教会を出発して3日。モンスターを倒しながらも、ようやく辿り着いたベルガラック。
ククールはカジノが出来る、とうれしそうだが・・・どこか街の様子がおかしい。何かピリピリしているように見えた。
「あれ? 残念ね、ククール。カジノは閉鎖されてるって」
「なんだって? おいおい・・・ベルガラックのカジノは世界一なんだぜ? オレは、それを楽しみにしていたというのに・・・」
「とんでもねぇ生臭坊主でがすな・・・。まあ、今さらでがすが」
仲間たちの会話を聞きながら、エイリュートはクスクス笑う。
「なあ、一体何があったんだ?」
ククールが傍にいた中年の女性に声をかける。女性は最初は不審そうな表情だったが、ククールの容姿に頬を染めると素直に情報を与えてくれた。
***
「あれはカジノが閉鎖する前日だったね。カジノのオーナーである、ギャリングさんの屋敷にね、なんと! 強盗が押し入ったんだよ! 以来、ギャリングさんは屋敷に閉じこもったままでさ。あのとき、強盗と争って怪我でもしちまったのかねぇ・・・」
カジノのオーナーの屋敷に強盗・・・それはまた、物騒な話だ。だが、どうやらドルマゲスは関係ないようだが・・・。
「思いもかけない場所でアッシらはドルマゲスがベルガラックに向かったことを耳にしたでげす。ベルガラックをくまなく探してヤツを見つけるでがす。教会で聞いた話を信じて隅から隅まで街を調べてドルマゲスを見つけるでがす!」
決意に燃えるヤンガスに、エイリュートたちも同意する。
「ドルマゲスがここに来たって言う情報が確かなら、もうこっちのもんだ。もしヤツがすでにここを去っていても聞き込みをすりゃ、その後の足取りくらい掴めるしな。修道院長のカタキ討ちも思ったより早くすみそうだぜ」
「修道士の少年がドルマゲスを見たのが5日ほど前・・・カジノのオーナーさんの強盗事件と、何か関係があるのかな?」
「そこの関連性を確かめる必要がありますわね。ククールの言う通り、聞き込みをしましょう」
「これだけはハッキリ言えるわ。ドルマゲスの目的は殺人以外にありえないってね。ヤツが狙いをつけた人物を一刻も早く見つけ出し、今度こそ守ってあげなきゃね。ドルマゲスの魔の手から人命を救うのは、カタキ討ちと同じくらい私にとって大切なことだから」
ゼシカにとって、ドルマゲスは大事な兄の仇なのだ。ドルマゲスの凶行を許せない気持ちは人一倍だ。
「さて・・・じゃあ、ここからは二手に別れて情報収集しようぜ。オレはゼシカと行くから、エイリュートは姫とヤンガスを頼むぜ」
「え・・・」
「じゃあな」
「ちょ・・・ちょっと! ククール・・・!! 私は・・・」
ゼシカの腕を引っ張り、ククールは街の中へ去って行ってしまう。残されたエイリュートたちはあ然としつつも、こうしていても仕方ないと街の中へと歩き出した。
***
ゼシカは首をかしげた。横を歩く聖堂騎士は、どこか様子がおかしい。こんな風に有無を言わさずに自分を連れ出すなんて、まるで誰かを避けているかのようだった。
避けている相手、なんて1人しか思い当たらないけれど。
「姫と何かあったの?」
「え?」
単刀直入なゼシカの問いかけに、ククールは思わず足を止めていた。
その態度が何かあったことを表している。ゼシカはフゥ・・・とため息をついた。
「あんたと姫のことを、とやかく言うつもりはないけど・・・でも、私は姫が大事だわ。おかしなことをしないでほしいの」
「おかしなことなんて、していないさ。それに、オレの気持ちはわかってるはずだろ? ゼシカ」
「どういう意味かしら?」
「仲間になるときに言ったじゃないか。ゼシカを守る騎士になる、ってね」
「ウソつかないでよね。あんたが言ったのは“姫を守る騎士になる”でしょ」
「そうだったかな?」
この軟派な騎士は、女を見れば口説かずにはいられないような男である。見た目の良さも手伝って、数々の女と遊んできたのだろう。
自分はけして、そんなククールになびくつもりはないし、をそんな大勢のうちの1人にするつもりも毛頭なかった。
だが、あの王女はこの軟派な騎士に恋をしている。なぜ、エイリュートではないのか・・・不思議である。それとも、はゼシカの知らないククールのいいところを知っているのだろうか?
