21.破壊力抜群の歌声

 翌日・・・エイリュートたちはパヴァン王に謁見することになった。
 当然、突然訪問して簡単に国王に会えるわけもなく・・・そこは、の出番となる。
 名を名乗り、聖王女の証であるロザリオを見せれば、すぐに中へ通される。城の中への訪問は自由なのだが、謁見となると、やはり難しいだろう。
 玉座の間に行くと、そこにはあの頃とは表情がまったく違う、王としての威厳を取り戻したパヴァン王の姿があった。

***

 「・・・もしや! やはりそうだ! ああ、みなさん。よくこの城に立ち寄ってくれました。あのとき、シセルの幻を見せてくれたこと・・・なんと感謝すれば、よいものか。それで、アスカンタへは、どんなご用でいらしたのですか?」
 「実は・・・僕たち、船を手に入れようと思ったのですが、それが荒野の真ん中にありまして・・・。かつて、そこは海だったらしいのです。そこで、王もよくご存じのイシュマウリさんに頼んで、過去の記憶を蘇らせようとしたんです。だけど、イシュマウリさんの持ってる竪琴では、それは不可能らしく・・・。こちらの国に“月影のハープ”というものがないか、探しに来たんです」
 「・・・なるほど。月影のハープなら、ちょうど我が国にあります。古来より、我がアスカンタに伝えられてきた国の宝なのです」

 国宝級・・・となると、やはりそれを譲ってもらうのは、難しいだろう。それならば、貸してもらうおう・・・と思ったのだが・・・。

 「・・・だが、他ならぬ皆さんの頼みとあらば。いいでしょう。ハープは差し上げます」
 「ええ!? いいんですか?」
 「もちろんです。月影のハープは、城の地下宝物庫の中に厳重に保管されています。私について来て下さい」
 「パヴァン様・・・本当にありがとうございます。とても助かりますわ」
 「王女、いいえ。こちらこそ、王女の力になれるなんて、うれしい限りです」

 そう言って、パヴァン王がの手を取ろうとしたが、それよりも一歩早く、赤い影がの前を遮った。もちろん、それはククールだ。

 「王、申し訳ないが、オレたちは先を急いでるんでね。挨拶は手短に済ませて、さっさと月影のハープを譲っていただけませんか?」
 「え・・・ええ、もちろんですよ。さあ、こちらへ・・・」

 どこか憮然とした表情のパヴァンは、それでも人のよい笑顔で、エイリュートたちを1階の噴水まで案内した。一体、この噴水のどこに地下への道があるというのか・・・。
 と、パヴァン王が胸につけていたブローチを外し、それをエイリュートたちに掲げてみせる。

 「このブローチは王家に代々、伝えられてきたもの。これを・・・」

 なんと、噴水にブローチを投げ入れると、どういう構造なのか、噴水の水が引いて行き、そこに階段が現れた。

 「さあ、この下が宝物庫です。行きましょう」
 「は、はい・・・」

 案内されるがまま、一行は地下へと下りて行った。
 だが・・・。

 「・・・なんてことだ。これは一体・・・!?」

 宝物庫の宝箱、それらが全て開かれ、しかも奥の壁には大きな穴が開いていたのだ。
 パヴァン王は呆然とし、大きな穴の向こうを見つめ、ガクッと膝をついた。

 「盗人の仕業か! いや、こうしてはいられない。・・・どうやら、月影のハープは盗賊たちに盗まれてしまったようです。たぶん、奴らはこの抜け穴を通った先にいるはずです。この先は危険です。皆さん、けして抜け穴の奥へは行かないでください。これから、城の兵を集め、必ずやハープは取り戻してみせます。ええ、必ず!」

