ドリーム小説  

「頼む! オディロ院長を助けてくれ!」

 聞こえてきた幼なじみの声に、は足を止めた。
 院長の離れの部屋へ通じる扉の方から聞こえたような気がしたが。
 そちらへ足を進めると、旅人らしき3人の男女が目の前を通り過ぎた。幼なじみが話していた相手は、彼らだろう。
 彼らが歩いて来た方へ視線を向けると、やはりそこにいたのは彼。の姿を見つけると、少しだけ表情を曇らせた。

 「そんな顔しないでくれる? ククール」

 眉をしかめてそう告げれば、彼は「悪い」と素直に謝罪してきた。なんだか、調子が狂ってしまう。いつもなら軽口の1つでも叩くというのに。

 「さっきの人たちは? 知り合い?」
 「あ、いや、知り合いっつーか」

 歯切れの悪いククール。彼のことだ。恐らく、ドニの町で何かしらあって、顔見知りにでもなったのだろう。

 「何か焦ってたみたいだけど、もしかして、さっきから感じる禍々しい気配が原因?」
 「え・・・」

 数分ほど前のことだ。この修道院全体を、およそ聖地とは思えない禍々しい気配が包んだのだ。が部屋を出てきたのは、それが原因である。

 「お前も感じていたのか」
 「もちろん。聖職者なら、みんな感じてるんじゃないの?」
 「いや、そうでもないみたいだ。現に、さっき院長の護衛に言ったが、信じてもらえなかったからな」
 「そうなの? じゃあ、感じてるのは私とククールだけ? 一体、どういう・・・」

 新たに感じた人の気配に、は一旦言葉を着る。ククールと2人、視線を動かせば、そこには聖堂騎士団長殿が立っていた。

 「ほう? どうやら素直に言うことを聞いているようだな」
 「はい?」

 が首をかしげるも、今のはククールに対しての言葉だったようだ。だが、いつもは何かしらの言葉を返すククールが黙り込んだままだ。
 次いで、マルチェロはチラリとを見やった。

 「お前もそいつと一緒に大人しくしていることだな」
 「その言い方はどうかと思いますけど?」
 「お前たち2人がそろうと、ロクなことが起こらんからな」
 「な・・・!?」

 反論しようとしたの腕を、ククールがグイッと引き寄せたので、言葉を飲んでしまった。
 フッ・・・と冷たい笑みを残し、マルチェロは2人の前を去って行った。それを見送り、ククールはハァ、とため息をついた。

 「まったく。相変わらず、オレだけでなくお前も目の敵にされてんだな」
 「そのようですね。私に出て行ってもらいたいみたいだし」
 「人のこと、なんだと思ってんだろうな」

 冷たく言い捨てたククールに、は眉根を寄せ、幼なじみを見上げた。
 その表情から、なんの感情も読み取れない。2人は母親こそ違えど、血の繋がった兄弟だ。それが、こんな風にいがみ合うなんて。

 「あんな人でも、ククールのお兄さんでしょ?」
 「オレはそんな風に思ったことはねぇよ」
 「ククール・・・」
 「とにかく、今は騒ぎを起こしたくない。院長の身に何も起こらなきゃいいんだがな」
 「そうね」
 「あいつらが、無事に院長のもとに着いてくれりゃいいが」

 そう言い残し、ククールがの前から離れる。彼らは誰なのか、聞きそびれてしまった。
 と、カツンと足音が耳に入る。マルチェロの去って行った方だ。
 見れば、やはりそこにいたのはマルチェロで。の視線に気づくと、踵を返して立ち去った。

 「・・・? 何だったのかしら」


 少しだけ気になったが、問い詰めたところで言うはずもなく。逆に黙らされてしまう。
 なんでもなかったことにして、は自室へ戻ることにした。

 その数刻後、修道院が騒然となることなど、誰も予想していなかった。