明朝・・・エイリュートたちはメディに見送られ、山小屋を後にした。いい出会いをした直後だけに、悲しいが、旅に別れはつきものだ。
その際、メディから一つの頼みごとをされていた。
「みなさん、申し訳ありませんが、一つ頼まれてくれませんかな? オークニスに行って、グラッドという男に会ったら、これを渡してほしいのですじゃ」
そう言って、メディが差し出したのは袋だった。中身が何かはわからないが、軽い。エイリュートがそれを受け取る。
「グラッドは恐らく、わしと同じ薬師をしているはずですじゃ。くれぐれも頼みましたぞ」
「はい、わかりました。確かに預かります。それじゃあ、メディさん・・・お世話になりました」
「気をつけてくだされ」
見送るメディに手を振り、エイリュートたちはオークニス向けて出発した。
***
初めてこの地へ足を踏み入れた時とはうって変わり、エイリュートたちの足取りは軽くなった。メディの薬湯が効いているのだ。まったく寒さを感じない。一行の顔にも余裕の笑みが浮かぶほどだ。
そんな白い大地を歩きながら、フト思い出したようにククールが口を開いた。
「それにしても、あのバアさん、見ず知らずの旅人に、よくあんなに親切にできるもんだな。もしオレなら、こんな怪しい連中が助けを求めてきても、絶対に見捨てる自信があるぜ」
「まあ・・・それでは、わたくしはククールに見捨てられてしまうんですのね」
「こりゃ参った・・・。あなたのようなお美しい人を見捨てるなんて、どうして出来ましょう?」
「・・・兄貴、あの2人をどうにかしてくだせぇ」
まるでこの雪を2人の熱気で溶かしてしまいたい・・・とでも言いたげなククールとのやり取りに、ヤンガスが辟易とした様子でつぶやいた。
ヤンガスとしては、エイリュートに助けというか、同意を求めたはずなのだが・・・。
「まあ、仕方ないんじゃないかな・・・。姫は、ククールのああいうセリフにもまったく動じてないし・・・。ククールは、そんな姫に必死だし・・・」
「どうしたんでげすか、兄貴! 前まではあんなにククールに対して“姫に馴れ馴れしい!”って怒ってたじゃないすか!」
「う〜ん・・・そう思うんだけど、僕は姫の意思を尊重したいからね」
「・・・尊重するのはいいんでげすが・・・限度というものがありやすぜ」
未だに何やらイチャイチャとやり取りを交わすククールとを尻目に、ヤンガスはため息をついた。
「何じゃ、ヤンガス。うらやましいのか?」
「そうじゃないでげす。まあ、確かにちょっと目の毒・・・という部分もありやすが・・・」
「まあ、お主もわしやククールのようなイケメンじゃったら、おなごにモテモテじゃったろうがな! かっかっか!」
「・・・ククールはともかく、おっさんがイケメンなんて初耳でがす」
「何じゃと!? 何度も言っとるではないか! 人間のわしは、渋くてカッコいいおじ様じゃとな!」
ヤンガスとトロデは、なんだかんだ言って、いいコンビである。微笑ましいその光景に、自然と口元が緩む。そして、そのエイリュートには・・・。
「どうしたの? エイト。なんだか楽しそう」
ゼシカという相手がいる。顔を覗き込んできたゼシカに、「ううん、なんでもないよ」と首を横に振った。
「変なの・・・」とクスッと笑うゼシカが、自然な動きでエイリュートの手を取る。温かく、自分よりも小さなその手を握りしめ、エイリュートは微笑んだ。
襲いかかって来るモンスターを倒しながら、北へと向かう。雪山から近かったようで、その日の夕方にはオークニスへたどり着くことができた。
助かった。いくら薬湯で身体が温まっているとはいえ、この雪国で野宿は勘弁願いたいものである。
「やれやれ、ようやくオークニスに着いたようじゃな。それにしてもヌーク草の効能は大したものじゃ。雪道を歩いていても、ちっとも寒くならんわい。これなら外にいても苦にはならんな。うむ。わしはいつも通り、外で待っていることにしよう」