「ん? どうした? オレの顔に何かついてるか?」
「べっつに。ただ、ちょっと不思議だっただけよ」
「なんだ、そりゃ」
「あんた、姫のことはどう思ってるのよ?」
まただ。また自分とがどうの・・・という話になる。
「そりゃ、お美しく立派な王女様だと思ってるさ」
「そうじゃないわよ。好きか嫌いか、ってこと」
「嫌いだったら、一緒に旅なんかしないさ。ああ、ゼシカ・・・君のことも好きだよ」
「はいはい、そんなことは聞いてないから」
腰を抱き寄せようとしたククールの手を、ペシッと叩く。この男は油断ならない。
「・・・姫はね、あんたのことが好きなのよ」
ゼシカの言葉に、ククールは思わず言葉を失う。まさか、シェルダンドの王だけでなく、彼女までそんなことを言い出すとは。
「当然、姫自身はそのことに気づいてないわ。だけど、見てればわかるのよ。姫は、シェルダンドを継ぐ身。だから、けしてあんたと結ばれることはないけれど・・・だけど、気持ちは止められない。見ていてかわいそうになるわ」
ため息混じりにそう言うゼシカ。そんなゼシカの言葉に戸惑うククール。これでは、情報収集どころではない。
果たして、エイリュートたちは無事に情報収集をしてくれているのだろうか?
***
「私の友達はギャリング様のボディーガードをやっていましてね。そいつが、挨拶に来たんですよ。まるで今生の別れみたいな口調で、闇の遺跡に行ってくると言ってましたね。理由までは教えてくれなかったけど・・・」
「闇の遺跡、というのは、どこにあるんですか?」
「え!? 闇の遺跡の場所ですって? 私は知りませんが、確かホテルのバーに詳しい人がいたような気が・・・」
吟遊詩人らしい人物から、有力な情報を得たエイリュートたち。ホテルのバーでがすか・・・とヤンガスがつぶやく。
「カジノのオーナーは、ギャリング、そのギャリングの屋敷に強盗が押し入った。ギャリングのボディーガードが闇の遺跡に向かった・・・う〜ん・・・ドルマゲスについての情報じゃないね」
「そうでがすね。まあ、その強盗の正体がわかれば、ドルマゲスについてもわかるかもしれやせんが・・・」
「あ・・・すみませ〜ん、ちょっといいですか?」
エイリュートが今度は商人らしき人物に声をかける。もちろん、聞くのは強盗についてだ。
「強盗について、か・・・。詳しいことは知らないけど・・・そういや、カジノが閉まる前の晩、町で奇妙な道化師を見かけたんだ」
「道化師!? すみません、その話もっと詳しく・・・!!」
ドルマゲスの情報だ。3人は思わず商人の男に詰め寄ってしまう。その迫力に圧倒されながらも、男は言葉を続けた。
「路地を歩きながら“悲しい、悲しい”って1人でブツブツつぶやいてて、とっても気味が悪かったよ」
「その道化師、どこへ行ったかわかりますか?」
「いやぁ・・・残念だけど、そこまでは」
「そうですか・・・。ありがとうございます」
がペコリと頭を下げると、商人の男は頬を染めながら、去って行った。
「ドルマゲスがこの町に来たのは間違いありませんわね」
「さっき聞いた闇の遺跡・・・気になりますね。確か、ホテルのバーに詳しい人がいるとかって・・・。ゼシカたちと合流したら、ホテルのバーに行ってみよう」
「そうでがすね」
「ええ、そうしましょう」
数分後、どこか暗い空気をまとったゼシカとククールがエイリュートたちのもとへやって来て・・・「どうかしたの?」と尋ねるエイリュートに、ゼシカは「なんでもないわ」と、いつもの笑顔を浮かべてみせた。
