ドリーム小説

 恋人は、とっても女性にモテる。10人歩いていれば、9人は振り返るだろう容姿をしている。
 それに比べて私は、というと・・・ゼシカと比較しちゃいけないけど、してしまい、自己嫌悪に陥るくらいの容姿。
 神様、あんまりです。せめて、もう少し美人かスタイルいいかにしてほしかったです。

 「なに? 見つめてきたりして」

 ゼシカが私の視線に気づき、声をかけてきた。

 「うん・・・ゼシカがうらやましいな〜って」
 「うらやましい? どうして?」
 「だって、美人だし、スタイルいいし、頭いいし、強いし・・・」
 「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。わたしはがうらやましい」

 ゼシカのその発言に、私は目をパチクリ。
 うらやましい・・・? 私が? ゼシカが私をうらやましがってるの??

 「あ・・・恋人がカッコいいから?」
 「ククールのことはどうでもいいわ」
 「おいおい・・・ゼシカ。ひどいんじゃないか?」

 ヒョイと顔を覗かせてきたのは、今しがた話題に上った私の恋人。

 「なーによ。わたしがあんたのこと、気にかけてるとでも思ったわけ?」
 「まあ、少しは気にかけてるだろ?」
 「ぜーんぜん。もうまったく興味がない。でも、別にいいでしょ? あんたには、がいるんだから」
 「そうだな」

 キッパリと答えるククール。わ・・・な、なんだか恥ずかしい・・・。
 宿屋を見つけてエイトとヤンガスが、私たちを呼ぶ。「今行く」と応え、2人のもとへ歩いて行こうとした時だ。角を歩いてきた女の人と私がぶつかった。
 「キャ・・・!」と声をあげ、倒れそうになった彼女を、ククールが慌てて抱き留めた。

 「大丈夫かな?」
 「え? あ・・・は、はいっ!」

 女の人が、ククールを見て頬を赤く染める。なんだか、胸がモヤッとした。
 確かに、彼女は倒れかかったけど。対する私は身動きしなかったけど・・・それでも、まずは私に声をかけてほしかった。

 「、大丈夫?」

 ゼシカが声をかけてきた。私は「うん」と小さくうなずく。
 ククールが女の人の手を離す。私とぶつかった時に落としてしまったらしい紙袋を、ククールが拾い、「どうぞ」と微笑みかけた。女の人はモジモジしながらそれを受け取った。そのまま、ククールを見つめて。その視線を受け、ククールも人好きのする笑みを浮かべた。
 なんだろう、この胸のモヤモヤは。私は2人から目を逸らし、ゼシカに「行こっ」と声をかけた。

 「おい、。ぶつかったんだから、謝罪くらいしろ」
 「い、いえ! ぶつかったのは、私がいけなかったのです! 前方不注意で・・・!」

 ククールの咎める声に、それもそうだな・・・と思い振り返り、言葉を失った。
 女の人が、ククールの腕に触れていた。私以外の女の人が・・・彼に・・・。

 「っ! ぶつかってごめんなさいっ!!」

 彼女を見ずに、口早にそう告げ、エイトたちの元へ早歩きで向かった。ククールたちのほうは、決して振り向かなかった。

***

 大きな宿屋は、空室があり、5人で1人ずつの部屋が与えられた。
 久しぶりの1人部屋。特に今日は先ほどのことがあり、1人になりたかった。
 食事もほとんど手を付けず、パンを1個とミルクを1杯。いつもなら、シチューを頼んだりするけれど、食欲がなかった。そんな私の様子に、エイトとゼシカが心配そうな表情をしていた。
 部屋に戻り、ベッドに座り、そのまま体を倒す。目を閉じる。
 その途端、先ほどの出来事が蘇り、私はあわてて目を開けた。思い出したくない。
 と、その時だった。部屋のドアがノックされた。ゆっくりと上体を起こす。ゼシカかな?

 「? 入るぞ、いいか?」

 聞こえてきた声は、ククールのもの。慌てて寝たフリをした。
 開くドア。隙間から廊下の光が漏れ入ってくる。目をギュッと閉じた。

 「寝てるのか?」

 ええ、そうですよ。だから出て行ってください。
 そんな私の心の声とは裏腹に、ククールはベッドに近づいてきて・・・。私の髪に触れてきた。

 「・・・」

 名前を呼ばれる。そして、そっと耳にキスをされた。ビックリして、体が震えた。

 「おい、起きてるのか?」
 「・・・・・・」
 「、おい。キアリクかけるぞ?」

 ゆっくりと、体を起こした。「やっぱり起きてたか」とククールがつぶやいた。

 「・・・何か用?」
 「は? 用って・・・お前が元気ないから、心配してだな・・・」
 「別にククールに心配してもらう必要ない」
 「・・・何?」

 冷たい口調で言い放てば、ククールの声が低くなった。怒っているのだろう。だけど、それはこっちも同じだ。
 プイッとククールから目を逸らしたまま、私は言葉を続ける。

 「私なんかより、もっとカワイイ女の子は、たくさんいるもの。その子たちの心配をしてあげたら?」
 「何言ってんだ、お前」
 「私のことなんて、もう気にしてくれなくて結構って言ってるの!」
 「・・・本気で言ってるのか?」

