翌朝・・・聞こえてきた馬の嘶きに、エイリュートたちは慌てて飛び起きた。今のは、ミーティア姫の声に違いない。
「何やってんだ! 早く歩け! ご主人様を乗せて、前へ進むんだよ。そら! ハイヨー! ハイヨー!」
「げ・・・!?」
その光景を見た瞬間、エイリュートの口から普段は絶対に聞かれない声が聞こえてきた。
なんと、チャゴス王子がミーティア姫の背中にまたがり、ムリヤリに歩かせようとしていたのだ。当然、ミーティア姫は嫌がり、なんとか王子を振り払おうとしている。
そして、そんなチャゴス王子を止めようとしているトロデが、ミーティアの足元で必死になっていた。
「いい加減にしないかっ! 暴れないで言うことを聞けよ!」
「おやめください、王子! ミーティ・・・あ、いやいや、馬が嫌がっております。わしの馬は人を乗せることに慣れておらんのです」
怒鳴りたいのを必死に押さえ、穏便に済ませようとしているのだが・・・さすがのトロデも我慢の限界だったようだ。
「ええい! やめんか、こらっ! 今すぐわしの馬から降りろ! この、すかぽんたんがっ!」
「うるさい! 黙って見ておれ」
「チャゴス王子! おやめください!」
さすがに、これにはも黙っていられなかった。
「これ以上、ワガママな行為は許しませんわ! 王子、今すぐその馬からお降りなさい! 迷惑しているのがわからないのですか!?」
「なんだと・・・? 王女、いくら同じ王族とはいえ、ぼくに偉そうに説教するとは・・・!」
「ちょ・・・ちょっと! 姫にまで突っかかるって、どういうつもりなの!?」
「うるさい! お前たち・・・なんて生意気な奴らなんだ! 昨日から思っていたが、このぼくに対して、態度に問題があるぞ! 王女、そなたもだ!」
「チャゴス王子、発言を取り消してください! 姫は、シェルダンドの王女ですよ。そのような発言が許される・・・」
「何がシェルダンドの王女だ! ぼくはサザンビークの王子だぞ! くそう・・・この暴れ馬め! 鞭をくれてやらんとわからぬようだな。こいつめ!」
グッとエイリュートが拳を握りしめる。温厚な彼も、そろそろ我慢の限界だ。と、掴みかかりそうになったエイリュートをククールが押しとどめようとしたときだった。ミーティアが大きく暴れ、背中のチャゴス王子を振り落としたのだ。
「くっくぅ・・・おのれ! 馬のしつけが、なっていないようだ。人を乗せる作法ってものを、このぼくがビシバシ仕込んでやる。ありがたく思えよ、暴れ馬め!」
「待てい! また、わしの馬を苦しめるつもりか! そんなことは絶対にさせん。どうしても気が済まぬと言うなら、馬でなくこのわしを打てい!」
「トロデ様・・・! いけませんわ、そんなこと!」
「ふん! そんなに馬が大事か。ならば、望み通り鞭をくれてやる。尻を出して、後ろを向け!」
ミーティアを庇って前に出たトロデに、が慌てて声をあげ、駆け寄った。だが、チャゴス王子はそんなを気にも留めず、トロデに屈辱的な言葉を吐きかけた。
「いい加減になさい、チャゴス王子!」
パシーン!と小気味よい音が、早朝の山にこだました。
殴られたチャゴス王子は、左頬を押さえ、目に涙を浮かべ、フルフルと震えている。
「あなたの傍若無人な態度、わたくしたちは我慢の限界です! その上、一国の王である方に、なんて失礼な振る舞いをなさるのですか!」
「な・・・な・・・ぼ、ぼくを殴ったな!? 王女!! いくら王女といえど、王子であるぼくに手を上げるなんて、何様のつもりだぁ!」
激高したチャゴス王子がに掴みかかろうとし、ククールとエイリュートが間に入ろうとしたときだった。
「兄貴ー! 兄貴ー!」
ヤンガスの慌てたような声が、向こうから聞こえてきた。
***
ヤンガスが、息を切らせてエイリュートたちの元へやって来る。ハァハァ・・・と息を整え、慌てた様子で言葉を発した。
「てぇへんでがす。てぇへんでがすよ、兄貴ー! ハァハァ・・・てっ、てぇへんでがすよ」
「どうしたんだ、ヤンガス? そんなに慌てて・・・。こっちも大変なことになってるんだけど」
