ドリーム小説
いつものように、イカサマをしながらのカードゲーム。相手の男がイライラしてきているのを、ククールは確認した。
そろそろ止めようか? いや、この男はもう少し遊べる。さて、どうしよう・・・?と、悩んでいたところに「あの」と見知らぬ少年に呼びかけられた。
それに対し、「真剣勝負中だ」と答えれば、とうとう目の前の男はいきり立ち、それを止めた少年の仲間らしき男が口を出し、取っ組み合いになったところで、2人の男に水をぶっかけた少女が現れ・・・。酒場内は混乱を極めた。
魔法を放とうとした少女の腕を引っ張り、傍でオロオロしていたもう1人の少女の背を押し、ククールは酒場の裏口から外へ出た。
「ちょっと! 放してよっ!」
腕を掴んでいた少女に怒鳴られ、もういいか、と手を離し、振り返った。
まず目が行ったのは胸。次いで顔。やはり、まだ少女だ。この年齢でこの豊満な胸。どれだけ発育が良いのだろう、なんてことを思った。
次いで、その少女の後ろを歩いていた少年を見やる。先ほど、ククールに声をかけてきた人物だ。素朴な、どこにでもいそうな少年なのだが、なぜか妙に気になった。変な意味ではなく。
そして・・・先ほどからビシビシと感じる教会の空気。修道女か何かなのだろう。もう1人の少女を見やり・・・息を飲んだ。
今まで、何人かの女性を見てきた。中には大人の魅力を持った女性、若い女性らしいかわいらしさのある少女、目を引く容姿をした女性には会ったことがあった。
だが、目の前にいる少女は・・・。
「ちょっと! ヤラシー目で見ないでよね!」
ツインテールの少女・・・胸の大きい娘だ・・・が、ククールに対して声をあげる。
けして邪な目で見ていたのではなく、純粋に見惚れていた。ククール自身が驚くほど、純粋に。
「ああ、失礼。そんなつもりじゃなかったんだが」
美しい。いや、それだけではない。シャンと背筋を伸ばし、澄んだ大きな瞳でククールを見つめる少女。長い髪は絹糸のように繊細で。そして、全身から滲み出るオーラ。軽々しく近づけない、そんな力がある。この小柄な少女に、迫力などありもせぬのに、なぜか圧倒されてしまった。
「どうかなさいましたか?」
少女が口を開く。清流のほとりにいるような、穏やかな声。それでいて、迷いのない凛とした口調。
なぜだろう。この少女が気になって仕方ない。彼女から感じる気配は、ククールの嫌いな教会関係のそれだというのに。
「いや、なんでも」
どこかのお偉いさんの娘だろうか? いや、それだとしても、こんな旅人らしき人間と一緒にいるだろうか? 彼女と一緒にいる人物は、どう見てもお付きの護衛には見えない。
と、酒場の中からひときわおおきな物音がした。ここにこのままいるのは、よくないだろう。
「ここは離れた方がいい。そうだ」
手袋を外し、右手の薬指にはめてあった聖堂騎士団の指輪を外す。騎士団の規律に従っているのではなく、単なるお守り代わりのその指輪は、ククールにとって、それほど必要な物ではない。
「今日の出会いの記念に」
清楚な少女の、華奢な指に、その指輪は大きすぎた。
見たところ、腰に剣は佩いているが、恐らく護身用であって、自ら戦うための武器ではないのだろう。
「また会えるといいな」
「その時は、わたくしのことなど忘れているのでは?」
「まさか。あんたみたいな美人、忘れられるわけない」
言いながら、少女の手を取り、その手の甲に唇を近づけた。
「あなたに神のご加護がありますように」
気付けば口にするようになっていた言葉。信仰心から出た言葉ではない。挨拶みたいなものだ。
そっと少女の手を離す。もっと触れていたい・・・そう思った。だが、先ほども感じた通り、ここにいるのは危険だ。
「オレはククール。マイエラ修道院に住んでる。その指輪を見せれば、オレに会える。会いに来てくれるよな?」
「え・・・?」
いつも女を口説くときに見せる笑みを浮かべてみせるも、目の前の少女の反応は薄かった。
クルリと3人に背を向け、その場を走り去る。かすかに、彼の本名を呼ぶ声がしたが、気のせいだろう。短く呪文を詠唱し、ルーラの魔法を完成させる。
「フゥ・・・」
修道院の裏口から中に入り、ドアに背を預け、ククールは息を吐き出し、そっと自分の右手を見つめた。
先程、少女に触れた指先が熱い気がする。まさか。ガキじゃあるまいし・・・心の中で自嘲する。
だけど、まさか・・・?
ドニの酒場で出会った少女・・・この少女がククール自身を変えていくことになるなど、この時は夢にも思っていなかったのであった。
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