に包まれ、赤く腫れた私の腕にそれをかざした。
痛みが引き、腫れが収まる。回復魔法のホイミだ。その様を眺め、私も魔法を教わろうか、と頭の隅で思う。
「あ、ありがとうございます、ククール様」
「いいって、このくらい」
クシャリ・・・頭を撫でられた。そのままポンと叩かれる。
「じゃあな」
「え? 寄っていかれないんですか?」
「ああ。今日は大人しく帰るよ」
再び「じゃあな」と告げると、ククール様はゆっくりとした歩調で、町を出て行った。
「・・・・・・」
魔法をかけてもらった腕が熱い。私は、一体どうしてしまったのだろう?
怪我は治ったのに、こんなにも腕が熱いなんて・・・。
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