「へ? あ、いや、アッシが気持ちよく野・・・!? あっ、いやいや。花を摘みに行ってたら、なんと! 崖下にとんでもなくデカイ・・・」
ヤンガスが言いきる前に、獣の咆哮が聞こえてきた。今までのアルゴリザードとは、明らかに様子が違う。
「・・・ヤツでがす」
とんでもなくデカイ、アルゴリザードをヤンガスが発見したのだろう。これは、大きなアルゴンハートが期待できそうだ。
そのことに気づいたチャゴス王子が、に掴みかかるのをやめ、エイリュートへ身体を向けた。
「おい、聞いたか! 今のはアルゴリザードの鳴き声だぞ。気が変わった。馬のことはいい。今の鳴き声を確かめに行くぞ」
そう言うと、さっさとその場を離れ、崖下の様子を窺いに行ってしまった。
「ハァ・・・ビックリしたぁ・・・。でも、姫があいつを殴った時、私清々しちゃったわ!」
「オレもだ。オレたちが言いたいことを、姫が代弁してくれたからな」
「でも、チャゴス王子が姫に掴みかかろうとしたときは、どうしようかと思ったよ・・・」
「え! アッシがいない間に、そんなことがあったんでがすか!? 姫さんに掴みかかろうなんて、そんなことをしたら、アッシは黙ってないでがすよ!」
「それはもちろん、僕たちだって同じだよ!」
明るい表情のエイリュートたちと違い、当のは表情を曇らせている。その視線は、ジッと自分の右手を見つめていた。
「わたくし、チャゴス王子になんてことを・・・」
「何言ってるんだ。本来なら、チャゴスは姫よりも格下の存在なんだぜ? あんな風に失礼な態度を取って許される相手じゃない」
「そうよね、前にククールが言ってた話じゃ、法皇様に次ぐ権威だって言うじゃない。さっきの態度を、サザンビークの人たちが見たら、どんな反応するかしら」
気にするな、というようにククールがの肩をポンと叩く。
「それよりも、今はアルゴリザードの方が先だ。ノロノロしてると、あのワガママ王子がうるさいぞ」
案の定、チャゴス王子からは「早くしろ!」と怒鳴り声が飛んできた。
崖下へ飛び降り、先ほどの声の主を探すと・・・今までのアルゴリザードとは格段に大きさの違う大トカゲがこちらを睨みつけていた。
臆病なアルゴリザードとは思えず、好戦的なそのアルゴングレートは、エイリュートたちの姿を見つけると、こちらへ襲いかかって来た。
チャゴス王子は例のごとく、さっさと逃げ出し、はその巨大なトカゲに失神寸前だ。そんなを庇いつつ、なんとかその巨大なアルゴングレートを倒すと、やはりそこから今までの数倍はあろうかというアルゴンハートが零れ落ちた。
「これだ! ぼくの求めていたのは、まさにこれだ! この大きさなら、きっと父上も家臣も、ぼくを見直すはずだ。皆の驚く顔が目に浮かぶ。きっと、ぼくを誉めちぎるだろうな。まあ、苦労したんだから、当然だな、うん。さあ、お前たち。城へ帰るぞ」
誰が苦労したのか・・・一同の間にそんな空気が流れる。
「王子が納得してくれたようで、ほっとしてるでがすよ。あんまり大きな声じゃ言えねえでがすが、こっちはこれ以上つき合わされたら、たまらんでがす」
「まったくだぜ。これで、あの王子のお守りも終わりだろ? とっととサザンビークへ帰ろうぜ。オレは宿屋に入って早々に眠りたい気分だ」
チャゴス王子は手に入れたアルゴンハートを掲げ、満足げだが・・・ゼシカは不満である。
「あのさ、王子。苦労してリザードを倒した私たちに、お礼の言葉とかないわけ?」
「うむ。よくやったな。誉めてつかわそう」
「お前なぁ・・・ここは素直に“ありがとう”とか言っとけよ」
チャゴス王子の言葉に、ククールが呆れた口調でそう告げる。先ほどのの言ったことが、まったく通じていないのだ。
案の定、チャゴス王子はククールの言葉に激高する。
「きっ、貴様! 平民の分際で、王族に対し“お前”呼ばわりとは、失礼千万! 今すぐ謝罪しろ!」
「はいはい、すみませんでした、王子様」
「心がこもっておらん!」
「チャゴス王子・・・いい加減にしてください」