ドルマゲスがこの町に来たのは間違いなく、闇の遺跡という場所が気になるのでホテルのバーに向かおう・・・という話を2人にすると、2人は黙ってうなずいた。
だが、ホテルの地下にあるバーに行くと、そこにはバニーが1人。マスターが戻って来ない、と怒っていた。ホテルで働いてる友人に話があると出て行ったきりだという。
どうやら、情報に詳しいのはこのマスターらしい。仕方ないので、そのマスターを探そうとホテルをさまよっていたときだった。
ホテルからカジノに通じるドアの前に、2人の男性が立って、何やらコソコソと話をしていたのだ。
慌てて、エイリュートたちは壁に身を隠し、2人の会話に聞き耳を立てた。
「さあ、そろそろ話してくださいよ。あの日、本当は何があったのかを」
マスターが男に詰め寄る。“あの日”というのは、恐らくギャリング邸に強盗が入った日のことだろう。
「・・・仕方ないな。絶対に誰にも言わないでくれよ。オレがもらしたなんて知れたら・・・」
「絶対に口外しません。酒場のマスターというのは、意外と口が堅いものなんですよ」
「わかったから、でかい声を出すなよ。あの日、ギャリング様の屋敷に強盗が押し入ったのは知ってるな? 実はな・・・あの時の強盗にギャリング様は殺されてしまったんだ」
「ええっ! ギャリング様が!」
マスターと同じように、エイリュートたちも愕然とする。
カジノが閉鎖された理由は、オーナーが殺害されたから・・・なるほど、納得がいく。
「バカッ、でかい声を出すな。ギャリング様が屋敷から出てこないのは、もう死んで、この世にいないからだよ」
「その強盗は何者なんです? あのお強いと評判のギャリング様を、こ、殺してしまうなんて・・・」
「オレもその場にいたわけじゃないから、詳しいことは分からんが、その強盗は道化師の格好をしていたそうだ」
「道化師の格好ですか・・・」
思わず、声が漏れそうになった。
道化師の男がギャリングを殺した・・・間違いない、ドルマゲスがギャリングを殺したのだ。
マスターライラス、サーベルト・アルバート、マイエラのオディロ修道院長に続いて、今度はカジノのオーナーであるギャリング。一体、ドルマゲスは何人の人間を殺害するつもりなのか・・・。
「でも変なんだよ、その強盗。金目のものには一切手をつけず、ギャリング様を殺して出て行ったそうだ。まるで最初からギャリング様を殺すのが目的だったみたいだぜ。そんでよ、フォーグ様とユッケ様がギャリング様の仇を討つために追手を放ったらしいんだ」
「あわわわ・・・とんでもないことを聞いてしまったぞ。こっ、このことは口が裂けても人には言えませんね。おっと! いかんいかん。店をほったらかしにしたまんまだった。そろそろ戻らないと。それじゃ」
マズイ・・・マスターがこっちへ来る・・・と思ったが、身を隠す場所がない。戻ろうと思ったが、遅かった。マスターと鉢合わせをしてしまった。
「うおっ! すみません、すみません。いきなり現れたんで、ビックリして。・・・あ、あなたたち、まさか! ずっとここにいたんじゃ!? って、そんなはずないか。すみませんね、おかしなこと言って。さあて、酒場に戻らないと」
ホッと胸を撫で下ろした。立ち聞きしていたことは、気づかれなかったようだ。一同は、その場を離れて、ホテルに部屋を取ることにした。そこで、今まで聞いた情報を整理しようというのだ。
「ますます、わかんねえでがす。ドルマゲスはなんのためにカジノのオーナーなんて殺したんでがしょう?」
ヤンガスの疑問はもっともだ。今までのドルマゲスの行動は、何か意味があるように思えるが・・・ただの殺戮なのだろうか?