「大丈夫ですか? トロデ様・・・。風邪だけは引かれないように、気をつけてください」
「うむ、大丈夫じゃよ、姫。さ、さ、メディばあさんの頼まれごとを済ませて、あの黒犬の情報を集めてきておくれ」
少々の心配はあるが、本人が大丈夫だというのだから、大丈夫なのだろう。
エイリュートたちは、トロデを町の外に残し、その変わった形をした町のなかへと足を踏み入れた。
町の中はドーナツ形になっており、外の空気が入りにくい構造になっていた。その円の中心には、大きな屋敷がある。どうやら、町長の家らしい。
「やはりこの町の女性は、みんな厚着をしてるんだろうな。悲しい話だぜ」
町の中の女性を見回し、ククールがつぶやく。ピクッとの肩が揺れた。
「まあ、厚く重ね着された服を、一枚一枚脱がせていくのも、それはそれでいいものだけどな」
「グムム・・・。とんだハレンチ野郎でがす!」
「本当ですわ。見損ないました。ああ、汚らわしい。わたくしに近づかないでください」
「え・・・」
どうやら、本気で腹を立てたらしいが、スッとククールから距離を取った。
ククールとしては、いつもの軽口だったのだが、はそれに本気で腹を立てているようである。苦笑を浮かべながら、に歩み寄る。
「姫・・・ご冗談を・・・」
「いいえ! 本気です。しばらく、距離を置きましょう」
「姫・・・!」
とうとう、に愛想を尽かされたククールに、エイリュートたちがクスクス笑う。今のは、自業自得というものだ。プイッとそっぽを向いてしまったは、ククールから離れ、ゼシカの隣にピタッとくっついた。
「姫・・・!」と慌てて声をかけるも、はけしてククールに視線を向けず、ツンと冷たい態度を取っていた。
「黒犬のことも気になるけど、まずメディおばあさんからの預かり物を片づけちゃいましょ。確か薬師をやっているグラッドって人に渡すんだったわね。さあ、探しましょうよ」
ゼシカの言葉にうなずき、一同は薬師グラッドの家を探すことにした。町の中では情報は得られず、町長のもとへ向かうと、彼に部屋を貸しているとのこと。場所を探しあてたのだが、どうやら彼は留守のようだった。一体、どこへ向かったのか・・・これまた情報収集をすれば、道具屋の主人が行方を知っていて・・・どうやら、オークニスからさらに北へ行った洞窟にある、薬草園へ向かったようだった。
「今度は洞窟でげすか・・・。まあ、いいでしょう。あのバアさんには世話になったし、最後まで頼みを聞きやしょう!」
「そうだね・・・。でも、今日はもう遅いから、出発は明日にしよう」
エイリュートの言葉に、仲間たちはうなずいた。
ああ、でもトロデ王が外で待っているのか・・・と思い出したエイリュートは、「僕は王の傍にいるよ」と言い残し、宿屋を出て行く。
「エイト、私も・・・」
「ダメだよ、ゼシカ。女の子にそんなことさせられない」
同行を願い出たゼシカに、エイリュートは首を横に振った。いくらヌーク草の効果があるといえ、女の子に極寒の地で野宿などさせられない。
「エイリュート、気をつけてくださいね」
「はい。ありがとうございます、姫」
それじゃ、また明日・・・と言い残し、エイリュートはオークニスの町を出て行った。
***
盛大なイビキをかくトロデ王の傍で、エイリュートは毛布にくるまりながら、目を閉じていた。
軽く雪かきをし、毛布を何枚も敷き、それでもじんわりとお尻は冷たくなっている。だが、それでも王を1人にしておく気にはなれなかった。
トロデ自身は「気にすることはない」と言ってくれたが、家臣としては、そういうわけにもいかず・・・。こうして、残ったわけなのだが。
今頃はヤンガスたちは暖かな部屋でふかふかのベッドで眠っているのだろう。
と、オークニスの町と外を仕切るドアが開く気配があった。こんな時間に、誰が外へ・・・?
