ドリーム小説

 世界三大聖地の1つ、マイエラ修道院。
 聖堂騎士団・・・法皇をお守りする、有能な騎士を輩出し、歴代の法皇は、ここから選出される由緒正しい場所である。
 当然、規律も厳しい。真面目な僧侶たちが集まり、修道士たちは聖堂騎士になるため、日夜修行に明け暮れている。
 院長はオディロ。厳格な修道院の中に会って、穏やかで物静かな老人だ。身寄りのない子供を引き取って育てるという、孤児院のようなこともしていた。
 引き取られた子供たちは、誰もがオディロに感謝し、彼と同じ聖職者になろうと決める。それほどまでに、オディロは子供たちに慕われていた。
 それは、問題児といわれた1人の青年も同じである。

 「ちょっと!」

 クン、と赤いケープを引っ張る。目の前の青年が足を止めた。相手が誰なのか、声と行動でわかる。
 やれやれ・・・と思いつつ、振り返れば、やはりそこには1人の修道女。

 「お祈りの時間も剣の修行もサボるって、どういうつもり?」

 可愛らしい声が、怒りに満ちている。同じく可愛い顔も、怒りに満ちている。
 めんどうな相手に見つかったな・・・視線を目の前の少女から逸らし、聞いてないフリをする。

 「ちょっと! ククール、聞いてるの!?」
 「はいはい、聞いてるよ」

 案の定、彼女が声を荒げる。両手を上げ、降参・・・というポーズを取る。もう何度こうして彼女に怒られただろうか。

 「ククールが真面目にやらないと、私が迷惑するんだからね!」
 「うん?」
 「ククールの幼なじみってことで、私に色々言ってくるの!」

 ああ、なるほど・・・本人ではなく、別の人間に文句を言うのか。汚い連中だ。それだけ、ククールには何を言っても無駄・・・暖簾に腕押しということか。

 「そんなの無視すりゃいいだろ。“私には関係ありません”ってな」
 「知り合いの悪口言われて、気にしない人いる? 私は、気にする」
 「お優しいさんですこと」
 「茶化さないで」

 こっちは真剣に話してるんだから!と、彼女は更に怒る。
 修道女といえば、静かな口調で、穏やかに神への愛を説く・・・というイメージがククールの中にはあるのだが、どうにもこの少女は、そういう雰囲気とは大きく違う。
 それというのも、ククールが原因だとは思うが。人前に出れば、彼女も修道女らしく、慎ましやかな態度になるのだろう。

 「そんなに気にすんなって」
 「無理だって言ってるでしょ! もう少し、真面目に・・・」

 と、ククールが「シッ」と唇に指を当てる。何よ?と文句を言いたげな彼女に、クイと背後を顎で示した。
 振り返り、思わず口元が引きつった。鷹のような目をした男は、こちらを見て、フッ・・・と嫌味な笑みを浮かべた。
 聖堂騎士団の団長、マルチェロである。

 「相変わらず、仲がいいようだな」
 「おかげさまで」
 「いいえ。そんなことはありません」

 ククールとの言葉が真反対になるが、マルチェロはまったく意に介さない。

 「どうせなら、仲良く修道院を出て、共に暮らしたらどうだ? 邪魔も入らず、いいのでは?」
 「なんでそんな話になるんですか? 意味がわかりません」

 フン!とが鼻息荒く言い返せば、マルチェロは「いい厄介払いだ」と嫌悪感も隠さずつぶやき、去って行った。

 「な・・・何よ、あの態度・・・! 騎士団長だかなんだか知らないけど! 人を目の敵にして!」
 「まあ、実際、目の敵だからな、お前とオレは」

 団長殿・・・マルチェロのな、とククールが続ける。そんな彼を、がジロリと睨みつけ、ズイッと詰め寄って来た。

 「ほらね! ククールがそんなんだから、私まで嫌味言われるのよ!」
 「あぁ・・・はいはい・・・」
 「わかったら、ちゃんとした生活を送ってよね!」
 「前向きに善処するよ」

 善処する・・・それは、直すつもりはないということか。いや、そうじゃない。自分は「その生活態度を改めろ」と言っているのだ。善処するのではなく、了承してほしいのだ。

 「ちょ・・・! クク・・・」

 その事実に気付き、声を荒げるも、ククールは無視し、裏口から修道院を出て行く。慌ててがそれを追いかけ、「あ!」と思った時にはすでに遅く・・・ククールはルーラの魔法でいずこかへ飛び去って行ってしまった。
 いずこ・・・とは言っても、彼の行動範囲は船着き場かドニのどちらかなのだが。
 ハァ〜と深いため息をつき、は今、己が出てきた建物を振り仰いだ。

 「・・・修道院か」

 幼い頃は、自分が修道女になるなど思いもしなかった。
 お転婆な少女であった。それほど信仰心があったわけでもない。を拾ってくれたオディロが僧侶だったため、自然と神に仕える身となった。
 成り行きではあったが、は今では立派な修道女だ。日に三度のお祈りは欠かさないし、規律の厳しいこの修道院で、真面目に暮らしている。
 ただ、幼なじみがアレなので、周りから煙たがられている。また、彼女が“女”であることも影響しているだろう。
 基本、このマイエラ修道院は女人禁制なのだ。つまり、は特例と言える。オディロ院長が目をかけているからである。
 マルチェロがを追い出せないのは、オディロの影響があるためだった。もしもオディロの命令がなければ、はとっくの昔に追い出されているだろう。

 『ま、こんなムサ苦しいとこ、こちらからオサラバしてやるけどね!』

 聖地ゴルドで修行しないか?とオディロから勧めがあった。いい勉強になる。この機会を逃す手はないだろう。
 気になるのは、あの問題児の幼なじみだが・・・彼も子供ではないのだから、大丈夫だろう。
 もうしばらくしたら、この場所ともお別れになる。
 荘厳華麗な建物を見つめ、はなぜか少しだけ寂しさを感じた。