ボソッとつぶやくようなの声。普段とは違う彼女の声は、明らかに怒りと疲労に包まれている。
「こっちは、あなたのワガママに付き合って、大嫌いなトカゲの相手をさせられたんです。早くあなたから解放されたいのです。さっさとサザンビークに帰りますよ」
「・・・はい」
さすがのチャゴス王子も、のその剣幕に圧倒されたようだった。
当然、エイリュートたちも見たことのないのその態度に、口を閉ざしたのであった。
「もったいないかもしれないけど、アルゴンハートを削って、指輪の石にすれば、ステキな指輪ができるかもね」
ゼシカがエイリュートの持っている小さなアルゴンハートを覗きこみ、そんなことを言うと、チャゴス王子は気を取り直して自身の知識を披露した。
「ふふ。賢いじゃないか。儀式が終わればアルゴンハートは、結婚指輪の石として加工されるのだ。王者の儀式とは、結婚相手に贈る指輪の石を取るための行事でもあるのだ」
「へぇ〜・・・そんなロマンチックな裏事情があるのねぇ」
「なるほどね・・・じゃあ、オレも何か石を見つけて、レディに婚約指輪としてプレゼントするとしようかね」
「あんたに婚約者なんて、出来るのかしらね」
ククールの言葉に、ゼシカの冷たい突っ込みが入ったが、当の本人はまったく気にしていないようだ。
ゼシカはチラッとに視線を向ける。今の言葉は、少し軽率だっただろうか? だが、はどこか浮かない表情で一行の後ろを歩いているだけで、どうやら相当チャゴス王子のワガママに疲れきっている様子だった。
***
ルーラの呪文でサザンビークに戻ると、何やら城下町が賑やかだ。その様子を見たチャゴス王子が目を輝かせた。
「おお! あれは! バザーを告げる旗飾り! もうバザーが始まっていたとはな。エイリュート、城へ戻るのはバザーを見学した後だ。ここからは別行動にする」
そう言うと、さっさと1人で城下町へと走って行った。
チャゴス王子の姿が見えなくなると、5人からは一斉に重いため息が吐き出された。
「やっと・・・やっと解放された・・・」
「たった2日だったけど、ものすごく長く感じたわね・・・」
「アッシはバザーを見に行く気力もないでがす」
「おい、エイリュート・・・まずは宿を取ろうぜ・・・」
「わたくし、こんなに疲労困憊したのは初めてかもしれませんわ・・・」
5人は重い足を引きずるようにして、町の入り口近くにあった宿屋へと直行したのであった。
しばらく休憩し、なんとかその疲れも癒されて来た頃、せっかくなので、バザーを見学しに行こうとから提案があった。エイリュートたちも同意し、一行は賑わう城下町へと足を運んだ。
様々な商品が並ぶ中、エイリュートは一軒の店の前で立ち止まるククールの姿に首をかしげた。そこは、アクセサリーなどが並ぶ店だったのだ。まさか、彼がそんな物に興味があるとは・・・。
「兄貴〜! 見てくだせぇ! めずらしい武器が売ってやすぜ!」
「え? あ、うん!」
ヤンガスの声に、エイリュートは武器屋へ向かう。ゼシカとの女の子コンビは食べ物屋の前で何かを試食していた。
そんな和やかな雰囲気でバザーを見て回っていたのだが、とある人物が「先ほど、そこの階段を登って行ったのがチャゴス王子に似ていた」と言っていたのが気になった。なぜ、人目につかないような場所へ向かったのか・・・。気になって、エイリュートたちは言われた方向へ歩き出した。
そして・・・やはり、そこにチャゴス王子の姿があったのである。
「ちょうどいいところに来た。エイリュート、これが何だかわかるか?」
振り返ったチャゴス王子の手には、水晶玉ほどの大きさの真っ赤な石。アルゴンハートが乗っかっていた。
「じゃっじゃーん! なんと、アルゴンハートだぞ! 信じられんだろう? これほど大きなアルゴンハートがあるなんて。そなたもアルゴンハートの実物を見て来たなら、これが偽物でないことくらい、わかるだろ? 」
「それはそうですが・・・なぜ、そんなものを・・・?」
「ん? 実はな、そこにいるバザーの商人から、買い取ったのだ」
