49.カジノの兄妹

 ベルガラックへルーラで向かうと、残念ながらカジノは未だに再開されていなかった。残念そうなククールに、一同はいつもの彼が戻ってきたことにホッとした。先ほどまでは、声をかけるのでさえ戸惑われた。ですら。

 「ったく、いつまで休業してるつもりなんだよ。こんなときにこそ、娯楽が必要だろ」
 「キミの場合はイカサマをするから、ちょっと不安だよね・・・」
 「安心しろよ、カジノではイカサマはしないさ」
 「君たち、カジノに来たのかい? 残念だったね。今、この町はそれどころじゃないのさ」

 ククールとエイリュートの会話を聞いたのか、1人の男性が声をかけてきた。見れば、小太りの男が愛想笑いを浮かべ、どこか困り果てたような表情を浮かべて立っていた。

 「殺されたギャリングには、2人の子供がいるんだ。兄の方がフォーグって名で、妹がユッケっていうのさ。その2人の兄妹が、次のオーナーの座を巡って、骨肉の争いを始めたんだから、正直呆れるよ」
 「え・・・ギャリングさんが殺されたこと、ご存じなんですか?」

 エイリュートが声をあげる。以前来た時は、屋敷の人間が隠していたようだったが。

 「ああ、知ってるよ。フォーグとユッケが追手をかけただろ? 戻ってきた護衛の兵士が教えてくれたんだ」

 なるほど・・・あの事件からかなり時間が経っているし、いつまでも隠し通せるわけもない。ギャリングの死を公表したということか。

 「オーナーの座を巡って、兄妹が対立・・・か。なんだか、複雑だね」
 「ま、オレらには関係のない話だろ。身内のケンカなんぞ、首を突っ込まないのが身のためだぜ」
 「けど、その兄妹のケンカが終わらない限り、カジノは再開しないんじゃないでげすか?」
 「・・・それは困る」

 真顔で答えるククールに、エイリュートはハァ・・・とため息だ。ゼシカとヤンガスも呆れた表情を浮かべている。ただ1人、だけがいまいちよくわかっていない・・・という様子だ。

 「カジノ・・・というのは、どういうものなのですか?」
 「え? 姫、カジノを知らないの??」

 の問いに、ゼシカが声をあげる。お嬢様育ちのゼシカだが、知識はあるようだ。

 「城の兵士が話してるのを聞いたことがありますが・・・どういうものなのかは存じ上げませんわ」
 「いいぜ、姫。カジノが再開したあかつきには、オレが手取り足とり、カジノの楽しさを教えてやるよ」
 「まぁ・・・! うれしいですわ、ククール」
 「ちょぉっと待ったぁ!!」

 心底うれしそうに微笑む。だが、その話の腰を折ったのは、エイリュートだ。

 「よろしいですか、姫。ククールの言う事を真に受けてはいけません。聖王女ともあろう方が、ギャンブルに手を染めるなど・・・!」
 「ギャンブル・・・賭けごとですか。それは・・・少し戸惑いますわね」
 「そうでしょう、そうでしょう! ・・・いいかい、ククール。カジノに行くのに姫を連れて行くことだけは、許さないからね」

 キッとククールを睨みつけ、エイリュートはしっかりと釘を刺した。そんな彼に、ククールは肩をすくめる。

 「まあ、その前に・・・兄妹ゲンカをなんとかするのが先だけどな・・・」

 ギャリング邸のある方角を見つめ、ククールがごもっともなセリフをつぶやいた。

***

 ギャリング邸の前まで行くと、1人の女戦士が立っていた。エイリュートたちの姿を見つけると、あら・・・と小さく声をあげる。

 「あんたも護衛志願?」
 「護衛??」
 「お屋敷の兄妹が、継承の試練だかを近々行うんだってよ。そこで兄妹が試練に同行する護衛を募集してるの。私も面接を受けてみたけど、断られたわ・・・」

