「ねぇ・・・結局、黒犬の情報は手に入らなかったし、サヴェッラ大聖堂で聞いた、海賊のアジトへ行ってみない?」
ゼシカの提案に、反対する者はいなかった。
ベルガラックを出発しようとした時、ククールがカジノの方を見つめて、寂しそうな目をしていることに気が付き、が声をかけた。
「どうかしましたか、ククール? まさか、カジノで遊びたいとか・・・」
「いや・・・オレの親父は、没落したとはいえ、地方の領主だったんだ。当然、ここのカジノにだって、来たことあるはずさ。ルーレットやスロットに散財してたのかと考えると・・・複雑な気分になるな」
「ククール・・・」
「女好きでギャンブル好き・・・ハハッ、まさにオレと瓜二つってわけか。兄貴が嫌うわけだよな・・・。フォーグとユッケは、無事に仲直りできたけど・・・オレの場合は・・・」
言いかけたククールの言葉を遮るように、がククールに抱きついて来た。子供を安心させるかのように、優しくギュッと抱きしめてくれた。
「大丈夫ですわ・・・今は、難しくても、マルチェロとあなたは、いつか分かり合える日が来ます。その日が来るまで、けして諦めないでください」
「・・・姫」
「それと、ダヤン・イリスダッドと、あなたは全然違いますっ」
身体を離し、が頬をふくらませて抗議する。
「あなたは、寂しさを紛らわせるために、ギャンブルと女の方に走った。ダヤンは自分の快楽のために没落した。本当に、あなたのおじい様は素晴らしい方だったというのに・・・どうして、そんな子供に育ってしまったのか・・・!」
「・・・それのいい例をオレは知ってるぜ? もっとも、そいつは地方領主の息子じゃなくて、王子だけどな」
「え・・・? あ・・・!」
誰か思いついたのか、は声をあげ、口に手を当て・・・クスッと微笑んだ。
「いけませんわ、ククール。ここはサザンビークも近いのですから」
シーッと口に指を当てるだが、ククールは肩をすくめる。
「おや? オレはサザンビークの王子だなんて、一言も言ってませんよ?」
「え・・・まあ! ひどいっ! 王子なんて、1人しかいらっしゃらないじゃないですか!」
思わず、顔を見合わせ、2人で笑ってしまった。
よかった・・・暗い顔をしていたが、ククールがいつもの調子に戻ってくれた。
「さ、行きましょう、姫」
「ええ」
差し出された手を取り、はうれしそうに微笑んだ。
この人は私が守る・・・と、再びはそう思った。彼の笑顔が見たいから。彼が寂しさに押しつぶされないようにと・・・。
「しっかし、実際アッシらがいなかったら、フォーグもユッケも竜骨の迷宮で行き倒れてたかもしれねぇでげすよ」
「もしそうなったら、跡取りが亡くなったってことで、今頃カジノは人手に渡ってたかもしれないわね」
ヤンガスとゼシカがカジノを振り返り、感慨深げにつぶやく。予想外の出来事で騒動に巻き込まれてしまったが、これはこれでよかったのだろう。
「その方がよかったんじゃねーの? この先兄妹ゲンカが起こるたびにカジノが閉鎖したら、客もいい迷惑だろ」
だが、そんな2人の言葉に水を差すように、ククールが冷たく言い放った。
「それがあなたの本心じゃないくせに。わざと冷たく突き放したことを言って、カッコつけるのはよしなさいって」
「うっ、うるせーな!」
図星を指されたのか、めずらしくククールが顔を真っ赤にしてゼシカに突っかかった。
「ククールは変なところで素直ではないのですね。真っ赤になって、カワイイですわ」
「・・・姫、おかしなことを言うのはやめてくれ」
「まあ、わたくしはククールの意外な一面が見られて、楽しいですわ!」
「オレが弱ってる姿を見て楽しむなんて・・・意外と悪趣味なんだな、オレのお姫様は」
和やかなやり取りを交わすとククールの姿に、エイリュートたちの顔からも笑顔がこぼれた。