チラッと視線を投げた先にいたのは、明らかに真っ当な商売をしていない、盗賊のような目つきをした男が立っていた。
「ぐへへ。お客様は神様だぜ。金さえ出せば、もう1個売るぜ」
「フン! 1個で十分だ。ところでエイリュート。今まで手に入れたアルゴンハートは、そなたにくれてやる。ぼくは、これを持って城へ戻る。もちろん、このことは内密にな。この商人も、バザーが終わればやがて国を出るだろうから、秘密が漏れる心配は一切ない。ぶわっはっは! では、ここでお別れだ。皆の称賛をあびる、ぼくの晴れ姿を見たければ、そなたも城へ来るがいい」
「ちょ・・・チャゴス王子・・・!」
なんということなのだろう。あんなに苦労して手に入れたアルゴンハートをいらない、と言い、闇商人からアルゴンハートを手に入れるとは・・・。
エイリュートたちは言い知れぬ絶望感に襲われた。いくらなんでも、ひどすぎる。だが、だからと言って、本当のことを告げるわけにもいかない。王子に濡れ衣を着せた、と言われ、最悪、魔法の鏡を手に入れることすらできないかもしれないからだ。
「私、信じられないわ。最後の最後でチャゴス王子があんなことするなんて。王家の山まで行って、アルゴンリザードと戦った私たちって、一体、何なの・・・」
ゼシカも相当参ってるようだ。ガックリと肩を落とし、失望したようにつぶやいた。もともと、チャゴス王子に期待なぞしていなかったが、ここまで腐っているとは思わなかったのだろう。
「王子のイカサマをおっさんに話したら、おっさんの王子に対する評価がさらに下がるでがすな」
「チャゴスに対する評価は、もうこれ以上下がりようがないだろ。なんたって最低なんだから。まあ、チャゴスの人となりが分かったんだから、トロデ王も姫様の結婚を考え直すんじゃねえか?」
「でもさー、国のメンツがあるから、トロデ王としても、やっぱり結婚は中止にするとは言えないんじゃない」
「しかし、よかったぜ。チャゴス王子にあの商人の口封じをしろ、とか命令されなくてよ。口封じなんて、なんぼなんでも、後味悪すぎるしよ・・・。たとえ、命令されたって、こればっかりは従う気はなかったけどな」
談笑する3人の少し後ろを、エイリュートとはトボトボと歩いた。は同じ王族として、チャゴス王子の仕出かしたことがショックだったのだろう。青ざめた面持ちだ。
「姫・・・あなたがそこまで気に病むことは、ありませんよ」
「そうですが・・・でも、ゼシカの言う通り、わたくしたちがしてきたことは、全て水の泡ですわ・・・。クラビウス王がこのことを知ったら、どんなに嘆かれるか・・・」
「そうですね・・・。クラビウス王には言えませんね・・・」
「・・・・・・」
の表情は晴れない。今回の一件は、彼女の心に深い傷を残してしまったようだ。
「とりあえず・・・チャゴス王子がクラビウス王に、本当にあのアルゴンハートを渡すつもりなのか、見に行ってみましょう」
気を取り直そうとするエイリュートの言葉に、は小さくうなずいた。
***
サザンビーク城の玉座の間では、チャゴス王子の持ち帰ったアルゴンハートのお披露目式が、今まさに行われようとしていた。
クラビウス王の前には、自信たっぷりのチャゴス王子。そのチャゴス王子の前に置かれた台座には、アルゴンハートが乗っているのだろう。布がかぶせられていた。
「それでは、チャゴス王子。我らに持ち帰ったアルゴンハートをお見せください」
大臣の言葉に、チャゴス王子が布をどかす。そこに現れた巨大なアルゴンハートに、玉座にいた人々から驚きの声があがった。
「ささ、チャゴス王子。あなたの勇気と力の証であるアルゴンハートを、クラビウス王にお納めください」
「いや、よい」
大臣の声を制し、クラビウス王がゆっくりと立ち上がると、そのままチャゴス王子の前まで進み出た。
「チャゴスよ。これは、お前が倒したリザードから得たものであえると、神に誓えるだろうな?」
「も、もちろんです、父上」