 顔を背けているので、ククールが今、どんな表情をしているのか、わからない。
 口調からして、笑っていないことだけは、わかる。

 「ええ、本気です。ククールが本気出せば、美人の1人や2人、簡単に落とせるもんね!」

 『それでも、がいい』・・・そんな答えを期待した。
 それなのに・・・。

 「ああ。そうだな」

 返ってきたその答えに、私は耳を疑った。ジワリ・・・目に涙が浮かんだ。

 「ククールは・・・私じゃなくてもいいんだ・・・。そうだよね。私みたいな、なんの変哲もない女なんかより・・・」

 グイッと涙を拭い、立ち上がりドアの方へ。ククールが「どこへ行くんだよ」と声をかけてくる。

 「ククールには、関係ないでしょっ!!」

 言い放ち、私は宿屋を飛び出した。ククールの呼び止める声が、聞こえたような気がした。

***

 が出て行ったドアを見つめ、ため息をついた。頭に血が上っていたようだし、冷静になれば自分から帰ってくるだろう。
 1人でいるのも退屈だ。宿屋の食堂に下りると、ゼシカが店員の女性と話をしていた。

 「あら、はどうしたの?」

 オレの姿に気づいたゼシカが声をかけてくる。

 「ま、ちょっとな」
 「なによ、ちょっとって」

 正直に話したら、ゼシカに怒られる気がして、言葉を濁した。だが、それも失敗だったらしい。眉を寄せ、ゼシカが非難めいた視線をよこす。

 「気にするな。ちょっとした行き違いだ」
 「はぁ? あんた、のこと悲しませるようなこと、しないでよ? そんなこしたら、タダじゃおかないから」
 「おっかねえな・・・」

 それが冗談ではないことを、オレはよく知っている。
 もゼシカも、女の子同士ということで、お互いを大事に思っている。この2人の仲は、まるで親友。いや、姉妹のようにいい。
 そういうわけで、オレがと付き合い始めた時も、ブチブチと文句を言っていた。
 もしも、オレとがケンカしたことを告げたら・・・ゼシカはどんな態度を取るのだろう? テンション上げた双竜打ちくらいはしてきそうだ。
 酒を頼み、運ばれてきたそれに口をつける。なんとなく、おいしく感じないのは、のことがあるからか。
 ゼシカが「部屋に行くわね」と声をかけてきた。「おやすみ」と告げれば、彼女からも同じ言葉が返ってきた。
 宿の客は、オレたち以外には1人しかいないようだ。おかげで1人1部屋与えてもらえたわけだが。

 ─── ククールは、私じゃなくてもいいんだ・・・

 先ほどの、の言葉が脳裏に蘇る。涙に濡れた瞳。オレは、彼女の涙が見たかった? いいや、そんなわけがない。
 何やってんだ、オレ・・・大切な彼女を傷つけて・・・。が帰ってきたら、すぐに謝ろう。
 そう思っていたのに、なかなか帰ってこない。一体、どうしたのか。
 心配なら、探しに行けばいい。代金を支払い、食堂を出ると、宿屋の外へ。
 この町は、奥まった場所に宿屋があり、道も入り組んでいてわかりづらい。迷子になっているのかも。
 がフラフラしていたら、見つけられる可能性は低い。すれ違うかもしれないからだ。

 「どこにいるんだよ・・・!」

 口を突いて出る言葉。焦りから来るものだ。どこだ? どこにいる?
 町の中を走り回り、入口へ向かう。外に1人で出るとは思えないが・・・いた。座り込み、膝に顔を埋めている。泣いているのか?

 「

 名前を呼べば、ピクリと肩が動いた。ゆっくりと、彼女に近づく。

 「・・・悪かった」

 が怒った理由は、わかっている。先ほどの女性のことだろう。オレがより、彼女を優先したからだ。

 「オレにとっての1番は、だ。も、それはわかっていると思っていた。けど・・・不安なんだろ? でも、オレだって不安なんだぞ? お前は、自分の魅力に気づいていないだけだ。男どもが、どんな目でお前を見ているか、知ってるか?」
 返事はない。しゃがみ込むに合わせて、オレもしゃがみ、彼女の頭を撫でた。

 「オレは、お前を放せないけど・・・お前がオレに嫌気がさしたなら、離れていってもいい。それでも、オレは好きだから」

 ゆっくりと、ようやくが顔をあげた。涙があふれた瞳。真っ赤な鼻。
 泣かせたのは、オレだ。手を伸ばし、そっとの体を抱きしめた。

 「・・・私の方こそ、ごめんなさい。でも、いつも心配なの。ククールが、他の女の人のところへ行っちゃうんじゃないかって」
 「心底惚れてるよ、に。自分でも驚くくらいな。それに、今も言ったけど、オレだって不安だ」

 抱きしめたまま、ゆっくりと背中を撫でる。がオレの肩に額をぶつけてきた。

 「・・・」
 「ん・・・?」

 名前を呼ぶと、小さく返事が来る。肩を離し、を見つめ・・・顔を近づけた。
 唇が重なる。そっと触れるだけのキス。今は、このくらいにしておかないとな。

 「好きだ。誰よりも」
 「私も・・・大好きだよ・・・」
 「愛してる」
 「うん・・・私も、愛してる」

 もう1度、キスを交わす。ずっとこうしていたいが、そういうわけにもいかない。
 立ち上がり、に手を差し伸べる。の小さな手が、オレの手を握った。

 「私、ククールにクリスマスローズの花を贈ろうかな・・・」
 「うん? なんだそりゃ」

 唐突なの言葉。オレの腕を抱きしめ、フフッと楽しそうに笑う。

 「だって、クリスマスローズの花言葉はね・・・」

 私の心配をやわらげて・・・。