サヴェッラ大聖堂にいた船乗りの情報を元に、トラペッタの南へ向かうと、確かに隠れるように洞穴があった。船ごと入ることができるその場所は、まさに海賊のアジトと呼ぶにふさわしい場所だった。
「アッシ、聞いたことがあるでがす。大海賊キャプテン・クロウの財宝が隠された洞窟が、どこかにあるって。もしかして、ここがウワサに聞くキャプテン・クロウの隠れ家なんでやしょうか?」
キョロキョロと洞穴の中を見回し、ヤンガスがつぶやく。ククールも船を下り、洞穴内を見回した。
「船が丸ごと入るってことは、とんでもなく大きな洞窟だな。こんなものが人目につかずに隠されてるとは・・・。どうやら、ここはかなり胡散臭いシロモノのようだな」
「リーザス村からも、そんなに遠くないこの渓谷に、洞窟があったなんて、初耳だわ。エイトたちと一緒に旅に出てなかったら、きっと一生気づかなかったでしょうね」
確かに、こんな場所にこんな洞窟があるなど、誰も思わないだろう。旅に出たことで、新しい発見ができたと言える。
船から下り、洞窟内へ入ることに決めた。もしも、船乗りたちのウワサが本当ならば、キャプテン・クロウは光の海図というものを持っていたらしいのだ。それは、普通の船ではたどりつけない島への道。つまりは、神鳥の島へ渡るための手掛かりかもしれない。
「お手をどうぞ、姫」
「ありがとうございます」
こういうときも、エスコートは忘れない。手を差し出したククールに、が笑顔で応える。その自然な仕草に、エイリュートは「なるほど・・・」と参考にしたようだ。
洞窟の入り口には、鍵がかかっている。特殊な鍵で、普通の鍵では開かないようだが、エイリュートはメディにどんな鍵でも開けてしまう鍵を譲り受けている。難なく扉を開け、中へ入ろうとしたときだった。
一隻の船が、こちらへやって来るのが見えたのだ。思わず、5人は立ち止まり、その船に見入ってしまう。まさか、人目につかないこの場所を見つけるとは・・・一体、誰が?
と、船から下りてきた人物を見て、ヤンガスが「げっ!」と声をあげた。彼にとっては、出来るだけ会いたくない相手だったのだ。
そう、船から下りてきたのは、ヤンガスの昔馴染み・・・女盗賊のゲルダだった。
「どこかで見たカオだと思ったら、ビーナスの涙をプレゼントしてくれた親切なご一行じゃないか。それにしても、ずい分めずらしい所で再会したもんだね」
あ然とするエイリュートたちに、ゲルダは意外そうな表情を浮かべながら声をかけてきた。
一番先に我に返ったのは、ヤンガスだ。ズイッと一歩、前へ出た。
「て・・・てめえはゲルダ! 一体、どうしてここに!?」
「何でも、ウワサによると、ここにはあの大海賊キャプテン・クロウのお宝が眠ってるって話じゃないか。あたしはお宝って言葉に目がなくてね。こうして、わざわざ船を仕立ててやって来たってわけさ」
そう言うと、ゲルダはチラッとエイリュートたちに目配せをした。
「・・・見たところ、あんたたちも目的は同じみたいだね。フン。面白いじゃないか。それじゃあ、海賊のお宝を手に入れるのは早い者勝ちってことだね。・・・そうと決まったら、ノンビリはしてられない。あたしは一足先に行かせてもらうよ!」
ゲルダが開けたばかりの扉から洞窟内へ入ろうとするのを、ヤンガスが呼びとめた。
「お・・・おい、待てよ。勝手なことばかり言いやがって! それに、ここにゃ魔物も出んだろ? お前1人でお宝がある場所まで辿り着けるもんかよ!」
「見くびってくれるじゃない。あたしの忍び足の実力は、あんたも知ってるだろ? 魔物どもなんかに見つかるようなヘマはしないさ。動きの鈍い、あんたとは違ってね!」
颯爽と、ゲルダはエイリュートたちに手を振ると、そのまま洞窟内へと入って行ってしまった。