 継承の試練・・・一体、どんなものなのか気になるところだ。しかも護衛となれば、歴戦の戦士であるエイリュートたちにうってつけではないか。
 困っている人を見捨てておけないのが、エイリュートである。早速、仲間たちの意見も聞かず、屋敷の中へ入り、護衛の面接に来たことを召使いに告げた。

 「これはこれは。護衛志願の方ですな。ようこそおいで下さいました。私どもの2人の主が、継承の試練に同行する護衛を募っているのですが・・・。どんな人物が来ても、我が主はお気に召さず困っていたのです。だが、あなた方ならきっと!」

 熱い視線を向けて来る彼は、少しばかり疲れているように見えた。恐らく、何人もの人間が面接を受け、ことごとく落とされていったのだろう。
 フト、視線を動かすと、どこかで見覚えのある僧侶の男と目が合った。彼も、エイリュートたちを覚えていたらしい。顔を輝かせて、こちらへやって来た。

 「おやおや? 闇の遺跡で会った旅人さんじゃないの! ひょっとして、坊っちゃんたちの護衛に志願しに来たのかい? もし、そうなら大歓迎さ。キミたちになら、フォーグ様かユッケ様のどちらかを任せられる」

 何せ、エイリュートたちの実力を彼らは知っている。あのドルマゲスを倒したのだ。信頼できる強さだろう。
 その僧侶の男に案内され、居間へと向かう5人。僧侶の男が「ここだよ」と告げ、その場を離れる。エイリュートはノックをし、「失礼します」と声をかけてからドアを開けた。
 だが、開けた瞬間、聞こえてきたのは少女の金切り声だった。

 「何よ、お兄ちゃんのバカッ! バカバカバカバカバカ!」

 見れば、エメラルドグリーンの髪を揺らし、1人の少女がスカイブルーの髪の少年に怒鳴り散らしていた。

 「いい? あたしたちは、パパに拾われた子供なんだよ。どっちが先に産まれてきたのか、わかんないでしょ! 本当はあたしが姉で、お兄ちゃんが弟かもしれないんだよ!」
 「ああ、妹よ。話を蒸し返すな。お前がそう主張するから、妹のお前にも家を継ぐチャンスを与えたんだろう。ギャリング家の継承の試練を、どちらが早く終わらせるかで競い合い、勝った方が家を継ぐ。妹よ、このことは賛成しただろ。それとも何か・・・? 護衛付きとはいえ、今になって竜骨の迷宮へ行くのが怖くなったか?」
 「別に、怖くなんかないわよ。何さ、バカにして・・・ん!?」

 そこで、ようやく妹の方がエイリュートたちの姿に気づいた。

 「お兄ちゃん、お客様だよ。護衛志願の人かもしれないよ」
 「おっと、これはこれは。お見苦しいところをお見せして申し訳ない。ようこそ、我が屋敷へ」

 恭しい態度で挨拶をする兄・・・フォーグ。対して妹のユッケは腕を組んだ姿勢でエイリュートたちをジロジロと見ていた。

 「おいおい、ひょっとしてカジノが閉まってるのは、兄妹が遺産相続でもめてるからなのか!?」

 ククールが小声でつぶやく。間違いなく、そうだろう。先ほども兄妹が対立している・・・という話を聞いたばかりだ。

 「あれがギャリングの娘と息子でがすか・・・。拾われた子供、とか言っていたようでげすが」
 「仲が悪いんだか、いいんだか、よく分からない兄妹ね。私とサーベルト兄さんの兄妹仲と、彼らの兄妹仲とでは、とても大きな隔たりがあるわ」

 ゼシカとサーベルトは、とても仲のいい兄妹だったという。目の前の兄妹とは、正反対である。

 「護衛志願の人よね?」
 「・・・ええ、まあ」
 「じゃあ、お兄ちゃんの話を聞いて。そこのソファへどうぞ」

 ユッケに勧められ、エイリュートたちはソファに座った。体重でソファが沈む。かなりいい物なのだろう。何せ、カジノのオーナーだ。金持ちに違いない。どれだけ、客からお金を巻き上げたのか・・・恐ろしい話である。