「・・・エイト、寝ちゃった?」
「!?」
聞こえて来た声に、エイリュートは驚いて目を開けた。そこに立っていたのは、やはりゼシカで・・・。
「ど、どうしたの?」
「うん・・・やっぱり、エイトが気になっちゃって・・・」
「でも、寒いだろう?」
「大丈夫よ」
「少しだけだよ? すぐに宿屋に戻るんだ」
「・・・うん」
毛布を広げ、ゼシカと一緒にそれに包まる。エイリュートの体温が移っていたそれは、温かかった。
ゼシカがコテンとエイリュートの肩に頭を乗せて甘えて来る。めずらしいな・・・と、エイリュートはゼシカを見やった。
「・・・たまにね、怖くなるの」
「え?」
ポツリとつぶやかれたゼシカの言葉。聞き間違えかと、エイリュートは首をかしげた。
「私、暗黒神に操られたでしょう? 今は黒犬が操られてる。残された賢者はあと2人・・・それが誰なのか、まだわからないけれど・・・暗黒神は、間違いなく賢者を狙っているの」
「うん・・・」
「このまま、止められず、最悪な結果が待っているんじゃないかって・・・そう思うと怖いの」
「・・・ゼシカ」
毛布の中で、エイリュートはゼシカの手を握りしめた。そのまま、優しく指でゼシカの手を撫でる。
「大丈夫だよ、ゼシカ・・・僕たちが一緒なんだから」
「エイト・・・」
「もう君を暗黒神に操らせたりしないし、好きにもさせない。そのために、旅を続けてるんだしね」
「・・・うん」
「不安になる気持ちはわかる。だけど今はクヨクヨしたって仕方ないんだ。前を向かなきゃね」
「エイトは強いね・・・。私も、見習わなきゃ」
フフフ・・・とゼシカが笑う。ああよかった。笑ってくれた。
「さ、ゼシカ・・・そろそろ宿に・・・」
「もう少しだけ・・・もう少しだけ、一緒にいさせて?」
寄り添ってくるゼシカに、エイリュートは断ることも出来ず・・・気づけば2人はそのまま眠りに落ちていた。
***
翌朝・・・日差しがまぶしくて目を開けると、目の前にはが立っていて・・・その後ろにはヤンガスとククールの姿もあった。
「あ・・・」
「大丈夫ですか? 体調の悪いところとかは・・・」
「いえ! 大丈夫です!」
が真剣に心配しているというのに、背後のヤンガスとククールはニヤニヤ笑っている。
もちろん、エイリュートの傍らにはゼシカが眠っていて・・・夜中にゼシカが抜け出したことを知っていただが、特にそれを咎めることをしなかったことを後悔した。
だが、ゼシカとしても、好きな人と一緒にいたかったのだろう。気持ちはわかるので、怒りはしない。
「宿屋で温かいお食事をいただいて来るといいですわ。トロデ様もいただいてますし、わたくしたちもいただきました」
「あ・・・は、はい・・・! ゼシカ、起きて!」
真っ赤な顔でエイリュートがゼシカを起こし、2人はヤンガスとククールだけでなく、トロデからも茶化すような笑みを向けられ、オークニスの町に入って行った。
食事が済むと、そのまま北の洞窟に向かうことになった。それほど遠くはないと聞いていたが・・・数時間ほど歩くと、ぽっかりと広がる洞窟の入口が見えて来た。
北の洞窟に入ると、確かにそこは薬草園になっていた。だが、辺りをどれだけ見回しても、人の姿はなかった。
「兄貴、洞窟が奥まで続いてるみたいでげすが・・・グラッドってヤツは、この奥にいるんでげしょうか?」
「わからないけど・・・とにかく、行ってみるだけ行ってみよう」
慎重に足を進める。凍った雪が、地面を凍結させ、気をつけなければ転倒してしまうからだ。
洞窟内だけあって、魔物も生息している。ここの敵は、どうやら炎系に弱いらしく、ククールの火炎斬りと、エイリュートとゼシカのベギラゴンが大いに活躍した。
いつもはエイリュートのポケットにいるトーポも、辛いチーズを食べて炎を吹き、大活躍だ。
落ちて来るツララに驚きつつ、一行は洞窟の最深部を目指して歩いていく。
ようやく最深部に辿り着いた時、その姿に気づいたのは、ゼシカだった。
「エイト、大変! 人が倒れてる!!」