あまりの出来事に、5人は呆気に取られたまま、数秒間その場に立ちつくしていたが、ゼシカがハッと我に返った。
「カギを開いたのは私たちなのに、なんでゲルダさんがとっとと先に行っちゃうの? まったく! ヤンガスがしっかりしてないから、こうなるのよ!」
「・・・ぐぬぬ〜。返す言葉もないでがす」
ゼシカの言葉に、ヤンガスはガックリと肩を落とした。ゲルダを止められなかったのは、エイリュートたちも同じだが、彼らにゲルダを止めることなど、到底不可能である。
「普通なら美女との再会は大歓迎なんだが・・・。さすがのオレも、この再会だけは喜べねえな。まったく、面倒くさいことになったぜ」
「さあ、エイリュート! グズグズしていては・・・いたら、ゲルダさんに先を越されてしまいますわ・・・しまうわ。早く先へ急ぎ・・・ましょう!」
「? は、はい」
ぎこちない口調でエイリュートに告げるに、一同は首をかしげる。一体、何がこの王女を変えようとしているのか。
「姫? どうしたんだ、いきなり」
「あなたは、ゼシカやゲルダさんのような方が好みなのでしょう? ですから、わたくし・・・あたしも、そうなろうと思いまして・・・」
「は? おいおい、勘違いしないでくれ。オレはそんなことを一言も言った覚えはないぜ?」
「ですが、わたくし・・・あたし以外の女性を“美女、美女”とおっしゃ・・・言ってますわ!」
「・・・姫はオレがどんなに口説いても、相手にしてくださらないじゃないですか」
「そんなことありませんわ! ・・・ないわ!」
「姫、ムリしない方がいいわよ。いきなり口調を変えるなんて、難しいだろうし・・・お国の人に、そういう口調で話すようにって言われてるんでしょう?」
「・・・・・・」
黙り込むは、ゼシカの言ったことが図星だということを表している。
「・・・わたくしの口調は堅苦しいと、そうお思いでしょう?」
「だって、王女様だもの。私は、姫は今のままでいいと思うな。とっても清楚で、気品があって、姫に似合ってる。逆に、私みたいなのは、似合わない」
「ゼシカ・・・」
「ククールは、ああいう男なのよ。いちいち、あいつの言うことに気を遣ってたら身が持たないわ。ほっときましょう」
言いながら、ゼシカの目に飛び込んできたのは、隠し扉を発見したエイリュートと、その扉を開けてさっさと先へ進んでしまうゲルダの姿。
「あ〜っ! もう! 隠し扉を見つけたのは、エイトなのに、何でゲルダさんが先に行っちゃうの!? ヤンガスも黙って見てないで、何とか言ってやりなさいよ!」
「・・・そんな、アッシばかり責められても困るでがす」
食ってかかるゼシカに、ヤンガスはタジタジだ。今回は、女と女の戦いとなりそうな予感がした。
「やはり女盗賊のカンってのは侮れないものがあるな。オレも昔、二股かけてた時は、色々勘ぐられて誤魔化すのに苦労したもんだぜ」
「それは女盗賊のカンじゃなくて、女のカンでしょ! て言うか、姫の前で、そういう不潔な発言はよしなさいよね!」
「・・・二股かける、というのは何ですの?」
「あぁ〜! ほら、もうっ! ククールが余計なことを言うから〜!!」
「・・・なんだか、ゼシカの姉ちゃん、荒れてるでげすな」
ゲルダの行動が、よっぽど気に入らないのか、ゼシカはピリピリした様子だ。ムリもない。こちらが苦労してしたことに対し、ゲルダが先を越してしまうのだ。苦労が報われないというものだ。
「さすがは伝説の大海賊キャプテン・クロウがお宝を隠した洞窟でがすね。きっとこの先も侵入者の行く手を阻む仕掛けが施されてるはずでげす。仕掛けを見落とさないよう、注意して進んで行きやしょうぜ」
「そうだね・・・。まあ、ゲルダさんに先を越されちゃ、何の意味もないけど」