 「じゃあ、説明しよう。私たちの育ての親が死んでね。父の跡を、私と妹のどちらかが継ぐかで、揉めているんだ。私達は仲が悪い。話し合っても全然決着がつかない」
 「そこで、あたしとお兄ちゃんで、恨みっこなしの勝負をすることにしたの。継承の試練を終えて、早く町に戻って来た方が勝ち」
 「継承の試練とは、古くからギャリング一族に伝わってきた家督を継ぐ際の肝試しみたいんものさ。竜骨の迷宮の奥まで行って、家長の印を手に刻んでくるだけなんだが、その竜骨の迷宮が曲者でね」
 「魔物がいっぱいで、下手すりゃ命を落としちゃうかもしれないのよ。だから、護衛を雇うってわけ」
 「でも、なかなか私と妹が納得できる人材が来てくれなくてね。ほとほと困っていたのだよ」

 一体、どんな条件なのだろうか・・・? もしかしたら、エイリュートたちも落とされる可能性がある。思わず、ゴクリと息を飲む。

 「私は、彼らになら護衛を任せてもいいと思うが、妹よ。お前の方はどうだね?」
 「うん。この人たち、気に入った。あ〜ら、めずらしく意見が合ったわね」
 「よし、決まりだ」

 なんと・・・あっさりとエイリュートたちで決まってしまった。今まで、どんな人物が面接にやって来たのか、知りたいくらいにあっさりと、だ。

 「私か妹、どちらの護衛に付くかは、キミたちで選んでほしい。彼らに選ばれなかった方は、屋敷の部下を護衛に連れて行く。これでいいよな、妹よ」
 「文句ないよ。どっちみち、吠え面かくのは、お兄ちゃんだからね」
 「ふん、言ってろよ。そうそう、キミらが護衛した方が負けても、きちんと報酬は支払うから、その点だけは安心してくれたまえ」

 さて・・・兄と妹、どちらに付くべきか・・・。エイリュートたちの秘密の会議が始まった。5人は顔を突き合せる。

 「どっちが家を継ぐかで、揉めるとはな・・・。兄妹なんかいたって、ろくなことがないって証拠だね」

 兄と確執のあるククールの言葉に、ゼシカがそれを真っ向から反対した。

 「それは聞き捨てならないわ。サーベルト兄さんと過ごした時間は、私にとって宝物なんだから」
 「かあー! 真顔でくさいこと言わないでくれよ。顔から火が出そうだね。ゼシカは幸運だったのさ。兄弟ってのはお前んとこみたいな、仲良しこよしばっかじゃないんだっての」
 「ククール・・・そんな悲しいことを言わないでください・・・」

 途端に、が悲しそうな表情を浮かべ、ククールの腕を掴む。愛しい王女にそんな表情をさせてしまった、とククールはバツが悪そうだ。

 「兄妹ゲンカって、勝ち負けがハッキリするまで、終わらないものよね。私と兄さんの時もそうだったわ。兄さんとのケンカは、たいてい私が泣いたら、兄さんが謝って終わっちゃうんだけどね」
 「ユッケが泣いて、フォーグが許すとは思えないけどね・・・。カジノのオーナー権がかかってるんだろう? 簡単には譲れないだろうね」
 「あの2人のどちらかに協力して、白黒つけてやらない限り、カジノは再開しないってわけか。だったら、ここは一つ、オレたちが護衛を引き受けてやるか。それが世のギャンブラーのためだ」
 「ですが・・・どちらを選びますか? フォーグさんか、ユッケさんか・・・」
 「う〜ん・・・」

 エイリュートが腕を組んで唸る。兄か妹か・・・何となく、考えが決まっているのだが、仲間たちがどう思うか、だ。

 「・・・こんなこと言ったら失礼かもしれないけど、妹のユッケはワガママそうじゃないか?」
 「・・・うん」
 「アッシもそう思ってやした」
 「顔はカワイイんだけどな・・・」
 「僕は、チャゴス王子で懲りたんだ・・・。ワガママな人の護衛に、ね」
 「それでは、フォーグさんにしますか?」
 「そうですね・・・。その方が賢明かと」