 拳を握りしめ、力強くそう言うと、パヴァン王はエイリュートたちをその場に残し、上へ戻って行った。

 「さて・・・どうしようか・・・」

 パヴァン王は、ああ言ったが・・・まさか、本当にこのまま任せていいものか。

 「せっかく・・・せっかく月影のハープが手に入るってそう思ったのに・・・。誰よ! 盗んだのは! さっさと返しなさ〜いっ!!」
 「・・・そんな風に叫んで戻ってくるなら、苦労はしないよね」
 「あの抜け穴から盗人たちは宝物庫に忍び込んだに違いねえでがすよ。となると・・・あの抜け穴を逆にたどっていけば・・・。そうでがす! 行くしかねぇでげす!」
 「やっぱり、そう思うよね・・・」
 「これで振り出しに戻った。どうも話がうまくいきすぎると思ってたんだ。案の定だよ。で、どうする? 大人しく王様の兵を待つか? それとも、てめぇでなんとかするか?」
 「うーん・・・どんな敵が待ってるかわからないのに、アスカンタのみんなを危険に巻き込むわけには、いかないしなぁ・・・」
 「とりあえず、様子を見る・・・というのはどうですか? 何も、抜け穴に入ってすぐに、盗賊がいるとは限りませんもの。アスカンタの兵士たちを危険にさらすよりも、わたくしたちで様子を見た方がいいと思いますわ」
 「うん、やっぱりそうですよね。よし、決めた! 姫の言う通りだ! 僕たちでなんとかしよう!」

 リーダーのエイリュートの決定により、一行は抜け穴の向こうへ進んでみることに決めたのであった。

***

 しかし・・・先へ進んだエイリュートたちは、そのことを少しばかり後悔した。
 抜け穴を進み、抜けた先は草原で・・・そのまた先に洞窟が見えたので、恐らく盗人のアジトだろうと乗り込んだのだが・・・入った瞬間、なんだか妙な音がする。
 地響きのような、唸り声のような・・・形容しがたい音である。
 音の原因は・・・なんとも巨大なモグラの親分だ。サングラスをかけ、頭はちょんまげ。そのモグラが気持ちよさそうに月影のハープをジャカジャカと奏でているのだ。

 「いい! ものすごく、いいモグっ! ワシの芸術性を、このハープがさらに高めているモグっ! 何年も休まず、城の地下まで穴を掘り続けた苦労も報われたモグっ!」

 なんと・・・巨大なモグラがしゃべった・・・。
 その巨大モグラの前には、4匹のモグラ。苦しそうに、呻いている姿を見ると、どうやら巨大モグラの歌声に死にかけているらしいが・・・。

 「そうか、そうか。感動して言葉も出ないモグかっ! かわいいやつらモグっ!」

 完全に、巨大モグラは勘違いしている。

 「大きな化け物モグラのひどい歌のために、月影のハープが盗まれただなんて・・・! 私たちの健康と幸せのためにも、迷惑なモグラをやっつけて月影のハープを取りあげなくちゃ!」
 「み、耳が・・・!!! 耳が、腐るでがすっ!! も、もうダメでがすよ・・・!! アッシは、アッシはもう・・・あの大モグラの歌を止めないと、心臓まで腐りそうでがす!」
 「あのいたずらもぐらたち、かわいそうに。もう、長くないな・・・。ていうか、オレらもヤバイだろ。騒音の元凶、あの大モグラをとっちめて黙らせようぜ!」

 仲間たちが口々に悲鳴を上げる中、だけはいつもと変わらない。こんな状況でも動じずにいられるとは・・・感心してしまう。
 とにかく、何にせよ月影のハープは返してもらわなければならない。
 大モグラのもとに近づくと、彼らがこちらに気づいたようだ。傍にいた、いたずらもぐらたちは、今にも泣き出しそうで、かわいそうになる。

 「・・・ん? おお! そこのお前ら! 見かけない顔モグが、ワシの歌を聞きにきたモグか?」
 「え・・・?」
 「何言ってんのよ! そんなわけないでしょう!」
 「何? 違う? ワシの芸術の友、月影のハープを奪いに来たモグか!? モググググ・・・ゆるせーん!!」

 怒りに燃えた大モグラが、部下のいたずらもぐら4匹を伴い、エイリュートたちに襲いかかって来た。
 突然の、大モグラの歌声攻撃。慌てて、耳をふさぐエイリュートだったが・・・その歌声に頭が混乱し、ゼシカとヤンガスが同士討ちをし始め、いたずらもぐらたちも仲間割れをし始めた。

 「ヤンガス! ゼシカ!」
 「エイリュート! 今はとにかく、あのクソ迷惑な大モグラをなんとかするぞっ!!」
 「わ・・・わかった!」
 「行きますわよ・・・!!!」