マスターライラス、サーベルト、オディロ院長、そしてギャリング・・・まるで関係のない4人。ドルマゲスの魔法の師匠と、リーザス村の明主の息子、修道院の院長、カジノのオーナー・・・これだけ考えても、まるで共通点がない。
「わかりませんわね・・・ドルマゲスの考えてることが・・・」
「さっきの話によると、ドルマゲスに追手が差し向けられたようだが、オレは追手の安全の方が心配だね。なんにしても、これ以上、犠牲者は増やしたくねえよな」
「そうですわね・・・。これ以上、罪のない方の命を奪うなんてこと、許されませんわ」
ククールの言葉にはギュッと手を握り合わせ、祈りを捧げるように目を閉じた。
「ドルマゲスって、一体何者なのかしら? 悪人であって善人でないのは、確かでしょうけど・・・」
「ああ見えて、実はすごい慈善家だったりしたら、それこそビックリでがすなあ」
「ハハッ、人殺しの慈善家か。そいつはけっさくだねぇ。人殺しをする裏で、孤児院に毎年、多額の寄付をする意外な一面を持っていたりってかい?」
「バッカじゃないの! あいつは、ただの冷酷非情な人殺しよ。それ以外の何者でもないわ!」
ヤンガスとククールの茶化すかのような言葉に、ゼシカは憤慨する。ドルマゲスはゼシカの兄を殺したのだ。そんな男が慈善家なわけがない。
「そうなると・・・闇の遺跡にギャリングの部下が行った、ということだから、ドルマゲスはその闇の遺跡にいる・・・ということになるね」
「闇の遺跡?」
ゼシカがエイリュートの言葉を反芻する。エイリュートはうなずき、先ほど聞いた情報を、ゼシカとククールにも聞かせてやった。
「でも・・・その闇の遺跡の場所がわかりませんわね。エイリュート、先ほどのマスターが闇の遺跡に詳しい・・・とおっしゃってる方がいましたわ。彼に話を聞いてみましょう」
「そうですね。酒場に戻る、と言ってましたし・・・酒場に行ってみましょう」
***
ホテルの地下にある酒場に再び向かうと、バニーガールが笑顔で迎えてくれる。もちろん、視線の先はククールだ。ククールは慣れた様子で「マスターに用事があるんだ」と言えば、バニーが「マスター! お客さんよぉ!」と声をかける。
マスターはエイリュートたちの姿に目を丸くする。知らない人間が5人もゾロゾロとやってくれば、さすがに何事かと思うだろう。
「あの・・・実は・・・さっきの話し、聞いてたんですけど・・・」
「・・・ふむふむ。上の廊下で立ち話を聞いていたと・・・えっ!? あわわわ・・・お、お願いです。あのことは誰にも言わないで下さい。もしバレたら、私は、私は・・・! 黙っていてくれれば、私が色んな筋から集めた情報をお教えしますから。ねっ、いいでしょ?」
「もちろん、誰にも言いませんよ。僕たちは、あなたにお話を伺いたくて来たんです。あなたに聞いたとは、けして言いませんから、教えていただけませんか?」
「ほっ・・・ありがとうございます。では私めが、これまでに集めた情報をまとめてお聞かせしましょう。殺害されたギャリング様の仇を討つため、フォーグ様とユッケ様が追手を放ったそうでして・・・。追手が向かったのは、ベルガラックの北にある島だそうです。確か、その島には身を隠すのにうってつけな遺跡があるって聞きましたよ」
なるほど・・・それが話に出て来ていた「闇の遺跡」か。
「ふむふむ。ギャリングを殺したのがドルマゲスとは断定できんが、これはひょっとしたらひょっとするかもしれん」
いきなり聞こえてきた声。驚いて振り返れば、そこにはトロデ王の姿。
「げっ! おっさん、いつの間に!」
「エイリュートよ。一度、北の島にある遺跡へ行ってみんか? ひょっとしたら何か手掛かりが得られるかもしれんぞ」
「そうですね・・・。道化師の格好をした男がその遺跡に行ったのなら・・・僕たちも、追いかけましょう!」