 ヤンガスたちの反応を見るかぎり、彼らもエイリュートと同じ感想を抱いたのだろう。簡単に話はまとまった。

 「フォーグ、キミの護衛をさせてもらうよ」
 「ほう、私を選んでくれるのか。私を護衛して、竜骨の迷宮へ行く。本当にこれでいいんだな?」

 フォーグの言葉に、エイリュートはうなずく。フォーグは納得したように、大きくうなずいた。

 「そうか! よろしく頼むぞ! 出発は明日の朝、日の出の時刻を予定している。早朝の出発となるので、今夜はうちに泊っていってくれ。くれぐれも、寝坊なんかするなよ」
 「てことは、あたしは屋敷の部下に護衛してもらうことになるのね。あたしを蹴って、お兄ちゃんを選んだのには、ちょっとむかついたけど、まあしょうがないよね」

 そう言うと、ユッケは机に置いてあったベルを鳴らす。すると、すぐにメイドが部屋に入って来た。メイドはフォーグとユッケに体を向け、一礼した。

 「お呼びでしょうか?」
 「あのね、今日の夕食はここにいるお客さんのために、腕をふるって作ってほしいのよ。食生活の貧しい旅人なんだから、栄養のあるものをたくさん食べて、万全の体調で、臨んでもらわないとね」
 「スキあらば他人の足を引っ張るお前が、どういう風の吹きまわしだ?」

 いつになく親切な妹の言葉に、フォーグは首をかしげる。気味の悪いくらいの、ユッケの心遣いだ。

 「まあ、明日から勝敗がつくまで、粗末な食事が続くのだから、今夜ぐらい盛大に飲み食いするのも、悪くないか」

 恐らく、そういうことなのだろう。ここは、ユッケの厚意に甘えることにしよう。
 久し振りの盛大な飲み食いに、ヤンガスの目が輝く。

 「こりゃ、儲けもんだ。アスカンタに続いて、またうまいメシにありつけるたぁ、ついてるでがすよ!」
 「またトロデ王、抜きでか。少し気が引けるな・・・」
 「おっさんには悪いが、今度のことは内緒にさせてもらうぜ」

 ヤンガスの言葉に、ククールはやれやれ・・・というように、肩をすくめてみせた。そんな2人のやり取りに、エイリュートたちはクスクスと笑った。

***

 翌朝・・・。

 「・・・起きろ! 起きたまえ! 起きたまえ、エイトっ!! いつまで寝てるつもりだ。もう昼だぞ」

 フォーグの声が、エイリュートの耳をつんざく。だが、眠くてたまらない。もう少しだけ・・・と、布団をかぶるが、その布団をフォーグが引っぺがした。

 「どうだ。目が覚めたかね。ご覧の通り、もう昼過ぎだ。妹の方は、とっくに出発したよ。グチを言っても仕方がない。さあ、眠っている仲間を起こすから、キミも手伝ってくれたまえ」

 とは言うものの、エイリュートは半分夢の中だ。対するヤンガスたち3人も、完全に眠りこんでいる。ヤンガスの身体は半分ベッドから落ちかけ、ククールはどんな夢を見ているのか、抱き枕よろしく布団を抱きしめていて、ゼシカだけが寝相よく眠っていた。

 「・・・みんな・・・起きて・・・朝だ・・・よ・・・」

 と言いながら、エイリュートも再びベッドに横になってしまった。フォーグがワナワナと怒りに体を震わせる。

 「いつまで寝てるつもりだ! いい加減に起きたまえ! 諸君は私に雇われた護衛なのだぞ!」

 とうとう、フォーグの雷が落ち、さすがにその剣幕に、エイリュートたちは目を覚ました。
 だが、どこか4人とも眠そうである。並んで、フォーグの前に立つが、半分眠っているような状態だ。なので、そこに不自然な部分があったことに、誰も気づかなかった。