 ククールとがそれぞれ剣を抜き、エイリュートは背中のブーメランを構える。
 とりあえず、厄介なのは、ボスの大モグラだ。ククールは、先頭切って斬りかかるにバイキルトの魔法をかけ、その攻撃力を加速させる。

 「動物に危害を加えるのは、胸が痛みますが・・・ハープを返していただけないのなら、仕方ありませんわ!」

 容赦ないの一撃に加え、メラミを叩きこむ。
 が大モグラから離れた瞬間、エイリュートの投げたハイブーメランが、いたずらもぐらたちを含め、切り裂いていく。

 「うわっ! ヤンガス、何をするんだよ!」
 「え・・・?」

 そう言えば・・・ゼシカとヤンガスは混乱したままで、どうやらヤンガスがエイリュートに斧で襲いかかったらしい。
 エイリュートに気を取られたのもとにも、ゼシカの鞭が飛んでくる。一瞬、ギクッとしたが、横合いから誰かがの体を抱きすくめ、飛びのいた。

 「ご無事ですか? 姫」
 「え・・・ええ・・・。ですが、少し厄介ですわね。ヤンガスとゼシカには申し訳ありませんが・・・」

 つぶやいた呪文は、ラリホーマだ。魔法が功を奏し、ヤンガスとゼシカが眠りに落ちる。

 「さあ、一気にたたみかけますわよ!」
 「「オー!!!」」

 なぜか、ビシッと大モグラを指差し、威勢よく声をあげたに、エイリュートとククールは片手を上げて応えてしまっていた。

***

 ズズーン・・・と、大きな音を立て、大モグラが倒れる。息の根を止めたのではなく、気を失っているだけだ。やはり、としては命を奪うのに忍びなかった・・・ということだろう。
 戦闘が終わると、眠りに落ちていたヤンガスとゼシカが目を覚ました。

 「ボス!! ボス! しっかりして下さい!」

 倒れた大モグラに、いたずらもぐらたちが駆け寄ると、そのままその大きな体を担ぎ、どこかへ運んで行く。
 と、傍にいた1匹のいたずらもぐらが、エイリュートたちを振り返った。

 「ボスを止めてくれてありがとう。頼む。とどめは刺さないでくれ。すぐ人のものを盗んじゃうのと、破壊的に歌が下手なのの他はとってもいいボスなんだ! そのハープは返すよ。だから・・・」
 「もちろん、とどめを刺すつもりはないよ。ハープを返してくれれば、それでいいんだ」
 「ありがとう」

 落ちていた月影のハープを拾い、いたずらもぐらがそれをエイリュートに渡す。そして、そのまま大モグラを連れて穴の奥へと向かって行った。
 どうやら、これであの歌に悩まされることはなくなったようだ・・・。ホッと息を吐き出す一行。

 「あそこまで下手な歌に苦しめられてるのに、どうして手下たちに慕われてるのかしら。モグラって・・・謎だわ」

 うーん・・・と唸り、ゼシカがまだ少しボーッとする頭を振る。先ほどまで、混乱していたことはゼシカとヤンガスに伝えていない。

 「あとちょっと大モグラの歌を聞いてたら、アッシ、本当に天国に召されてたでがすよ。命は助かったし、月影のハープは手に入ったし! これで、ばんばんざいでげすな!」
 「色々苦労したけど、どうにか月影のハープも手に入った。でも・・・あのモグラ、ずい分適当に弾いてたみたいだけど、まさか壊れてねぇよな?」

 不安そうにエイリュートの持つハープに目を向けるククール。ぱっと見たところ、何も異常はない。

 「さあ、パヴァン王に報告に行きましょう」
 「あの王様に報告ねぇ・・・必要あるのか?」

 の提案に、ククールがまるで反対するかのように言葉を発した。

 「でもさ、ほら・・・一応、ハープは取り戻したわけだし、パヴァン王は兵士を集めてくれてるわけだし・・・このまま黙って行くわけにはいかないよね」
 「そうかよ・・・。ま、勝手にしてくれ」

 ハァ・・・とため息をつき、ククールは肩をすくめてみせた。

 結局、パヴァン王の応援は「会議が長引いた」せいで遅れたらしく、ハープを取り返したとの報告に驚かれてしまったのだった。