得意満面・・・といった表情で、チャゴスがうなずく。だが、クラビウス王の表情は硬い。
「仮に協力者がいたとしても、お前が戦ってこれを手に入れたのなら、わしはお前の力を認めるだろう。だが、それ以外の方法で手に入れたのなら、わしはお前を認めん。今一度問う。戦って得たのだな?」
「はい、はい。その通りです! これは、ぼくがアルゴリザードと戦って勝ち得たものです」
バザーの商人から買い取ったそれを、チャゴス王子は頑として「戦って手に入れた」と言って、譲らなかった。そのことに、エイリュートたちは複雑な思いを抱いた。
「・・・そうか。大儀であった。お前の力の証、しかと受け取ったぞ」
クラビウス王は低くそうつぶやくと、それ以上の賛辞は贈らず、チャゴス王子の前を離れたのだった。
「わたくしたち、このままでいいのでしょうか? あれでは、チャゴス王子は嘘つきということになりますわ・・・わたくしたちも、王子に加担し、嘘をついたことになります・・・」
「時にはウソも必要でがす。無事に魔法の鏡をもらうには、黙ってるのが一番でがすよ」
「しかし、お披露目の時のクラビウス王のあの態度・・・何か感づいてる様子じゃなかったか? 気のせいだといいんだが、本当のことがバレるとやばいぞ」
そうなのだ。王子の晴れ姿を見て、一番喜びそうなクラビウス王が、沈痛な面持ちだったのが気になる。
「おお、お主か。お勤め御苦労だったな。褒美のことは、王に聞いてくれ。そして、くれぐれも口外せぬようにな」
うって変わって、大臣はうれしそうだ。そして、得意げなチャゴス王子がエイリュートたちの姿に気づいた。
「おお、エイリュートか。どうだ、ちゃんと見ていただろうな。このぼくの晴れ舞台を! 実に清々しい気分だ。今まで人にけなされてばかりだったから、気分がいいのなんのって。ぶわっはっは!」
「・・・エイリュート、クラビウス王が気になります。探しましょう」
「そうですね。そうしましょう」
「お、おい・・・! お前たちもぼくを褒め称えろ! おい!」
呼びかけるチャゴス王子の声は無視し、玉座の間内を探し回ると、窓の前に佇むクラビウス王の姿を見つけた。その背中は、やはり声をかけづらい雰囲気を醸し出している。
「クラビウス王・・・」
「お待ちしておりましたぞ、王女。それにエイリュートたちよ。一体、どういうことなのか説明していただきたい。わしは屋上から見ておったのだ! チャゴスがバザーの行商から、アルゴンハートを受け取るのをな。あやつは王家の山へ行かなかったのか?」
「えっ・・・!?」
クラビウス王の言葉に、5人はあ然とする。それで納得がいく。王は王子の不正を知っていたのだ。
慌てて、が事情を説明する。チャゴス王子は、間違いなく王家の山へ行き、アルゴンハートを手に入れた。だが、バザーで見かけた大きなアルゴンハートに目がくらみ、それを買い取ったのだと。
その証拠に、エイリュートはチャゴス王子が手に入れたアルゴンハートをクラビウス王に差し出した。
「・・・そうでしたか。自分一人の力ではなくとも、己で戦って、これを手にしたか。ならば素直にこれを差し出せば良いものを・・・未熟者めが。大きさなど、わしは気にせんのに。こんな有様では、王位を継ぐのはおろか、妻を娶ることすら、まだまだ早いようだな。だが、これはチャゴスの問題。王女たちは見事、依頼を果たしてくださった。約束通り、魔法の鏡はお渡ししよう。魔法の鏡は4階の宝物庫にしまってあります。話はつけておきますから、お好きなときに持って行って下され。その代わり、チャゴスが取った、このアルゴンハートは、もらっておきますぞ。チャゴスが忘れた頃に、これをネタにして、叱ってやるのだよ。いつになるか、わからんがな・・・」
「クラビウス王・・・チャゴス王子をあまり責めないであげてください。王子は、少しでも大きなアルゴンハートを手に入れ、皆を驚かせたかっただけなのですから」
「・・・お優しい言葉、本当にありがたい。王女、感謝いたしますぞ」
だが、クラビウス王の表情は、けして晴れることはなかった。