今のところ、エイリュートたちは後手に回っている。なんとかして、先に宝のある場所へたどり着きたいのだが・・・。
「しかし、本当に海賊のお宝なんて隠されてるのか? 宝箱を見つけてみたら、中身は空っぽ・・・なんてことがなきゃいいんだがな」
「・・・不吉なこと言わないでくれよ、ククール。それでなくても、ゲルダさんと勝負してるっていうのに」
そんなことを言っていると、目の前からゲルダがやって来る。思わず、一同は身を硬くした。
「ああ、また会ったね。言っとくけど、この先にはめぼしい物は何もなかったよ。まっ、信じる信じないは、あんたたちの勝手だけどね」
そう言うと、エイリュートたちとは反対の方へ歩いて行ってしまった。
「どうする・・・? ゲルダさんは、ああ言ってたけど」
「・・・一応、見てみようか。見落としがあるかもしれないし」
行ってみた小部屋は、確かに何もないのだが・・・水路のような場所に1つのハンドルがあり、それを回すと水路の水が抜ける・・・という仕組みになっていた。
そして、その水路が先に続く道・・・なのだが。やはり、そこで姿を見せたのはゲルダだ。
「なるほど。そのハンドルを回すと水が抜ける仕掛けだったわけね。礼を言っておくよ。あんたたちが気づいてくれたおかげで、先に進むことができる。でも運がなかったね。せっかく仕掛けを見抜いたのに、あたしに先を越されちゃうんだから」
手をヒラヒラと振り、ゲルダが先へ行ってしまう。ゼシカはフルフルと肩を震わせ、エイリュートへ食ってかかった。
「エイトっ!! ほらっ! 早く追いかけるわよ!!」
「わわっ・・・! ちょ・・・ゼシカ・・・!」
グイッとエイリュートの腕を引っ張り、駆け出すゼシカ。「兄貴〜! 待ってくだせぇ!」と言いながら、ヤンガスが後を追いかける。残されたククールとも、顔を見合わせ、ゼシカとエイリュートを追いかけた。
最深部までようやく辿り着いたのだが・・・一行の目に飛び込んできたのは、宝箱の前で自信満々に笑みを浮かべるゲルダの姿だった。
「遅かったじゃないか。勝負はあたしの勝ちみたいだね。約束通り、お宝はもらっていくよ」
「ちょ・・・ゲルダさ・・・」
エイリュートが慌てて止めようとするが・・・そのゲルダの目の前に、見るからに海賊・・・という出で立ちの亡霊が現れた。思わず、ゲルダの動きが止まる。
《わが名はキャプテン・クロウ。かつて世界の海を股にかけし海賊の中の海賊。我が財宝を狙う者よ。汝はそれを手にする資格のある者か? あると言うならば、我と戦い、その力を示せ。資格なき者ならば、悪いことは言わぬ。早々に立ち去るがよい》
亡霊の言葉に、ゲルダは舌打ちし、腰の短剣を抜いた。
「あたしは戦うのは、あんまり得意じゃないんだけどね・・・」
武器を構えたことで、相手とみなしたのだろう。キャプテン・クロウがゲルダに持っていた刀を振り下ろす。さすがに戦いに慣れていないことで、ゲルダは防戦一方だ。
クロウが真空波を放つと、ゲルダの身体は吹っ飛び、手から短剣がこぼれ落ちた。
「ゲルダっ!! くそっ、弱いくせにムリしやがって!」
「いくら忍び足がうまくても、実際の戦いになったら、あんなもんか。・・・さて、美女のピンチだ。全ての美女の味方であるオレとしては、助けないわけにはいかないな」
「美女だから助けるわけじゃない・・・。目の前に倒れている人がいるから、助けるんだ!」
ククールの言葉を真っ向から否定し、エイリュートが背中の剣を抜く。
《汝らも我が財宝を求める者か? ならば、我と戦い、その資格を示すがよい》
キャプテン・クロウがエイリュートたちに襲いかかって来た。
真空波と、剣戟、亡霊とは思えないその攻撃力に、エイリュートたちも防戦一方になってしまうが、どうやらこの海賊、相当の好色家だったらしい。ゼシカの姿に見惚れることがしばしば・・・。