ゼシカが指差した先、ツララで道が塞がれているが、その隙間から見えたのは、確かに人の足。慌ててエイリュートたちはその人物へ駆け寄った。
「だれか・・・誰か・・・いるのか・・・? 誰でもいい・・・助けてくれ。身体が凍えてしまって、動けないんだ。助けて・・・」
「まあ・・・!! どうしましょう、エイリュート! 早く助けて差し上げなければ!!」
「わざわざ、こんな洞窟の一番深いとこで倒れてなくてもよかろうってのに・・・。しかし、まあここまで苦労して来ちまった以上、助けてやるとするか」
「きっと、この人が探してたグラッドって人でがすよ! とにかく、助けてやらねえと、ありゃ危ねえでがすよ」
ワタワタと慌てる一行の前で、グラッドがどんどんと憔悴していく。モタモタしているヒマはない。
「皆さん、どいてください。このツララを吹き飛ばします」
「は・・・はいっ!」
いつぞや、マイエラ修道院で見せた、あの力を使うつもりらしい。慌てて、4人はから離れる。
小さく呪文のような言葉をつぶやき、ロザリオを握り締める。そして、の全身から、衝撃波が放たれ、ツララが見事に吹き飛び、熱によって蒸発した。
「大丈夫ですか・・・!?」
「私は、オークニスの薬師グラッド。この洞窟で薬草の採取をしていたら、突然、オオカミに襲われて・・・。慌てて奥に逃げ込んだら、落ちてきたツララに閉じ込められて出られなくなってしまったんだ。・・・ううっ、寒い。と、とにかく何とかして、まず身体を温めなくては・・・」
「火を起こすと言っても、ここではすぐに消えてしまうだろうし・・・一体、どうすれば・・・」
途方に暮れるエイリュートだったが、フト、グラッドがエイリュートの腰に下げられた袋に気づいた。
「キミたちっ! もしかして、その袋はメディという人から預かったものじゃないのか?」
「え・・・はい、そうです! メディさんが、この袋をあなたに渡すようにと・・・。それで、僕たちはあなたを探しに来たんです」
「・・・なるほど。薬師メディが、この私に渡すようにとキミたちに託したものなのか・・・。キミたち、その袋を開けてくれないか?」
「は・・・はい・・・」
エイリュートが袋の口を開け、中身をグラッドに見せると、彼は納得したような表情を浮かべた。赤い色をしたその草に、見覚えがあるのだろう。
「やっぱりヌーク草か。ちょうどいい。本来なら薬湯にして飲むものだが、生のままでも・・・」
そう言うと、なんとグラッドはヌーク草を口に含んだ。ギョッとする一同の前で、グラッドの顔が真っ赤に染まる。まさに、火を吹く辛さだったようだ。
「くぁらぁ〜っ!! ・・・フ〜ッ、フ〜ッ。や、やっぱり、ヌーク草は生で食べるものじゃないな。まあ、粉になってなかっただけマシか。あれは目や鼻に入ったら、ひどいことになるからな・・・。と、とにかく、身体は温まった。ありがとう、キミたちのおかげだよ。・・・それと、あの人のおかげか。まさか、こんなことが起こるのを察していたわけじゃなかろうが・・・」
どうやら、グラッドとメディは親しい仲のようだが・・・一体、どんな関係なのだろうか。だが、今はそれを追求している場合ではないだろう。ここを脱出してから、話を聞いてもいい。
「ところで、キミたち。オークニスに戻るつもりなら、私も一緒に連れて行ってくれないか?」
「ええ、もちろん」
「ありがたい。それじゃあ、ご一緒させてもらうよ。身体は動くようになったが、帰り道にまたあのオオカミに襲われたら危ないからね」
確かに、戦う術のないものが、オオカミに襲われたら危険である。ここは、エイリュートたちと一緒にいるのが賢明な判断だろう。
ゼシカのリレミトの魔法で、洞窟を脱出する。暗い洞窟の中にいたせいで、太陽の光が眩しかった。
「オオカミに追われて、落ちてきたツララに閉じ込められるとは、ずい分、運の悪い男だな。こんなヤツと一緒にいて、不幸をうつされないようにしろよ。・・・いや、よく考えたら、うつされるまでもないか。オレたちって十分、不幸だもんな」
「特に好きになった女性に愛想尽かされた誰かさんは、もっと不幸だろうね」