 「寝過したことは責めない。何せ、この私だって、寝坊したんだ。諸悪の根源は、我が妹なのだよ・・・。メイドを問い詰めたら、我が妹の命令で、昨日の料理に眠り薬を混ぜたと白状した。・・・悔やんでもしょうがない。まだ勝負は始まったばかりなんだ。竜骨の迷宮へ急ごうではないか!」

 溌剌とした口調で、フォーグはそう告げるが、エイリュートたちは、まだ眠いのだ。ため息をつきつつ、フォーグは部屋を出て行こうとする。

 「そうそう。護衛の諸君には、色々と用事があるだろうが、私は気ばかり焦ってじっとしていられないんだ。そんなわけで、一足先に行かせてもらおう。竜骨の迷宮の入り口で落ち合おうではないか」

 そう言うと、颯爽と部屋を出て行ったのであった。
 眠い目をこすり、アクビをし、なんとか頭の中を整理する。ここはベルガラック。ギャリングの子供2人の護衛を引き受け、エイリュートたちはフォーグの護衛をすることになった。竜骨の迷宮は、ここから南にあるというのも聞いた。

 「いくら足を引っ張るためとはいえ、食事に睡眠薬を混ぜるなんて・・・。ユッケって、カワイイ顔して悪魔のような性格の持ち主ね」
 「昨夜、いつ眠りについたのか、アッシは記憶にねえでがすよ。夕飯がごちそうだったことは、しっかり覚えてるんでがすがね。ああ、もう一度食いてえでがす」
 「ああ、まだ眠い・・・。昨日の料理に眠り薬が入っていたとはな。どうりで昨夜は眠くてたまらなかったわけだ・・・」

 と、そこでククールが異変に気づく。おかしい。いや、なんですぐに気づかなかったのか。

 「・・・おい、姫は?」
 「え?」

 ククールのその言葉に、エイリュートたち3人が同時に声をあげる。
 そう、この場にの姿がない。確かに、昨夜はククールと一緒に眠りに落ちたはずなのだが・・・。
 慌ててククールは部屋を飛び出した。階段を駆け下り、そこにいたメイドに問い詰める。すさまじい形相だったのだろう。メイドが怯えている。普段のククールであったなら、メイドも見惚れていただろうに。

 「そ、その方でしたら、先ほどフォーグ様と屋敷を出て行かれましたよ? なんでも、フォーグ様の竜骨の迷宮に着くまでの護衛とかで・・・」

 やられた・・・と一同が思った。フォーグは最初からそのつもりだったのだ。だけを連れて、竜骨の迷宮へ向かおうと・・・。エイリュートたちに責められても「危険だったから、ついてきてもらった」と言えば済む。

 「あんの・・・クソガキ・・・何考えてやがんだ・・・!」
 「ク、ククール、落ち着いて・・・」
 「これが落ち着いてられるかっ! エイリュート! お前、何そんなに悠長に構えてんだよっ! あのガキ、人の女を勝手に連れだして、竜骨の迷宮まで2人で行ったんだぞ!?」
 「・・・“人の女”って言い方は、どうかと思うけどね」
 「そんなこたぁ、どうでもいいっ! 今すぐ追いかけるぞ!! 買い物なんて、してる場合じゃねぇ!!」
 「わ、わかったよ・・・お願いだから、フォーグを見つけた途端、斬りかかるとかしないでくれよ?」
 「それは、時と場合による」

 恐ろしいことを口にしたククールに、慌ててエイリュートは宥めにかかり、ゼシカとヤンガスはため息をついた。
 まったく、とんでもないことをしてくれたものである。というか、まさかククールがここまで怒るとは思わなかった。確かに仲のいい2人だが、ククールはいつも紳士然としていたからだ。
 こうして、4人となってしまったエイリュートたちは、一路、竜骨の迷宮へ向けて出発したのであった。