「亡霊のくせに、ヤラしい男だな・・・」
「あんたに言われたくないでしょうね」
ククールの言葉に返しを入れながら、ゼシカが双竜打ちをお見舞いする。容赦ない鞭での攻撃に、見惚れていたキャプテン・クロウが我に返る。
気を失っているゲルダを巻き込まないよう、が傍にいるのだが、キャプテン・クロウはの姿にも見惚れている。
さすがに、女性陣をこれだけ注視されると、エイリュートたち男性陣も気分のいいものではない。それぞれの恋人は、それが顕著に現れる。
エイリュートとククールの隼斬りが、いつもよりも気合いが入っているように見えるのは気のせいだろうか。
「そうだわ・・・! 相手は亡霊ならば・・・」
が小さくつぶやき、立ち上がる。ゲルダの傷は浅い。すぐに気がつくだろう。
苦戦しているエイリュートたちに、が加勢する。の攻撃力が加われば、かなりの戦力アップだ。その上、何か勝利を確信しているのか、その表情には自信が見て取れた。
「神よ・・・力を・・・迷えし魂に安らかな眠りを・・・!」
何度も見慣れた、白い波動が放たれる。光がキャプテン・クロウを直撃し、苦しそうに声をあげる。白い光には除霊の力があるのだろう。亡霊であるキャプテン・クロウがガクッと膝をついた。
《我を倒すとは、見事な戦いぶりよ・・・。汝らを資格を持つ者と認めよう。勇者たちよ。我が財宝を引き継ぎ、我の果たせなかった夢を叶えてくれ・・・》
キャプテン・クロウの亡霊が消える。ホッと息を吐く一同。
「これだけ苦労させられて、もし海賊のお宝ってのがつまらない物だったら、やってらんねえな。キャプテン・クロウさんよ。頼むから期待にこたえてくれよ」
「ゲルダさんは気絶してるみたい・・・ってことは、今がチャンスね! 先に宝箱の中身を手に入れちゃいましょ。キャプテン・クロウと戦って認められたのは私たちなんだから、彼女も文句は言わないわよ」
「そうでげすな! やはりアッシも元盗賊の身。有名なキャプテン・クロウのお宝と聞いちゃ、興味がわくでげす。ここは一つ、先に宝箱の中身を調べてみちゃ、どうでがす?」
「そうだね・・・。もし、ここに神鳥の島へ渡るヒントがあるのなら・・・ゲルダさんに渡すわけにはいかないし」
そう言うと、エイリュートはゆっくりと宝箱を開けた。一同が興味津々と中身を覗くが・・・そこにあったのは、紙きれ1枚だった。だが、ただの紙切れではない。海図だったのだ。間違いなく、これが神鳥への島を示した光の海図だ。
エイリュートたちがその海図に気を取られていると、背後でゲルダがうめき声をあげ、目を覚ました。
「・・・チッ! みっともない所を見せちまったようだね。おまけに、お宝まで先に取られちまうし」
言いながら、ゲルダがエイリュートたちに近づき、その手にあった海図を覗き込んだ。
「でも何だい? お宝ってのは、その紙きれなのかい? うわ〜しょっぼい! そんな、つまらない物だと知ってたら、あたしゃこんな所まで来なかったよ。まっ、今回は途中で手に入れた10000ゴールドで我慢しておくことにするさ。それじゃあ、あたしはお先に失礼するよ。こんな洞窟は、もうコリゴリだからね」
颯爽と立ち去って行くゲルダの背中を、5人は半ばあ然として見送った。
「・・・10000ゴールドなんて大金があったんだね」
「なんだか、勝負には勝ったのに、負けたような気がするわね」
「ちゃっかりしてるでげす」
「そんな紙きれより、金の方が良かったな」
「まあ! 皆さん、それは大事な海図ですのよ!? 無事に手に入ってよかったですわね! これで、神鳥の島へ渡れますわ!」
1人、お金の苦労とは無縁の王女さまは、笑顔でエイリュートたちに声をかけた。
だが、エイリュートたち4人は「10000ゴールド」の重さに、深いため息をこぼすのであった。