「なっ・・・! 今はそれは関係ないだろ!」
エイリュートがめずらしく皮肉を言う。いつものククールからは思いつかないほど、狼狽した姿を見せる様が、エイリュートたちには面白い。
チラッとの方を見れば、相変わらず視線を合わせようとしない。迂闊だった。あんなことを口走ってしまうとは・・・。
と、そのの向こうに牙を剥くオオカミの姿が。ククールが「危ない!」と声をあげる前に、オオカミがに飛びかかって来た。
「キャ・・・!!」
寸でのところで、ククールがの身体を引き寄せる。2人の身体が雪が積もる地面に倒れた。
ハッとなって顔を上げれば、エイリュートたちを数匹のオオカミが取り囲んでいた。
「こいつら、私が出て来るのを待ち伏せしてたのか!? それにしても、こんなにいるなんて・・・。キミたち! オオカミだと思って油断するなよ。こいつら、ただの獣じゃない!」
辺りを見回せば、完全に囲まれていた。その数は10匹以上だ。ジリジリと迫って来るオオカミたち。エイリュートがグラッドに逃げるように視線を向ける。
数は多いが、エイリュートたちの敵ではない。まず、ククールがバギクロスで竜巻を起こすと、とゼシカが放ったベギラゴンの魔法が風に乗り、オオカミたちを包んだ。
「うわわわっ! た、助けてくれ、キミたちっ!」
グラッドの声に、エイリュートが振り返る。オオカミが数匹、今にもグラッドに襲いかかろうとしていた。
「グラッドさん!」
「くそっ! こいつら何で私ばかり狙うんだ!?」
駆け出し、グラッドの前に立ちはだかるエイリュート。オオカミが牙を剥いたそのとき・・・。
《待て。その者ではない。確かに賢者の血を感じるが、違う。本物は別にいるはず・・・。真の賢者を探すのだ》
どこからか聞こえてきた禍々しい声に、オオカミたちが後退していき、そのままどこかへ逃げだして行った。
呆気に取られながら、その様子を一行は見つめて・・・フト、グラッドが顔を曇らせた。
「今の声は一体・・・? それに賢者だって・・・? いや、まさかな。そんなこと、あるはずが・・・」
「グラッドさん・・・?」
何かを否定するかのように、グラッドが頭を振るが・・・エイリュートたちは「賢者」という言葉に、イヤな予感を覚えた。
もしや、先ほどの声は暗黒神のものではないのだろうか・・・?
***
オークニスまでルーラで戻り、グラッドの部屋に入ると、一同はホッと一息ついた。
「オオカミどもに囲まれた時は、正直どうなることかと思ったぞ。もしお前たちが戻って来る前に奴らが襲ってきたらと考えると、ゾッとするわい」
確かに、トロデの言う通りだ。だが、あのオオカミは的確にグラッドを狙っていた。
「あのオオカミども、一体何だったんでげすかね? 普通のオオカミにはありえない、邪悪な気配を感じたでがすよ。オオカミにしては、妙に強かったし」
何せ、ククールのバギクロス、ゼシカとのベギラゴンでようやく倒したのだ。普通のオオカミではないことは、一目瞭然だ。
「さっき聞こえた怪しい声だが、確か賢者の血がどうとか言ってたな。ずい分遠回りしたが、ようやく黒犬の尻尾の先に、手がかかったってところか?」
「でも、姿を見せなかったね・・・。それに、あの禍々しい声は一体・・・」
「さっき、オオカミの群れを引き上げさせた声・・・。私、あの声を聞いたことがあるわ。いつ聞いたかは、ボンヤリしてて思い出せないけど、確かに聞き覚えがあるのよ!」
「恐らく、あれは・・・暗黒神ラプソーンの声ですわ。あんなに禍々しい、邪悪な気配・・・なんて恐ろしいのでしょう・・・」
が自分の身体を抱きしめるように、腕を交差させギュッと肩を縮めた。そのの肩を、ククールが安心させるかのように抱きしめる。どうやら、彼女の怒りも収まってくれたようだった。
「ところで・・・キミたちに話しておきたいことがあるんだが・・・いいかね?」
グラッドが、ゆっくりと口を開く。その表情は、真剣で・・・エイリュートたちは言葉を飲み込み、そしてこくんとうなずいた。