ドリーム小説

 「と、いうわけなの!」

 連れて来られた場所は、私の世界で言うところのホテル。一瞬、躊躇したけれど、“そういう場所”ではなく、ビジネスホテルのような感覚のようで。その一室に入ると、目の前のイケメンさんが、事情説明を求めてきた。
 もちろん、私は包み隠さずに本当のことを話した。この世界の住人ではないこと。気付いたらここにいたこと。記憶喪失とかじゃないことを。

 「フーン? で、あんた、名前は?」
 「よ。
 「? 変わった名前だな」
 「だから! 私はこの世界の人間じゃないの!」

 もしかして、やっぱり信じてもらえてないのだろうか? ムリに信じてくれとは言わないけれど、見捨てられるのは非常に困る。

 「あんたの言う事は、不思議なことばかりだな。にわかには信じられないぜ」

 椅子に座り、長い足を組むその姿は、とても決まっていて・・・。この人、ムダにイケメンなので困る。

 「私も、今置かれてるこの状況が信じられないです」

 こんなファンタジーな世界に連れて来られて、何をさせたいんですか? 神様。
 足と腕を組み、何事か考えていた彼。あ、そうだ。

 「あの、私の名前は教えたから、あなたの名前も聞きたいんだけど」
 「うん? ああ。ククールだ。よろしくな」
 「ククールさん。はい」
 「いいよ、ククールで」

 なかなかに気さくな人。しかも、初対面でわけのわからないことを言ってる人にも優しい。
 見た目がイケメンなので、高飛車なカンジなのかと思ったけど、そうでもないみたい。そこはホントに助かってる。

 「それで、今後の目標としては、元いた世界に戻りたいと?」
 「そりゃそうだよ。こんな、自分の居場所のない世界にいたくないよ!」

 ここにはテレビもパソコンもケータイだってないし・・・! そんな生活、耐えられない!

 「それじゃ、元に戻る方法を考えないとな」

 うつむき加減になり、真剣な表情を浮かべる彼。私からは横顔しか見えないけれど、やっぱりこの人、イケメンだよね。

 「どうした?」
 「え?」

 と、いきなり彼が私の方を見てきて。思わず見つめていた私は、慌てた。

 「な、なんでもないっ!!」

 必死に誤魔化したというのに、視界の隅に映った彼は、ニヤニヤ笑っていて。うう、なんかすごく恥ずかしい。こちとら、外人のイケメンなんて、お会いしたことないんだから。

 「なんなら、こっちに残ってオレと幸せな家庭でも築くか?」
 「な!? い、いえ! 結構です!」
 「おいおい、少しは悩んでから答えてくれよ」
 「だって・・・私は日本に帰りたいもん」

 生活必需品がない上、あんなバケモノが出てくるとこなんて、冗談じゃない。

 「けど、帰る方法が思いつかないのは、事実だろ?」
 「そうなんだよねぇ」

 ハァ〜とため息をつく私を見て、彼が仕方ねぇな、とつぶやいた。
 もしや、何か心当たりがあるのか!?

 「オディロ院長に聞いてみてやるよ」
 「え? 院長?」
 「ああ。オレが住んでる修道院の院長だよ」
 「あなた、修道院の人なの? お坊さん?」
 「まあ、ちょっと違うけど。とりあえず、ここの宿泊費はオレが持つ。もしかしたら、数日かかるかもしれないから、ここで大人しくしてろよ?」
 「う、うん」

 外に出たところで、危険だろうし。何もなくて、退屈しそうだけど。

 「じゃあな。とりあえず、オレは戻るよ」
 「あ、あの!」
 「うん?」

 部屋を出て行こうとした彼を、私は咄嗟に呼び止めていた。
 だって・・・。

 「私のこと、見捨てたり、しないよね?」

 我ながら情けないと思ってしまうが、仕方ない。この人に見捨てられたら、私は完全に終わりなのだ。
 彼はフッと微笑むと、うなずいた。

 「オレがそんな薄情な男に見えるのか?」
 「う・・・」
 「おいおい、もう少し人のこと信じろよ。大丈夫だって。ちゃんと戻って来る」
 「うん」

 少しばかり不安だけど、疑っても仕方ない。いつまでも、2人でここにいるわけにはいかないのだから。

 「それじゃあな。すぐに戻って来るよ」
 「うん、待ってる」

 私の返事にうなずき、彼は部屋を出て行った。
 「ハァ・・・」とため息をつき、ベッドに横になり、ハタと気がついた。

 「そういえば私、服着てなかった」

 未だにキャミソールとショートパンツ姿なんですけど〜!!
 だ、誰か・・・服を・・・!